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ビジネスを成功に導く「4+2」の公式表紙写真

ビジネスを成功に導く「4+2」の公式

著  者:ウィリアム・ジョイス、ニチィン・ノーリア、ブルース・ロバーソン
訳  者:渡会 圭子
出 版 社:ソフトバンクパブリッシング
定  価:1,900円
ISBNコード:4−7973−2430−9

ビジネスは謎だらけだが、最大の謎と言えばこれだろう――成功の要因とはいったい何なのか。ビジネスとは常に厳しく、危険で、不安定で、予測がつかないものだとあらためて思い知らされた。

本書はビジネスの勝者を生み出す方法についての体系的で大規模な研究である。事例的な証拠や個人的の直感ではなく、科学的な精密さを持って行われ、数値が示す事実によって証明された大規模な調査プロジェクトに基づいている。私たちがエバーグリーンと呼ぶこのプロジェクトは、“永遠に色あせない”ビジネスの成功の手がかりを統計的に厳密に調査しようとする初めての試みだった。まず私たちは、株主総利益(TRS)に直接、関わる8つのマネジメント要件を特定した。そのうち4つが必須要件、残りの4つが補助要件である。そして成功している企業は4つの必須要件すべて、さらに補助要件のうち2つを高いレベルで満たしていることがわかった。「4+2」という名称も、そこからきている。不調の企業はこの条件を満たしていなかった。

最初の企業リストから詳細な調査対象として160社を選び、それらをグループ分けした。各グループは、細かく40に分けられた各業界を代表する4つの企業からなる。できるだけ不公平のないよう、調査期間が始まった1986年の時点で同じグループに属する4つの会社がほぼ同等であるようにした。つまり、規模、活動領域、財務数値、TRS、将来性などが、だいたい同じ会社ということだ。10年経つと会社は違う方向に発展を遂げるので、各業界の4社を4つのアーキタイプに分類した。勝ち型、上昇型、下降型、そして負け型である。勝ち型の企業は前半・後半どちらの5年間でも、TRSで他社を上回っている。

この調査で、TRSと8つのマネジメント要件の間に注目すべきはっきりとした相関関係があった。8つのうち4つが必須要件、残りの4つが補助要件である。簡単に言ってしまうと、4つの必須要件とは戦略、業務遂行、文化、構造であり、補助要件は人材、リーダーシップ、イノベーション、合併と提携である。4つの必須要件すべて、そして補助要件2つに対する評価で高スコアを得た企業、つまり「4+2」は、一貫して他社より秀でた業績を上げ、株主に高い利益をもたらしていた。実際に4+2の実現とビジネス成功の結びつきは驚くほど強い。常にこの公式にあてはまる企業は、90%の確率で勝ち型企業になっていた。

  1. 戦略:明確で、目的を絞り込んだ戦略を立てる
    あなたの会社がどのような戦略を立てようと、――例えば低価格、作業手順の刷新など――それが明確に定義され、従業員、顧客、提携先、投資家にはっきりと伝えられ、よく理解されていれば、高い効果を上げられる。勝ち型企業が従っている重要な原則の1つは、目標を会社の成長に絞り込んでいることだ。
  2. 業務遂行:顧客を失望させない
    常に顧客を喜ばせることはできないかもしれないが、顧客を失望させることだけは避けなくてはならない。勝ち型企業は、顧客にとって価値のある業務を遂行し、彼らの期待に応える。
  3. 文化:実績主義の文化を築く
    仕事の面白さは有益なように思えるが、業績に直接結びつくものではないということだ。勝ち型企業では、高い業績基準が設定され、従業員がそれを受け入れている。特に会社の価値観を受け入れない社員を解雇する勇気が必要だ。
  4. 構造:すぐに動けて、階層の少ない組織をつくる
    より単純に、より迅速に――これこそ組織再編として目指すべきものだ。

次に、補助要件について考えてみよう。面白いことに、これらのうち2つを満たしていれば十分なのだ。

  1. 人材:優秀な社員をつなぎとめ、さらに育てる
    人材の層の厚さと質をチェックする指標で何より重要なのは、組織の中で生え抜きのスターを育てられるかどうかである。
  2. リーダーシップ:リーダーと取締役を業務に積極的に関わらせる
    CEOに一流の人材を配すると、その社の業績が大幅に向上する。私たちの調査からは、企業の業績は良い方であれ悪い方であれ、トップによって15%も変わりうるという結果が出た。
  3. イノベーション:業界を一変させるイノベーション
    言うまでもなく、機敏な企業は画期的な製品やサービスを次々と世に送り出す。しかし同じくらい重要なのは、それまでのやり方がまったく通用しなくなる出来事が起こるのを予測し、対応が遅れないようにすることだ。
  4. 合併と提携:合併と提携による成長
    成長要因は社の内部で育むことが基本だが、合併や提携をうまく活用できる企業は、勝ち型になる可能性が高い。さらに、比較的小さな取引(企業規模の20%未満)を定期的に(2〜3年に1度)行っている企業の方が、時々思い出したように大きな取引をする企業より、成績が良かった。

当然のことながら、実際のビジネスが理論にぴったりと当てはまるということはない。

エバーグリーン調査を行った10年間で、勝ち型企業と負け型企業の収益の伸びを見ると、勝ち型企業の伸びが483%に対し、負け型企業では193%だった。目立った違いの1つは、コア・ビジネスとそれに関連したビジネスにおける年間複合成長率の差である。勝ち型企業の年複利成長率が15%だったのに比べ、負け型企業は6%に過ぎなかった。全体の収益が大きく違っているわりには、2者の非関連ビジネスにおける年間複合成長率はそれほど変わらない。それはつまり、負け型企業が専門領域以外の事業に依存する部分が大きいことを意味する。

エバーグリーン調査によると、勝ち型企業はサービスのレベルを絶え間なく引き上げている。競争が激しくなれば、いかに顧客を満足させるかが重要となる。第一線の社員にこそ、リアルタイムに決断を下す権限を与えるとともに、適切な判断を下せるようトレーニングが必要であると勝ち型企業は理解しているのだ。成功する企業は顧客第一の製品やサービスを提供するという業務を、失敗せずに遂行する術を知っているということだ。

シェリング・プラウは以前から、空いたポストは社内の人間で埋めるという方針をとっている。もともとはドイツの製薬・化学企業シェリングAGのアメリカ現地法人だったが、第一次、二次世界大戦の戦時下にアメリカ政府によって国営化され、1952年にようやくアメリカ企業として民営化された。1971年にドイツの消費者製品メーカーであるプラウ社と合併し、その後の10年で売上は4倍に伸びた。1992年までに製薬部門では膨大な量の人気商品を販売し、巨額の投資が必要となったので電気メッキ、工業用化学薬品、自然薬品の部門を売却し、薬品に専念することになった。しかし、ある分野だけは決して手放そうとしなかった。同社の経営陣はライバル企業が気付く遥か以前から、製薬業界において、いずれバイオテクノロジーが重要な位置を占めることを認識していた。買収によって同社が手に入れていたその分野の専門技術が大きな成果をあげ、そこからヒット商品も生まれた。現在のシェリングは主にアレルギー、炎症性の障害(一番売れている製品はクラリチン)、がん、心臓血管にまつわる病気を研究している。世界中で3万人の社員が働き、その多くが同社で30年以上のキャリアを持つのも偶然ではない。シェリングは社員をつなぎとめる努力を怠らず、その努力の一環としてキャリアを積ませる手助けをしているのだ。シェリングでは、空きポストの75%から80%は社の内部から登用するようにしている。

一方シェリングの経営陣は長期、短期を問わず、いくつもの流れがOTCへと向かっているのに気付いた。処方薬のコストは高くなる一方で、消費者はどんどん安いOTC製品へと流れていたのだ。自己治療への関心の高まりも要因の一つだった。そしてOTC製品を買う客は圧倒的に年配者が多いので、こらから高齢化に向かえば自然に売上も伸びていく。このトレンドを活用するため、シェリングのリーダーは製品開発チームをたきつけて新しいOTC製品をつくらせた。

巨大ドラッグストアのチェーン店ウォルグリーンは、顧客に関わる点では、この業界で初めてレジスターをスキャナに交換した大手チェーンである。店員が価格をチェックしなくてもすみ、自動割引にも対応しているので、精算にかかる時間が以前よりはるかに短くなった。ウォルグリーンは製品や顧客に関する情報を、何百という店舗のコンピュータにすばやく送れる衛星通信ネットワークで新天地を開いた。それによって顧客は、ある時は家のすぐ近くで、またある時は遠く離れた州でというように、どのウォルグリーンの店舗でも薬を処方してもらえるようになった。消費者ではない顧客――保険会社やHMOなど第三者支払い機関――もまた、ウォルグリーンの強力なコンピュータ・ネットワークの恩恵を受けている。同社はこの技術で、1990年には1日30万件の処方を処理していた。コンピュータ・システムと大量処理により、すべての処方薬について第三者支払い機関に対する割引が可能になった。またそうした顧客に処方の記録を検索して、安いノーブランドの薬剤を使ったことがない医師の名前を知らせることもできた。社内業務にテクノロジーを適用することで、ウォルグリーンはコストを大幅に節減するとともに、マーケティングのチャンスを広げた。例えば郵便番号による処方箋のスクリーニングも、店舗を出す場所を選ぶのに役立った。

以上が本書の概要である。ふんだんな実例とともに、勝ち型企業と負け型企業の特徴を表に示し、わかりやすく解説を加えている。ビジネスを成功させるために、企業が取り組むべき課題8つ。戦略、業務遂行、文化、組織構造、人材、リーダーシップ、イノベーション、合併と提携。これらのうち4つは必須要件である。ということは、どれか1つでもおろそかにすれば、ビジネスの成功には手が届かないということになる。残りの4つは補助要件で、すべてを満たす必要はないが、最低2つで秀でていなければならない。4つの必須要件に2つの補助要件、これが本書のタイトルである「4+2」の意味だ。

単純な公式ではあるが、それを実現するのは容易ではない。例えば、必須要件の第1に挙げられている「戦略」の項一つをとっても、その中には(1)顧客のための価値提案を中心とする戦略、(2)外部からの反応を取り入れる、(3)マーケットの変化に合わせて戦略も調整、(4)戦略を関係者に明確に伝える、(5)コア・ビジネスの成長を優先、と5つの原則があり、成功企業はそのすべての原則を守っていることが示されている。しかも、負け型企業と勝ち型企業を5段階評価し、分かりやすく表にしている。大きな変革期を迎えている今日、大変参考になる本書である。


北原 秀猛

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