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企画力表紙写真

企画力 「共感」の物語を伝える技術と心得

著  者:田坂 広志
出 版 社:ダイヤモンド社
価  格:1,470円(税込)
ISBNコード:4−478−73280−9

田坂広志氏の著書を取り上げるのは5冊目です。何といっても本質をえぐるような内容であり、読者をぐいぐいと引っ張っていく迫力があり、しかも非常に読みやすいです。

最後の謝辞でこう述べています。
『過去の著書は「仕事の思想」について多く語ってきましたが、「仕事の技術」については、語ることを控えてきました。今回初めて仕事の技術と心得について語りました。その理由はただ1つです。この国の変革を成し遂げていくためには、我々一人ひとりが、プロフェッショナルとしての力を磨いていかなければならない。そう考えるからです。』

「企画力」とは、何か。一言で申し上げましょう。「人間と組織を動かす力」のことです。プロフェッショナルの世界において、「企画力」とは、「企画を立案する力」のことではなく、「企画を実現する力」のことです。正確に言えば、企画を立案し、提案することを通じて、人間と組織を動かし、それによって、企画を実行し、実現する力のことなのです。企画とは、実行されて初めて企画と呼ぶのです。

陽明学に「知行合一(ちこうごういつ)」という言葉があります。「知ること」と「行うこと」を1つにするという意味です。しかし、いま、多くの人材が陥っているのは、この「知行合一」の喪失。すなわち「知行分離」とでも呼ぶべき病です。

プロフェッショナルは、何によって人間や組織を動かすのか。端的に申しましょう。「物語」を語ることによってです。これから企業や市場や社会で何が起こるのか。そのとき、我々に、いかなる好機が訪れるのか。では、その好機を前に、我々は何を為すべきか。その結果、我々はいかなる成果を得られるか。その「物語」を魅力的に語ることによってです。その「物語」を聞いたとき、多くの人々が面白いと感じ、想像力を掻きたてられ、様々な智恵が湧き、行動に駆りたてられる。そして、その「物語」を聞いたとき、多くの人々の間に、深い「共感」が生まれてくる。そうした「共感の物語」を語ることによって、プロフェッショナルは、人間や組織を動かすのです。では、もしそうであるならば、「企画力」の真髄とは何か。「物語のアート」です。

企画力とは、「物語のアート」です。1つの事業やプロジェクトの、理念、ビジョン、戦略、戦術、行動計画。1つの商品やサービスの、イメージ、アイデア、コンセプト、デザイン。これらを、1つの魅力的な「物語」として語る。その「物語のアート」です。では、どのような形で、プロフェッショナルは「物語」を語るのか。それが「企画書」です。「最高の企画書」とは、いかなる企画書か。この問いは我々が必ず一度、自らに深く問うてみるべき問いです。なぜなら、プロフェッショナルの世界は、「葉隠(はがくれ)」の世界だからです。プロフェッショナルが1つの道を究めようとして修行をしていったとき、必ずたどり着くのが、「何々と見つけたり」の覚悟の世界です。「営業とは、顧客との出会いと見つけたり」、「開発とは、知の格闘技と見つけたり」など、それぞれに「何々と見つけたり」の世界にたどり着くからです。

「知識」を学ぶことと、「智恵」を掴むことは違う。プロフェッショナルの「技術」とは、本来、「言葉で表せない智恵」だからです。この「言葉で表せない智恵」とは、科学者のマイケル・ポラニーが言う「暗黙知」です。

<ビジョン−IT革命がもたらす「3つの変化」>
  • 第1の変化:「企業」から「顧客」への情報主権の移行
  • 第2の変化:「企業中心市場」から「顧客中心市場」への市場の進化
  • 第3の変化:「販売代理」から「購買代理」へビジネスモデルの転換

これはあくまでも、「IT戦略」をテーマとした企画書の例ですが、このように、これから社会や市場や企業で何が起こるのか、その「ビジョン」を明確に語ることによって、企画書で語る「企み」の必要性と有効性を読み手に伝えることができるのです。

「企み」を目標に翻訳する。まだ抽象的に表現されただけの「企み」をより具体的に表現された「複数の目標」として語るということです。その「複数の目標」をただ様々な課題の「羅列」や「列挙」として示すのではなく、あたかも建物の設計図を描き、その建物の構造を示すように、それらの「複数の目標」を構造的に整理して示すということです。

例えば、先ほど例に挙げた「IT戦略」の企画書について、「企み」を「構造化された目標」に翻訳してみましょう。

  • タイトル:IT革命が求める「ニューミドルマン」への進化
  • 目標:当社が取り組むべき「3つの変革」
  • 第1の変革:「古い中間業者」からの脱皮
    IT化の進展による情報共有が進むことによる「中抜き現象」
  • 第2の変革:「新しい中間業者」への転換
    「販売代理」のビジネスモデルは淘汰される。
  • 第3の変革:「新しい中間業者」としての進化
    顧客中心市場で、様々な「購買代理」や「購買支援」のビジネスモデルを生み出していく。

企画書の第3ページでは、「目標」を「戦略」に翻訳します。
・サブタイトル:「販売代理」から「購買代理」のビジネスモデルへ
・戦略:購買代理のビジネスモデル「3つの戦略」
・第1の戦略:ワンテーブル・サービスの戦略
・第2の戦略:ワンストップ・サービスの戦略
・第3の戦略:ワンツーワン・サービスの戦略

すなわち、企画書とは次のような構成が基本です。表紙のタイトルで「企み」を短く、力強い言葉で語る。第1ページで、その「企み」の背景にある「ビジョン」を語る。第2ページで、表紙で語った「企み」を、「目標」に翻訳して語る。その構成が基本です。そして、第3ページから、この「目標」を「戦略」へ、「戦略」を「戦術」へ、「戦術」を「行動計画」へと順を追って翻訳し、語っていくわけです。

「読み手中心」の企画書とは何か。それを書くためには、人間心理の原則を理解して、企画書を作成することが必要です。その原則は次の通りです。
・第1の原則:読み手は、一瞥して目に入る文字しか読まない。
・第2の原則:読み手の思考は立体的ではなく、直線的である。

「企画書」と「説明資料」を混同しない。その違いは「自立性」の違いです。「企画書」とは本来、それ自身が1つの「自立的な役割」を果たすものです。誰かが補足で説明しなくとも、その「企画書」を読めば、最も大切なことは確実に、そして印象深く伝わる。「企画書」とはそういう「自立性」を持ったものです。

企画書とは、顧客企業の「担当者」を説得するものではない。企画書とは、顧客企業の「組織」を説得するものである。企画書とは、「一人歩き」するものと思え。企画書とは、「一人歩き」しても説得力を発揮するものとせよ。担当者という「同志」を支援するための「企画書の進化」には、もう1つ大切なことがあります。それは、「表の企画書」だけでなく、「裏の企画書」をつくる。「社外」ではなく「社内」を向いた企画書をつくる。

「裏の企画書」とは「本企画によって得られる、御社各部門のメリット」、「本企画を実施するための、御社各部門の協力関係」、こうしたことを「企画書」ほど正式の書類でなくとも構いませんので、「企画メモ」として提出することです。

企画書の勝負は、どの瞬間か。顧客が企画書の表紙をみた瞬間、顧客が企画書の表紙に書かれた「タイトル」や「サブタイトル」「キャッチフレーズ」を見た瞬間に、何を感じるか。それが勝負です。

顧客に企画書を見せるタイミングです。いかに最高の企画書を書いても、このタイミングを誤ると、せっかくのタイトルやサブタイトルの印象が薄れてしまい、企画書の「物語」として魅力が失われてしまうのです。そして、次のページをめくらせない戦いです。顧客が思わず次のページをめくりたいと思うほど面白い企画書、しかし、そのページで語られる話に深く耳を傾けたくなるほど面白い説明。すなわち、最高の企画書と最高の説明。それは、まさに「最高の矛盾」を実現するための戦いなのです。

以上が本書の概要です。この概要でおわかりかと思いますが、過去に「企画書」に関する書籍は数多く出版されていますが、これだけ具体的に、しかも、本質的に書かれた本は初めてであると言えるでしょう。もはやこれ以上のものは書けないと言えます。著者が述べているように、「仕事の技術」について書いたのは初めてです。その技術論を書いた理由は、我々一人ひとりがプロフェッショナルとしての力を磨いていかなければならない、と強く思ってからと語っています。それだけに、本書には著者の渾身の力が込められていると言えます。一読をお勧めします。


北原 秀猛

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•  仕事の技術
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