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逆境はこわくない表紙写真

逆境はこわくない〜知恵をしぼり、汗をかけば、会社は必ず変わる〜

著  者:瀬戸 雄三(アサヒビール元社長)
出 版 社:東洋経済新報社
定  価:1,500円(税別)
ISBNコード:4−492−50105−3

本書の著者である瀬戸雄三氏は1930年生まれ。慶應義塾大学卒業後、アサヒビールに入社。1992年に社長に就任、99年会長、現在は相談役を務める。

本書は第1章から第6章の構成になっている。本書の題名は第4章の「逆境はこわくない――貧すれど鈍せず」、からとっている。

業績が振るわない”真の原因“は一体何なのかをとことん追求すること。そのためには、会社の内と外の現場に目を向けて、問題点をしっかりと把握する必要がある。そこで私は、社内の各セクションの社員諸君と「なぜ業績が伸びなくなったのか」を本音で語り合ってみることにした。また、心安いお得意様にも商売の現場から見たアサヒビールの現状を厳しく指摘していただいた。その結果、私が導きだした答えは、当時のアサヒビールには組織全体に”緊張感“と” 成長のリズム感“が欠けていたということだった。

社長就任挨拶の中で、全社員に向けて「原点に返ろう」と宣言した。「『常に基本に忠実であること』『常に積極的なものの考え方を持つこと』『常に心のこもった行動を行うこと』です。組織を活性化するにはどうすればいいですか」――よくこういう質問をいただく。端的に答えるなら、「まずリーダーが演出家に撤すること」というのが私の意見である。演出家の仕事とは、よい脚本のもとに、最高の舞台をつくり、そこで俳優に思う存分演じてもらうことである。それを見た観客は、惜しみない拍手を俳優に送る。拍手を受けた俳優は、自分の演技に自信を持ち、さらに自分に磨きをかけようとするだろう。この循環こそが、人間をやる気にさせ、元気にさせるマネジメントなのである。

上司に求められるのは部下からの信頼である。部下に、この人についていけば間違いないと思わせることである。そのためには第1に何でも知っていること、つまり情報を人一倍持っていることだ。情報が多ければ先を見通すことができ、間違いのない方針を立てることができる。そこに向けてみなを引っ張り、成果を上げることができれば、確実に求心力は高まるだろう。また、部下のために一肌も二肌も脱げる”親分“でなければならない。言い換えるなら、部下のために苦労し、結果として部下に手柄をたてさせるようなリーダーである。

人間は誰でも、自分の興味・関心のある分野には目を見張ったり、耳をそばたてたりする。逆に関心がなければ見逃したり聞き逃がしたりしても意に介さない。ならば、興味や関心の幅を広げ、あらゆる方面に神経を尖らせることが重要になる。何か自分の会社や日常の仕事、マネジメントに活かせることはないか、新しいヒントはないか、という問題意識を持つということだ。そうすれば、おのずと相手の話の中にハッと気付くことが出てくるだろう。こういう緊張感を持って人と接することは、自分自身を磨くことにもつながる。結局、人というものは、こうして磨き、磨かれて成長していくものだと思う。つまり、人は人によって磨かれる

情報化を一時の熱で終らせるのではない。もっとも、情報は共有するだけでは意味がない。これを「IT革命」と称した時代は、もはや終った。これからは、得たい情報をいかに活用するかが重要になる。ここで問われるのは、その意欲と能力の問題である。多くの情報を分析する力、それによって予測される変化を洞察する力、その変化にどう対応するかを決断する力、決めたことを大胆に行動する力。これらを一つのサイクルとして、スピーディに回していくことが求められるのである。世の中は今、IT化による「知識の共有」の時代から、個々人の能力が切磋琢磨する「知恵の競争」の時代へと変わりつつあると言えるだろう。

組織は常に若くなければならない――これは、私の長年の持論である。ここで言う「若く」とは、必ずしも身体上の年齢だけを指すのではない。精神的な若さも含まれる。今の企業人は、世の中の動き、変化を貧欲に吸収し、それに的確に対応できなければ務まらない。だが年をとると、どうしても過去の経験から発想が保守的になってしまう。その点、若い人は経験に縛られることなく、好奇心も強いので、変化に柔軟に対応できるはずである。その意味では、組織全体の平均年齢は高いより低い方がいい。それには、まずリーダーが若返らなければならない。新しい発想、力強い決断、そして素早い行動が重要なのである。

組織の“緊張感”を高めて、高い目標に挑戦し、成長の“リズム感“をつくり上げる。そして、日本国内での地位を磐石なものとし、そのパスポートを手に世界のマーケットを標榜する。それがアサヒビールの国際戦略である。

日本の現状はどうだろうか。日本には豊富な知識と多様な情報がある。これらをもとに、日本人の優れた技術や勤勉性を活かすことができれば、経済再生への道は決して暗くないと信じている。ただ気がかりなのは、何かにがむしゃらに立ち向かっていく気迫や情熱、スピードといったものが欠けていることである。あまり自虚的なことは言いたくないが、今の日本は「国難」と言える状態にある。特に、ここ数年で最も憂慮するのは、国際社会における日本のプレゼンスが低下していることである。

危機感のないところに緊張感は生まれない。緊張感のないところにリズム感はうまれない。そしてリズム感がなければ、企業の成長はない。つまり、いかに現状が磐石に見えても、常に危機感を持っていなければならないのだ。また、危機感は改革への原動力である。どの企業にも言えることだが、世の中の変化が激しいときには、その変化を上回るスピードで改革を進めていかなければならない。改革の努力を一日でも怠ると、たちまち変化に遅れをとることになる。「築城十年、落城一日」とは、まさにこのことである。

著者の最後の一言は、「やればできる!もっと身体の汗と知恵の汗をかこう!」である。

以上が本書の概要である。人生で成功した先輩の言葉には味があり、重みがある。人生は神様からいただいたただ1回の招待席である。それをどう使おうと、その人の勝手であるが人間は自分一人では生きられない。そうであれば生かされている自分にとって、世のため、人のために尽くす義務があるのではないだろうか。そのためには、明確な人生目標をもち、自分の良心と信念に基づいて日々自己研鑽に励みながら、目標に向かって努力を続けることである。本書は人生に勇気と考え方のヒントを与えてくれる。


北原 秀猛

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キーワード
•  アサヒビール
•  知恵の競争


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