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一勝九敗

著  者:柳井 正(株式会社ファーストリテイリング 代表取締役会長兼CEO)
出 版 社:新潮社
定  価:980円
ISBNコード:4−10−464201−0

「低価格のカジュアルウエアが週刊誌のように気軽に、セルフサービスで買える店」というのが店舗全体のコンセプト。キャッチフレーズは「衣・飾・自由」である。

1984年(昭和59年)6月2日土曜日、朝6時。広島市中区袋町で「ユニーク・クロージング・ウエアハウス」という名称のカジュアルウエア小売店をオープンした。オープン前までの異常なほどの心配、「一人もきてくれなかったらどうしよう…」も杞憂に終わった。初日に店内の混雑ぶりを地元のラジオ局が報道してくれ、僕はそのインタビューに対し、「申し訳ないが、今から並んでいただいても入れないかもしれないので、来ないで欲しい」と、前代未聞の受け答えをすることになった。これが、現在の「ユニクロ」の原点である。

本書は1:家業からの脱皮、2:挑戦と試行錯誤、3:急成長からの転換、4:働く人のための組織、5:失敗から育てる次の芽、以上の5節の構成になっている。

会社とは本来、常に実態がなく、非常に流動的で、永続しない可能性の強いものなのだ。そもそも、最初にビジネスチャンスがあって、そこにヒトやモノ、カネという要素が集まってきた、会社組織という見えない形式を利用して経済活動が行われる。しかし、経営環境は常に変動する。当然のことながら、金儲けやビジネスチャンスがなくなることがある。そうすれば、会社はそこで消滅するか、別の形態や方策を求めて変身していかざるを得ない。会社とはもともと期限のあるものと考えるべきで、新しい事業の芽を出し続けない限り、賞味期限が切れたらそこでお終いなのだ。その本質はつねに変わらない。会社というものは、「組織や資産規模が売上規模に応じて変動するような仕組み」が効率的だし、そのような柔軟性を持たないといけない。

父は、1949年(昭和24年)山口県宇部市で「メンズショップ小郡商事」という紳士服小売を始めた。主にスーツを売る店で、上等なスーツを着こなしたい銀行や証券会社の人達がよく買いに来てくれていた。父が個人で洋服屋を始めた1949年に、僕が生まれた。1984年に父が脳溢血で倒れた。その年の6月にユニクロ1号店を出した。9月には父が社長から会長に退き、専務の僕が社長になった。

販売価格を小売店がコントロールするには、別注を増やすしかない。店舗数を増やし、バイイングパワーをつけるのと同時に、自主企画商品をメーカーへ製造委託する方式=「別注」をとるしかないのだ。海外メーカーに委託するには発注量がまとまらないと受けてくれない。おまけに、メーカーへの返品は不可なので100%完全買い取りになる。1986年に小売店の視察をしに香港へ行き、「ジョルダーノ」のポロシャツが目にとまった。ジョルダーノ創業者のジミー・ライ氏に会いに行った。彼からは「商売には国境がないこと、製造と販売の境がないこと」を学んだ。

1991年9月1日、狭いペンシルビル4階の僕の机の回りに、その日に居合わせた本部社員を集めて宣言をした。「社名を小郡商事から“ファーストリテイリング”に変更します。そして、今から本格的にユニクロを全国にチェーン展開します。毎年30店舗ずつ出店し、3年後には100店舗を超えるので、そこで株式公開を目指します」。社員、役員とも、その場にいた全員が驚いたと思う。1993年8月末に、直営店83店、FC店7店で売上高250億円、経常利益21億円となっていた。94年7月14日に広証に上場、株価7200円の高値であった。広証に上場した直後から、今度は東証だ、という目標を掲げ、2年9ヵ月後の97年4月には東証2部に上場する。それから1年10ヵ月後の1999年2月には東証1部に指定された。

99年4月には上海、9月には広州に生産管理事務所を作り、担当者を常駐させた。日本の品質基準で生産してもらおうと思ったら、日本と同じような生産方式でやらないといけない。生産技術の向上が必須だ。2001年、中国での展開のために現地の会社と「合作」で作ったファーストリテイリングの中国子会社の代表者は、林君という。翌年11月に当社の取締役にも就任した。

一番いい会社というのは、「社長の言っていることがそのとおり行われない会社」ではないかと僕は思う。社長の言っていることを「すべて」真に受けて実行していたら、会社は間違いなくつぶれる。表面的に社長の言うことを聞くのではなく、まずは、社長が言いたいことの本質を理解すべきなのだ。現場では自分なりにその本質を見極め、具体化するかを考える。そして、実行する。これができる会社が本当に立派な会社である。

日本の広告代理店の力はよくわかっているつもりだ。しかし丸ごと任せてもわれわれが思っているようなCFはできない。広告は広告主がやるもので、クリエイターや広告代理店がやるものではない。広告主が自分たちで企画して作り、1つの機能としてクリエイターや広告宣伝会社を使う、という方式でないとうまくいかない。今まで付き合ってきた日本の広告代理店は、こういうキャンペーンをやるから、ここでこう金を使って、テレビはこの時間帯で、こういうタレントを使うという、話が手段のことばかり。何を伝えたいか、それをどういう方法で伝えるかという、根っこの部分の話はほとんどないことにある時気づいた。広告主のことを本当に理解しているクリエイターが、本物の才能を発揮し、適切な媒体を使ってCFを流すことが成功の秘訣だと思う。

当社には経営理念が23条ある。これを作った理由は3つ。勤める個人個人は全部違う人間である。会社が大きくなって人数が増えると、全体的にまとめるとバラバラで効率が悪い部分が出てくる。それをできるだけ少なくしたい、というのが第1の理由。2番目の理由は、会社としての考え方をはっきりさせるということ。第3の理由として、会社を経営する上で一番重要なのは「どういう会社にしたいのか」と、「どういう人達と一緒に仕事をしたいのか」を明確に示すことだと思う。明確な理念が必要である。

「いい会社にするためには何が必要か」ということを真剣に考え、一つずつ書き出していった。第1条から概ね重要な順番に、最初は7つぐらいで、毎年次々と追加していって、現在23条あるという具合だ。

  • 第1条 顧客の要望に応え、顧客を創造する経営
  • 第2条 良いアイデアを実行し、世の中を動かし、社会を変革し、社会に貢献する経営
  • 第3条 いかなる企業の傘の中にも入らない自主独立の経営
  • 第4条 現実を直視し、時代に適応し、自ら能動的に変化する経営
  • 第5条 社員ひとりひとりが自活し、自省し、柔軟な組織の中で個人一人ひとりの尊重とチームワークを最重視する経営
  • 第6条 世界中の才能を活用し、自社独自のIDを確立し、若者支持率ナンバー1の商品、業態を開発する、真に国際化できる経営
  • 第7条 唯一、顧客との直接接点が商品と売場であることを徹底認識した商品・売場中心の経営
  • 第8条 全社最適、全社員一致協力、全部門連動体制の経営
  • 第9条 スピード、やる気、革新、実行力の経営
  • 第10条 公明正大、信賞必罰、完全実力主義の経営
  • 第11条 管理能力のアップをし、無駄を徹底排除し、採算を常に考えた高効率・高配分の経営
  • 第12条 成功・失敗の情報を具体的に徹底分析し、記憶し、次の実行の参考にする経営
  • 第13条 積極的にチャレンジし、困難を、競争を回避しない経営
  • 第14条 プロ意識に徹して、実績で勝負して勝つ経営
  • 第15条 一貫性のある長期ビジョンを全員で共有し、正しいこと、小さいこと、基本を確実に行い、正しい方向で忍耐強く最後まで努力する経営
  • 第16条 商品そのものよりも企業姿勢を買ってもらう、感受性の鋭い、物事の表面よりも本質を追及する経営
  • 第17条 いつもプラス発想し、先行投資し、未来に希望を持ち、活性化する経営
  • 第18条 明確な目標、目的、コンセプトを全社、チーム、個人が持つ経営
  • 第19条 自社の事業、自分の仕事について最高レベルの倫理を追求する経営
  • 第20条 自分が自分に対して最大の批判者になり、自分の行動と姿勢を改革する自己革新力のある経営
  • 第21条 人種、国籍、年齢、男女等あらゆる差別をなくす経営
  • 第22条 相乗効果のある新規事業を開発し、その分野でナンバー1になる経営
  • 第23条 仕事をするために組織があり、顧客の要望に応えるために社員、取引先が有ることを徹底認識した壁のないプロジェクト主義の経営

世間一般には、僕は成功者と見られているようだが、自分では違うと思っている。実は「一勝九敗」の人生なのだ。勝率で言うと1割しかない。プロ野球のピッチャーではすぐに首になるか2軍落ちは確実だ。もし、これでも成功と呼べるのなら、失敗を恐れず挑戦してきたから今の自分があるのだろう。野球でも盗塁の成功率が高いチームは、盗塁を狙って走る回数が非常に多い。刺されることを考えていては走れない。走れば走るほど盗塁成功率が上がってくる。経営も同じことが言えよう。今後とも、「店は客のためにあり、店員とともに栄える」という、当たり前で僕の一番好きな言葉を実践するために、経営チームおよび社員全員で一緒になって挑戦し続けたいと考えている。

2003年9月10日、店長コンベンションの会場で僕は、「2010年売上高1兆円」宣言した。こらから7年あまりで売上高を3倍強に増やす相当高い目標だ。僕自身は60から65歳の間で経営の第一線から引退したいと思っている。最長であと10年ほどだ。そのあとは投資家として一生を送るつもりでいる。

以上が本書の概要である。本書を読んでみて、今までいろいろな評論家がユニクロを取り上げて書いているが、そのときに感じたイメージとはまったく違うものを自分の心に感じた。柳井社長はやはり偉材であるし、本質的に物事を考える論理思考をお持ちになっていることを強く感じた。あとがきに、「僕は、わがままで欠点の多い人間だとは思うが、“自分自身を客観的に分析・評価できる”という長所を持っている」とある。これはなかなかできることではない。孫子の兵法にもあるが、「敵を知り己を知れば、100戦して危なからず」の通り、自分を客観的に眺めるのは難しい。柳井社長の性格的長所が活かされた経営が企業をこれまで大きくし、イギリスにおいても縮小してから成功に向かっているし、中国においても立派な業績を収めるであろう。


北原 秀猛

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