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「茹で蛙」国家日本の末路表紙写真

「茹で蛙」国家日本の末路 日本が元気になる最後の一手

著  者:大前 研一、田原 総一朗
出 版 社:ビジネス社
定  価:1,500円(税別)
ISBN:4−8284−1051−1

高齢化・少子化が喧伝され、デフレ・スパイラルが声高に唱えられる現在、もう日本経済にも、日本国民にも、将来の明るい展望はあり得ないのでしょうか?

本書は3部構成になっています。第1部:この国の本当の病巣がみつかった―2年以内に手術すべし― では大前研一氏が日本経済の現状を分析し、日本が抱えている緊急課題について、その問題点を抉りだし、解決法を提示しています。第2部:だから言ったじゃないの11年前に―不良債権・株価・地価・道州制・知事リーグ等― では大前研一氏と田原総一朗氏の激論を再掲載。第3部:内なる既得権益を見つめよう―抵抗勢力はあなた!?― では田原総一朗が日本はなぜ変われないかを総括しています。

これからの繁栄は、それぞれの地域が主体的に世界経済といかに相互作用をもつかということで決まってくるので、すべての地域が繁栄するということはありえない。道州というのは経済発展の単位であり、統治機構の単位です。それぞれの道州が産業基盤を担うことになります。その産業基盤がなぜ必要かと言えば、雇用創出のためです。なぜこの道州制という考え方が出てきたかというと、それはやはり地域間の健全な競争と、世界と交易していく単位として、人口300万から1000万くらいが最適ということがわかっているからです。この10年間を世界史的な変化でとらえるならば、繁栄しているのは国民国家ではなく、実は地域国家なのだということです。テクノロジーが発達して、資本や技術などの重要な財貨が国境をまたいで移動するようになったからです。したがって、これからは繁栄の単位としての地域を強化していかない限り、国そのものの繁栄もありえない。国は地域の集合体にすぎないからです。にもかかわらず、日本はこの期に及んでも、今の状況が統治システムの欠陥からきているデフレであり、統治システムの欠陥からきている衰退であるということに気がついていない。日本の病根は経済に本質的な構造変化が起こった結果なのであって、これまでの国民国家を前提とした対策が有効であるわけはない。しかも、有効ではないという意味そのものが、政治家や官僚たちにはわかっていない。政治家は依然として公共投資が5兆円で足りなければ30兆円つぎこめばいいとか言っている。お金は量の問題だと思っている。しかし、この不況は量の問題では解決しない。

中国やシンガポールは、世界中から集まってくる金で繁栄しているわけです。今では自国の税金を使って繁栄しているところなど、ほとんどありません。日本の最大の不幸は、21世紀型の経済社会で繁栄する仕組みが根本的に変わってしまったのに、その受け皿となる統治システムが変革されなかったことです。日本という国は、答えがわかっても実行できない国なのです。いや実行さえも、政治家や官僚に委ねようとする国民がいるからです。日本が発展していくためには支配原理が変わり、統治システムまで変わらなければいけない。小泉総理は破壊的なことを言いながら、実際には何も破壊できない理由は、彼がまだ“滋成仏”していないからです。死んでもいいからこの改革をやるんだという気でやらないと実現できません。今後、日本はどうなるかと言えば、このまま何も手を打たないで自然と良い方向に向かうことは100%あり得ません。世界中から財貨を取り込む仕組もなければ、自ら富を生み出す仕掛けもない。それに2025年には日本人の平均年齢は51歳くらいになっている。日本が回復する方法は唯一、世界中からお金とか技術が雪崩を打って入ってくることしかありません。それぞれの地域が、自分たちの特徴を打ち出して売り込まなければ実現しないでしょう。

もう1つ心配があります。それは、政府がすでに約束してしまっている医療や年金のことです。これらの現在価値はいくらになっているかと言うと、マイナス800兆円に上ります。そのほかに地方自治体と国で発行した債権が700兆円あります。これだけで1500兆円になります。いわゆる国民の金融資産というのは1400兆円ですから、ただいま現在債務超過の状態なのです。ということは、日本は破産状態で対外信用ゼロというアルゼンチン型の国家に転落せざるをえない。

今までの競争というのは人材の数の掛け算だったが、21世紀の競争は人材の質の高さの競争になる。例えば、マイケル・デル1人いたら100万都市ができてしまうということです。21世紀は、際立った人間の質の競争になりつつある。

平均年齢が50歳を超えた国は、自己回復することは難しい。そういう状況になれば、より保守的な人間が急速に増えていく。現在、日本人の平均年齢は44歳〜45歳ですが、50歳を超えると変革はできないでしょう。今の韓国の若い世代は、北がこのまま崩壊するなら儲けものだと思っている。なぜならば、北が持っている核と、わが大韓民族7000万の人口と平均年収1万ドルの経済ができるから、という思考回路です。

優れた経営者は、状況が悪くなる前に、このままいくとこうなる、あるいはこういうことが起こるといけないと考え、フィード・フォワードの頭の回路を使って事前に手を打ちます。つまり、社長がゴルフのラウンド中であってもキャンセルし、帰ってきて会議をやる、それくらい危機意識を持っていなければならないのです。

1985年以降、経済の原則が従来のケインズ的な国家経済、すなわち国民国家の経済から、国境がとり払われたボーダレス経済に変わったということです。つまり、国民国家を国民国家たらしめていた国境を、4つのCが自由に動き、またいでしまうのです。4つのCというのは、まずカレンシー(currency)、つまりお金です。資本が動いてしまう。それからコミュニケーション(communication)、つまり情報も移動してしまう。またカンパニー(company)やコーポレーション(corporation)、つまり企業が移ってしまったりもする。さらにコンシューマー(consumer)という消費者も国境をまたぐ。このような経済がボーダレス経済の根本的な特徴です。

現在の日本を変えているポイントは、第1にIT革命の進化によって在庫の概念が消え去り、通貨を供給しても吸収されなくなってしまった。第2に経済のボーダレス化です。第3は、日本独自の問題である高齢化です。今、日本人は毎年60万人が就職戦線から引退している。ということは1%のデフレが日本経済には組み込まれていることになる。就業人口の1%の人が、毎年働いて付加価値をつけるという側から、ただ単に暮らして年金をもらう側に入ってしまうわけです。これはやはりデフレ要因になります。生産をしないわけだから。こうして、日本経済は毎年1%ずつ細っていくことになる。そしてあと50年経つと、就業人口が5000万人を割り込むのです。

実は、私は日本を今の事態に陥れてしまった戦犯は国民だと思っています。これまでの革命というのは、全部マジョリティが決起して起こしてきた。マジョリティが、政治的にも経済的にもマイノリティに虐げられてきたからです。ところが、今日の先進国では、どんなに進歩的な人でも心の中には保守的な部分というのがある。それが、敵なのです。つまり、人類史上はじまって以来、初めての現象ですが、今やマジョリティがリッチになってしまった。残念なことに、「いまはこうだけど、あと3年待ってくれ。そうすればこうなるから」というビジョンを打ち出せる政治家も官僚もいないわけです。だから国民も不安になって短期的思考に走るのも仕方ないんです。

いまの時代は4つの“I”が国境を自由にまたいで移動します。情報(Information)、産業(Industry)、投資(Investment)、個人(Individual)の4つです。しかも情報と投資(金)はエレクトロニクスの発達で瞬時に国境を越えるのです。

経済に国境がなくなっている。投資家が国境をまたいで一番儲かるものに投資するということで、お金の方が先に自由に動くようになってしまって、日本の特殊性というものが破壊されていく過程だからなのです。日本だけが特殊で孤立した経済などというものはありえないのです。

日本政府が許認可権を持っていて、そしてお金が中央にあってそれをばらまくということになっていますから、贈収賄というのは日本の政治の構造的なものなのです。また、政治にお金がかかる。なぜかかるかと言えば、国民大多数のことを構わずに少数利益集団の人が政治を動かすことになってしまうわけで、したがって、その人たちが自分の利益のために国民に迎合したりするから政治にお金がかかるのです。私たちは知らずのうちに、税金以外に年間所得の3割以上もの「見えざる税金」を支払わされているのです。住居の広さ2倍、自家用車2.2台保有など月収40万円のアメリカ人世帯平均の生活を日本で送ると、アメリカよりも毎月14万円余計に金がかかる。永田町と霞ヶ関だけで牛耳るいまの利権政治を放置しておけば、日本は時代の変化に対応できず、国際社会からも取り残されてしまうでしょう。

以上が本書の概要である。最近日本でも「特区」が誕生した。しかし、基本的には骨抜きである。日本は本気で外国から投資をさせようと考えているのか甚だ疑問である。小泉首相は外国から日本にもっと多くの投資をさせようと目標値を設定したが、いまのところほとんど効果がない。それはそのはずだ。具体的な手段をまったく講じないからだ。魅力のない国に誰が投資しようとするのか。日本は土地も物価も家賃も高く、しかも、規制なのでがんじがらめである。「特区」には、例えば家賃は安くするとか、法人税は10%にするとか、土地を無料で貸すなどの処置なくして、日本に投資などするはずがない。

経済産業省のデータによると、海外から日本に直接投資に比率は対GDP比1.2%である。アメリカ27.2%、イギリス33.2%、ドイツ22.5%、フランス54.2%(2001年)これではどうにもならない。大前研一氏が言うように、世界中から財貨を取り込む仕組もなければ、みずから富を生み出す仕掛けもない。失業率を減らすには、それを受け入れる企業の受け皿を作る必要がある。個人消費を増やすためには、国民を豊かに導く必要がある。しかし、基本は逆である。医療費の3割負担をはじめ、増税傾向の話ばかりである。一方で、本質的なことに対して政治家も官僚もまったく手を打ってこない。その中で政治家や官僚が自分達に対しては痛みが伴うことをしないようでは、日本がよくなることはないのではないか。本書をじっくり読んで欲しい。そして、自分の将来は自己責任において、自分で切り開く以外に道はない。


北原 秀猛

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キーワード
•  少子・高齢化
•  危機意識
•  ボーダレス経済


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