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一橋ビジネスレビュー・ブックス

競争戦略論

著  者:青島 矢一、加藤 俊彦
出 版 社:東洋経済新報社
定  価:2,400円(税別)
ISBN:4−492−52135−6

本書の目的は、「企業間で業績の違いななぜ生まれるのか」という問いをめぐって展開されてきた経営戦略(主として事業戦略・競争戦略)の理論的な考え方をなるべくわかりやすい形で整理することにある。

本書の特徴には3つある。1つは理論に関する詳しい説明は本論ではなるべく省く代わりに、理論の骨子やその背景に遡ることに重きを置いた点。第2に、現実に近い比喩や実例をできるだけ併用して説明したり、考えてもらうためのエクササイズを挿入したりすることで、現実を理解するため「レンズ」としての理論を具体的に示そうとした点。第3に、ちょっと見ただけではわかりにくい経営戦略論の全体像を明らかにするために、我々なりの枠組みに沿って主要な理論を整理した点である。

本書は第1章から第7章と終章の8つに区分されている。本書の役割の一つは、企業の「内」と「外」の区別である。企業利益の源泉が企業内部の能力にあるのか、それとも企業外部の構造にあるのかという分類である。物事をより深く理解するためには、なるべく多くの枠組みをもった方が望ましい。本書では経営戦略を「企業の将来像とそれを達成するための道筋」として定義する。経営戦略とは、企業経営に関する「地図」のようなものである。「地図」が示してくれるのは、目的地の場所とそこまでの行き方である。企業経営も同じである。

<儲かる会社と儲からない会社の違い>

技術力、経営者のリーダーシップ、組織文化の違い、進取の気風、製品の性能、社員のやる気、効率性、政府などの規制の有無、中国など海外企業が強いかどうか、競合企業数

成功している企業とは、内部に優れたの能力を蓄積している企業である。ゲーム・アプローチでは、ビジネスを価値の創造と分配のゲームと考える。価値の創造の部分では他社と協力して、価値を配分する時には他社と競合する。自社に落ちる利益は、単純に言えば、「創造された価値×分け前」である。

儲かる、すなわち利益率が高くなる一般的条件は、(1)その企業が提供する製品やサービスが対象とする顧客に受け入れられ、さらに(2)その製品やサービスによって実現される成果の多くをその企業が獲得する、という2つである。

ポジショニング・アプローチでは、外部環境の中でも自社の利益を「収奪」する構造的要件に特に焦点を当てて分析する。産業構造がどのようになっているかによって、企業の行動は自ずと決まる。このような因果経路を整理すると、「産業構造」→「企業行動」→「産業(企業)の成果・業績」という形で表すことができる。

ポーター氏によれば、産業の競争状態、ひいてはその産業に所属する企業の利益率に影響を及ぼす要因は、大きくは5つに分類される。これらの要因は、「5つの競争圧力」、あるいは単に「5つの要因」と呼ばれている。

  1. 産業内での競争の激しさ
  2. 新規参入の脅威
  3. 代替的な製品・サービスの脅威
  4. 供給業者の交渉力
  5. 買い手の交渉力

まず、産業の成長性が低下すると競合は激化しやすい。産業が成長している段階では、その成長と共に自社も成長することができる。仮にシェアを失っていたとしても、自社の売上高を伸ばすことができる。しかしながら、産業の成長が低かったり、マイナス成長となったりする場合には、個々の企業が売上高を伸ばそうとすると、他社の売上を奪うことでしか成長できなくなる。差別化が難しい場合にも競合は激化しやすい。競争の次元は主として価格となってしまう。ポーター氏によれば、次の2つの条件のいずれかを満たす代替品には注意を払うべきだとされる。1つは、コスト・パフォーマンス(価格あたりの性能・機能)が急激に向上している代替製品である。代替製品のコスト・パフォーマンスが当該産業の製品よりも急激に向上しているような場合には、当該産業の製品は代替製品にどんどん取って代わられて、結果として産業内の競合が激化してしまう。最悪の場合には、当該産業が消滅してしまう可能性さえある。第2に収益性が高い産業で、代替製品が生産されている場合である。この場合には、その収益性を背景として大幅な価格の引き下げが行われたりすると、当該産業の需要が奪われ、収益性が低下してしまう。

「企業が優れた業績を上げるのは、他社にはない優れた資源や能力をもっているからである」。これが、ここで“資源アプローチ”と呼ぶ戦略論の基本的な主張である。1200円のぶどうと2000円のメロンが欲しいと思ったとき、手元に2000円しかないからトレードオフになる。もし3200円あればトレードオフは解消されてしまう。日本企業がやってきたことは、どうやら2000円を3200にするようなことではないか。日本はトレードオフを解消するような資源や能力を事前に身に付けてしまおうとするものである。そうした能力が、たとえばコア・コンピタンスなどと呼ばれたのである。

第1に資源アプローチは、「競争優位をもたらす経営資源とは何か」という本質的な問いに光をあててくれる。それゆえに価値がある。第2に、資源アプローチは、ポジショニング・アプローチとは異なった戦略策定プロセスを示唆する点で価値がある。トヨタの競争力は製品開発能力や販売システムなどと組み合わさることで成立している。例えば、ドライビールがヒットして暫くの間にキリンビールが取った対応を考えてみるとわかりやすい。「熱処理したラガー」を「ホンモノノビール」と称して主力商品と位置づけてきたキリンにとって、ラガーを捨てて生ビールへ移行することは、従来の強みを捨てることにつながる。しかし、スーパードライが一過性のヒット商品でないことが明らかになってくると、従来のラガーにいつまでも依拠するわけにはいかない。その中で発売された「生のラガー」は“妥協策”として考え出されたのであろうが、結果としては、それまでの自社の主張を完全に否定する一方で、商品としては過去もひきずる自滅行為であった。この矛盾は、既存企業、特に支配的企業には衰退の脅威をもたらす一方で、新規参入者や下位、あるいは首位企業に挑む「挑戦者」にとっては逆に機会とも言える。従来の強みを弱みに代える「テコの原理」を使うことで、正面からぶつかる消耗戦を避けることができるからである。

ゲーム・アプローチは、自社の目標達成にとって都合のよい「外」の構造を作り出すプロセスに力点をおいた戦略論の視点である。ゲーム・アプローチの第1の特徴は、外部環境である他社(競争相手や供給業者、顧客など)が自社の行動に対してどのような反応をするかということを、明示的に考慮して戦略を考えようとする点にある。第2の特徴は、他社との関係として、「競争」のみならず、「協調」という側面にも明示的に焦点が当てられることである。

一般に、「パイ」の配分パターンはプレーヤー間の力関係によって決まってくる。例えば、家庭用ビデオゲーム市場では、ソニーや任天堂などのハードメーカーとソフトメーカーは補完的な関係にあるが、どちらにより多くの利益がもたらせるのかは双方の力関係に依存するであろう。一般的には、ハードメーカーの方がソフトメーカーよりも数が少ないこともあって、ハードメーカーの交渉力が強くなる傾向にある。しかし他方で、「ファイナルファンタジー」や「ドラゴンクエスト」のような人気が高いソフトを開発する企業は、ハードメーカーに対して強い交渉力も持つことになる。ソフトの動向がハードの売上自体に大きな影響を与えるからである。結論を言えば、プレーヤーの強弱を規定するのは、そのプレーヤーが参加することでビジネスゲームにもたらす「価値」の大きさである。そのゲームでの「価値」創造に対する当該企業の貢献度と言い換えても良い。ゲームを「ゼロサム」から「プラスサム」に転換する、つまり「パイ」を取り合う前に「パイ」を拡大することができるならば、参加しているプレーヤーの間で誰かが犠牲になることなく、利益を拡大できるのである。

学習アプローチでの「プロセス重視」とは、簡単に言えば、机上での計画やその階段での情報収集よりも、事業活動で遂維持次的に生じる状況からの知識獲得を中心に考えるということである。実際、事前の計画がその通りに実現できるような場面が非常に限られているということは、日常を少し振り返れば誰でも理解できるであろう。

ゲーム・アプローチでは、ビジネスを価値の配分と創造のプロセスとして把握し、自社に都合の良いようにそれを変化させることが目的となる。ゲームの全体構造を把握するために、まずは、プレーヤーを適切に認識する必要がある。

アスクルは、インターネットを使ったオフィス製品の直販で急成長した企業である。アスクルが消費者に受け入れられる1つの理由は、大幅な値引きで商品を提供する点にもあるが、それだけでは競争優位は確立できない。単にインターネットを使って安い商品を提供するだけであれば、他の企業も簡単に真似することができるし、そうなれば熾烈な価格競争に突入するだけである。アスクルの強みは別のところにある。1つは、自社で開発した総合的物流システムにある。この物流システムのおかげで、インターネットから受注情報を得て、ピッキングが始まりパッキングが終るまでに15分しかかからない。その結果、3万件にも渡るオーダーを確実に翌日までに届ける。つまり、「明日来る」という時間を約束したサービスのスピードが保証されている。もう一つの強みは、既存の文具店を組織化して、小規模事業所の開拓や代金の請求と受領を任せている点である。

IBMは情報化の流れの中で、いったんは厳しい状況に追い込まれたものの、それまでに培ってきた経営資源を放棄したわけではなかった。新しい時代に合わせて、独自の経営資源を再解釈した上で活用することで、情報化社会を再度リードする企業へと復活を遂げたのである。

シナジーを中心に全社戦略を考えた場合、以下のように大きくは4つに分けることができる。この4つのシナジーの区分は、事業戦略・競争戦略で先に説明してきた4つのアプローチにおおよそ対応するものである。

  1. 財務シナジー:ポジショニング・アプローチに対応
  2. 戦略シナジー:ゲーム・アプローチに対応
  3. 資源シナジー:資源アプローチに対応
  4. 資源のダイナミック・シナジー:学習アプローチに対応

競争があるのに競争力を失っている場合には2つのタイプがある。一つは、優れた製品やサービスを創造し、それを効率よく生産する能力には優れているけれども、その能力を経済的利益にうまく転換できない場合である。これらの場合の多くは、戦略の欠如に起因する。2つ目のタイプは、そもそもモノやサービスを作り出す能力自体が劣っているケースである。

以上が本書の概要である。著者が示しているように1990年代以降、多くの日本企業は低迷した情況にある。「このような日本企業の不振の原因は、金融問題に代表されるマクロ経済政策だけの問題ではなく、多分企業自身の内にある。その重要な要因の1つは個別企業における経営戦略の欠如や誤謬にある」と述べているが、正にその通りであり、このグローバル化社会の認識度合いと、従来の発想から脱却できず、過去の考え方を引きずっているのである。今年の1月から5月までの倒産企業のうち、歴史が30年以上企業の倒産が全体の26%である。すなわち、旧来のビジネスモデルから新ビジネスモデルの転換ができないのである。本書の中から新ビジネスモデルのヒントを見つけることができる。事例もふんだんに挿入されている。是非参考にしていただきたいと願うものである。


北原 秀猛

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•  事業戦略
•  競争戦略
•  ポジショニング・アプローチ
•  プラスサム
•  シナジーの区分


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