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プロフェッショナリズムの覚醒表紙写真

プロフェッショナリズムの覚醒 トランスフォーメーション・リーダーシップ

著  者:倉重 英樹
出 版 社:ダイヤモンド社
定  価:1,600円
ISBNコード:4−478−36059−6

著者の倉重英樹氏は、IBMビジネスコンサルティングサービス株式会社の代表取締役会長である。著者はIBMに1966年に入社、日本IBMの取締役副社長を経て、のち、乞われてプライスウォーターハウスコンサルタントの会長に就任。2002年10月、IBMとの統合により社名を変更し、現在に至る。

会社人間は、自分が所属する組織の価値観や規則に知らず知らずのうちに染まっており、ついつい社内に居心地のよい場所を探してしまう。だから変化を嫌い、抗う。そもそも人間は学習する動物であり、変化に適応する能力を備えているのもかかわらず、である。

プロフェッショナルを志向するとは、自分を商品化する試みであり、自分の商品価値を高めるために学習することに他ならない。このようなとき、人は誰に命じられることなく、進んで変革や挑戦に努力するものだ。

プロの経営者とは、いかなる業種・業態の企業、いかなる規模の組織であろうとも、そのもてる資源を有効に配分・活用して、各要素の総和以上の能力を発揮させることのできる経営者である。常に全体的な視点で事業の活動と成果を考慮し、当面の目標と将来の目標のバランスをとりながら組織を動かすことのできる経営者である。

私が考える理想の組織とは、個々の社員が自立したプロフェッショナルとして働き、顧客が感動を覚えるような最高のパフォーマンスを出し、それが正しく処遇に反映される組織、社員の自己実現が会社の成長につながる組織だ。身近な例で言えば、プロ野球のチームがそれに近い。プロ野球のチームに特徴的なこととして、次の5つが挙げられると思う。

  1. 個々の選手が自分の能力を発揮する領域が明確になっている。
  2. 強みを発揮できない選手は活躍の場を得られないし、収入も増えない。
  3. 試合は厳しいルールの下で行われ、戦い方は監督の考えで決められるが、そのなかでのプレーは選手の自由裁量に任される。
  4. 全員が業績で評価され、その評価項目と評価基準がオープンになっている。
  5. 優秀な選手ほどチームに対して貢献しようとする意識が強い。

選手は自分の能力を発揮する場として最適のチームを求め、チームは試合に勝って業績を上げるために優秀な選手を必要とする。そうした相互補完関係が、野球に限らずプロフェッショナルの世界にはある。

PWC(プライスウォターハウスコンサルタント)の1992年度の売上は17億円で5億円の赤字、93年度は15億円の売上で7億円の赤字だった。私が入社した94年度の売上は11億円しかなく、目標とされていた19億円には遠く及ばなかった。さらに、その年には社員を30名削減するよう、親会社から求められていたこともわかった。私はゼロベースどころかマイナスベースからのスタートだが、やりがいは十二分にある。さっそく変革プランの策定にとりかかった。変革は現状の否定からスタートすべきだ。とは言え、否定するだけでは社員の動揺や不安を増幅させ、変革への抵抗心を強めてしまう。だからビジョンを明らかにすることが重要になる。変革で目指すべき会社のあるべき姿、変革後の未来の姿を描き、そこへ至るためのマスタープランを明示し、社員全員がそれを実現すべき目標として共有すれば、変革はスムーズに進む。つまり、ビジョン牽引型のアプローチが変革には必要なのだ。

私は、新生PWCの経営プランを携えて、94年6月に単身アメリカに乗り込んだ。「この変革を実行すれば、会社再建は間違いなく成功する。そして来年度(95年6月期)には20億円の売上げを達成できる」。94年7月1日、PWCは親会社の監査法人から独立し、私は最高経営責任者に就任した。173人の社員達とともに企業再生に向けた変革に着手するときがいよいよ来たのだ。組織構造については、3階層の文鎮型組織にした。CEOとチームの間に、当時の顧客セグメントに合わせて4つの本部を置き、その下にチームを並べる形だ。ビジネスの全体にかかわることは経営陣が大きな観点で決めるが、個々のプロジェクトの設計、運営についてはすべてチームの自主決定、自主管理に任せた。それに対しては、私といえども口出しできない。これは強烈なエンパワーメントであり、変革の主軸として絶対に譲れない部分だった。日本企業ではエンパワーメント=権限委譲と解されているが、ただ権限を委譲して「思いどおりにやれ」と言っても、人はなかなか動けない。委譲された権限が期待どおりに遂行されるように環境を付加して、初めて人は動くことができる。

また、各人が得た新しい情報は、共有の知識資産として瞬時にデータベースにストックされるようになっている。IBM時代の経験から、投資額を減らすとROI(投資収益率)が上がらないことを知っていた。分子と分母の関係性には妥当な線があって、分母を削ると分子も小さくなってしまう。だから投資を行うときは思い切って行い、ROIを高めるようにすべきなのだ。

人事の基本方針は次の5つとした。

  1. 個人の強み(能力)を公正に評価する
  2. 強みを伸ばすための学習機会を提供する
  3. ビジネスも学習も一定のルールの下で自由裁量に委ねる
  4. 業績の評価項目・基準をオープンにする
  5. チーム、組織への貢献度を重視する

そしてチームによる業績の達成度を中心に、個人のスキル開発や会社への貢献度を重視した評価システムと、その評価結果を報酬にストレートに反映させる年俸制を導入した。会社の売上目標額を総人件費で割れば、人件費1円当たりの売上目標額が出る。これをメンバー各人の年収基準額に掛けて足し合わせれば、そのチームの売上目標額になるわけだ。 1995年度の売上高は27.3億円。さらに96年度は43.6億円、97年度は57.2億円と、その後も確実に成長を続けた。変革スタート時に173人だった社員も、97年度は334人まで増えていた。

思い切った組織改革と情報システム改革が奏功し、PWCは再び成長軌道にシフトした。そこで私は、新たな戦略ビジョンとして「ナレッジ・エンタープライズ」を打ち出した。これは、個々のコンサルタントが持つナレッジ(知識と知恵)、その総体として組織が持つナレッジをPWCの最重要資産と位置づけ、それをうまくマネジメントしながら常に進化させていく企業になろうということだ。顧客の期待を上回る価値を提供するために自己研鑽を怠らず、周到かつ真摯な姿勢で仕事に臨むことのできる人が真のプロフェッショナルなのである。コンサルタントとしていかに優れたコア能力を持っていても、個別具体的な顧客の要望にきちんと応えられる能力がなければビジネスとして成功しない。それがマーケット能力である。具体的にはストラテジックチェンジ、パフォーマンス・インプルーブメント、テクノロジー・ソリューションズ、インダストリー、プロジェクト・マネジメント、プラクティス・ビルディングの6分野あり、それぞれ6段階のレベルが設定されている。いずれの分野も実績に基づいて評価され、その結果が次年度の年収基準に反映される。

社員の目的達成をサポートする能力開発の環境を用意し、やりがいや充実感の得られる仕事をつくり、自己実現の場を提供するのである。それを具体的に示せば、以下の5点になるだろう。

  1. 自分で目標設定と評価ができる→エンパワーメント
  2. 評価指標と基準が明確である→能力・業績主義
  3. 知的刺激と欲しい情報がすぐ手に入る→知識・情報共有
  4. 切磋琢磨できる仲間がいる→チームワーク
  5. キャリア開発支援がある→CDP(Career Development Program)
この5条件を制度・システムとして組織につくり込むことが必要だ。

企業を取り巻く環境がハイスピードで変化していく今日では、いかなる戦略も3年経てば陳腐化する。だから私は、そのときに戦略が働いていようといまいと、3年をめどに戦略を切り替えてきた。また、3年が経っていなくても、新しい環境に直面して戦略の変更が必要だと思ったら、躊躇なくそうしてきた。しかし、次々と脱皮を繰り返しながらも、一貫して求め続けてきたことがある。それは、PWCを「学習する組織」にしようということだった。学習する組織への転換は時代の要請でもある。その理由は2つある。1つは、モノ経済からサービス経済ヘのシフトが起きていることだ。もう1つの理由は、学習する組織でなければ優秀な人材を惹きつけ、引きとどめることが難しくなっていることだ。

デジタル化の本質とは、標準化とオープン化であり、それにより、コミュニケーションのスピードを上げることと、コミュニケーション・コスト、具体的には情報を「収集するコスト」「加工するコスト」「共有するコスト」「発信するコスト」を低下させることである。

1994年にPWCが再スタートしたとき、社員は173名しかいなかった。それが2002年には1650名にまで増えた。一方、売上も飛躍的に増大し、優良な顧客基盤とグローバル・ネットワークに支えられ、競争の激しいコンサルティング業界のなかにあって確固たる地歩を築いている。企業にとって頼りになるコンサルティング会社とは、コンテンツとメソドロジーを兼ね備えたところである。コンテンツとは特定の専門領域における経験と実績に裏づけられたノウハウであり、メソドロジーは問題を解決するための方法論である。私は、企業変革が成功する条件は2つしかないと思っている。1つは、変革がうまくいったとき、どのような企業になっているかという姿かたちが明確であること。そしてそれが、社員たちにとってより良い環境であることだ。もう1つはファシリテーションだ。変革のプロセスではいくつもの壁にぶつかる。壁を前にすると、変革プロジェクトのメンバーの間には「これはとても乗り越えられない」という弱気が生じる。そのときメソドロジーを駆使してメンバーを論理的に説得し、感情面で鼓舞して、引いてしまいかけていた気持ちをもう一度前に向かわせるのがファシリテーションである。

このような環境下で勝ち残る企業の条件は何か。私は以下の3つのことを実行した企業が勝ち残っていくと考えている。

  1. 社会的使命を変革する…達成されていない社会的使命を持っていることである。
  2. 最大化・最適化・最小化を実現する…最大化・最適化・最小化すべき対象を明確にして、それを実行することである。
  3. 社員の自己実現と企業の利益を結びつける…サービス化が進んだ社会では、人にやさしい企業が成長する。
  4.  

成長するには「やるべきことをやる」努力が必要で、できることだけやっていてはなかなか成長しない。そして、やるべきことは自分で考え、見つけ出さなくてはならない。

“Enjoy Business As a Game” 失敗を恐れず、一緒に挑戦し続けよう。

以上が本書の概要である。著者曰く「前半の序章から第3章までは、前作を振り返りつつ、プライスウォーターハウスコンサルタント時代の変革ストーリーについて総括した。いまターンアラウンドに取り組んでいる経営者の方々のみならず、その主役である30〜40代のミドル・マネジャーのみなさんにもぜひ一読していただきたい。そして後半の4章から6章は、「大量生産・大量販売の時代が終わり、次なる時代に向けた新しい組織コンセプト、新しいリーダーシップ、新しいビジョンについて、私なりの見解を述べさせていただいた」と述べている。倉重英樹氏がコンサルティング会社の再建を通じて、経営に携わるものとして、いかなる考え方を持ち、いかなる行動を起こさなければならないかを自分の経験を踏まえて分かりやすく解いている。


北原 秀猛

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