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経営の構想力表紙写真

経営の構想力 〜 構想力はどのように磨くか 〜

著  者:西浦 裕二
出 版 社:東洋経済新報社
価  格:1,680円(税込)
ISBNコード:4−492−53173−4

著者の西浦祐二氏は1953年のまれ。一橋大学社会学部卒、住友信託銀行、ボストン・コンサルテイング・グループ、シティバンクを経て、日本ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン代表取締役社長、現在、株式会社ローランド・ベルガー代表取締役兼CEOである。

メタモルフォーゼという言葉がある。昆虫の変態のように、成長の過程において姿形をまったく変えることを意味する。比喩的に言えば、日本の社会はいま、政治も経済もそして企業経営も、そのメタモルフォーゼの最中にあるのではないだろうか。

いまの日本に漂う閉塞感の最大の原因は、「古い殻」からの脱皮に手間取っていること以上に、こらからの姿形を描くことができないことにあるのではないか。だからこそ、「古い殻」にしがみつこうとするのである。「構想」は実現されることを前提としている。実現されそうもないことを、あれやこれやと思いめぐらすのであれば、それは「空想」である。「構想」は地に足が着いたものでなければならない。一方では、固定概念にとらわれることなく思考を跳躍させなければならない。ここに構想することの難しさある。

本書では「構想」とは何か、「構想力」はどのように磨けばよいか、について経営の観点から検討している。本書は第1章から第6章と終章の7章構成になっている。

「人口ボーナス期」という言葉がある。1960年から80年にかけての日本は、「人」の面において極めて恵まれた状況にあった。こうした時期のことを「人口ボーナス期」と呼ぶ。人口構成が経済成長に「ボーナス」を提供していたのである。こうした時期においては、真面目に働きさえすれば、特に優秀な集団じゃなくても2桁の高度成長は自然に達成された。均質で豊富な労働力が、これまでの日本の成長を支えてきた。資金を調達して設備を揃え、こうした労働力を活用すれば、安定した企業経営ができた。しかしどうやら、あらゆるところで、このような前提が変わってきたのである。

企業が成長するためには、常に新しく優れた経営資源を補充していくことが必要である。大前研一氏はこのような状況を「われわれは見えない大陸へ入り込んだ」と指摘している。しかし、この「未知の大陸」を、とにもかくにも前へ進まなければならない。腹を括って進むべき方向を決めなければならない。そこで、「方向性を決める」時に拠り所となるものは何であろうか。1つは、その人なりの「哲学」である。2つ目は、現象にまどわされるのではなく、変化の底にある「大きな流れ」や「本質」を見抜く力である。3つ目は、「現実に対する勝負勘」というものも必要である。

「構想力」とは、第1に、「眼前にないものを表象する」こと、言い換えれば「見えないものを見る」。第2は、「単に想像するだけではなく、行為につなげる」ということである。第3は、「行為を通して、新しい価値の創造へとつながっていく」べきものである。

白鳥の群れが湖から飛び立つ時に、群れの中からまず1羽が飛び立ち、他の白鳥はそれに続いて一斉に同じ方向に飛び立つ。そして、いったん上空に上がると、最初に飛び立った1羽ではなく他の白鳥が群れを率いていく、と言う。白鳥の例のように、「飛び立つタイミングや方向性を決める」リーダーにいま求められているものである。

構想が生まれる時には、「編集」という行為が極めて重要な役割を果たしている。映画監督の黒沢明氏は、「映画の本質は編集である」と言っている。神戸製鋼のラクビーを7連覇に導いた平尾誠二氏は、「ラクビーは編集だ」と言う。編集工学研究所の松岡正剛氏は、料理も子育ても遊びも編集そのものだという。料理が編集であるというのは実にわかりやすい。素材をどう選ぶか、洗ったり、切ったり、火の加減をしたり、いくつもの過程を並列処理する。さらには器を選び、盛り付けの量と形を調整し、おまけに料理の名前までつける。「これは立派な編集」なのだ。

編集が人間の活動にひそむ最も基本的な情報技術であり、人間はすべて生まれながらのエディターであるにもかかわらず、誰もが優れた編集を行うことができるわけではない。その障害は、「思い込み」と「組織の壁」である。思い込みが強くなると、どんな情報を与えられたとしても、決まりきった角度からしか解釈できないし、他の情報との関連性にまで思考を広げてみることができない。もう1つが「組織の壁」による問題意識や発想の制約である。この2つの問題を解決しなければならない。

「構想」を生み出すために、「編集」という行為、ないしは能力が極めて重要な役割を果たす。そして、編集の出来が構想の幅を規定するのである。豊かな編集のためには、思い込みを捨ててとらわれない眼で現場に立つことが必要である。分析的な姿勢を持たずに純粋に体で感じること、とらわれない眼で観察することによって、思いがけず貴重な情報も編集プロセスに入力されてくる。多彩な情報、材料は、編集プロセスの中で秩序づけられながら凝縮される。こうしたプロセスは、「すべての人間の活動にひそむ最も基本的な情報技術」なのである。

思考の化学反応を起こすためには、いくつかの条件がある。第1は、徹底して考え抜くことである。第2は、明確な哲学と、それに裏打ちされた使命感が存在することである。 ある場面に遭遇した時に、何かを感じるか、感じないかは個人差がある。ではいったい、「ピンとくる人」と「聞き逃す人」では何が違うのだろうか。また、ピンときた後で、それを「構想につなげられる人」と「感じただけで終わってしまう人」では何が違うのだろうか。ピンとくるか否かを分けるのは、結論から言えば「顧客の立場」に立って物事を考えることができるかどうかであろう。多くの企業が「顧客の立場」に立ちきれないということは、裏を返せばそのことを徹底して実行する企業は強いということである。そこでまず、現場の視点を磨くことである。第1に「問題意識を持って現場に顔を出す」。第2は、「自社の現場力を棚卸する」。そして、第3に「満たされていない顧客ニーズを洗い出す」。クロネコヤマトは、まさに満たされていないニーズに正面から取り組むことによって生まれた事業である。

「構想」を生み出すためには、「現場の視点」と併せて「大局的な視点」が必要である。「大局的視点」とは、目先の変化に眼を奪われることなく、「大きな流れ」や、その流れの奥底にある「本質」を見る眼のことである。

成功した創業者は、間違いなく「構想力が豊かな人」である。確かに、生まれつき「構想力が豊かな人」はいる。しかし、そうした人を得なければ未来が切り開けないとなれば、多くの企業は無力感におそわれてしまう。英雄待望論に陥るのではなく、「構想力」を高めるための組織的な仕組みができれば、実は「構想力が豊かな個人」をさらに活かすことにもつながる。元シャープ副社長の佐々木正さんは、「過去においては、新しい技術や科学の発明・発見は、1人の天才によってなされてきた。しかし私は、このような1人の天才によって画期的な発明・発見がなされることは、これからは稀になるのではないかと考えている。その理由は、科学技術が高度化すると同時に、一方で専門化が進み、1人では研究が行えないようになっているからだ」と言う。すなわち、「独創」から「共創」の時代である。

そこで登場したのが「ナレッジ・マネジメント」である。

  • 組織の工夫:異なる知恵がぶつかり合うような“場”をつくる。
  • 知のマップづくり:どこにどんな知恵があるかを示す(暗黙知の交流)。
  • 編集者の配置:ナレッジの編集者になる。

混迷の時代において、構想力はこれから向かうべき方向性を示す「羅針盤」であり、ビジネスリーダーにとって不可欠な能力である。しかし、ビジネスリーダーの資質において、構想力は必要条件ではあるが、十分条件ではない。構想力を活かす「それ以外の力」があってはじめて、リーダーとしての役割を果たすことができ、また企業を新たな世界へと導くことができるのである。これからのビジネスリーダーは、たとえ部門の長であったとしても全社的視点を併せ持たなければならない。各論と全体論の間を行ったり来たりしながら、あるいは両者の間にブリッジをかけながら、事業の将来展開を構想していかなければならない。ビジネスリーダーが、「自分の言葉」で語るべき内容で一番大切なのは、ビジネスの「方向性」に関する自分なりの考え方であろう。なぜこの方向に向かうのか。なぜこの作業を行うのか。こうした「意味」をきちんとコミュニケートしていくことは、リーダーの重要な役割である。とりわけ大きな転換期においては、組織全体のモラルと求心力を高めていくために必須であると言ってもよい。

経営とは、全人格的な勝負である。ビジネスリーダーには「知」も必要だが、「徳」も備わっていなければならない。

以上が本書の概要である。ローランド・ベルガーでは、早稲田大学ビジネススクールとの共同研究でアンケート調査を行った。質問内容は次の4分類である。

<質問内容>

  1. あるべきリーダー像を考えていく上で、参考となる経営者は?
  2. ビジネスリーダーに求められる要件は?その中でも、とりわけ重要になることは?
  3. 企業経営を行う上で役に立つ経験は?
  4. トップに就任するまでにやっておくべきこと、就任してから必ずやるべきことは?

<回答>(複数回答可)

  1. カルロス・ゴーン、御手洗富士夫、ジャック・ウェルチ、奥田碩、本田総一郎、ルイ・ガースナー、小倉昌男氏など
  2. 構想力、コミュニケーション力、インテグリティ、組織との適切な距離感、グローバル性
  3. 海外経験、子会社・関連会社での経験、異なる企業または業界での体験
  4. 思考力・経営知識の修得、社外とのネットワークづくり。社内とのコミュニケーション、ビジョン・方向性の提示。

以上の結果が示されている。いずれにしても、この混迷の時代はまず進むべき方向性をはっきりさせ、ビジョンと共に、それを達成すべき構想力に基づく現場第一主義の行動力にかかっていると言える。


北原 秀猛

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