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質問する力

著  者:大前 研一
出 版 社:文芸春秋
定  価:1,500円(税別)
ISBN:4−16−359480−9

もし、あなたが1991年から96年ぐらいまでに家やマンションを買っていたとしたら、毎日が吐息の日々のはずだ。94年 都内に勤務する42歳のAさんは、35年のローンを組んで6000万のマンションを購入した。98年頃になると、通勤1時間以内のところに4000万円で新築マンションが売り出された。しかも今の自分の家より広いのである。買い換えたいと銀行に相談したら、6000万円で買ったマンションが“2800万円”と言われてしまった。こんな具合に、債務超過となった家やマンションのローンを抱え苦しんでいる人が、市場規模から推計して約700万人はいる勘定になる。

世界は1985年から変わった。それまでの日本人は、政府や会社の言うことに従っていれば、持ち家を持って、ローンを払い終え、子供を学校にやり、定年後は年金をもらってつつがなく一生を終えることができた。ところが、そうした「あなたまかせの人生」が安全なものであった時代は、実は1985年以降終わりをつげていたのだ。

ウルグアイラウンドの協定にサインしたことで、農作物の輸入が自由化され、老齢化した農家が農業を放棄し、休耕地が増える。一方で定期借地権法が導入され、それまで余った土地を貸し出すことをためらっていた人たちが定借を始める。これによって都心から50キロ圏内だけで37万ヘクタールの土地が放出された。不動産の供給が増えるということは、価格が下がるということである。

国の年金額の計算では給料の上昇率を年率4%と見ているが、1995年から2002年までの経済成長率は2%であった。この間、失業率は増え続ける一方で、1991年には136万人だった完全失業者の数は、2001年には353万人にまで増えた。

冷戦の終焉はまず、それまで軍事的にはソ連、経済的には日本という両面で戦っていたアメリカに経済に集中するチャンスを与えた。世界にとって85年は、もう一つ別の意味で重要な年である。それは、プラザ合意があった年だからである。プラザ合意とは、先進諸国の大蔵大臣が集まって、「アメリカの貿易赤字と日本の貿易黒字を減らすために、日本は内需を拡大する。また為替レートを円高ドル安にする」と共同で宣言したものである。この合意によって、日本の高度成長が完全に終わった。

85年に起きた3大事件の3つ目は「ウィンドウズ1.0の発売」だ。ウィンドウズとはパソコンのOSのことである。OSとはすべてのソフトを動かすために必要なプラットフォームのようなソフトウェアのことで、このウィンドウズに表計算をするエクセルや、またワープロ機能も書き込めるということになる。これにより、第1に英語をベースとした世界の一体化、グローバリズムの急速な進展が挙げられる。第2にインターネットは国境を越えた消費の革命をもたらした。第3にインターネットによって、世界の企業の経営が一新された。その中心もアメリカである。すなわち、1985年を境に世界は変わり始めた。共通のプラットフォームであるウィンドウズとインターネットによって、世界中が瞬時に結ばれるようになり、共通の世界言語として英語が台頭、国や企業の盛衰のスピードはかつてでは考えられないほど早くなった。好調だったアルゼンチンが、格付け1つで一瞬にして信用不安を起こす時代だ。

「質問する力」が必要とされるようになった理由として、日本が経済的に欧米に追いついたこと、そして世界が工業化時代から情報化時代に移行したことが挙げられる。

日本人にとって、もう1つ「質問する力」をつけねばならない大きな歴史的理由がある。それは日本という国の長期低落の始まりだ。今はかつてのポルトガルやスペインがそうであったように、世界の中で徐々に地位を下げていく長期低落過程に入っている。2002年の3月期決算では、東証に上場している全企業の損益を全部足し合わせると、1507社の合計で収益が9669億円のマイナスで、ついに赤字になってしまった。

就業人口が国の生産力を示すものと考え、日本、アメリカ、中国を比較すると、現在日本は6400万人、アメリカ1億3000万人、中国7億人である。日本のGDPは今、アメリカの半分弱だが、これは就業人口の比率とほぼ一致している。中国の1人当たりのGDPは1000ドル、35000ドル以上の日本やアメリカに比べると低くなる。これが2050年にはどうなるか。日本の就業人口は老齢化の進行で5000万以下に減り、アメリカは移民の流入で逆に1億9000万人まで増える。つまり、今アメリカの半分ある日本の経済規模は、50年するとアメリカの4分の1に落ちてしまうのである。また就業人口は毎年60万人減っていく計算になる。構造的に毎年1%のデフレ要因(経済収縮)を抱えているということでもある。アルゼンチンは1900年には1人当たりのGDPが世界のトップクラスだったが、それからずっと衰退を続け、今は経済危機にあえいでいる。日本企業が儲かっていない原因の1つに、労働分配率が高すぎることが挙げられる。

年金はいま、支払い予定に対して収入が不足している。それを年金債務というが、これが800兆円もあるのだ。国と地方が地方債で約700兆円の負債を抱えていることはよく知られているが、国が勝手に出したこの債権を払うと約束した年金、それを全部足していくと少なく見積もっても1,560兆円、下手をすると1,900兆円ぐらいになる。これから先は、国が払うと約束したのに払ってくれないという局面が必ず出てくる。年金の支給開始年齢を75歳から76歳まで上げていかないと間に合わないことになっていく。日本政府の収入(税収)が40兆しかない人が700兆円借りてしまったら、返済能力などないに決まっているのだ。政府が借金を返せなくなったら、つまり国債を償還できなくなったらどうなるだろうか?デフォルト(債務不履行)となり、国の借金証文である国債は紙屑になる。すると銀行、生命保険、郵便貯金など国中の金融機関が吹き飛ぶということになる。こういうことであるから、「質問する力」を発揮して、自分と家族を守っていくことが必要なのである。税金で不良債権を買い取るということは、不良債権が全体で200兆円あるから、国民1人当たり200万円ずつ払うことになる。その分、国民が消費できるお金が減る。それで景気が良くなるはずがない。

北朝鮮が暴発すれば、アメリカがその政権をフィニッシュする。それでなくともアメリカのブッシュ政権は、北朝鮮をテロ国家であり、悪の枢軸の1角と位置づけており、きっかけさえあれば攻撃したくて仕方がないのである。韓国や日本に対して北朝鮮が何か仕掛けてきたら、アメリカにとってはイラクを攻撃するよりもっと良い言い訳ができることになる。その途端に開戦し、金正日体制を粉砕するだろう。もちろん、最初の暴発で、ある程度の数の国民が犠牲になるかも知れないが、それは覚悟しなければだめだ。日本政府がそれを恐ろしく間違った相手と交渉すると言うなら、それこそテロリストに脅されて相手の言いなりになるのと変わりがない。

2001年、総務省から日本の郵便事業の資産内容が公表された。それによると、まず郵便配達事業部門は資産2兆7000億円に対して負債が3兆3000億円で、6000億円の債務超過。また、2000年度の決算は赤字である。これにさらに職員の年金や退職金の債務を計上すると、2兆円以上上乗せしなくてはならないという計算も公表されている。つまり独占事業の今でさえ、債務超過で赤字なのだ。これで民間企業と競争になったとしたら、やっていけるわけがない。郵政公社の職員は29万人、そのうち14万人が郵便配達員である。それでなくとも高齢化が進んでいるところに年功序列で賃金を払っているため、その費用たるや大変なものである。郵便貯金と簡保によって集められた資金は360兆円にも上り、財務省によって治自体や政府の作った特殊法人に貸し出されている。

民営化推進委員会の最終案では、新規の高速道路建設を制限すると同時に、道路4公団のたまりにたまった40兆円の負債については、道路通行料金から50年かけて返済するとなっている。しかも返済後も高速道路の管理に必要な費用を徴収し続けるという。では、私の解はどうだろうか。道路公団の借金40兆円については「プレート課税」である。高速道路を利用したいという自家用車は1台当たり1年間に1万円、向こう13年間に渡ってプレート税を支払う。営業車、商用車はやや高く設定し、例えばタクシーは1台10万円、トラック、バスは30万円13年間支払う。その代わり、現在の高速道路は今日から全て無料とし、アクアラインであろうが本州四国連絡橋であろうが、好きに使って良いものとする。年間1万円であれば、休日と盆暮れに遠出する程度の一般ドライバーにとっても、現在支払っている高速料金と比べ、さほど高くないはずである。このプレート課税を実施すれば、13年間で40兆円の負債を返せることになる。日本にはトラックが2000万台近く、乗用車が5000万台以上もある。今の道路公団は4社計で3兆円近い収入がありながら、さらに財投から毎年何兆円も借り入れして道路建設を行っている。しかし、業務管理費や金利を除けば、既存の高速道路の整備や新たな建設に使える真水部分は2兆円ほどで、うち新たな道路建設に使われる金額は年に1.5兆円。だから12兆円の道路関係予算の6分の1を高速道路に回すことにすれば、道路族の要求している全ての計画ができてしまうのである。

日本の学生には中学から大学まで、国立であっても私立であっても年間1人当たり80万円の税金が使われていると言う。これだけのコストを投じているにもかかわらず、日本の学生の質は低下しているのである。これだけのお金を使うのであれば、もっと他のアイデアが試されてもよいと思う。海外の一流大学では「レイランド」と呼ばれるパソコンによる遠隔授業が授業の中心となっており、MITやシカゴ大学などでは遠隔授業による単位も認めている。

「自分の考えを説明する力」は、「質問する力」と表裏一体の能力である。会社の経営者にしても、起こりそうもないことを想定して、その立場に追い込まれたらどうするかと自問し、答えを考えることは重要課題である。最悪の事態が起きた時、どうするかを考えていなかったら、安定した経営はできない。景気をよくするには「新産業を興すこと」につきる。そもそも景気が良くなるという意味は「経済が拡大する」ということだ。不景気の日本に必要なのは、新しいビジネスの育成である。

国交省の調査によると、日本の住宅の数はこの40年で3倍になっていて、現在4600万戸ほどである。総世帯数は4100万世帯なので、住宅の数が世帯の数を500万戸上回っている。そして、その6割が賃貸用なのである。つまり、日本には質はともかく数だけは住宅がたくさんあって余っており、貸されないまま放置されているということだ。 以上が本書の概要である。大前氏はいつも鋭い角度で世界をみつめており、いろいろな発言や本などで、その鋭い視点をぶつけている。本書も「質問する力」という題で、読者が疑問と思っていると考えられる点に焦点を合わせ、解説している。特に1985年から日本が大きく変わったと言い、これからは、我々個人個人が自分の力で判断し、解決していかなければいけないと説く。さて、この不景気を景気よくするにはどうしたらよいか?答えられない人には必読書と言える。


北原 秀猛

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