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マッキンゼー 戦略の進化!表紙写真

マッキンゼー 戦略の進化 不確実性時代を勝ち残る

編著・監訳者:名和 高司・近藤正晃ジェームス
訳    者:村井 章子
出 版 社:ダイヤモンド社
定  価:2,000円(税別)
ISBN:4−478−37431−7

おそらく日本企業にとって最も深刻な事態は、戦略の「お手本」を突然見失ったことだろう。「グローバル・スタンダード」であったはずのアメリカ型経営モデルが、ここにきて大きな綻びを見せ始めているからだ。例えば次の三つの幻想が音をたてて崩れたのは、さほど昔の話ではない。第1が「超成長」(hyper growth)。ニュー・エコノミー論が高らかに掲げていたキーーワードだ。世界一の通信事業者に急成長したワールドコムの急転直下の破綻は、ネットバブル時代の共同幻想を象徴している。「知恵とスピード」だけで勝負をかけたドットコム企業は、いまや跡形もない。第2が「分解」(atomization)。IT革命たけなわの頃、デジタル化によって産業構造がいくつものモジュールに分解されるため、今後は専門性が勝負になると喧伝された。しかし当のIT業界をとってみても、データ・ストレージのEMCやUNIXサーバーのサン・マイクロシステムズなど、専門特化を武器に快進撃を続けてきた企業の多くは、部分最適から全体最適へという時代の新潮流のなかで、大きな試練を迎えている。第3が「企業価値」(corporate Value)。本来企業はそれぞれの志に従って、多様な価値を追求していいはずだ。しかしグローバル・キャピタリズム旋風は、それを株価という投機性の高い指標に落とし込むことを迫った。その結果、多くの経営者が株価の浮沈に一喜一憂し、挙句の果てには株価操作を目的とした「クリエイティブ・アカウンティング」が横行するという事態にまで発展した。一般企業にとってより深刻な課題は、資本市場が高度な知性と感性を持ち得ない限り、戦略に磨きをかけても、企業価値の向上には直結しないという点にある。

マッキンゼーの戦略論には、大きく3つの特徴がある。まず、実践からの理論構築を目指している点。次に、異質な知の融合によるイノベーションを目指している点。これは戦略の問題だ、いや組織の問題だなどと縄張り争いをしていても、まったく意味がない。第3に、グローバルな普遍知を連結させている点。世界中の企業が直面している経営課題は、驚くほど共通している。

本書は10のchapterに区分されている。第1:学習優位の戦略、第2:規律ある戦略、第3:成長の階段、第4:カオスの縁の戦略、第5:不確実時代の戦略、第6:激動の時代のためのジャスト・イン・タイム戦略、第7:戦略的経営の進化、第8:MACS:市場重視の経営戦略フレームワーク、第9:戦略再考、第10:戦略の実現に向けて、である。

企業戦略が描きにくい時代になった。昨今のリストラ一辺倒の経営では、いつまでたっても将来の展望は開けない。かと言って、ニュー・エコノミー論の反動もあって、大胆な成長戦略を掲げても資本市場の支持を得るのは容易ではない。先が読みにくい時代だからこそ、少しでも先がみえやすくなるところまで、まずは動いてみる。このように実践の蓄積で得られた経験知を、我々マッキンゼーは「ファミリアリティ」と呼んでいる。実践がもたらすこの学習優位(familiarity advantage)こそが、リスクを最小化し、リターンを最大化する武器となるのである。

<トヨタ自動車の例>
  1. グランド・ビジョンの共有
  2. 仮説・実践・検証のプロセス 「WHYを5回繰り返す」
  3. 実践能力
<シャープの「見る・観る・診る」>

現場の情報を可視化することは、問題解決の第一歩に過ぎない。そのうえで、仮説・実践・検証をいかにしつこく深掘りできるかが組織学習の要諦となる。このプロセスを「見る・観る。診る」という3つの「みる」で表現しているのがシャープである。最初の「見る」は、現場の多面的なデータの収集・蓄積を指す。次の「観る」は、収集されたデータをパターン化し、異常・正常などの判断を下すことを指す。最後の「診る」は、データのパターンからの意味合いを抽出し、具体的な打ち手を実践することを指す。IBMではガースナーの時代にCDC(corporate development committee)委員会を新設し、ソフト部門の総師であるジョン・トンプソン副会長(当時)がそのトップに就任した。またトヨタでは、G-Bookや中国ビジネスを担当している豊田章男常務がCDO(corporate development officer)の役割を果たしている。組織のなかに「ゆらぎ」の芽を埋め込み、大きな「引き込み」現象に導いていくうえで、CDOは組織全体が自己組織化運動を進める際の触媒役となることが期待されているのだ。

それぞれの企業が、成長に向けた大きな優位性に結びつく可能性を最大限追求するには、まず次の3つの「キー・クエスチョン」(本質的質問)に答えを出す必要がある。
(1)仮説・実践・検証のプロセスは徹底しているか
(2)「ゆらぎ」と「引き込み」をもたらす仕掛けがあるか
(3)自社の本質的強みは何か

学習優位を目指す経営は、日本企業を久々に世界のトップランナーに躍り出せる可能性すら秘めている。競争優位の源泉、古典的なミクロ経済学のモデルでは、現在の競争相手や将来の参入業者に対して構造的に優位に立つ企業が富を手にすると想定されている。確かに通信・素材・運輸など経済の主要部門ではこのモデルが現在も成り立つ。だが競争優位の源泉はこれ以外にも2つ考えられる。
第1は、現場の実行能力である。
第2は、洞察力や先見性である。

戦略の新しい定義は、戦略とは、企業のその後の行動を方向付けるいくつかの決定事項である。これらの決定事項はいったん決められた後は容易には変更されず、戦略目標の達成の成否に最も深くかかわってくるものである。具体的な決定事項の内容は、
・会社の戦略上のスタンスを選定する
・競争優位の源泉を見極める
・事業のコンセプトを立てる
・自社固有のバリュー・デリバリー・システムを構築する

ベスト・カンパニーは7つの戦略的自由度を考慮し、その大半をうまく活用している。

  1. 既存顧客の最大化
  2. 新規顧客の獲得
  3. 製品・サービスのイノベーション
  4. バリュー・デリバリー・システムのイノベーション
  5. 業界構造の改善
  6. 地理的拡大
  7. 新規事業分野への進出

例えば、ジョンソン・エンド・ジョンソンは、ライセンス買収担当幹部が十数人おり、そのほとんどが法律や化学、医学の博士号を持つ。彼らの任務は医療関係の起業家、ベンチャー・キャピタル、投資銀行、調査機関、大学などの関係づくりをし、有望な機会を見極めて育てることだ。こうした仕組みのおかげで同社は新しい医療技術をいち早く知ることができ、そこから買収先の発掘につながるケースも少なくない。発見された技術は製品化に結びつけられ、同社の世界的な販売網を通じて広く販売される。

企業は、事業のあらゆる分野で優位性を確立する必要はまったくない。高収益が期待できる重要な分野で秀でていれば十分だ。成長企業にとって重要なことは、価値をもたらす資質と単にゲーム参加に必要な資質とを峻別することである。

<成長を支える3つの要素>
  1. 成長に全力投球する。

  2. ・足場を固める
    ・高めの目標とそれを目指す価値観を設定する
    ・視野を広げる
  3. 成長のエンジンを構築する

  4. ・機会のパイプラインにアイデアを投入する
    ・能力基盤を形成する
    ・イニシアティブの階段を上がる
  5. 起業家精神を育成する

  6. ・連携する小さなコミュニティを育てる
    ・事業の担い手を育てる
    ・社内のシステムや報奨制度を強化する

著名な経済学者ポール・クルーグマンによると、経済に関する書物には3種類あるという。第1は新聞・テレビに多いジェットコースター式(株価が上がった、失業率が下がった式のもの)、第2は空港の本屋式(「世界恐慌を防ぐ10の方法」の類のハウツーもの)、第3はギリシャ文字式が深刻な困難に直面していると断じる。

蟻塚というものは実に良くできている。巧妙につくり上げられた迷路のようなトンネル、蟻社会の階級に従って配置された住居、個別の用途に割り当てられた部屋、深慮遠謀に基づいて決定された出入口の位置…。高級マンションにも匹敵するような精緻な建築物である。いったい誰が設計し、図面を引いたのだろうか。蟻社会は複雑適応系の一例と言えるだろう。複雑適応系には、次のような共通する3つの特徴がある。
・第1に、ダイナミックで開かれた系であること。
・第2に、複雑適応系は互いに作用し合うエージェント(動作主体)から構成されることである。
・第3に、複雑適応系では創発と自己組織化が発生することである。
複雑系の法則は、生命の起源からロサンゼルスの交通渋滞に至るさまざまな問題に新しい光を投げかけてくれるだろう。

戦略にかかわる情報で入手可能なものは、次の2つのどちらかに大別できる。第1は、市場の人口動態など明らかな傾向が特定できる情報である。こうした情報は、将来の製品・サービスに対する潜在需要を見極めるのに有効だ。第2は、適切な分析を行った時に得られる情報である。現時点ではわかっていなくても、実際にはわかるはずの情報は少なくない。例えば現行技術のパフォーマンス、安定した製品分野の需要弾力性、競争相手の生産能力拡充計画などがこれに該当する。我々の経験によれば、戦略立案プロセスで浮上する残存不確実性は大きく分けて次の4段階のいずれかに入る。

  • 「レベル1」未来は十分にはっきりしている
  • 「レベル2」未来が複数の選択肢に分かれる
  • 「レベル3」未来の範囲を限定できる
  • 「レベル4」未来は完全に不確実である

将来を見通すことのできる時代は既に終わった。先々までの競争力の源泉を想定して勝ち取り、それを維持し続ける、といった思い上がった考え方を捨てなくてはならない時代が来たのではないか。これからの企業戦略は、外部の流動的環境に歩調を合わせる必要がある。常に変化に備え、社内外の情況に対応できるようにフレキシブルでなければならない。

競争力の基本は次の2点に絞られる。
・顧客ニーズを最優先に
・顧客のために価値創造を

新たな「戦略実現担保型モデル」
  1. ミドル ツー ミドルの握り:コーポレートと各部門のミドル間が共同で戦略を練り、共同で実行を推進し、共同で責任を取る
  2. 「厳しいトップ」の「正しい質問」:正しい質問とは、戦略の本質を衝いた経営者としての質問である。
  3. 「成果の担保を通じた人材育成」:いかに現在のミドルの中から次世代のトップを育てるかである。

以上が本書の概要である。本書の特徴を一言でいえば、従来の思考や発想の延長線では絶対に勝ち残れない。視点を変え新発想で市場を見よということである。


北原 秀猛

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•  グローバル・スタンダード
•  マッキンゼー
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