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2004年日本経済表紙写真

2004年日本経済 円高デフレの恐怖が襲来する!

著  者:高橋 乗宣
出 版 社:東洋経済新報社
定  価:1,500円(税別)
ISBNコード:4−492−39417−6

本書は、プロローグ:日米為替戦争が勃発する、第1章:〔景気予測〕小泉自爆型政策の末路は経済破綻、第2章:〔デフレ経済〕デフレの本質を見抜けない愚かな政策、第3章:〔金融不安〕現実味を帯びてきた金融再々編の可能性、第4章:〔企業経営〕「市場のルール」を貫かなければ、企業の再生は遠い、第5章:〔世界経済〕日米同時デフレの深刻化で、大停滞の時代へ、エピローグ:アジア経済統合で日本の技術を生かせ、以上の構成になっている。

世界経済の中でこのところの最大の問題は、中国の人民元をどうするかということであろう。人民元はアメリカのドルに対して固定的にリンクしている。これに対して暗に人民元の切れ上げを求める声がかなり強くなっているが、そう簡単にはいかないだろう。その理由は、中国経済にはまだまだ問題が山積しているからだ。よく言われるように、中国の沿海部と内陸部では大きな経済格差がある。これだけの不均衡を抱えている国の通貨を切り上げるというのは、決して合理的なことではない。

現在、中国には2つの面がある。1つの中国は非常に強い発展力を持っていて、完全雇用で所得水準を上げている。もう1つの中国は非常に遅れた原始的な経済のままである。その2つの中国が同居しているのだが、全体から見ればまだまだ不完全雇用の国なのである。私は、人民元は急激には動かず、時間をかけてそれなりのレベルになるのではないかと考えている。いずれにせよ、人民元問題はすぐに片付かないだろう。

次に問題となるのは間違いなく円なのである。ヨーロッパから見ると、アメリカのドルとリンケージが強すぎる東アジア通貨には不満がある。その東アジア通貨の中には、当然円も含まれている。人民元に対して一通り言うべきことを言ったなら、次は日本円に矛先を向けてもおかしくはない。日本人はあまり気づいていないようだが、世界経済における人民元に対する問題は、常に円に対する問題と結びついているのだ。人民元と円が違うのは、人民元がまだハンディキャップを認められた通貨であるところだ。わずかな変動幅でも設けるなら、それでよしとされるに違いない。しかし、ドルやユーロに次ぐ通貨である円の場合、そうはいかない。アメリカには2004年に大統領選挙がある。イラクでの現状を考えるなら、ブッシュ大統領もこれまでのように軍事力に依存したスタンスでは乗り切らないだろう。そうなると、経済政策も大統領選の重要な要素となり、そこでターゲットになるのが日本の円ということになる。

アメリカはとてつもない経常収支の赤字を出している。経常収支の赤字という実態からすれば、ドルは安くなって当然ということになる。アメリカとしてはあまり表立って言えないが、輸入をある程度抑えて輸出を伸ばしたい。その条件作りにドル安を期待しているのだ。日本が長い不況の中、何とか持ちこたえてきたのは輸出のおかげである。中でも、対米輸出の貢献が大である。また、日本はアメリカ国債を多く抱えている。アメリカの国債はドル建てなので、ドルが安くなっていくと実質的な回収額は落ちてくる。焦げつく国債も出てくるだろうから、悪くすれば雀の涙ほどの回収しかできないということも考えられる。さらに恐ろしいことに、日本のデフレはより深刻なものになるだろう。円高は、日本経済にとってデフレ圧力になるのだ。

日本経済成長の推移を見ると、1998年、99年が名目でマイナス成長、2000年がややプラスになったものの、2001年、2002年が名目でマイナス成長だった。2003年はわずかながらプラス成長が予想されるものの、相変わらずデフレ傾向からは脱していない。ところが企業収益は2003年3月期の決算で大幅な増収増益を計上し、2003年の中間期もよかった。企業収益がよくなったのはリストラを進めたことと、輸出が伸びたからであり、相変わらず海外市場頼み、特にアメリカ頼みの状況は変わっていない。設備投資に大きな動きが出てこないのは、産業の新しい分野がまだ形成されていないからである。国内の法人税が高い上に、為替は円高、人件費も割高となったとき、果たして企業が日本国内での投資を増やすだろうか。答えが「ノー」であるのは、誰でもわかる話だ。

日銀の「資金循環統計」によると、2003年6月までの1年間で、日本の家計部門はついに資金不足になってしまった。貯蓄をするどころか、貯蓄を取り崩して生活する状態になってしまったのだ。そんなわけだから、消費が盛り上がって、消費主導の景気回復は考えられない。

デフレ下の日本経済には名目経済成長率こそが重要な指標となる。実質経済成長率と名目経済成長率の違いとは何か。戦前には実質経済成長率、名目経済成長率という概念はなかった。戦前の統計は、すべて名目経済成長率である。それに実質経済成長率の統計が加わったのは第2次世界大戦以降の話である。インフレ率を引いた経済成長率を算出したのが実質経済成長率である。ところが、いまはデフレのつづく時代である。

2004年度の概算要求を見ると、国の一般会計の総額は85兆3,000億円になっている。2003年度の当初予算に比べて4%の伸びであり、国債費が9.5%、地方交付税交付金等が5.8%と大きく伸びている。一方、政策経費である一般歳出はどうかというと、1%強の伸びと控えめになっている。小泉首相は、一般会計と一般歳出を2003年以下にする方針を打ち出している。今後の査定作業で概算要求は削減されていくことになり、削減の主な対象は公共事業関係費となるだろう。景気対策という観点からなら公共事業が重視されるべきなのに、3年連続で前年の当初予算を下回ることは確実である。この緊縮予算ではデフレが続き、名目経済規模は縮み続けるから、税収も減り続けることになる。小泉首相が緊縮財政を続けている限り、いつまで経っても景気はよくならず、日本経済は沈み続けることになる。

日本のデフレは、1つには世界から安いものが入ってくることが原因になっている。しかし、それだけが原因ではない。アジアの安い製品の流入だけが原因と言うなら、アメリカや欧州諸国もデフレになるはずだ。世界に先んじて真っ先に日本がデフレになったのは、日本のバブル崩壊後の問題がある。バブル崩壊によって、日本は巨大なバランスシート・ギャップを抱えてしまったのだ。そのバランスシート・ギャップが最も深刻なのは、銀行の勘定である。銀行の資産が一気に悪化し、そこから信用デフレが始まった。銀行の信用が収縮すると、実物経済にも自ら縮みのベクトルがかかってくる。その縮みのベクトルを押し戻すためにこれまで何度も行われたのが、公共事業を中心とする総合経済対策である。銀行の信用デフレだけの問題でとどまっている段階なら、まだ何とかなった。信用デフレの大本となっている部分を手術して治せば流れを変えられただろうが、信用デフレから経済全体がデフレ化すると、症状はかなりひどくなる。典型的な症状が物価の下落である。これが真性デフレであり、今の日本は真性デフレの中にあるのだ。

デフレによって日本経済は収縮の方向に向かっている。日本の名目経済成長率は1998年、99年とマイナスである。2000年はプラスとなったが、翌2001年、2002年はマイナスである。98年からの5年間で、4年も名目成長率がマイナスとなっているのだ。

日本の銀行は、これまでBIS規制による自己資本比率8%をクリアしようと苦しんできた。今のところ、その数字はクリアしているのだが、これが実は上げ底なのである。それは、税効果会計による繰延税金資産という高い下駄を履かせてもらっているのだ。いずれ還付される税金を見込み、会計上には税金の支払いがないものとして処理することをいう。今、大手金融機関の中核自己資本の中で、税効果資本がどれくらい占めているか。みずほ銀行53.4%、三井住友銀行56.9%、UFJ銀行56.3%、りそな銀行88.8%、三井トラスト・ホールディングス99.9%、東京三菱銀行37.3%、住友信託銀行39.0%である。

日本経済の見通しについては、ガイドラインがほとんど示されていないのが現状である。小渕内閣のときに発表された2010年頃までの日本の姿という経済見通しが唯一のものと言っていいだろう。その発表によれば、2003年から2010年までの実質経済成長率がプラス2%になっている。物価がGDPデフレーターで毎年1.6%上がるとされているから名目成長率は3.6%ということになる。これはあまりに甘すぎるということである。

政府は、日本経済がこれほど疲弊しても「実質経済成長率は予想以上だった」とか、「日本経済は底堅い」などと脳天気名ことを言っている。しかし、その間にも日本は産業立国として培ってきた伝統や実力の基盤を失おうとしている。これからの時代に求められるのは、キメ細かいサービスである。そこにビジネスチャンスがあるのだ。新しいことに挑戦するかどうかが大きな分かれ道になっていくだろう。

アメリカは2004年度の予算にイラク戦争での戦費を追加したために、財政赤字は5,200ドルを超えることになりそうである。また、アメリカの2003年の経常収支赤字は、5,300億ドルから5,400億ドルという数字になると思われる。この数字は、すでに臨界点を超えている。アメリカは借金大国で、お金を借りているからには相手が外国であっても利子を支払っていかなければならない。逆にアメリカの外に出ている資本が生み出す金利や配当などの合計との差額はマイナス628億ドルにもなっている。財政赤字が5,000億ドル以上もの数字になってくると、それだけ新規国債を発行しなければならない。現在の日本では株価が上がると国債相場が下がり、長期金利が上がってくる。アメリカも同様に、株価が上がってくると投資家たちは債券を売り、株を買いに走る。こうして手持ちの債券が売られ、債券相場が下がり、長期金利が上がることになる。ここに日米の同じ悩みがある。大量の国債をどう処理するかということと、景気回復の折り合いをどう合わせるかである。一方ドイツ経済も厳しい状況に追い込まれている。今、フランスもドイツも財政赤字が3%を超えようとしている。

日米欧同時デフレの傾向で、大停滞の時代に向かいつつある。どこの国を見ても大変な状況にある。2004年の日本経済も不透明であり、円高と相まってデフレは続く状況にある。特に日本は社会保障の問題など、問題山積であり、なかなか春は来そうにもない。

以上が本書の概要である。日本政府は「景気は持ち直している」と発表しているが、日銀は厳しい見方を持っている。日銀が発表する2004年の『展望リポート』では、消費者物価はマイナス、実質のGDPが2.5%程度の成長があってもデフレ脱却には足りないと指摘している。民間の調査機関の平均でも名目GDPはマイナス0.1%である。円高が続けば、ますますデフレ傾向になる。日銀の2003年上期の財務諸表によると、債権相場の下落や円高で手持ちの国債や外貨建て資産の評価損が拡大し、最終損益(剰余金)は1,126億円の赤字となった。この最終赤字は円が急上昇した1971年下期以来31年ぶり2度目である。通期で赤字となれば、国庫納付金はゼロになる。大企業の業績は2期連続増収増益であるが、リストラによる経費削減によってもたらされているもので、ビジネスモデルの変革がない限り長くは続かないだろう。まだまだ日本の経済は問題山積である。このデフレのなかでは、名目成長率に注目しなければならない。2004年度もGDPの名目成長率はマイナスになることは間違いのないところである。エコノミスト達は、自分が持っている経済指標を基にいろいろと考えるが、その人の考え方で大きく違ってくる。最終判断は自分でするしかないのである。


北原 秀猛

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