ケン・ブランチャードはコーネル大学で博士号を取得し、現在も同大学の講師、名誉理事を務める。ケン・ブランチャード社の共同創業者にしてCSO(最高精神責任者)、フェイスウォーク・リーダーシップ・センター会長。ジェシー・ストーナーはシーポイント・センター社長であり、ケン・ブランチャード社コンサルテイング・パートナー。
『1分間マネジャー』の著者として世界的に知られるケン・ブランチャードが、ビジョンの専門家であるジェシー・ストーナーとともに書き下ろした感動的な物語である。本書では、ジムが経営する保険会社のビジョンを、エリーとジムが協力してつくり上げていくさまが描かれている。本書によれば、すぐれたビジョンには「有意義な目的」「明確な価値観」「未来のイメージ」の3つが要求されるという。
本書でいう「全速前進!(Full steam ahead!)」とは、明確なビジョンを持ったとき――つまり自分自身を知り、何を基準にして、どの方向に進めばいいかを知ったとき――何が起こるか、そしていかに全力で突き進むことができるかを示すキーワードである。
製薬会社メルクのミッション・ステートメントは、「生活の質を維持・向上させるような、優れた製品・サービスを社会に提供する」ことだという。メルクの創業者デアルジョージ・W・メルクは、「薬は人にためにあることを決して忘れてはならない。薬は利益を上げるためのものではなく、利益は後からついてくるものだ」と述べている。つまり優れた「目的」とは、「なぜ」の部分を説明し、「高い理想」を掲げるものだということを。
【目的とは何か】
- 目的とは、組織の存在意義である。
- 目的とは、単に事業の内容を述べたものではなく、「なぜ」という問いに答えるものである。
- 目的とは、顧客の視点に立って、その組織の「真の使命」を明らかにしたものである。
- 偉大な組織は深遠で崇高な「目的」、すなわち社員の意欲をかきたて、やる気をおこさせるような「有意義な目的」を持っている。
- 表面的な言葉づかいより、そこから人々に伝わる「意味」の方が重要である。
メルクの5つの価値観
- わが社の使命は、人間の暮らしを守り、よりよいものにすることです。
- 私たちは最大級の倫理と誠意を目指します。
- 私たちは最高度の科学的業績を目指し、人間と動物の健康および生活の質の向上に寄与する研究に取り組みます。
- 私たちは収益を上げることも目指しますが、それは顧客のニーズに応え、人類に貢献するような仕事から得られる収益でなければなりません。
- すぐれた企業になること、すなわち社会と顧客のニーズに誰よりも効率的に応えられるかどうかは、従業員の誠意、知識、想像力、技能、多様性、そしてチームワークにかかっています。
私は「価値観」の定義を自分なりに考えてみた。
「価値観とは、ある種の特質を好ましいと考える、深い信念のことである。自分にとって何が正しく、何が大切かは、その人の“価値観”によって決まる。私たちは、“価値観”を目安にして判断や行動を選択していく」。
「目的」が「なぜ」を説明するものだとしたら、「価値観」は「目的」達成への道筋を示すものである。つまり、「目的を達成するために、日々どのように行動すればよいか」を教えてくれるものなのだ。目的は「なぜ」を、価値観は「いかに」を説明するものである。
【価値観とは何か】
- 価値観とは、目的を達成する過程で、どう行動していくべきかを示す、ゆるやかなガイドラインである。
- 価値観とは、「自分は何を基準にして、どのように生きていくのか」という問いに答えるものである。
- 価値観の内容を具体的に明らかにしない限り、どんな行動をとれば価値観を実践できるかはわからない。
- 常に行動を伴うものでなければ価値観は単なる願望にしかならない。
- メンバー一人ひとりの価値観と、組織の価値観とを一致させなければならない。
目的や価値観だけでは、目指す目標がはっきりしない。そこで登場するのがビジョンである。そもそも「ビジョン」とは、何かを目指すものだろう。方向性のようなものだ。
【未来イメージとは何か】
- 未来のイメージとは、最終結果のイメージ。曖昧ではなく、はっきりと思い描けるイメージである。
- なくしたいものではなく、創り出したいものに焦点をおく。
- 最終結果に到達するまでのプロセスではなく、最終結果そのものに焦点をおく。
説得力あるビジョンを生み出すための3つの基本要素
【ビジョンとは何か】
ビジョンとは、自分は何者で、何を目指し、何を基準にして進んでいくのかを理解することである。ビジョンは単なる未来志向ではなく、現在進行形でもある。「過去に学び、未来に備え、今を生きよ。」
「自分にはできる、あるいはできるようになりたいと思ったら、ともかくはじめること。大胆さが才能を生み、力を生み、魔法を生む。」・・・ゲーテ
以上が本書の概要である。最初に述べたが、本書は物語的にジムが経営する保険会社のビジョンを、エリーとジムが協力してつくり上げていくさまが描かれている。さらにエリー自身の人生のビジョン、エリー一家、経理部、娘の学校のビジョンなども登場する。こうした具体例があるからこそ、我々は本を閉じた後も、ビジョンの何たるかを容易に思い起こすことができる。さらに本書の後半では、できあがったビジョンをいかに維持していくかが説かれている。大切なのは、ビジョンについて人々と語り合うことこそ、そして目の前の変化を恐れない「勇気」だと言う。事実、主人公エリーはジムが残した最後の言葉を胸に、より広い世界にビジョンのすばらしさを伝えるべく羽ばたいていく。
企業が発展していく過程においても、個人として自分の人生を生きていくためにも、本質的に一番大切なものは、まず明確なるビジョンの構築である。著者が最後に書いているが、「本書は単に“説得力あるビジョン”のつくり方を述べただけのものではない。どうすればそのビジョンが皆の共感を勝ち取り、現実に生かされ、日々の営みを導く羅針盤となるかということも、本書のテーマの一つである」、と述べている。
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