HOME
会社概要
セミナー
教育関連
海外情報
書籍
お問い合わせ
ワールドネット
HOMEUBブックレビュー詳細





これから知識社会で何が起こるのか表紙写真

これから知識社会で何が起こるのか 〜いま、学ぶべき「次なる常識」〜

著  者:田坂 広志
出 版 社:東洋経済新報社
定  価:1,600円(税別)
ISBNコード:4−492−50112−6

いつも鋭い視点で内面をえぐるように本質を突く田坂広志氏の著書である。しかも、実にわかりやすく、読者の心に大いなる刺激を与え、考えさせられる著書には感心させられる。最近intangibleという英語が使われているが、tangibleとは“触れて感知できる”意で、頭にinをつければ否定語であるので、インタンジブルとはサービスや知識・知恵といった触れられないものの意味であり、そういうものに価値は移っているというわけである。本書はその辺の意味を多方面からわかりやすく解説している。

本書の構成は、序章:知識社会の「次ぎなる常識」とは何か、第1章:知識社会で活躍する「人材」とは何か、第2章:知識社会で成長する「企業」とは何か、第3章:知識社会で到来する「市場」とは何か、第4章:知識社会で成功する「事業」とは何か、終章:これから知識社会で何がおこるのか、という構成になっている。

著者が最初に述べているが、知識社会では高度な「専門知識」を身につけた人材が活躍するとか、「知識管理」が経営の重要な課題となるなどが知識社会の「常識」として、しばしば語られているが、これらの常識はすぐに古くなる。その理由は「変化の激しい時代」だからと説く。そこで、常に「その先」を読むことである。「新たな常識」を身につけることだという。これから我が国では、「構造改革」が進み、「規制緩和」や「市場開放」が進む。そして、すべての分野で市場競争が激化していく。ここで言う「新たな常識」とは、英語で言えば「New Common Sense」ではなく「Next Common Sense」である。

知識社会では、単なる「専門的な知識」が価値を失っていく。その理由の第1は、「専門的な知識」がすぐに陳腐化してしまうからだ。第2の理由は、知識社会においては、「専門的な知識」を誰でも容易に手に入れることができるようになっていくからであり、それは「ネット革命」が浸透していくためである。知識社会において本当に価値をもつのは、「専門的な知識」ではなく「職業的な知恵」である。それはスキルやセンス、ノウハウやテクニック、さらにはマインドやスピリットといった「言葉で語れない知恵」だ。別の言葉で表現するならば、例えば、「分析力」「直感力」「発想力」「企画力」「交渉力」「営業力」といった「何々力」と呼ばれる能力や知恵のことである。

「知的プロフェッショナル」と呼ばれる人材が活躍するようになる。その特徴は第1に「自立」、もう1つが「個性」だ。そして「豊かな経験」よりも「深い体験」が価値をもつようになる。豊かな経験を深い体験にするためには、経験から学び得る知恵を徹底的に取ることだ。

「4つの課題」に取り組む企業が「知識管理」に成功する。「情報化」とは、「情報の扱い」が上手になることである。

  1. 情報システムの導入
  2. 業務プロセスの革新
  3. 企業文化の変革
  4. マネジメント・スタイルの転換

これらの4つの課題を成し遂げたとき、我々は初めて情報の扱いの上手な企業になることができ、「情報化」に成功するのである。そもそも「情報」というものには、次の3つのレベルがあることを理解する必要がある。
(1)「データ」のレベル:言葉で表せて、定型化できる情報
(2)「ナレッジ」のレベル:言葉で表せるが、定型化できない情報
(3)「ノウハウ」のレベル:言葉で表すことも、定型化もできない情報

企業において「知識管理」ではなく「知識の創発」を促すマネジャーが活躍する。「知識の共有」でなく「知識の共鳴」をおこすマネジャーが活躍する。

これからの時代は、売れる商品と売れない商品が劇的に分かれる市場になる。それは、商品以外の戦いで勝負がつくからである。なぜ、こうしたことが起きるのかというと、現代の市場には、「商品生態系」が生まれてくるからだ。すなわち、現代の市場においては、「顧客の特定のニーズ」を中心に、様々な商品やサービスが結びつくことによって「商品生態系」(product ecosystem)が生まれてくる。例えば、パソコンはその上に搭載する基本ソフト、アプリケーション、周辺機器、サプライ品などとともに「パソコンを楽しみたい」という顧客ニーズを中心とした「商品生態系」を形成している。また、最近では、大規模開発のマンションがショッピングセンター、スポーツクラブ、レストラン、公園などとともに「快適な生活を楽しみたい」というニーズを中心とした「商品生態系」を形成している。現代の市場では、“商品”と“商品”が戦っているのではなく、「商品生態系」と「商品生態系」が戦っているのである。「商品生態系」が全体として魅力のない生態系であった場合には、良い商品を作っても売れないというパラドックスが起る。そこで「市場競争力のある商品生態系を生み出す」という考えこそが、これからの「次なる常識」になっていくのだ。

もとより「商品生態系」そのものは、顧客ニーズに応えようとする市場競争の中で、様々な商品やサービスが結びつき、自然に生まれてくる。ここで「ニューミドルマン」について考えてみよう。ニューミドルマンは、消費者や顧客の側を向いて仕事をする。すなわち、ニューミドルマンとは「販売代理」のビジネスモデルではなく、「購買代理」のビジネスモデルで仕事をする「新しい中間業者」である。「購買代理」のビジネスモデルを提供しようとすると、そこには必ず「商品生態系」が生まれてくる。なぜなら、「購買代理」のビジネスモデルとは、「顧客のニーズに関連する商品やサービスを、すべて取り揃えて顧客に届ける」ことだからだ。それは、視点を換えれば、1つのニーズを中心とした「商品生態系」の全体を顧客に対して提供するというビジネスモデルに他ならない。そもそも、「販売代理」と「購買代理」のビジネスモデルを比べるならば、「購買代理」のビジネスモデルの方が顧客に好まれることは明らかだ。しかし、それならば、なぜ昔からこの「購買代理」のビジネスモデルが世の中に広がっていなかったのか。「コスト」がかかるからだ。しかし、インターネットの出現が、その「コスト・バリア」を打ち壊した。これからは、この「購買代理」や「購買支援」のサービスを提供する企業が伸びていく。企業は自社の「ビジネスモデル」を見直すことが必要だ。では、どうすれば顧客の購買やショッピングを手伝えるのか。

まず、次に挙げる「3つのワン・サービス」を検討してみることである。

  • ワンテーブル・サービス:顧客が欲しいと思う商品ジャンルについて、その競合商品を「ワンテーブル」で横並びに比較し、それらの価格、納期、性能、仕様、長短などについての情報提供するサービス
  • ワンストップ・サービス:顧客の特定のニーズに関連する商品とサービスの情報をすべて集め、それらを「ワンストップ」で入手でき、購入できるようにするサービス
  • ワンツーワン・サービス:顧客の商品やサービス、そしてショッピングに関する疑問に対して、個別に「ワンツーワン」で対応し、懇切丁寧なアドバイスをするというサービス

これからの時代は「高付加価値化」という言葉の意味も、社会全体が知識社会に向かう中で徐々に進化してきている。そもそも、工業社会の段階において、この「高付加価値」という言葉は「ハードウェア」を中心とした言葉だった。すなわち、商品そのものに様々な高機能を付け加えることや、商品の素材として高性能なものを用いることが高付加価値化の意味であった。しかし、これからの知識社会においては、この高付加価値化の意味は、さらに高度になっていく。それは「商品生態系」全体での高付加価値を追求することである。

「顧客の潜在ニーズ」という言葉が意味をもたなくなる。すなわち、顧客を遠くから眺めながら「潜在ニーズ」を“予測”するのではなく、顧客に直接的に働きかけて、能動的に「顧客ニーズ」を“創造”することだ。では、その「能動的な創造」の方法とは何か。それには2つの方法がある。1つは、顧客に対して能動的に「提案」をするという方法である。もう1つは、顧客を能動的に巻き込んで「協働」をするという方法である。ナレッジ・マネジメントは、顧客の声に深く耳を傾け、顧客と対話し、顧客の知恵に学ぶという意味で、「顧客の知恵」のナレッジ・マネジメントに向かっていくのだ。

新事業は「商品生態系」からの創発的に生まれてくる。では、「ビジネス生態系」とは何か。それは、一般に、次の5つの要素によって形成されていると言われる。
第1が「アントプレナー」(起業人材)
第2が「ビジネスプラン」(起業計画)
第3は「ベンチャーキャピタル」(起業資金)
第4は「コンサルテーション」(起業知識)
第5は「レンタルオフィス」(起業施設)

「ビジネス生態系」は「知識の生態系」へと深化する。「ビジネス生態系」とは、様々な知識や知恵が集まった生態系なのだ。企業は日々の事業活動を通じて、売上や収益などの経済価値を追求しているが、こららは「目に見えるリターン」である。しかし、これからの知識社会において、企業が自社の周りに豊かな「知識の生態系」を育てていきたいのならば、この「目に見えるリターン」だけに目を奪われることなく、「目に見えないリターン」を重視しなければならない。それは、次の4つのリターンである。

  1. ナレッジ・リターン(知識収穫)
  2. リレーション・リターン(関係収穫)
  3. ブランド・リターン(評判収穫)
  4. グロース・リターン(成長収穫)

市場が、まさに「ドッグイヤー」の速度で変化し続けるため、「ビジネスモデル」も同じ速度で変化し続けなければならない。そのため、そのビジネスモデルの変化に合わせて、事業の「組織」そのものも変化し続けなければならない。それも、何年かに一度の組織変更ではなく、市場の変化に合わせて、不断の組織変化が求められるわけである。

「複雑系の市場」においては、実は「大きなビジョン」を掲げた方が市場は動きやすく、新しい事業が生まれやすい。

これから知識社会で何が起こるのか<4つのトレンド>
第1のトレンド:「言葉で語れる知識」から「言葉で語れない知恵」へ
第2のトレンド:「知識の管理」から「知識の創発」へ
第3のトレンド:「知識の共有」から「知識の共鳴」へ
第4のトレンド:「知識の統合」から「知識の生態系」へ

これからの知識社会において、我々に求められるのはその「開かれた心」をもって、目の前に広がりつつある「知識の生態系」をさらに豊かに育てていくことなのだ。

以上が本書の概要である。最初にも述べたように、触れてもわからないものに価値は大きくシフトしているということである。ビジネスモデルという概念は、ITによって生まれたものと言える。それまではそのような言葉は使われていなかった。しかも、本書の中で著者が述べているように、ドックイヤーとともにそのビジネスモデルもどんどん進化させていかないと市場から脱落してしまう環境下にあることの認識も重要である。その意味から言っても、現環境を考える上でも、また企業としていま何をなすべきかを問う場合においても、大変に参考にしなければならない。また、本書で得た知識を、情報を得たということではなく、現実の事業に生かしていかなければならない。


北原 秀猛

関連情報
この記事はお役にたちましたか?Yes | No
この記事に対する問い合わせ

この記事に対する
キーワード
•  intangible
•  知識社会
•  知的プロフェッショナル
•  商品生態系
•  ニューミドルマン
•  ドッグイヤー
•  ビジネスモデル


HOMEUBブックレビュー詳細 Page Top



掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。
著作権はセジデム・ストラテジックデータ株式会社またはその情報提供機関に帰属します。
Copyright © CEGEDIM All Rights Reserved.