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すでに始まっている未来 会社は、サラリーマンは変われるか

著  者:江坂 彰
出 版 社:NTT出版
定  価:1,600円
ISBNコード:4−7571−2123−7

あなたはいま、大転換時代に生きていることを、どれだけ意識しているだろうか。

結論から始めよう。日本経済の復活はある。それはたぶん、あなたの想像とは違う形ですでに始まっている。慌てなくてもいい。復活先乗り組、すなわち現在の勝ち組と肩を並べ、あるいは追い越すことは不可能ではない。勝ち組とはまた別の発想で、新しいサクセスを築くことも十分可能だ。時代の狭間の混乱期においては、誰もが「出口なき閉塞感」にとらわれがちになる。そこで何が起きているのか、大局がなかなか読めないからだ。

どういう変化かと言うと、一言でいえば産業資本主義社会(工業化社会)が終わって、情報化社会が始まったということ。モノよりも、モノの中に入れるソフト(知識情報)の価値の方が高くなった時代、ということだ。ソフト化社会が現実に始まったということは、もう決して元の工業化社会には戻らないということなのだ。

本書は、第1章:「新しい社会への大転換」、第2章:「発想の転換で新しい世の中をみる」、第3章:「会社はこれから、こうなる」、第4章:「サラリーマンはこうなる」、の構成になっている。著者は“おわりに”のページに、「日本企業の革新力は相当なものである。若い変化の芽があちこちで育っている。江戸以来の蓄積のある文化というソフトパワーは、アメリカ以上である。極限するようだが、コカ・コーラとマクドナルドに代表される奥行きのないアメリカン・ライフスタイルはもう飽きられた。無能なトップを排除するシステムを持ったとき、日本の企業は強くなる。もう一度出番がやってくる。そういう希望と挑戦の経営を語りたかった」、と述べている。われわれに勇気と希望を与えてくれる本書である。

アメリカで変化が目に見えて現れてきたのは1970年代、日本の場合の転換点は10年ほど遅れ、1980年代である。象徴的なのが83年に発売開始した、任天堂のファミコンだというのが私の独断である。努力、根性が売りの「少年ジャンプ」に代わるファミコン世代が登場した。

ハード社会の終焉をはっきりと教えてくれたのがビデオ戦争である。これはVHS連合のソフトの勝利だった。ソフトの勝利と言うには、2つの意味がある。1つは、ソニー包囲網という企業連合によるマーケットシェアでソニー陣営を上回るということ。もう1つはそれによって、VHS用のソフトをつくる映画会社などのソフトメーカーが増え、それがさらにVHS方式のデッキというハードを購入する人を増やしていったことである。

日本が大きく失敗した原因は、金融はモノではないという事実に気づくのが遅れた点にある。金融の基本である信用は、すなわち情報だ。株もまたその典型である。人はその企業を信頼して株を買う。成長を期待して買う。投機で売買する。まさに情報そのものが走り回っている。そうした事実を、日本は読み違えた。預金はどれくらい持っているか、日本の資産はどれくらいあるかで勝負に出てしまった。そしてマネーゲームで欧米に負けた。

ともあれ80年代、一度は日本にやられてガタガタになったアメリカが立ち直ったのは、アメリカが日本の一番弱いところを突いた結果だ。ITと金融。これを人間の体でいえば、金融は血液、情報は神経ということになる。アメリカは金融と情報、血液と神経さえ押えれば、相手はよろよろと倒れるという考え方に立って行動している。

いまは脱工業化社会であり、自動車、家電までは工業化社会の延長だけれど、流通も大きな部分を占める、サービス業もどんどん増える、金融も自由化される。昔は、規制、保護、談合が主流だったから、いろいろな古い慣習が崩せなかった。昔のホテルの御三家は、帝国ホテル、ホテルオークラ、ニューオータニだけれども、現在の新御三家はすっかり様変わりし、パークハイアット東京、フォーシーズンズ、ウェスティンホテル東京だと言われる。情報化、ソフト化に伴う多様化がリズムの流れを変えた。お台場、汐留、六本木ヒルズ。時代はまさに変わって来ている。

土日はハレの日、人々は消費を楽しむ。生産の時間でなく、消費の時間が大事になった。いつの間にか、町の目的が逆転してしまった。生産の時間、平日の時間に焦点を当ててつくられた町は、さびれる一方だ。それが今日の企業城下町の抱えている最たる悩みである。土日がガラガラの地方都市がいかに多いことか。工業化社会において大学はいったん郊外に出たけれど、考えてみると学生というのは勉強するためだけに大学に行っているのではない。勉強もする。遊びもする。友達もつくる。ビジネスもやる。デートもする。それには都心の方が圧倒的に有利だ。

経済成熟社会では、すべての産業がレジャー化する。人々が欲しがるものは、健康や、心の癒しを含めて、大きな意味ですべて遊びになってくる。文化は、すなわち遊び。これを最初に言ったのが、天才・梅棹忠夫である。“情報化社会というものは、情報の値段が一番高い社会”と梅棹忠夫が40年前に言っていた。

これから日経新聞が難しくなる。なぜかというと、定年退職者は誰も日経を読んでいない。日経はターゲットを絞った「効率がいい」新聞なのだが、現役を引退すると株をやっている人以外は必要としない。嫁さんはもともと読まない。これから高齢の人はどんどん増えていく。60歳から上の人は、新聞をエンターテイメントとして読んでいる。

私はマクドナルドが日本で売れなくなったのは、デフレで失敗したためではないと思っている。実は飽きられたからだ。値上げして失敗した、値下げして失敗したと言うけれど、そうではなくて、日本の食文化が本来非常に豊かだからではないか。モノが売れなくなった本当の理由は、日本が豊かになったからである。日本にばかりいると豊かだという感じはあまりしないが、海外に出るとよくわかる。豊かになって最も変わったのは、誰もが見栄を張らなくてもよくなったということ。これが実に大きい。「豊かさ」が焼酎の復権を可能にした。豊かになったときは、豊かになったときの新しいブランド戦略をスタートさせなければならない。ソフト化社会ではお金の支配力も弱くなる。重厚長大型の工業化社会においては、生産性が勝負を決めた。会社は最新鋭の機械を買う、自前で円熟した技術者を育てる、ブルーカラーもたくさん雇うなど、とにかく莫大なお金がかかった。これに対してポスト工業化社会、ソフト化社会というのは、知恵が勝負を決める。

昔、中高年や老人が街の中をリュックサックで歩くのは格好悪かった。今は逆に年寄りのリュックサック組が増えた。若い連中も持っている。楽でいい。ただし、デザインの悪いリュックサックは売れない。

工業化社会というものは、モノの差異化の時代だった。均質に出来上がるモノの差異化を図るということが、皆が親しんできたシェア競争につながった。いずれにせよ、工業化社会はもともとが長期戦だった。これに対して情報化社会は競争時間が短い。モノにもよるが、成功も短命化する。「企業寿命30年説」というのがある。これは「日経ビジネス」が提唱しているものだが、そこで背景に挙げられているのは、第一に産業構造の変化である。長引く不況の中で、手堅い経営を誇る老舗の倒産が目立っているが、これは明らかに時代の変化を物語っている。

<会社が短命化する3つの要因>
  1. 産業構造の変化
  2. IT革命と経済のグローバル化
  3. 情報化社会は変化が速い
  4.  

製品と商品は違う。工業化社会の幸運は、製品がそのまま商品になった。今の時代、製品と商品は違う。商品化していくにはソフトの力がいる。その結果商品は売れるものに限られる。工業化社会は労働時間で成果を計れた時代だった。モノ不足の時代だから、営業マンも人を増やせば増やすだけモノが売れた。ところがいま、企業は情報力で儲ける時代になった。セコムの飯田亮さんは、会社の同期会を認めなかった。同期会の結束こそ、能力主義導入の大きな壁だから。生え抜き社員偏重の時代は終わった。

技術はどんどん変わっていく。グローバル化が進む。経済は成熟する。そんな中で常に新しい売れるものを考えねばならないから、経営は仮説になる。今の時代の経営者は、「こうしたら儲かり、こっちの方向へ進んでいけばいいことがあります」と自分の仮説で全体を率いなくてはならない。常に仮説を立て続け、その一方で仮説を実地検証していくのが経営者の仕事である。そして、経営者に必要なものは、経営センスと勘である。これは勉強しても絶対に身につかない。そもそも知識産業社会、ソフト化社会においては、知識が増えることが重要なのではない。知識を修めるだけなら、コンピュータにとてもかなわない。そうではなく、ソフト化社会は知恵の時代、知識をどう生かすかが重要なのだ。

時代は大きく揺れ動いている。2つの大潮流がある。一つは産業界の興亡の激しさ。石炭、セメント、繊維に始まり、鉄、造船、石油コンビナート、家電、自動車、エレクトロニクス産業、流通と、「今日の花形、明日斜陽」はこれからも続く。サラリーマンにとって重要なのは、1つは発揮する能力、これはスキルと言い換えることができる。2つ目が非常に重要で、人に求められる能力。発揮する場を持っていること、要するに発揮してこそ能力である。認めてくれる人がいなくてはいけない。3つ目は人間関係の中で仕事をする、チーム力である。もう1つはネットワーク構築力である。人間関係で仕事ができる能力である。

他社と同じパターンの競争をすることが工業化社会の前提だった。その要素がこれからの時代は減ってくる。サラリーマンも会社のために働くという前提がなくなってくる。自分の仕事のキャリアアップのために働く人。やり甲斐という満足のために働く人。自尊心のために働く人。社会的使命のために働く人。金銭を目的に働く人。様々に分かれ、それぞれが変わっていく。変わっていくことによって強くなるのだ。その際に重要なのは、人と同じ尺度をとらないことである。

デフレの時代はあと10年は続くだろう。経済のグローバル化による、世界的な価格標準化の動きだから、これは避けられない。アメリカで好景気が10年続いた後もインフレが起こらなかったことが、デフレが世界経済のトレンドであることの証と言える。

これからはハートで考える時代である。ただ頭で考えるのはいけない。いまやヘッドワーク、ハートワーク、フットワークの3要素をトータルに持つのが優秀な人材である。ヘッドは便利だとか、効率がいいとか、頭で考えることだ。ハートは面白いとか、好きだとか、いまどうしたいか、感じ取ること。フットワークは現場を自分の足で歩くことだ。情報と知識を現場で縒り合せ、現実的な肉づけを行うことである。

以上が本書の概要である。本書の著者である江坂彰氏は「あるレベルを維持しながら誰にでもわかる経営書を書いてみたいと思っていた」と述べている。そして、もう一つの狙いは、アメリカにしか経営の総本山がないというのは、米国帰りのエコノミストやMBA出身者の見果てぬ夢であり、それらは自身でつくりあげた幻想である。そのつくられた幻想に過剰におびえて悲観的になってしまったのが、日本の企業社会の現状である。その幻想を多少とも砕きたい、そういう思いでこの本を書いたとも言う。今日は工業化社会から情報化社会に入り、過去の価値観、物差しとはまったく違う社会に突入している。当然従来と同じことをやっていれば売上も上がらないし、利益も出ない。今日の倒産企業の3割強は社歴が30年以上をもつ老舗企業である。環境に対応できなければ上場企業と言えども、社会から追い出されてしまう。その辺をわかりやすく解説してくれている本書である。


北原 秀猛

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•  大転換時代
•  産業のレジャー化


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