20世紀後半の約20年間で、企業が求める人材像は急激に変わりました。新しい知恵の出し手としての変革志向の人材を求めているのです。ちょうど新旧交代の波がぶつかりあう中で、今日のサラリーマンは、自分の明日の姿をどう描いて「生き方」「働き方」の方向を決めるのか、まさに選択を迫られています。自分の持つ前向きな部分を可能な限り開花させていく働き方は、人間として最も望ましい生き方に通じるものといえるでしょう。
おかしいことをおかしく感じる。自分の力で情報を取り入れ、自分の頭で考えて仕事を展開できる力を持った人が多ければ多いほど、強い会社になり得る可能性が出てくるのです。組織の中に身を置いていると、多くの人が仮に「痛み=問題」を感じていたとしても、「会社とはこういうところなのだ」という“大人の判断”をする習慣が身についてきます。しかし、そのような発想が会社の業績悪化を招き、自らの首を締めることになるということです。適応するということは、人間が生きていく上で必要不可欠な能力です。今は時代が変わってモノが売れない時代になり、状況は一変しています。企業はその問題点をいち早く探し出すことに専念しなくては生き残れなくなりました。そんな時代には、自分の立場を守りながら仕事をする人が多ければ多いほど、組織は問題を発見できない無能な社員の集まりになってしまいます。
問題を発見することが難しいと感じるのは、立場に縛られて物事を見ている、つまり全体が見えないためです。言い換えれば「立場を離れる」努力をすることによって、自分の仕事をゼロベースでいろいろな角度から見直すことができ始めます。
会社の中にはどんな暗黙のルールが存在するのでしょうか。
(1)「指示に関しての不明な点を問い直さない」
(2)「自分の所属している部署の立場からのみ発想する」
(3)「仕事では絶対に失敗が許されない」
(1)のケースでは、不明な点を聞き直さないことが習慣化されていくと、上司と部下のお互いが経験のある仕事ならいいのですが、新しい仕事になればなるほど、上司の指示の中身と自分の解釈に差が出てくる恐れが出てきます。(2)のケースでは、問題というのは多くの場合、ある特定の部署だけに原因があって起きているわけではありません。大半は部署・部門にわたって絡み合っているため、横の連携によって解決することが必要です。(3)のケースでは、失敗が起きないことばかり考えて仕事をしていると、本来やらなければならない課題に目をつぶる、ということが起こりかねないことです。暗黙のルール自体を最初に疑ってみる姿勢が大切です。
今までの会社では、与えられた課題を素早く処理する能力の高い人が「仕事が出来る人」として評価されてきました。本当にこのままでいいのでしょうか。このような状況下で考える力を磨くには、次の3つの思考的アプローチによって知恵を絞り出すことが大切です。
- 「どこに問題があるのか、何が一番の問題なのか」を考える。
- 「それが問題なのはなぜか、何か制約条件になっているのか」を考える。
- 「明確になった制約条件をどう変えるか」を考える。
過去の延長線上での仕事では通用せず、かつて実を結んだ成功パターンが役に立たなくなっています。常に日常の業務の中から問題や課題を見つけては改善を繰り返し、知恵を絞って解決することが当たり前になっている社員、つまり自分自身が仕事の主人公になっている社員が全体の何パーセント占めているかであります。本当に考える力を持った人間は、前提となる条件や立場を離れて「なぜ」をひたすら考えます。
仕事を変革していくためには、現状から積み上げていくアプローチと、「ありたい姿」をまず明確にして、どうやってそこに近づけるかを考えるアプローチと、大きく分けて2つが考えられます。前者は、現有の知識や技能を前提にして、問題点やマイナス点をつぶすことでステップアップしていくやり方です。後者のアプローチは、まず最初にゴールとしての高い目標を掲げ、発想を飛躍させてプロセスを考えることでゴールに近づけていくやり方です。
【トヨタ社員の7つの習慣】
- 相手の話をよく聞く
- 何が一番の問題かを考える
- 激励する、提案する
- どうしたら勝てるのか知恵を出す
- 常にネットワークで仕事をし、互いに相談する
- 事実に基づく
- まずやってみる
失敗を財産にできる人、失敗を財産にできない人の違いが評価を大きく左右するのです。時代が変わって、会社が社員に期待するものが変わってきている中では、将来の展望を常に描く努力をしていなければ、与えられた作業はこなせても新しいビジネスモデルを構築していくような創造的な仕事など到底できません。ではシナリオを描く能力を身に付けるには何をすればいいのでしょうか。まず大切なことは、“仮説を立てる”ということです。仕事をうまく進めていくためには、「先を読む」ことが必要です。しかし、今は先の読めない時代ですから、まずありたい姿を明確にイメージすることです。シナリオを描くというのは、最初から詳細なプランや設計図を描くことではなく、問題をとことん突き詰めることで明確な切り口を見つけ、そこから“当初のありたい姿”を導き出し、まず大まかでラフなありたい姿のイメージをつくり出す。そしてそれを実践していくプロセスで、手探りでシナリオを書き換えながら、“だんだん明確になっていくありたい姿”に向かって進んでいくということなのです。
プロセスを評価する視点には次の3つが考えられます。
- 仲間から信頼を得ているかという視点です。
- いつも問題意識を持ち続ける変革志向の人間と何人出会うことができたか。また、そうした熱い思いを持つ人間をどれだけ顕在化することができたか。さらに自分もそうした人間になれているかという視点です。
- 経営に対する信頼感を自分の周りでどの程度回復できたかという視点です。
この会社の“経営”を良くするために自分は何ができるかという大局観を持って、冷静に部署・部門間の“壁”に目を向け、与えられた仕事は「何のためにやるのか」という疑問を常に投げかけ、斬新なアイデアが生まれたら自ら行動に移す。そして、こうした実践には協力し合える仲間が不可欠です。仲間の存在が、組織の中で自らの存在を生かすカギを握っているのです。
いずれにせよ、仕事をやりがいのあるものにするための最初の一歩として「前向きな姿勢」が必要であることは間違いないでしょう。問題を真正面からとらえて考えることは、前向きの姿勢なくして不可能です。働きがいの基本は、お互いに協力し合うことです。確かに1人で仕事を成し遂げると、晴れ晴れとした達成感を感じます。しかし、仲間と思いを通わせながら一緒に仕事に取り組み、その成果をみんなで喜び合う達成感に比べれば小さいものです。
以上が本書の概要です。著者も本書の中で「もともと日本の会社は、“お互いに協力し合う”という欧米企業にはない素晴らしい風土を持っていました。今でもそういう風土は確かにまだあるのですが、高度成長の末期、つまりバブルの頃から、“自分さえ良ければ”という風潮が蔓延してきはじめたのも事実です。今の日本の会社は、この2つの相反する傾向が複雑に作用し合っている状態なのです」と述べている。そして、「がんばっているフリをする仕事一筋人間の存在が日本企業の労働生産性の低下を招いている現状を考えると、ガンバリズムという効率の悪い精神主義をいたずらに助長するのは日本全体のためにも決して望ましいことではない」とも言っています。われわれサラリーマンにとってもう一度自分の仕事の取り組み方、問題意識、仲間との協力度など見直し、生産性を高めていくために自分としてはどうあるべきかなどを考えさせられる本です。
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