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高齢化大好機表紙写真

高齢化大好機

著  者:堺屋 太一
出 版 社:NTT出版
定  価:1,300円(税別)
ISBN:4−7571−2111−3

近代工業社会では、人間的な経験や感情は軽視され、客観的な物証と数値だけが尊ばれた。民族の違いや文化的慣習は排除され、科学的な普遍性が重視された。個人的好みや地域的な違いは否定され、規格化された能力と格差のない条件が要望された。ところが、1980年頃を境として、近代工業社会は急速に衰えだした。規格大量生産は飽きられ、多様な装いと機能の品々が登場した。科学的客観性よりも個人の好みや国民感情が重要になった。ブランドやファッション志向が拡がり、同等商品の間にも大きな価格差が生じた。時代は近代工業社会を通リ越し、多様な知価社会に入ったのである。日本は世界に先駆けて少子高齢化する。そのことは、世界に先駆けて高齢文化と高齢経済を確立する好機に恵まれていることを意味している。今日の日本は、官僚たちの悲観論に気押されて、高齢者に楽しみと誇りを与える体制も、高齢者を強力な生産人口とする発想も持ち合わせていない。

本書は3部構成になっている。第1部:高齢化を活かそう、第2部:高齢市場の実例と分析、第3部:ビジネスリーダーたちの言葉 である。

“年少人口”と“老年人口”、つまり「他の人に養ってもらうべき人々」というのである。現在の統計では、65歳から69歳までの人々の就業者比率は34.2%、特に男性は46.1%が就業者である。65歳以上の比率が2050年には35.7%になり、何と2.88人に1人が65歳以上の高齢者となる。では、ある年齢層の数が多いということは、どういう影響を与えるだろうか。需要面を見ると、第1次から第4次にわたる需要効果がある。まず、その年齢層の数に比例して需要が増加する。いわば「第1次需要拡大」である。第2に、人間は1人でいるよりも2人で居る方が話題も拡がり行動も活発になる。いわゆるコミュニケーション効果によって需要が拡大する。「第2次需要拡大」と呼ぶことができる。第3には、「新規投資効果」をもたらす波及効果だ。第4次とは、流行効果である。その世代を対象にした流行で需要を拡大するのである。

明治以来、日本の体制と発想には5つの前提があった。

  1. 人口は増える
  2. 土地は足りない
  3. 経済は成長する
  4. 物価は上昇する
  5. 日本は島国で、貿易以外に国際競争がない
この5つを前提にして、日本の政治も行政も企業経営も学校教育も考えられてきた。1980年代では、高速道路の通行料も鉄道運賃も、電力料金も電話料金も、「コスト+適正利潤=適正価格」の方式で算出されていた。ところが今や、「5つの前提」はすべて崩れた。古い地域社会では、隣近所の付き合いで絶対に欠かせないのは葬儀と火事だった。村八分というのは、葬式と火事の二分だけ残して、その他「八分」は付き合わない、という意味である。しかし、今や葬式は葬儀社がすべてやってくれる。近所の人々が葬式に手伝いに行く習慣は、大部分の地域ではなくなってしまった。

人口の少子高齢化が市場構造を大きく変えている。少子化で縮小する市場も多岐にわたる。顕著の例の1つはピアノである。ピアノを買う人が減るだけでなく、中古が新しい需要を埋めるから、新品の販売台数は1981年度の約35万台から2001年度には約13万台と、劇的に減少した。つまり、人口構造変化の負の乗数効果が現れているのである。

全国には23,808の小学校と、11,159の中学校があり、合計約66万人の教師がいる。その上、全国には6万か所近い児童公園(街区公園)がある。これに対して高齢者のためには、ほとんど何も作らなかった。一言で言えば、高齢者市場はまったくの未開発なのである。ここに大きな成長性がある。

◆「学習」における年少者と高齢者の違い

<年少者>
<高齢者>
目  的 上達 楽しみと健康
分  類 教育(知識産業) 楽しみと社交(時間産業)
動  機 親の期待 本人の希望
運動能力 年々上昇 一定までの上昇
世間の目 熱心な子(褒められる) 変わった人(奇異な目)
上  達 速い…無限の可能性 遅い…限界は見えている
対  象 生徒 お客

高齢化社会では、家族構成が大きく変わる。子供が独立して家を出た結果、もともと子供部屋につかわれていたところが未利用あるいは低利用のまま残されている。これをより利用価値の高い空間にしたい。現に住んでいる住宅を中高年の夫婦だけで十分に利用し、楽しめる住居に改装する。大都市に住み着いていた人々が、職縁社会から暮らしを描く別荘地感覚の住居だ。もう1つは都心回帰だ。これにはいろいろな理由がある。第1のパターンは「職場が変わる可能性がある」ということだ。終身雇用が緩み出すと、どこへゆくにも便利な都心が喜ばれる。第2は高齢化。高齢化になると、日々の行き先は多様化する。買い物、医療、趣味娯楽、旧友や親類との付き合い、そして時々に変わる就労の場など行き先は多様だ。第3の理由は知価革命。自分の知識や経験や感覚を生産手段にする知的創造分野で働く人々は、常なる刺激を求めて都心に住むことを好むのである。

さて、これからの「高齢者(中高年の上の年長部分)」市場を考えると、これまでの市場にはない3つの特色がある。

  • 第1の特色は、高齢者市場が巨大なことである。(人数・経験・時間・貯金・財産)
  • 第2の特色は、独特である。(学生・生徒という縛り、サラリーマンという縛り、主婦という縛りなどどこにも属さない。
  • 第3の特色は、個性的である。(年齢は55歳〜100歳と幅広い、収入財産はゼロから無限大、知識・経験・技能・健康が人それぞれ違う、自分が正しいと思う権利がある)

要するに、大部分の高齢者は、「管理されない純消費者」である。

高齢者自身がいかにあるべきか、高齢者を主体として考えてみよう。先ず第1に、「魅力ある高齢者」という概念を持たなければならない。高齢者は、お金よりも知恵を貯め、人脈を拡げて若年者にも「魅力ある老人」となることを目指すべきだ。高齢者は若くなれない。若者と新技能や体力を競うのは愚かなことだ。若者にはできない贅沢なエクスペリエンスを積むことこそ魅力の源泉になるのではないだろうか。高齢者は高齢者の友達を持ち、高齢期を楽しむ人脈を拡げることが大事だ。

パソナでは、シニアの人々の持つ知識やノウハウ、長年積み上げた経験や才能を活かした、人材マーケットをこしらえようとしている。職縁社会が崩れ、個人社会に移っていく。今までの「何々会社の誰それです」という時代は終った。こらからは「私はなにがしという者で、こういう仕事ができます」という自己紹介の仕方に変わっていく。

以上が本書の概要である。日本は世界に例をみない少子高齢化社会に入る。2002年の合計特殊出生率は過去最悪の1.32である。その年度に誕生した赤ちゃんは115万3,866人と過去最低であり、前年比で1万6,796人も少ないのである。逆に本書のなかに書いてあるように1960年には0〜24歳48.9%、25〜59歳42.2%、60歳以上8.9%であったものが、2000年で27.1%、49.4%、23.5%になり、2020年では、21.7%、44.6%、33.7%になると予想されている。日本の人口も2006年にピークを迎えて1億2,774万人、それから減少が始まり、2050年には1億人を切ると言われている。当然本書に示されているように、その2050年には65歳以上の比率が35.7%、2.88人に1人が65歳となる。これはもはや避けられない。であれば、老人人生をいかに楽しむかの発想ではつらつと「美しい老人人生を送るか」である。一方対象が拡大するわけだから、いろいろな需要も増えるであろう。人生のあり方、また企業としての対処の仕方など参考になる点が多くある一冊である。


北原 秀猛

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キーワード
•  高齢者
•  少子・高齢化


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