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ハーバード流 キャリアチェンジ術表紙写真

ハーバード流 キャリアチェンジ術

原出版  :Harvard Business School Press
著  者 :Herminia Ibarra
訳  者 :宮田 貴子
監修・解説:金井 壽宏
ISBN:4−798−10386−1

ハーミニア・イバーラは、ハーバード・ビジネス・スクールで13年間教鞭をとったあと、2002年よりINSEAD(欧州経営大学院)の組織行動学の教授である。監修・解説の金井壽宏氏は、神戸大学大学院経営学研究科教授である。彼曰く「アイデンティティーが変わったと言えるほどの大きなキャリア・チェンジは、どうすれば実現するのだろうか。この問いをめぐって、39名もの事例が紹介され、新しい理論的視点も練りあげられている。誰に読んでほしい本か。人生やキャリアの大きな次のステップを歩めたい。仕事を通じてさらに一皮むけたい。でも、そう希望すると同時に、なかなか踏み切れない。そういう人が一番のターゲットだろう」と述べている。

日本ではあまり本格的ではないが、欧米では経営学におけるキャリア研究が盛んで、心理学や社会学をバックグランドにもつ大勢の学者が多種多様な研究を行っている。本書は、そのなかでの新しい動向の一つを示している。

特徴その1:仕事のなかでのアイデンティティーの追及
特徴その2:型破りの視点だが納得がいくこと――最新の経営学と定性的事例のパワー

著者は第2のキャリアという新しい可能性を見つけて方向転換するには数年かかると述べている。自分を見つめて考えているだけでは前へ進めず、さまざまなことを試して学び、新しい人間関係を築くことが必要だという。

この本がよりどころとするのは、拍子抜けするほど単純な考え方だ。第1に、キャリア・アイデンティティーは心の底に隠された宝物で見出されるのを待っているわけではなく、数多くの可能性からなると考える。第2の考え方は、キャリア・チェンジは自分を変えるのに等しいというものだ。キャリア・チェンジはキャリア・アイデンティティーを修正することだからだ。

キャリア・アイデンティティーとは、職業人の役割を果す自分をどう見るか、働く自分を人にどう伝えるか、最終的には職業人生をどう生きるかといったことを指す。転職の過程が「行動してから考える」という順序になるのは、人の本質と行動が極めて密接な関係をもつからだ。変化を望んでいるのに明確な目標がみつからない人にとって、いま歩いている道に代わるものを見つけるまでが一番つらい時期だ。給料ややりがいや安定の面で恵まれている仕事と、転職だと思う副業の間で揺れる人は多い。

「計画して実行する」方法は、キャリア・カウンセラーとビジネス書から得られる従来の情報が代表的だ。計画して実行する方法では、自己認識を詳しく把握したあと行動に移ることになり、論理的に考えた手法が用意されている。

  • 仕事の情報を集める――自分の興味や最も得意な技術が分かれば、それらを活かせる分野や職業を探しだせる。
  • 少なくとも2種類の進路か考えを書き出す――1つは今の仕事に関係のあるものを選び、もう1つは全く別の職業を考えてもいい。
  • 業界の現状を調べる――まずは本を読んだり、その職業に就く人の集まりに参加したりして情報を収集する。人脈をつくり、毎日の業務について聞いてみる。
  • キャリアの目標を決めて戦略を練る――長期の目標がはっきりすれば、途中で必要な道のりも明確になる。

シャーロット・ドナルドソンは46歳のフランス系アメリカ人で、証券会社で管理職に就いていた。大学卒業後20年同じ仕事を続けてきたが、上層部に能力を認めてもらえないことで不満が募り、もはややりがいを持てずにいた。そこで打開策を探ることにした。会社が大規模な人員削減を発表したとき、有利な退職プランに自分から応募したのだ。そして、キャリア・チェンジに本格的に取り組もうと考え、実現にできそうな目標のリストを作った。

  1. 一流の人材会社に就職し、証券会社の経営幹部を引き抜く仕事をする――姉が人材会社に勤めている。私は何年か前に一流の人材会社に転職を打診され、最終面接まで残った。この仕事に就く知人が高給を稼いでいる。
  2. コミュニケーションか投資関係の仕事をする――人前で話をすることが得意で、そうした仕事をみんなから薦められる。知り合いの女性は投資情報会社を設立した。証券業界の経験をすべて活かすことを考えるべきだ。
  3. 個人向けの投資業務と美術を組み合わせた仕事をする――以前の同僚がサザビーズに就職し、美術品収集家に投資の助言をしている。私は現代美術が大好きで、何年か前、昼間の講座に通うことを考えたが、経済的に余裕がなく時間を取れなかった。
  4. 別の会社で株式ディーラーを続ける――1社から誘われている。
  5. 大学院で歴史か言語学を学ぶ――政治の記事を読んだり、エッセイや書評を書いたりすることに関心がある。大学院で学位を取りたい前から思っていたし、文章を書く仕事をあたってみたい。
  6. 食品やワインに関わる仕事を通じて、アメリカとフランスを結ぶ架け橋になりたい――食品関係にはとても興味がある。フランスには別荘があり、地元の料理人や農産物に詳しい。アメリカ人としての自分をもっと利用できるかもしれない。
  7. 2つの国の言葉や文化を活かせる仕事をする。
  8. あまり知られていない高級ブランド品を世界に紹介する――磁器やクリスタルガラスなど、高価な家庭用品を扱う隙間市場が面白いと思う。アジアで仕事をしていたとき、輸出業を始めようかと考えたことがある。

リストは可能性を大まかに書き並べたものだが、多くを物語っている。リストを作った後はどうすればいいだろうか。詳しく探るものや削除するものを決めるために、行動を起こすことだ。

社会学者によれば、大きな問題に取り組む際に、「小さく勝つ」戦略は一番効果的であることが多いという。「小さく勝つ」戦略とは、具体的な策を素早く臨機応変にとりながら、最終的にはめざす目標にたどりつくといった考え方だ。

キャリア・チェンジで難しい問題は次の3つである。

  • 感情の裏づけとなる根拠を見つけること
  • 直感を深く掘り下げて認識し、情報として活用できるようにすること
  • まだ先の見えない段階にいてもさまざまな選択肢を試していくこと

キャリア・チェンジを実践する唯一の方法は、ネットワークの中心ではなく周辺へ目を向けることだ。例えば、新しい仲間を見つけて自分と比べる。導いてくれる人を探し出し確信を裏づけてもらう。新しい実践コミュニティに参加する。

自分がどんな人間で、何をしたいのか。この答えがはじめからわかっていれば、キャリア・チェンジはずっと簡単になるに違いない。充実した職業人生を送る鍵は、「自分を知ること」だとよく言われる。だが人は、常に成長し変わっていくものだから、実際にはその鍵は目的地で手にできる褒美なのだ。出発の地点ではっきり見えるわけではない。キャリア・チェンジに時間がかかるのは、可能性を見出し、試す過程を通常何度か繰り返す必要があるからだ。

<新しいキャリアを見つけるための型破りな9つの戦略>
  • 戦略1.行動してから考える。行動することで新しい考え方が生まれ、変化できる。自分を見つめても新しい可能性は見つけられない。
  • 戦略2.本当の自分を見つけようとするのはやめる。「将来の自己象」を数多く考え出し、そのなかで試して学びたいいくつかに焦点を合わせる。
  • 戦略3.「過渡期」を受け入れる。執着したり手放したりして、一貫性がなくてもいいことにする。早まった結論を出すよりは、矛盾を残しておいたほうがいい。
  • 戦略4.「小さな勝利」を積み重ねる。それによって、仕事や人生の基本的な判断基準がやがて大きく変わっていく。一気にすべてが変わるような大きな決断をしたくなるが、その誘惑に耐える。曲がりくねった道を受け入れることだ。
  • 戦略5.まずは試してみる。新しい仕事の内容や手法について、感触をつかむ方法を見つけよう。いまの仕事と並行して実行に移せば、結論を出す前に試すことができる。
  • 戦略6.人間関係を変える。仕事以外にも目を向けたほうがいい。あんなふうになりたいと思う人や、キャリア・チェンジを手助けしてくれそうな人を見つけ出す。だが、そうした人をこれまでの人間関係から探そうと考えてはいけない。
  • 戦略7.きっかけを待ってはいけない。真実が明らかになる決定的瞬間を待ち受けてはいけない。毎日の出来事のなかに、いま経験している変化の意味を見出すようにする。人に自分の「物語」を実際に何度も話してみる。時間が経つにつれ、物語は説得力を増していく。
  • 戦略8.距離をおいて考える。だがその時間が長すぎてはいけない。
  • 戦略9.チャンスの扉をつかむ。変化は急激に始まるものだ。大きな変化を受け入れやすいときもあれば、そうでないときもあるから、好機を逃さない。

以上が本書の概要である。読者の方もこの傾向の本はほとんど読んだことがないと思う。特に終身雇用の日本企業風土では必要性を感じる方も少なかったに違いない。しかし、今日は環境が変わった。失業率も高い。自分を高く売り込むためにもキャリアを積んでおかなければならない。節目をくぐっているときには、「私って誰?」と言う問いに真剣に向き合わなければならない。自分らしさの鍵を持たずに、自分らしく生きるための次の世界の扉を開けないからだ。著者のハーミニア・イバーラは、第2のキャリアという新しい可能性を見つけて方向転換するには数年かかると述べている。自分を見つめて考えているだけでは前へ進めず、さまざまなことを試して学び、新しい人間関係を築くことが必要だという。本書はキャリア・チェンジの体験談が数多く紹介されている。本書が読者の触媒的役割を果せるのではないかと考えている。


北原 秀猛

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キーワード
•  キャリア・チェンジ
•  キャリア・アイデンティティー


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