HOME
会社概要
セミナー
教育関連
海外情報
書籍
お問い合わせ
ワールドネット
HOMEUBブックレビュー詳細





ポーター教授『競争の戦略』入門表紙写真

ポーター教授『競争の戦略』入門

著  者:グローバルタスクフォース
出 版 社:総合法令出版
価  格:1,890円
ISBNコード:4−89346−833−2

グローバルタスクフォース株式会社は、世界16ヵ国の主要経営大学院53校が共同で運営する35万人の公式MBA同窓組織「Global Workplace」(本部:ロンドン)から生まれたプロジェクト支援組織です。2001年に「MBA100人が選んだベスト経営書」のランキングで第1位を獲得したのが、20年以上前の1980年に出版されたポーター教授著の「競争の戦略」です。マイケル・E・ポーター教授は史上最年少でハーバード大学教授になり、現在までに16冊の著書と75の記事や論文を執筆しています。彼が世界的に注目を浴びた出生作が、この「競争の戦略」なのです。本書は「競争の戦略」を噛み砕き、具体的な事例を多く取り込みました。さらに、ポーター教授の主張を体系的にまとめ、視覚的にも理解がしやすい工夫をちりばめてあります。

本書は、原著では16章からなるものを5章にまとめて分かりやすくしています。第1章では、業界の情報を整理し、業界の競争要因を抽出する過程を述べています。そして、第2章で、3つしかない戦略の選択儀に関して学びます。さらに、第3章までに、より詳細な業界の競争要因を学び込むことで、第4章、第5章を通じて具体的に戦略を策定していきます。

競争状態を決定する要因には3つあります。

  1. 個々の会社同士の関係・行動
  2. 業界構造のあり方
  3. 業界に作用する外からの圧力

ポーターがこの中で最も重要視しているのは、(2)業界構造のあり方です。業界構造のあり方は、企業が今後とり得る戦略に大きな影響を持ち、「競争」というゲームのルールをも決定してしまいます。企業の属する業界の構造を認識することで、その企業のとるべき戦略が見えてくるのです。「新規参入業者」「競争業者」「買い手」「売り手」「代替品」という5つの要因がどう作用するかによって、業界の競争状態と魅力度(収益率)が変わるということです。競争分析は既存の競争業者だけを分析してはならず、業界の競争の激しさと収益率を左右する5つの競争要因を分析し、その中で一番強い要因が決め手になる。この「5つの力」それぞれにおいて用意されたチェック項目に関して、現在自社が置かれている状況を当てはめていくことで、自社の属する業界の競争関係を決める決定的な構造的特徴らしきものを早く見つけることができる。そしてポーターは、分析と戦略思考の大半をこの構造分析に集中することを指摘しています。なお、ポーターは新規参入の脅威がどの程度であるかは、「参入障壁」がどの程度であるかによって決定されることも指摘しています。

  1. 「新規参入業者の脅威」
    • あなたの企業の属する業界には、規模の経済性が働くか?
    • あなたの企業の属する業界では、製品の差別化が存在するか?
    • あなたの企業の属する業界に参入する場合、巨額の投資が必要か?
    • あなたの企業の属する業界の仕入れ先を変更するコストは大きいか?
    • あなたの企業の属する業界において、流通チャネルの確保は難しいか?
    • あなたの企業の属する業界に参入する場合、規模の経済性以外のコスト面での不利な点が存在するか?
    • あなたの企業の属する業界では、政府の政策による参入の制限や規制が存在するか?
    • あなたの企業の属する業界では、参入に対し強い報復が予想されるか?

    上記8つの質問に当てはまる質問数が多ければ多いほど、あなたの業界の参入障壁は高いということになります。例えば医薬品業界の場合で考えてみると、ほとんどの項目で、この質問に該当します。言ってみれば、参入障壁は非常に高い業界ということになります。

  2. 「業界内競争」

    まず、業界内で1社がある競争行動を行ったとします。1社による競争行動は同業者にはすぐ分かり、同業者はその1社に対して、報復行動に出ます。そして、その行動を起こした企業は同業者からの報復に対して、反撃行動に出る、ということです。この行動や反撃といったパターンが業界内の構造に影響を与えます。その影響は、どちらかが勝利し、片方が有利になる場合もありますが、競争がエスカレートし過ぎれば、両方が自滅に終わるという結果も考えられます。こらからは、どのような場合に、業界内の敵対行動が激しくなるのかを構造的に分析します。

    • あなたの企業の属する業界は同業者が多いか、あるいは似通った規模の会社がひしめいているか?
    • あなたの企業の属する業界の成長の度合いは遅いか?
    • あなたの企業の属する業界では、固定コストや在庫コストが高いか?
    • あなたの企業の属する業界では、製品の差別化は起こりにくいか?また、買い手を変えるのにコストはかからないか?
    • あなたの企業の属する業界では、キャパシティの増加を小刻みでできないか?
    • あなたの企業の属する業界では、競争企業が異質な戦略をとり得るか?
    • あなたの企業の属する業界では、戦略が良いと成果が大きくなるか?
    • あなたの企業の属する業界では、撤退障壁が大きいか?

    以上8つの質問のうち、当てはまる質問数が多ければ多いほど、既存競争業者同士の対立は起こりやすいということになります。医薬品業界ではこの質問に当てはまるケースが多いので同業者同士の対立は起こりやすいということになります。

    業界構造のあり方
  3. 「代替製品の脅威」

    代替製品とは、ある製品と同じ機能をもつ製品などを指し、それらが買い手の同じニーズを満たすもののことを言います。特にポーターは、次の代替製品には注意しなければならないと言います。(1)現在の製品よりも価格に対する性能の割合が良くなる傾向を持つ製品、(2)高収益をあげている業界によって生産されている製品、です。

  4. 「買い手の交渉力」

    ここでは、自分たちの提供する製品なり、サービスなりを購入してくれる相手のことを「買い手」と定義します。

    • あなたの企業の属する業界では、買い手が集中化していないか?
    • あなたの企業の属する業界では、買い手の購入する製品が買い手の購入物全体の大きな割合を占めるという場合が多いか?
    • あなたの企業の属する業界では、買い手が購入する製品が差別化されていないか?
    • あなたの企業の属する業界では、取引先を変えるコストが低いか?
    • あなたの企業の属する業界は、収益が低いか?
    • あなたの企業の属する業界で、買い手が川上統合に乗り出す姿勢をみせることがしばしばあるか?
    • あなたの企業の属する業界は、売り手の製品が買い手の製品の品質にとってほとんど影響がないか?
    • あなたの企業の属する業界は、買い手が十分な情報を持っていないか?

    当てはまる質問数が多ければ多いほど買い手の交渉力は強いということになります。この質問で見る限り、医薬品業界では政府がジェネリック製品の強い後押しをしない限り、浸透は難しいと思われます。

  5. 「売り手の交渉力」

    ここでの売り手とは、原料を仕入れる業界のことを言います。供給業者は、価格や品質を変動させることによって、業界に対し影響を与えます。特に、価格を上げ、品質を下げることは業界に対する脅しであると言ってよいでしょう。しかし、どの売り手も自由に価格や品質を変えることができるわけではありません。そういうことを自由にでき、競争の勝者となることができるのは、交渉力を持った売り手のみなのです。それでは、一体どのような要因によって売り手の交渉力は強くなるのでしょうか。買い手の業界よりも集約体制になっていないか?

    • あなたの企業の属する業界は、売り手の業界が別の代替品と戦う必要がないか?
    • あなたの企業の属する業界は、売り手の業界が少数の企業によって牛耳られているか?
    • あなたの企業の属する業界は、買い手業者が供給業者にとって重要な顧客ではないか?
    •   
    • あなたの企業の属する業界は、供給業者の製品が、買い手の事業や品質にとって重要な製品であるか?
    • あなたの企業の属する業界は、売り手の製品が差別化されており、他への変更にはコストがかかるか?
    • あなたの企業の属する業界は、供給業者が今後確実に川上統合に乗り出すと言う姿勢を示しているか?

    上記の質問に当てはまる質問数が多ければ多いほど、売り手の交渉力は強いということになります。

以上、5つの要因にわたって、業界の競争状態が変化する要因を考えてきました。業界には5つの要因が働き、それによって競争状態は変化していきます。それをMECE(モレなく、ダブリなく)に分析していくことで、一体どれが一番大きな要因なのかを見極めることができるのです。そして業界の競争要因が判明すれば、その視点から企業の競争戦略を導くことができる、というのがポーターの提案です。

以上のように本書の第1章のみを取り上げた。業界の情報を多く持っている状況でこの章を読めば業界を整理することができ、その結果、業界内の競争要因が特定され、業界構造が理解できることになる。このように大変わかりやすく解説をしており、しかも詳細な事例を含んだ素晴らしい解説が多く盛り込まれている。自分の頭の中を整理する意味から言っても参考になる一冊である。


北原 秀猛

関連情報
この記事はお役にたちましたか?Yes | No
この記事に対する問い合わせ

この記事に対する
キーワード
•  グローバルタスクフォース
•  競争の戦略
•  マイケル・E・ポーター


HOMEUBブックレビュー詳細 Page Top



掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。
著作権はセジデム・ストラテジックデータ株式会社またはその情報提供機関に帰属します。
Copyright © CEGEDIM All Rights Reserved.