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しなやかに したたかに表紙写真

しなやかに したたかに

著  者:渡辺 淳一
出 版 社:NHK出版
価  格:1,365円(税込)
ISBNコード:4−14−080873−X

私たちは今、激動の21世紀に生きています。かつて、いまほど、「進歩するもの・進歩しないもの」の乖離が激しい時代はありませんでした。この刻々と変わりゆく日々、特に現代医学と現実との狭間の中で、どう考え、どう生きていくかについて記してみました。

本書は、「NHK人間講座」で2001年12月から2002年1月に放送されたテキストに大幅に加筆訂正したものです。構成は、1章:進歩するものとしないもの、第2章:鈍さという才能、第3章:オトコからオンナの時代へ、第4章:自分らしく生きる、第5章:ガンとの闘いから共存へ、第6章:よき病院・よき医師とは、第7章:安楽死を考える、第8章:臓器移植と日本人、第9章:最先端医療の問題点、第10章:老いたら不良(ワル)になれ、となっている。

人間の中には、極めて進歩するものと、ほとんど進歩しないものと、この2つが潜んでいることを学びました。では、どういうものが進歩するのかというと、いわゆる知性とか理性といった、学んで覚えていける領域に含まれるもので、こうした学問的なものは日進月歩で変わっていきます。これに対して、情念や感性、さらに愛とか性愛(エロス)といった領域のものはほとんど進歩しません。ところでときに、次のようなことを口にして嘆く人がいます。「現代の文明がこれほど著しく進歩しているのに、人間は相変わらず好きだとか嫌いだとか、許せるとか許せないなどと、くだらないことを言ってけんかを繰り返して、なんと進歩しないものなのか」。しかしわたしは、そういうつまらないけんかを繰り返して進歩しないところこそ、極めて人間的と言うか、人間くさいところであると思います。善悪はともかく、そういうところがあるからこそ人間なのです。

本書では、そのような人間の特質を見据えながら、変貌著しい現在の医学や男女のありかた、さらには老後の生き方まで、それらをどう捉え、どう生きるかについて考えてみたいと思います。

往々にして、わたしたちは近代科学文明の異常な進歩に目を奪われ、自分たちも進歩していると思いがちですが、それは誤りです。21世紀は、こうした進歩するものとしないものとの乖離がより顕著になっていくと思われます。人間は知識を重ね、理想を実現しようとする「進歩する生き物」であると同時に、憎しみや嫉妬や怒りといった素朴な感情を持つ「生々しい生き物」でもあるのです。この事実を冷静に、かつ謙虚に受け止めることなく、近代社会の理想やタテマエばかりに目を向けると、現実とホンネの部分との間に大きな開きが出てきます。そしてそれが現代を生きる人々にとって、大きなストレスとなってくるのです。

健康になるための要点を一口でいうと、全身の血がよく流れるようにすること、この一点に尽きると思います。きれいな血が澱まず、サラサラと流れることが大事で、いつも全身に血がスムーズに流れていれば、そうそう病気になることはありません。逆にこの血の流れが澱んで汚れると不健康になる。健康な状態、不健康な状態を単純に易しく言うと、こういうことになると思います。わたしたちの身体、特に血管は、神経の影響を大きく受けています。人体を解剖してみるとよくわかります。ストレスの多い人は血の流れが悪くなって血管が細くなり、その末端の組織に十分な酸素や栄養を補給できなくなります。そしてその状態が長く続くと、その血管の末端にある組織が痛めつけられ壊れてきます。ストレスというものを忙しさと理解すると間違いで、そうでなく、ストレスとは精神的に不快で嫌なこと、と考えた方がわかりやすいと思います。

いままでは、男達が女性を選んでいたのに、最近は女性が男性を選別し、評価する時代になってきました。こうなると、男は学歴、年収、身長のいわゆる「3高」ではダメ。というより古くなり、いかに女性の好みに合い、女性を心地よく喜ばせるか、性的にも女性に優しく満足させ得るか、そういうことが重要になり、その能力の有無で男性が選別される時代になってきました。要するに、男の選別基準の中に、新たな評価ポイントが導入されてきたのです。

従来の社会は、男性が考えて造った社会ですから、年功序列、権威主義などを優先させる社会でした。そして男性はいったん何かを造り上げてしまうと、その後は保守的で権威主義になり、新味がない。これに比べて女性の発想、女性の視点は男とはかなり異なり、総じて柔軟で革新的と言ってもよさそうです。

結婚を一種の保険と考えれば、自分に自信のない人や気の弱い人は、この「保険」に入っておいた方が無難なことは確かです。結婚のメリットの第一は自分の好きな人、最愛の人と密着して、世間的にも堂々と一緒に暮らすことができるという利点です。そしてもう一つ、結婚の利点は子供を堂々と持つことができることです。

いい病院やいいお医者さんを増やしていくためには、日本の医療の根底に大きな問題があります。それは健康保険制度が抜本的には改正されていないことです。いまの日本の健康保険制度は悪しき平等というか、均一主義で、反面、診療報酬は安すぎで、さらに健康保険の適用外のものが多すぎるのです。これほど治療や検査が多様化して複雑化したら、保険制度そのものも変えなければなりません。医師側から見ても、この悪しき平等は問題です。例えば、ベテランの医師が手術をしても、昨日医師免許を取ったばかりの新米医師が手術をしても、保険点数は同じです。さらに問題なのは、医療に関する相談料が安すぎることで、安いから1分診療になってしまう。さらに現行健康保険制度では検査、投薬、注射などをしないと儲からない制度になっているので、過剰投薬をして、医師と患者さんの会話が少なくなるのは当然です。健康保険が不適切で、医師の報酬が全体的に安く、それが結果として患者さんの方にしわ寄せされている。

積極的安楽死が法的に認められているのはオランダだけです。オランダで成立した安楽死法では、(1)患者の希望が自発的で熟考の末であること(2)患者の苦痛が耐え難いもので、改善の見込み我ないこと(3)医師が患者の病状と回復の見込みなど今後の予想を詳しく説明していること(4)患者との話し合いの結果、双方が他に適切な解決方法がないと納得すること(5)それまで患者に関わっていない医師少なくとも1名の意見を聞き、協議がなされたこと、という5つの条件を満たせば、安楽死や自殺幇助を行った医師が刑事責任を問われることはないことになっています。

現代医学の進歩はまさしくわたしたち人間がつくったもので、わたしたちはそのすべてに責任を負わなければなりません。そういう視点から、ドナーになるということ、臓器移植を受けるということを一度ゆっくり考えて欲しいものです。臓器移植には4つの権利があるということを付け加えておきたいと思います。4つの権利とは、まず臓器移植を受ける権利と拒否する権利。皆さん方が心臓が悪くなって心臓移植しか方法がないと医師が言ったときに、「ぜひ受けたい」あるいは「いらない、このまま死にます」という権利があるということで、これがレセプター、いわゆる受ける側の権利です。そしてドナーには、臓器を「あげる」権利と「あげません」という権利があります。一部の人が危惧するように、うっかりすると勝手に取られる、などということは絶対にありません。

いままで、美容整形をする人は圧倒的に美人が多かったようです。なぜブスはしないのかという疑問が生じますが、それはカンニングする生徒と同じなのかもしれません。だいたいカンニングは、すごく成績のいい子と、まったく駄目な子はしません。実際、この両者はする必要がないし、しても無駄です。そこで最もするのは70、80点は取れて、もう少し頑張ると100点に近くなる子です。美容整形もそれと同じで、猛烈な美人と大変なブスはしなかった。もうひとふんばりすると美人の仲間入りできる、そういう人が一番望んでいたのです。しかしいまは時代が変わって、いわゆるブスの人もするようになりました。これはとても素敵なことです。ずっと虐げられていた人が、立ちあがったのですから。これこそ平等に一歩近づいたことになります。

高齢者を見てつくづく思うことは、同じ老いでも非常に個人差があるということです。20代や30代では、会社をはじめ、さまざまな場面で禁じられていた恋愛も、年を取ったら奨励すべきものに変わっていくのです。この場合、気になるのは容姿の衰えです。これは男女とも避けられませんが、男はいくつになっても、若くてきれいな女性を望みがちです。でもそんなおじいさんには、「自分の顔を鏡でよくご覧なさい」と言ってあげた方がいいかもしれません。これに対しておばあさんは、それほど若い男を望みません。むろん若くてハンサムな男性は好きでしょうけど、自分の容姿の衰えに恥じらいがあったり、相手に対して容姿ではない魅力を発見するのが上手で、きちんと年相応のおじいさんの方に気持ちを向けてきます。競争率の問題もあって、概しておばあさんの方が積極的に動くことが多いようです。「今日は寒いわね、大丈夫?」などと言いながら、好きなおじいさんの部屋に入り、ひざ掛けなどを掛けてあげるうちに、おじいさんの部屋に居座るようになり、やがて二人は一緒になります。それに引き換え、おじいさんは好きなおばあさんができても、部屋の前でうろうろするだけで、いくつになっても男の方が不器用で、よく言えば純情と言えるかもしれません。

以上が本書の概要です。本書の著者である渡辺淳一氏は、札幌医科大学卒業の医学博士であることは、よくご存知の通りです。本書はその専門を活かして書き上げた本と言えます。最初に述べたように本書は、「NHK人間講座」(2001年12月〜2002年1月)で放送されたテキストを中心に書いているので、変貌著しい現在の医学や男女のあり方、さらには老後の生き方まで、どう生きるかを問いかけている本です。ガンはなぜできるの?日本人のガンの特徴、いいお医者さんとは、医療と資本主義、日本の安楽死、脳死と臓器移植、日進月歩の医学とどう付き合うか、老人ホームでの恋愛など、私たち自身が考えていかなければならないことをいろいろと問題提起をしています。話の種としても興味が持てる本書です。


北原 秀猛

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