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知恵は金なり表紙写真

知恵は金なり これから5年を勝ち抜くための経営学教科書

著  者:堀 紘一、ドリームインキュベータ
出 版 社:PHP研究所
定  価:1,500円(税別)
ISBN:4−569−62653−X

堀紘一氏がハーバードに留学していたとき、そのハーバード大学教授が「ビジネスで一番大切なのは知恵だ。知恵さえあればお金も集まってくる。知恵とお金の関係というのは、いわば蜜と蟻の関係である。知恵さえあれば、蟻が蜜に群がってくるように、お金の方が君に集まってくるんだよ」と言っていた。つまり、ビジネスで最も大切なのは、常に物事を深く考え、問題の本質を突き詰めていくこと。そこから新しい付加価値を創造し、他との差別化を図ることである。アメリカで儲かる仕事のトップ5は、第1位:インベストメントバンカー(投資および利殖の指南役)、第2位:経営コンサルタント、第3位:弁護士、第4位:医者、第5位:公認会計士の順である。

ソクラテスはギリシャ貴族の奴隷だった。奴隷だから、本来なら哲学どころではなく、牛馬のように働かされるはずだ。ところが、たまたまソクラテスを雇っていた貴族が、「ソクラテスという奴は石を運ばせてもパンを焼かせてもあまり役に立たないが、なかなか頭がよくてものを考えることができるから、学問をやらせてみよう。ソクラテス1人くらいの食い扶持は面倒みてやる」という考えをもった。ソクラテスが思索に没頭できるようにするには、足に鎖をつけたり、手錠をはめたりしないで、自由にさせたほうがいい。こうして彼は毎日のように逍遥しながら思索を重ねて、後世に名を残す哲学者となったわけである。

日本人には致命的な3つの欠点があるという。それは、「計画性のなさ」「論理的思考の欠如」「情報の軽視」である。日本は当時も今もそうだが、国家をどういうふうに運営していけばいいかという研究が驚くほど進んでいない国なのだ。だから、今日のように日本が目標を失って閉塞状況に陥っても、誰も起死回生のグランドデザインを打ちだすことができない。情報を集めることはできても、そのなかからあれこれ取捨選択して、足したり引いたり掛けたり割ったりしてうまく加工する能力がないと、知恵にはならない。その点論理的思考が身についている欧米諸国は、総じてこの能力が高いのである。

本書は、序章:知恵とは何か(掘紘一)、第1章:知恵の買い方(古谷昇)、第2章:ビジネスモデルのつくり方(山川隆義)、第3章:お金になる技術のつくり方(萩島功一)、第4章:知恵を生む組織の育て方(金光隆志)、第5章:企業の価値の高め方(井上猛)、終章:学習する組織しか生き残れない(堀紘一) の6人の執筆者によって構成されている。

ユニクロが最初に小さな店を出したときは、材質もデザインも一定以上のレベルを持っていて、しかも低価格にカジュアルウエアという差別化がキチンとできていた。ところが、ユニクロの躍進はなにしろよく目立ったため、イトーヨーカ堂やダイエーなど多くの競合他社の参入を招いてしまった。差別化というものは相対的なものだから、競合が入ってきたとたんにユニクロの差別化要素は急速に低下する。かくして、いよいよ価格競争にまきこまれることになった。最初の2〜3年は生産を倍々で増やしていけたが、やがて需要の飽和状態を迎えて、それ以上のコストダウンができなくなった。コストダウンができなくなったら低価格という最後の差別化ももう使うことができない。最初はいかに調子がよくても、ユニクロのビジネスモデルのように、いったん差別化が崩れると、たちまち凋落してしまうのだ。ビジネスモデルを生むのは知識ではなく知恵である。ビジネスモデルを考える際の注意点をまとめると次のようになる。

  1. 事業は必ず衰退するものであるとしっておく
  2. 常に新事業の芽を模索しなければならないという問題意識を持つ
  3. 継続性のある差別化要素を構築する
  4. 差別化とはあくまで相対的なものである
  5. 知恵を働かせる

ビジネスモデルを作る以前の問題として、自分の会社の「資産の棚卸し」をしてみることだ。会社の資産とは、「金」「物」「技術」「人」「客」の5つである。ビジネスモデルづくりをするときには、「技術」「人」「客」という経営情報には出てこない資産が重要になってくるのである。つまり、ビジネスモデルづくりの最初のスタート地点は、経営情報以外の資産の棚卸しだ、ということになる。資産の棚卸しは4段階のステップを踏む。

<第1ステップ> 問題意識を持つ
<第2ステップ> 新規の市場進出への3つの道
(1)既存の客に、新規の製品を売る
(2)新規の客に、新規の製品を売る
(3)新規の客に、既存の製品を売る
<第3のステップ> 差別化の方向を探る
<第4のステップ> 進出する業界を選択する

ベンチャーを立ち上げて、そこそこに運が良かったりノウハウがあると、経営者1人の力で売上10〜20億円、利益が1〜2億円といったレベルにはいけるものだ。大きな問題は次の企業化段階である。ベンチャー企業を抜け出して中堅、大手企業と呼ばれるまでに育つかどうかのこの正念場には、ベンチャー経営者を待ち受けるいくつかの罠がある。
(1)モノ=自社の技術やサービスが高く評価される
(2)カネ=高いバリュエーションでVC(ベンチャーキャピタル)の増資を受ける
(3)ヒト=大企業などから人材が応募してくる
(1)の罠は、供給者の論理に陥る。そして、願望が予測にすり替わる。
(2)の罠は、カネが会社の中身より先行して暴走してしまう。
(3)の罠は、元の経歴や実績は必ずしも当てにならない。

そこで、罠にはまらないための3つの要諦がある。
A 自他共に納得できる事業計画
B キャッシュフロー計画に裏打ちされた資本政策
C 明日の成長を見据えた人のマネジメント

学歴というのは20世紀的な言葉であり、21世紀には学と歴の間に習うを入れた「学習歴」が大切である。経営環境というのは時々刻々と変わる。ということは、会社の方も時々刻々と変わらないことには、経営環境の変化に置いていかれてしまう。そして、その差が大きくなればなるほど、売上は低迷し、利益が圧迫されることになる。結局、いまの時代のように環境変化のスピードが速いときには、組織もどんどん変わっていかざるをえないのだ。これを生物学では環境適応という。環境適応できない種は滅びるのが生物学上の定説だ。

以上が本書の概要である。P・F・ドラッカーは、「ネクスト・ソサエティは知識社会である」と言う。知識が中核の資源となり、知識労働者が中核の働き手となる。知識社会としてのネクスト・ソサエティには次のような3つの特徴がある。

  1. 知識は資金よりも容易に移動するがゆえに、いかなる境界もない社会となる。
  2. 万人に教育の機会が与えられるゆえに、上方への移動が自由な社会となる。
  3. 万人が生産手段としての知識を手に入れ、しかも万人が勝てるわけではないがゆえに、成功と失敗の並存する社会となる。

「これら3つの特徴ゆえに、ネクスト・ソサエティは、組織にとっても一人ひとりの人間にとっても、高度な競争社会となる」と述べている。社会が成熟するにしたがって、専門的な知識が重要になってくる知識社会へと変化していく。本書の題名の通り、「知恵は金なり」の時代に入っている。一人勝ちと言われるように、企業も個人も大きな格差が出てしまう環境にある。堀紘一氏が言うように、学習する組織しか生き残れない時代である。


北原 秀猛

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キーワード
•  学習歴
•  ネクスト・ソサエティ


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