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戦略的カテゴリーマネジメント表紙写真

戦略的カテゴリーマネジメント ―消費者起点の製販卸ビジネス革新―

著  者:麻田 孝治
出 版 社:日本経済新聞社
価  格:1,890円(税込)
ISBNコード:4−532−31102−0

今の日本が陥っているこんな閉塞状況に、1990年前半の米国も直面していた。この窮状を打破し、復活の起爆剤となったのが、本書で解説するカテゴリーマネジメントだ。消費者の目線に立ち、そのニーズを徹底的に分析してくくり直した「カテゴリー」を軸に、小売・卸・メーカーが有機的に結びつき、1つの事業単位=ビジネスユニットとして展開する。製配(卸)販が協働してビジネスモデル革新を行うことで、本当の消費者重視を実現するのが、カテゴリーマネジメントの本質だ。

本書は実践のためのノウハウをすべて説明し、カテゴリー計画の詳細を解説したものではない。まずは、変化する消費者に接近するとはどういうことなのか、競争が激化する中でどんな戦略的発想を持てばいいのかをつかんでもらい、メーカーと卸売業・小売業とのコラボレーション型取引関係のあり方、そしてデータを利益に転換する基本視点について、きちんと押さえてもらうことを第一に考えている。

本書は、第一章:欧米で進化したカテゴリーマネジメント、第二章:カテゴリーマネジメントの基本発想、第三章:戦略的カテゴリー計画のプロセス、第四章:製配販のコラボレーション型取引、第五章:カテゴリーマネジメントで新たに進化する卸売業、第六章:メーカーの小売業接近戦略の転換、終章:カテゴリーマネジメント推進の課題、の構成になっている。

欧米のECR委員会の定義によると、カテゴリーマネジメントとは、「消費者価値の提供を通じて経営成果を実現するために、カテゴリーを戦略的ビジネスユニットとして管理する小売業とサプライヤーによる協働管理プロセス」である。例えば、夫の高血圧について漠然とした不安を持って来店した消費者がいたとする。「生活習慣病対策コーナー」があり、さらに「高血圧対策」と銘打ったゴンドラがある。そこには、体重計、万歩計、血圧計などの機器はもちろん、高血圧に効果的とされるサプリメントに加えて、高血圧について解説するパンフレットや書籍・雑誌まで置いてある。これまでのような「医薬品」「書籍」「健康器具」といった単品・ブランドの枠組みを超えて、「高血圧対策」という消費者ニーズを徹底的に分析する。つまり、消費者のニーズ・問題解決を切り口に、これをカテゴリーとして売り場を構成する。カテゴリーマネジメントは、このカテゴリーを軸とする小売業の戦略開発である。

旧来の流通構造全体のパラダイム転換がなければ、新たな経営モデルが生まれることは決してあり得ない。メーカーから仕入れた商品を並べるだけでは、消費者の支持は得られない。次の『5つの経営』を具現化するための、新たな経営モデルの創造が必要ではないか。

  1. 消費者変化を後追いするのではなく、体系的でプロアクティブな経営
  2. 効率化・リストラ優先の経営から、消費者価値を提供する顧客満足の経営
  3. 価格競争や「同質化の競争」を行わない、標的顧客の明確化と戦略的なカテゴリー編成による独自性のある「差別化の経営」
  4. メーカー起点の量販力で勝負するパワーゲームではなく、消費者を起点としたコラボレーション型WIN−WINの取引関係による経営
  5. 経営レベルの経営理念や経営戦略から、消費者の接点である売り場まで一貫した、体系化された計画による経営

これら『5つの経営』を具現化する管理手法として、カテゴリーマネジメントの基本哲学と計画手法が、欧米の企業に高く評価されてきた。

カテゴリーマネジメントを理解するのは、簡単なようで現実には容易ではない。

  • 小売業の消費者起点のプル型発想
  • ROI発想
  • フラットな組織開発
  • 小売業のBPR(Business Process Re-engineering)
  • 競争差別化
  • 取引関係開発
  • ポートフォリオ・マネジメントによる戦略計画手法
  • 売り場開発
など、経営の基本発想から戦略計画手法、さらに棚割り計画を含む具体的な戦術まで幅広く、奥深いものがある。当初からすれば大きく進化し、小売業の経営構造そのものとなっている。

成功企業には、2つの共通点があると言われる。
1.自社の製品・サービスに満足する顧客の獲得と維持管理――徹底した顧客志向
2.消費者と競争構造を的確に把握し、戦略計画の作成と実施を行う――戦略的経営

カテゴリーマネジメントでは、変化する消費者に対して高い消費者価値を提供し、その結果として顧客満足が実現する。さらに、競争優位は、標的顧客に対して競合他社よりも高い水準の満足を提供することにあり、これにより継続的な企業利益が確保できる――とする経営発想である。カテゴリーマネジメントは、経営レベルでの取り組みがなければ、バイヤーレベルのカテゴリー計画書の作成で終わってしまい、経営戦略との一貫性のないものができてしまう。小売業の経営理念を実現するため、企業としての全社的な事業定義、経営目標、経営戦略、経営資源の投入、経営情報システム、組織体制などを明らかにする。カテゴリーマネジメントの出発点であり、根幹となる。

わが国小売業は、消費者を研究し、どの消費者のどの需要を切り取り満足させていくか、競合他店とここが違う、と来店客に明確に訴求するのではなく、特売チラシやポイント提供合戦によって購買刺激を与え、「売り場展開は同じであるが、単に価格が安い」という経営となっているのではないか。

ドラッグストアにおける4つのカテゴリーの役割設定一覧表

先に説明したように、最初に「商品」があるのではなく、最初にあるのは「標的顧客」のニーズである。標的顧客やロイヤル・カスタマーのニーズを充足するために必要なカテゴリーの範囲と「カテゴリー体系」を作り上げ、最後にメーカーやブローカーの情報をもとに、ブランド単品やPB商品を必要な範囲で設定する。

◆「生活習慣病対策カテゴリー」の体系

高血圧や糖尿病に代表される生活習慣病について、テレビ、新聞、雑誌など数多くの媒体で情報が提供されており、消費者の関心は極めて高い。生活習慣病対策の市場規模は、高齢化の加速とともに大きく、確実に増大している。しかも医療費負担の増加から、消費者のセルフメディケーションに対する関心が強くなることは必至であり、その受け皿となるのはドラッグストアである。糖尿病、高血圧疾患、心臓疾患の患者を合計すると、その数は1800万人を超えるとも言われている。これほどの数の人達に対して、ドラッグストアの売り場開発において、どのような試みがなされているであろうか。消費者の悩みにお構いなく、健康食品、大衆薬、健康機器などが別々の切り口で売り場に展開されていないだろうか。

小売業が置き忘れてきたものが3つある。その第1が、厳しいコスト管理の意識とシステム構築の発想である。第2番目がマーチャンダイジング力。そして3つ目のものは、消費者起点の経営哲学の徹底である。小売業の従来型のビジネスは、売価に対していくらの値入や粗利益率を実現できるか、さらに他社よりも拡売費やリベートを多く提供するメーカーの製品を扱う――ここから始まる商品中心の経営発想であり、売上高規模の追求を優先する経営であった。小売業の多くが、「フォー・ザ・カスタマー」を標榜しながら、その経営の本質はメーカー起点の「流通パイプ装置」であった現実は否めない。

  • カテゴリー計画についてのプレゼンテーション
  • 経営環境の変化
  • 取引関係における課題
  • 今後の取引関係強化のビジョン
  • カテゴリーマネジメントの本質と取引関係強化の関係
  • 業界カテゴリーと消費動向
  • カテゴリー活性化の課題
  • カテゴリー計画の具体的な実施事例
  • カテゴリー計画への参加ステップ
  • データ交換の方法
  • データおよび機密保持の契約
  • メーカーの責任者と推進体制
  • 小売業の望ましい体制
  • 当面の準備課題

以上が本書の概要説明である。カテゴリーマネジメントは、独立した管理手法の域を超え、小売業の経営構造そのものに融合して急速に統合され、複雑化・高度化している。カテゴリーマネジメントは、メーカー主導の特定カテゴリーの計画書の作成にとどまるものではない。本書は著者も述べているが、小売業の同質化競争から脱皮した戦略開発と、この戦略的な経営を実現するためのコラボレーション型取引関係の開発に基本的視点を置いている。現在、日本のドラッグストアにおいてもカテゴリーマネジメントは、単に「商品の棚割りのこと」としか捉えられていない。本書の中で示されているように、「生活習慣病対策コーナー」があり、さらに「高血圧対策」と銘打ったゴンドラがあるケースはほとんど見当たらない。本屋にしてもアメリカでは、明るく快適な店舗空間で、購入した本を読める読書コーナーや書籍購買相談などのレファレンスコーナー、またはコーヒーショップまで置いてある店もある。日本ではまずこのような店はない。顧客満足が利益の源泉であるといった発想に乏しいと言える。そのような意味からいっても大変に参考になるし、啓発される本書である。


北原 秀猛

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•  カテゴリーマネジメント
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