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デフレとラブストーリーの経済法則表紙写真

デフレとラブストーリーの経済法則 「超」整理日誌

著  者:野口 悠紀雄
出 版 社:ダイヤモンド社
定  価:1,400円(税別)
ISBNコード:4−478−94202−1

「将来も残るラブストーリーの条件は何か?」という考察をベースとして、団塊世代が退職後に入る時代の成長産業について予測した「ラブストーリーの法則」、ジョークが現実化する恐ろしさを語る「近ごろ都で流行るもの」、産業再生機構の誤りを論じた「日本産業の死刑執行人」、「デフレ不況説のまやかし」など、日本社会と経済をみる新たな視座を示す。

本書は、「週刊ダイヤモンド」に連載中の『「超」整理日記』(2002年4月〜2003年3月記載分)をまとめたものである。

ラブストーリーには共通のストーリー展開がある。最初からわかっているなんらかの客観的障害のために2人のあいだが引き裂かれことだ(「客観的」であることが重要)。それを克服できればハッピーエンドになるが、できなければ悲劇に終わる。その「障害」はいくつかの類型に分けることができる。第1は、社会的階級だ。つまり、貧富の差や身分差である。障害の第2類型は、両家のいさかいや親の反対だ。第3は、戦争や革命だ。もう1つは「年齢差」である。しかし、「年齢差」という障害は、いかに技術が進歩し、社会が平等化し、世界が平和になったとしても残る。

巨大企業が生産活動を組織内で完結させる経済構造から、小規模で専門化した企業が市場を通じて結びつく形の経済構造に変わりつつある。パソコンの場合、最初は自動車と同じように、各社が独自仕様の製品を作っていた。このため、製品間で互換性がなく、さまざまな不都合があった。パソコンの産業構造は変化したこと、その変化に日本メーカーが適切に対応できなかったことに注意しなければならない。「IT革命」とは、巨大企業内の組織内分業から市場を通じる分業への変化である、ととらえることができる。BtoBが進展すると、自動車産業も市場を通じる分業体制に移行する可能性がある。もしそうした変化が生じれば、自動車産業の姿は大きく変わるだろう。系列関係に縛られる日本の自動車メーカーは立ち遅れる可能性がある。

数学を勉強するご利益として論理的思考力が身につくということだ。確かに数学は論理的な体系である。しかし、それを勉強したからといって、論理的な思考力が身につくだろうか?これについても、私は懐疑的である。なぜなら、どのような数学を用いてモデルを表現したらよいか、また、数学的に定式化したモデルが解けるかどうかといった判断は、論理というより、むしろ直感に頼ったものだからである。もし論理的思考力を身につけたいのなら、論理学の基本的なルールを習得するほうが重要である。

数学の試験問題を解くには、「街灯の下原則」に頼るしか方法はない。「当面している問題は、過去に解いたどの問題と同じタイプか」と考え、それに当てはめて解くのである。どんな解法であれ、最初の発見者は十分な時間をかけたはずだ。それと同じことを、限られた試験時間内にやるというのは、もともと無理なのである。つまり、「学校の数学は暗記」ということだ。必要なのは、問題のパターンを覚えることだけである。「自分で考えて解かなければならない。しかし、私にはできない。だから、私には数学的な能力がない」と思い込んで数学から離れていく人がなんと多いことだろう。暗記した問題のパターンに当てはめれば解けると確信すれば試験の成績はよくなる。

20世紀の初め、多くの人々は、社会主義経済こそがその答えだと信じた。そして、それを地上に築こうとする壮大な実験が行われた。その結果がどうであったかを、ここで改めて述べる必要はあるまい。暗い夜道を手探りで探し回ったけれども、鍵は見つからなかった。市場システムが完全無欠のものだと信じている人は、ほとんどいない。しかし、多くの人は、他の経済システムよりはマシだと信じている。少なくとも社会主義経済よりマシだ。人類は、多大の犠牲を払うことによって、このことを学んだ。われわれにできることは、市場システムを根底から否定することではない。不都合なところを少しずつ手直ししていくことだ。そして、市場システムの原則から乖離しているところを、原則に近づけていくことだ。

人間は、無限に長い期間を想定して行動しているのではない。普通は一定期間内での最適化を考えている。人々が行動を決める際に想定する期間(の終点)を「タイムホライズン」という。経済問題に関しても、タイムホライズンは重要である。どの程度長い期間を想定するかで「何をなすべきか」は、かなり異なるものとなる。現在日本の政策を担当している人達のタイムホライズンは、長くても2〜3年だろう。経済政策については、せいぜい数ヵ月だ。「こんなことをしていたら10年後の日本は大変なことになる」と言っても、誰も聞く耳を持たない。あと数ヵ月を何とか乗り切ることだけが重要の課題なのだ。だから、「数年間は経済が悪化するが10後にはよくなる」といった政策は、実際には行えるはずがない。「国家百年の計」などというのは絵空事である。

経済政策のタイムホライズンが短期化した結果、本来、手をつけるべき長期的な課題は放置されている。それが一番明確に表れているのは年金や税制だ。年金制度を維持するために給付が切り下げられ、負担は増え続けている。その結果、若い世代にとっては、年金は収益率がマイナスの制度になる。しかし、これについての対策はまったく行われていない。また、日本の所得税制は世代別負担の著しく偏っており、年金や退職金にはほとんど課税されていない。高齢化がさらに進んだ場合に税収がますます減るのは明白である。

現在の日本経済ではさまざまな問題が絡み合って生じているため、それらの真の原因や対策を考えにくい。これを解きほぐすには、問題を次の3つのグループに分けて考えてみるとよい。

  1. 第1の問題は「デフレ」である。これは、一般的な物価水準が継続的に低下することだ。
  2. 第2グループの問題としては、次のものがある。まず、地価や株価などの資産価格が下落している。地価の値下がりは、1991年頃から一貫して続いている。株価については若干の上下があったが、長期的にみると90年以降下落を続けており、特に最近の値下がりが激しい。下落率は、消費者物価のそれよりはるかに高い。銀行の不良債権や財政赤字の拡大も、このグループに属する問題である。
  3. 第3の問題は、最近の急激な株価下落によって、金融機関などいくつかの企業が危機的な状態に直面していることだ。

これら3つのグループの問題は、独立のものでなく、互いに関連している。しかし、これらを一緒に考えるのでなく、とりあえず別のものととらえると、考えを整理できる。

デフレや不良債権が企業収益悪化の原因なのではないことに注意する必要がある。不良債権があるから企業収益が悪化するのではなく、逆に企業収益が悪化したから不良債権が増大し続けるのだ。

日本経済の活性化は、企業を活性化できるかどうかにかかっている。不良債権を処理できるかどうかではない。これまで行われてきた「不良債権処理」とは、不良債権を銀行のバランスシートから切り離すことであった。いくら処理しても経済の実態に影響が及ばなかったのは、これが基本的には帳簿上の操作にすぎず、その実態が「飛ばし」に他ならならなかったからである。産業再生機構構想の深刻な誤りは、企業再生を政府の手で行おうとしていることである。

なぜ誤りなのか?第1に、不振企業を高値で買い取ってしまう可能性が高い。第2の問題は、買収した企業を再建できるかどうかだ。日本の企業は、経営者はダメでも優秀な人材を抱えている場合が多いから、企業再建は原理的には不可能な課題ではない。しかし、そのためには、経営陣の入れ替えや人員整理が必要だ。また、不採算部門の切り離しなど、ビジネスモデルの再構築も必要とされるだろう。産業再生機構がこうした厳しい改革を要求できるだろうか。これまで企業再生ビジネスで日本の企業が活躍できず、外資系ファンドが活躍できたのは、企業評価と価値向上のノウハウを前者が持たず、後者が持っていたからだ。

国と地方の長期債務残高は、1秒間に約76万円増える。2003年度予算における国債発行額は、かつて小泉首相が「死守する」と言っていた30兆円をあっさりと超えて、約36兆円となった。36兆円といえば、一般会計歳出総額約82兆円の半分に近い。つまり、税収で賄える歳出は全体の半分くらいしかないわけだ。経済動向によっては、税収が半分に届かない事態もあり得るだろう。36兆円を仮に消費税率の引き上げで賄おうとすれば、18ポイント程度の引き上げが必要だ。現在5%である税率は「仮の姿」に過ぎないわけで、日本の財政の実態は23%の消費税率を必要とする状態になっている。仮に将来の年金給付を国の「債務」と考え、現在の積立金と将来の保険料を「資産」と考えるなら、両者の間には気が遠くなるようなギャップが存在する。その額が800兆円を超えることは間違いない。公的年金は破綻する可能性が強い。

成長した国はアメリカだけではない。韓国もずいぶん変わった。経済的に豊かになっただけでなく、政治体制が進化したことに目を見張る。大陸中国の大変化については、いまさら言うまでもない。では、日本社会は変わったか?何も変わっていない。もちろん、町並みは変わったし、生活水準は向上した。また、風俗やスタイルも変わった。しかし、社会の基本的な構造は何も変わっていない。人々の価値観も変わらない。日本社会は、物質的な側面を除けば、半世紀前から成長していないと言わざるを得ない。

以上が主たる概要である。野口悠紀雄氏は1963年に東大の工学部を卒業し、64年に大蔵省に入省。72年、エール大学経済学博士号を取得。一橋大学教授を経て96年東京大学教授。先端経済工学研究センター長。2002年4月より青山学院大学教授である。著書は数え切れないほどある。専攻はファイナンス理論であるが、エッセイ的な著書も多く、また93年に出版した「“超”整理法」はミリオンセラーとなっている。どの本も薀蓄の深いものばかりで、われわれに常に問題意識を喚起している。本書も示唆深い内容でいろいろと考えさせられることが多い。知識の深さと共に、視点の当て方、問題の切り口など大変に勉強となる本書である。


北原 秀猛

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