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めしのタネ発見地図表紙写真

めしのタネ発見地図 −ビジネスチャンスが変わった 成功事例付き

著  者:島田 晴雄
協  力:伊藤 滋(早稲田大学特命教授)、小宮山 宏(東京大学副学長)
出 版 社:かんき出版
価  格:1,470円(税込)
ISBNコード:4−7612−6151−X

日本経済は低迷を続けていましたが、ようやく明るい兆しが見え始めているように思えます。民間の設備投資は上向いているし、雇用者数も確実に増えています。それは、民間企業の努力とともに、政府の構造改革による経済活性化策がやっと効果を現し始めたと見るべきでしょう。そこで、新しい時代の需要構造に対応した21世紀型産業をどう構築するかを考えるべきです。では、21世紀型産業とは何か。それは人々が欲してはいるけれど、まだ商品やサービスとして具現化していないウォンツ(潜在需要)に応える産業です。20世紀、日本経済が驚異的に発展してきたのは、その時代の産業が日本や世界の人々のウォンツを的確にとらえていたからに他なりません。しかし日本経済の現状を見ると、従来からの社会経済システムから脱却できず、新しい時代のウォンツに応えきれていないところに、長期不況の根因があると考えます。

私は内閣府特命顧問として、生活産業を中心とした「21世紀産業の創出」を掲げ、さまざまな政策提言を続けています。それらの多くは「530万人雇用創出プログラム」として、関係省庁が一体となって取り組むべき具体的な政策として既に実行段階に入り、サービス産業を中心に既に約200万人の雇用が創出されようとしています。このような日頃の考えを、なるべくわかりやすくまとめたのが本書です。本書には、これから10年に向けて注目が予想される市場が紹介されています。つまり、民間のウォンツとニーズがあり、それに応える技術革新があり、国が、法律的にも制度的にも支援しようという市場です。

本書はPart 1:「経済が変わる」、Part 2:「生活が変わる」、Part 3:「社会環境が変わる」に分れ、そのPartがさらに章に区分されています。

そもそも、人々が抱えている潜在的需要(ウォンツ)は、新しい技術やサービスに出会わないと、明確な顕在需要(ニーズ)となりません。例えば、人類は古代からずっと空を飛びたいという欲求(ウォンツ)を持っていました。それをニーズという具体的な形にしたのは、ライト兄弟の技術とそれを安価な料金で便利に提供した航空機産業の力です。

アート引越センターの場合もそうです。並みの運送業者と決定的に違うのは、引越を運送業者ではなくサービス業と考えたことです。そもそも引越は主婦の負担が大きく、実際に注文をするのも8割が女性のようです。そこで、主たる顧客である主婦の手間をいかに省けるかが大事なポイントと考え、ここに絞ったサービスを追及しました。

今後大きく伸びると期待されるウォンツの具体的な中身は、健康、長寿、高齢者ケア、安全、安心、快適、便利、美容、コミュニケーション、自己啓発などが考えられます。20世紀型産業は、いまでこそ日本経済の収縮の主役などと言われていますが、戦後復興と輝かしい経済発展を支えてきたのです。つまり、鉄鋼、電機、自動車、造船、重機械、化学、部品、基礎資材、エネルギー、金融、建設、不動産など、経団連を中心に日本経済の主役を担ってきた産業に他なりません。

戦後の驚異的な発展は輸出よりも国内の需要の顕在化によってもたらされました。それは同時に、特異な需要構造によって支えられていたのです。その構造は若い人を中心としたピラミッド型の人口構造そのままでした。その需要構造の特徴は、多数を占める若年層がすべての点で向上心旺盛で、日本の活発な内需の主役だったところにあったのです。この需要構造が20年の間に大きく変貌することになったのです。若年層の人口は減少して、いまや日本の人口構造は上が小さく下が大きいピラミッド型から、上と下が小さく中間が肥大した提灯・釣鐘型に変貌しました。しかも、この少数になった若年層は小遣いも少なく、昔の若者ほど買い物に情熱を燃やそうとしません。

日銀の量的緩和で、貨幣量は実態経済以上に供給されています。それにもかかわらず、企業が資金を借り入れようとせず、実際の経済活動に投入されている貨幣量が少なくなっているのが現状です。

現在、第3次産業全体で3867万人にのぼる就業者のうち、成長が著しい9つの重点分野に絞り(個人向けサービス、企業・団体向けサービス、2次住宅サービス、リーガルサービス、高齢者ケアサービス、子育てサービス、医療サービス、社会人向け教育サービス、環境サービス)、時代の流れをとらえ、5年後を目標に意識的に雇用を創出しようとする戦略が「530万人創出計画」です。

急速に高齢化しているわが国では、現在335万人にも及ぶ要介護の認定を受けた高齢者がいます。しかもこの数は、20年後には520万人に達するものと予想されています。これに対して、公的な介護施設(特別養護老人ホーム、老人保健施設、療養型病床群、ケアハウス)の収容能力は2002年現在、67万人にすぎません。

日本の住宅には問題が多いと言われています。まず、欧米の先進国に比べて、広さや質で同等なら建築費は確実に2〜3倍も高いし、土地も高いのです。日本では、新築一軒に対して中古は0.14軒しか買われていません。アメリカでは3.19軒も買われています。つまり、アメリカ人の購入する住宅の8割が中古住宅であり、よほどのことがない限り新築の家を買うことがないほどです。1968年、日本の家計数2500万に対し、住宅戸数は2550万戸となり、これは統計上全国民がマイホームを持ったことになります。日本の税制では、新築の家を造るときは有利ですが、中古住宅の売買には不利になっています。だから、住宅の流通市場が育たなかったわけです。地価の下落と賃金の停滞により住宅取得が困難になっている状況は、持ち家率の変化を見れば、既にバブル崩壊以降はっきりしています。高齢者の高い持ち家率を背景に、全体の持ち家率が横ばいなのに対して、30代の持ち家率は明らかに下落しています(平成10年 全体60.0%、30代39.0%)。つまり、世代間の持ち家率の格差が拡大していることを物語っています。

現在、日本全国に公的保育所が2万3000ヵ所あります(うち公立保育所1万3000ヵ所、社会福祉法人の認可保育所1万ヵ所)。この数はおそらく世界でも有数の水準です。しかも、国の予算に4600億円が計上され、これに地方の予算を合わせると、公式には9300億円、実際にはさまざまな公費負担があり、1兆5000億円にのぼるという推計もあります。これだけの予算を投じながら、実は待機児童は非常に多いのです。

日本の法律は、基本的にやってよいことを記述するポジティブ・リスト方式です。これに対して欧米先進国など世界の主流はネガティブ・リスト方式を採用しています。ポジティブ方式の日本では、リストに載っていないことはすべてやってはいけないことになりますので、どうしても役所の意向を気にするようになってしまいます。そのため、意欲的な産業は育ちにくいと言われています。

産業のサービスというものは、提供する側も十分な情報を持っていることにより、適正なサービス内容や価格が実現されるものです。そして、この情報の対称性によって、市場の原理が正しく機能しているのです。ところが、この市場の原理は医療サービス分野ではまったく通用していません。医療情報を提供する側の医師は、圧倒的に医療知識を持っていますが、一方の患者はほとんど持っていません。それにもかかわらず、医療情報の開示が不十分なのです。医療情報には、大きく分けて次の3つがあります。

  1. 個人の生涯を通じた健康・医療情報
  2. 医師・医療機関に関する情報
  3. 治療方法に関する情報

そこで、上記のような情報をわかりやすく解説してくれるサービス、時には患者と一緒に医師から説明を聞いたり、患者に代わって医師に質問したりしてくれる、いわば医師と患者の橋渡し役になってくれるサービスが必要になります。このように患者にとってのコンサルティングサービスが「医療通訳者サービス」です。

日本の農業就業人口(自営農業のみに従事したものと農業を主とする従事者の合計)は375万人ですが、その中で農業従事度の高い基幹的農業従事者(ほぼ専業農家)はわずか231万人しかいません(2002年調べ)。この基幹的農業従事者の65歳以上の割合は、1985年の19.5%から53.3%へと大幅に上昇し、ついに過半数を占めるほどになっています。

欧米諸国の食料自給率(2000年度カロリーベースの総合食料自給率)は、オーストラリアの280%は別格にしても、アメリカ125%、フランス132%と高水準で、低いイギリスでも77%です。しかも、いずれもここ数十年の間に上昇しています。これに対してわが国は年々下降を続け、いまや40%で、穀物自給率、供給熱量自給率では28%に落ち込んでいます。

農業の発展を阻害するものとして、農業協同組合の存在があります。農協は、戦後の経済発展の過程で農家をバックアップする上で、確かに一定の役割を果たしてきました。しかし、農薬やその他の資材にしても、他の業者に比べて価格が高いだけでなく、サービスも悪く、いまや本当に農家のためになっているのか疑問があります。つまり、ライバルの民間企業ほどには生産性向上の努力をしているとは思われないのです。さらに、日本の農業経営が法人化の問題を含めて近代化が遅れているため、技術的にも経営的にも他産業の人から見て魅力に欠けています。このままでは老衰死する恐れすらあるのです。

トレーサビリティ・システムとは、例えば「食品が、いつ、どこで、どのように生産・加工・流通されたか」、を消費者がいつでも把握できるようにするシステムのことです。総合的なトレーサビリティ・システムが実現することで、あらゆる食品の生産者と消費者の間に「顔の見える関係」が構築されるようになります。トレーサビリティ・システムの中核は、各食品にデータを保持させる仕組みと、分散的に配置されたデータベースの統合にあります。

環境分野でグリーン経済・社会システムを確立して循環型社会を実現し、快適で美しい環境を取り戻すには、次の要件を備えている必要があります。

  1. 健康的な水・空気・土の回復
  2. 分別・排出・処理システムの構築
  3. 静脈システムの整備
  4. 動脈システムのグリーン化
  5. 快適な都市生活のための整備
  6. 地域の自立と農林業の活性化
  7. バイオマス社会の構築

循環型の社会経済システムを機能させるための技術革新は多彩で成果も上がっている。自然になじむ技術ほど求められている。これらの環境分野での技術革新が実現すると、(1)環境情報の管理、分析、提供サービス、(2)バイオマスファイナリ社会支援サービス、(3)環境保全・修復サービスなどの市場・産業の創出が期待できます。

世界のトップ水準に追いついた現在、我々には目標とすべきモデルはもはやありません。世界のフロントランナーとして自らの価値観に基づき、新しい生活、新しい社会を世界に向かって提示しなくてはならない立場に置かれているのです。こうした情勢に対し、教育ではつねに新たな知を創造し続ける「知の好循環」を実現することで、個人、社会から地球環境までを守り育て、活性化することを目指したいと考えています。

以上が本書の概要です。小泉政権が登場して以来、その構造改革路線に対しては賛否両論があるにしても、改革は着実に進んでいます。ただその改革は、不良債権処理のような痛みを伴うものであると同時に、雇用創出型であることが不可欠です。雇用創出を中心とする「明るい構造改革」では、生活産業創出、技術革新、都市再生は三位一体の関係にあります。本書を読んでいただくと分かりますが、日本は大きく変わろうとしています。政府も将来必要となると思われる分野には、思い切った予算を投じています。世界的規模での競争はますます厳しさを増してきますが、独自の発想で、他国にないアイデアを駆使して我々国民に誇りと勇気が出せる国づくりを目指していかなければなりません。当然企業も第3次分野で大きく羽ばたくことが条件になります。


北原 秀猛

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•  潜在的需要
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