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ならば私が黒字にしよう

著  者:高塚 猛(福岡ドーム、シーホークホテル&リゾート、福岡ダイエーホークス代表取締役)
出 版 社:ダイヤモンド社
定  価:1,500円(税別)
ISBNコード:4−478−32105−1

高塚猛氏は29歳で再建不能といわれた盛岡グランドホテルの総支配人として就任、1年で黒字化。売上高3億5000万円を7年後には同規模のままで、21億9000万円までに成長させた。その間STモータースクールも2年で入校生を倍増。1999年、ダイエー中内功オーナーに見込まれ、大きな赤字を抱える福岡ドーム、シーホーク&リゾート、福岡ダイエーホークスの経営に携わる。わずか1年半で、78億円の赤字を3億円に圧縮。また、営業損益では42億円の赤字を33億円の営業黒字に転換。福岡ドームの観客動員数も巨人に次ぐパ・リーグ新記録の310万人を突破。

彼の基本理念として、「現状」のまま黒字にすること。「地域社会やそこで働く人たちを守る。その上で会社が変わっていくことが、真の黒字ではないか」のポリシーを強く持っていることである。「人を切らない、資産を売却しない、銀行への金利は払い続ける。この姿勢を貫き通して黒字にすることが、真の“会社再建”であると考えています。そして、地域社会に貢献し、会社を存続させていくことが、私の使命であると考えています」と言い切っている。

本書を読んでいただくとわかるが、自分の持つ哲学とそれを実践するリーダーシップ、目標を達成するための創造性、行動力、どれをとってもすばらしいものがある。発想と行動力の根源になっている、信念には学ぶものが多い。

本書の構成は第1章から第5章に分かれている。第1章:人をつき動かすリーダーシップとは何か、第2章:1人1人のやる気を育てることで会社は変わる、第3章:ならば私が黒字にしよう、第4章:無駄で非効率なこと、逆転の発想が会社を救う、第5章:サラリーマン経営者だからできた“決断”“改革”そして“再生”、である。

組織を変えるためには、まずリーダーが「こうありたい」という夢を持たなければいけない。夢は、「実感」と言い換えてもいいだろう。その夢や「実感」を繰り返し語っているうちに、いつの間にか理想の組織に近づいていくのだ。きちんとした目標を立て、それを仲間が共有し、同じ目的を持ってベクトルを合わせて一丸となって進む。これが最も重要なことである。今では、ダイエーホークスの選手はヒーローインタビューの時に、ファンに向かって、「みなさんのおかげで打てました」「みなさんの声援のおかげで投げることができました。ぜひまたダイエーホークスを応援してください」と言ってくれる。球場に訪れたほとんどの人は、技術的なことより感動を受け取りたいと思っているのだ。「みなさんのおかげで打てた」という一言の方が、はるかに球場が沸きあがるのである。

今は目標は世界のどこにもない。それは自ら構想し、設定すべきものになったのだ。リーダーには目標設定能力が求められるようになった。では、「目標設定」とは何か。企業経営でも球団経営でも同じだが、「本当に大切にしなければいけないものを決めること」だと思う。別の言い方をすると、「夢を見る」ということだ。設定した目標、つまり夢を具体化するために、夢に数字や事実を入れていくことが経営にとって大切なことになってきたのである。シーホークホテルの披露宴の例で言えば、年間800件を1600件にするという目標を設定した。そのために、正しいことのいくつかを捨てている。レストランには優秀な先輩が少なくなった(その分、若手が急成長した)。

あるレストランでは結婚式の控室にも使われるようになった。そのため、売上の機会も減った。一番売れる土曜日に新郎・新婦を無料で泊め、親戚・知人を割引で泊めることにしたため、宿泊売上も(その点では)犠牲になってしまったのである。その結果、たった1年で、披露宴の獲得は目標通りの結果を達成することができた。

組織の都合ではなく、本人にやる気を出させて、より一層頑張ってもらうことが人事異動の目的だ。その結果として、組織が活性化するのである。10の仕事をしている人たちに12、13の仕事を要求して、全体が改善に向かうわけではない。10の仕事ができるのに、何らかの事情で4とか5の力しか発揮できないままの人が、どうすれば7、8の仕事ができるようになるかと考えるのがマネジメントである。「あなたが力を発揮する環境を十分に整えてあげることができなくて本当に申し訳ない」、という気持ちで社員1人1人を見ていれば、社員の反応も変わってくる。

新入社員にはできるだけ、第一線の仕事をやらせればいいと思っている。なぜなら、新入社員のやる気と疑問は、会社にとって何よりの宝物だからだ。新入社員が失敗した時は、上司が代わりに怒られればいいだけのことだと思っている。「すみません。私がきちんと指導をしなかったからです」と、上司が代わりに謝って新人をかばってあげることが大切なことである。

<リーダーの条件>
  • 中間管理職を信頼すること
  • 守ってあげること
  • 教育という目的以外で叱らないこと
  • 評価してあげること
<組織を変えるための必要な5つの要素>
  1. 採用
  2. 人事異動
  3. 教育
  4. イベント
  5. 小集団活動

情報をすべてオープンにすることで、チェック機能が不要になる。私は社員にとって公人だと思っている。ですから、社員は私の行動について知る権利があると思っている。知りたい人が知りたい時に、知ることができるようにすることが情報開示である。それが、知る権利をまもるということだ。

利益「率」ではなく、利益の「絶対額」を重視する商社の考え方から学べ。ホテルも利益率ではなく利益の絶対額を重視するべきだ。ホテルの場合は、宿泊のみの場合の利益率が最も大きくなる。売上に対する直接原価は10〜15%、直接原価を除いた利益率は85〜90%。しかし、宿泊だけでは利益の絶対額は大きくならない。ホテルは装置産業です。装置産業には大きな固定費がかかるから、変動費を低くしなければ成り立たない。

プロ野球のチームは年間140試合を戦っている。84勝すれば優勝、56勝なら最下位だ。「勝ったら嬉しい、負けたら悔しい」という気持ちを地元の人たちに共有してもらおうと考えた。勝てば花火を打ち上げて、福岡ドームの屋根を全開にする。「勝ったら企画」と称して、地元の商店街ではビール1本無料などのサービスをしてもらうようにもした。私の予言通り、ダイエーホークスは1999年に優勝し、続いて翌2000年に連覇を達成しました。1999年に239万人だった観客動員数は、2000年に279万人、さらに2001年には大台を突破して309万人になりました。今やダイエーホークスが勝てば、町中がお祭り騒ぎになっている。ダイエーホークスは地元にとって、欠くことのできない球団になったと確信している。

部門別会計をやめてから、宿泊部門には「年間55万人」という宿泊人数の目標しか与えていない。金額ベースの目標はあえて設定していないのだ。

グローバルに考えるとは、どういうことか。「世界的な視野で考える」ではなく、「本来の機能を拡大すること」が私のいうグローバルである。「ホテルとはこういうものだ」「この機械はこう使うものだ」と決め付けないこと。それがグローバルに考えるということだ。ホテルは泊まることが目的の場所でもなければ、食事をすることが目的の場所でもない。これらのことは、すべて手段に過ぎない。大事なことは、人が交流する出会いの場を提供することである。このように考えるのがグローバルにシンキングするということだ。グローバルに結婚式を考えるというのは、アメリカのやり方、中国のやり方はどうかとあれこれ検討することではない。披露宴は何のためにあるのか、という原点に返って考えること。そうすれば、「2人が幸せになるため」という本当の目的に思い至るはずだ。

今、福岡のホテルに泊まる人の32.3%が、シーホークホテルを利用している。他と比べて自慢しようというのではない。実際、私は他のホテルのことは知らない。私は福岡の他のホテルを視察目的に伺ったことはない。ホテル産業の競争相手は、他のホテルではないからだ。お客様のお金のシフトの仕方によって、お金の使い方が異なる。楽しさや豊かさをどれだけ受け取っていただけるかということが大切なのである。ライバルはむしろ異業種である。GDPの60%は個人消費が占めている。個人の消費がどこに向けられかで、その産業が盛んになったり衰えたりするのだ。

1992年のバブル崩壊を境に、私の経営スタイルは変わった。拡大を望まなくなったのである。バブル崩壊以前は、効率的なことが効果的だと考えていた。80年代までは、売上を上げていくことが、経費を節減するよりもはるかに良いことだ思っていた。その方が効率的だったからだ。したがって、最大の関心は売上を上げることにあった。1992年を境に、私は岩手での経営スタイルを大きく変えた。何が何でも経常利益を確保する手法をやめて、営業利益が出て元金を償還し、会社が存続できればいいという考えに切り替えたのだ。多くの経営者は、10億円の利益が出たら次は20億円、30億円と増益を考えるかもしれないが、私は利益を目的だとは考えていない。利益はあくまでも会社を存続させるための手段に過ぎないと思っている。何よりも大切なことは「会社をいかに存続させるか」ということなのである。

福岡の事業も、ダイエーに資金繰りの面では一切迷惑をかけていない。にもかかわらず、連結した有利子負債が多いということで売却されるのは、残念としか思えないのである。

私は日頃から、1番が社員で2番が取引先、3番がお客様だと言っている。社員の理解がなければ、お客様に良いサービスなどできるはずがない。「お客様第一主義」などというスローガンは、お題目倒れになってしまう。会社はそこで働く社員のものであり、地域社会のものだ。決して経営者のものではない。

「人生は努力した人に“運”という橋を架けてくれる」ということを、私はこれまでの数々の挑戦から身をもって実感た。

以上が本書の概要である。先にも述べたが、本書は高塚社長の実践記録であるだけに、迫力がある。また、随所に出てくる高塚社長の目の付け所、視点、発想など彼の経営哲学から生まれてくることがよくわかる。最後に出てくる2軍選手の育成教育ということにスポットを当て、そこで、福岡ドームを2軍戦で満杯にすることにチャレンジし、当日4万6000人観客動員に成功させるなど、選手思いの心なくしてあり得ない。しかも、テレビの生中継まで行い、視聴率が5.1%という快挙もやってのけている。考え方や実践の方法などの経営のヒント、自分の行動に対する反省など、多くのものが学べる一冊である。


北原 秀猛

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•  リーダーシップ
•  利益の絶対額


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