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日本の真実

著  者:大前 研一
出 版 社:小学館
価  格:1,470円(税込)
ISBNコード:4−09−389609−7

日本は世界のどこの国よりもお金がある。政府部門は枯渇しているが、民間部門にはお金がうなっている。個人金融資産は1400兆円。ただし、死ぬ時に1人平均3500万円のお金を持ったまま墓場に行く。これは文字通り“死に金”である。このお金がマーケットに出てくれば消費が増える。消費が増えれば景気が良くなる。ということは、日本の「景気対策」は簡単である。今は貯蓄として“冷凍”されているお金を“解凍”してマーケットに出し、消費が起こるようにすればよいのである。

ただし、そのためには、政府がそうなるように仕向けなければならない。例えば、築30年以上の家をリーズナブルに建て替えられる優遇税制を導入したり、街並みを統一して整備できる規制緩和を断行したりしなければならない。そうすれば、日本は向こう20年ぐらいは繁栄するのである。逆に言えば、政府が税制改革や規制緩和を進めなかったら、日本は必ず沈没する。

「小さな政府」にして、若い人たちにお金が回るようにして、大量にリスクテイカーを創り出していく。そうすれば5年後、10年後には新しい産業がいくつも誕生し、おのずと明るい未来が開けてくるはずだ。

本書は第1章:鉄のトライアングルからオクタゴンへ、第2章:海と空の国際競争力の欠如、第3章:幼児国家の病理、第4章:屈折する日本人の「愛国心」、第5章:教育を憲法で再定義せよ、第6章:何でもかんでも「超法規」、第7章:「豊かさ」実現の新思考、第8章:日本経済「常識のウソ」、第9章:金はなくても改革はできる、以上9章の構成になっている。

鉄のトライアングル(三角形)」。利権によって強固に結び付いた政・官・財の関係を1986年に出版した「新・国富論」で名付けた。しかし、その比喩は今や当てはまらない。角が2つ増えたからである。つまり、政・官・財に大マスコミと御用学者を加えた「鉄のペンタゴン(5角形)」になっているのだ。しかも、ペンタゴンでは終わらず、ヘキサゴン(6角形)、セプタゴン(7角形)、オクタゴン(8角形)と、どんどん多角化している。要は、官僚に擦り寄らないと飯が食えないとばかり、あらゆる層が官僚にゴマをすりはじめているのである。総研のほとんどは「鉄のオクタゴン」に組み込まれ、マスコミや御用学者と異口同音のことしか言わない。悲しいかな今の日本では「小さな政府」派の意見は全く聞こえてこない。私の知る限り、今や本気で政府を批判している学者は日本に1人もいない。なぜなら、政府に逆らったら、学者として生きていけないからである。

さらに最近は、弁護士も政・官・財を中心とする利権構造に取り込まれている。その舞台は、再生可能性がある過剰債務企業を債権の集約化を促進することで有利子負債を削減して迅速に再生する(要は、潰れそうだが、まだ潰れていない企業を再生する)、という目的で設立された「産業再生機構」である。すべての再生案件に弁護士を何人か入れなければならないことになっている。つまり、再生案件が増えれば増えるほど弁護士業界が潤うわけで、これが弁護士の一大利権になりつつあるのだ。産業再生と言えば聞こえはいいが、13兆円もの予算を投じて「再生」されるのは、潰れた方がいいような事業会社ばかりだ。国民のカネで救済する必要など毛頭ない。

小泉首相が2003年11月の総選挙で掲げたマニフェストの柱は、郵政3事業と道路関係4公団の民営化だった。これを小泉首相は改革だと言っているわけだが、どちらも国民には何の関係もないことだから改革ではない。しかし、自民党内では大きな意味がある。自民党内の郵政族と道路族、もっと言えば橋本派の利権の巣窟に対する“踏み絵”としての意味である。小泉首相は民営化という“踏み絵”を踏むかどうかを、今後の人事に結び付けようとしている。言い換えれば、人事権をちらつかせて“踏み絵”を踏むように迫っているわけだ。ということは、郵政3事業と道路関係4公団の民営化は、「政策」ではなく「政局」なのである。

今、日本の産業の多くは、国際競争力を急速に失っている。国際競争力を失っている産業の特徴は、例外なく政府が介在したことである。逆に、政府が介在せずに放っぽらっかしにした産業は、おしなべて強くなっている。日本の政府は弱い産業が好きだ。農業などはこの10年間で42兆円もの事業費を投入している。それで、ますます国際競争力は低下している。銀行にも100兆円も使ってくれたが、国際競争力は低下の一途。かつて日本は「鉄は国家なり」と言い、国策として鉄鋼生産に力を入れた。「半導体は“産業のコメ”」だと言って、半導体の増産を奨励した。この2つの産業は、一度は世界一の座に就いたわけだが、それ以後、日本政府が主導して成長した産業は何もない。なぜなら、政府そのものが方向感覚を失っているからだ。

人口約220万の長野県で、消費者金融に対する融資の審査請求が年間約500万件もあるという。これは異常な数字だと思うが、全県民が消費者金融に手を出しているはずはないから、仮に全体の4分の1とすれば55万人。ということは、この試算だと消費者金融の利用者は1人当り10件ぐらいずつ審査請求をしていることになる。日本全国で消費者金融のブラックリスト、グレーリスト(不良債務者名簿)に載っている人は700万人に達している。この状況は日本人の幼児性を象徴していると思う。

この先、日本は人口がどんどん減少する。そういう国が繁栄する方法は、世界中から企業、技術、情報、人、お金に来てもらう「貸席経済」しかない。したがって、日本は一刻も早く規制緩和を断行し、外資にマーケットを全面開放する仕掛けを作らなければならない。

日本人に「愛国心」はあるのか?少なくとも、私が訪れた世界の国々の中で、最も愛国心が希薄なことは確かである。まさに朝日新聞的戦後民主主義の弊害の最たるものだ。オリンピックの表彰式で、日の丸が揚がると涙を流す人がいるが、そういう時だけ泣くなと言いたい。愛国心が大切だと言う趣旨の発言をすると、すぐに「おまえは右翼か!」と批判される。私が知る限り、世界広しと言えどもこんな国は日本しかない。日本人には国に対するアイデンティティが世界のどこよりも欠けていると言わざるを得ない。日本のおかしな点はまだある。建国記念日や昭和天皇誕生日を国民の祝日にするようなチープな愛国心である。昭和天皇誕生日なら素直に呼べばいいのに、「みどりの日」というおかしな言い方をする。

大学の役割は、世界的に競争力のある人間集団を創り出すことである。そのために、まずは自分で飯を食べていけるだけのスキルを学生に取得させなければならない。だからこそ、高校までを義務教育にして、社会人として立派に生きていく“知識”と“道具”を与えてしまい、それを終えたら選挙権も持った社会人として職業訓練のための大学に行くというシステムに変えるべきなのである。

日本の基礎教育はお粗末極まりない。特に北欧4国(デンマーク、フィンランド、スウェーデン、ノルウェー)のITは、この10年余りで大きな差がついてしまった。90年代に入って奇跡的な復活を遂げた3つの理由の1つ目は、人口500万〜900万人という小国の北欧4カ国が厳しい世界競争の中で生き残っていく手段としてITを選び、それに全力を投入したこと。法律もIT中心に全部改正した。それによって携帯電話のノキア(フィンランド)や通信のエリクソン(スウェーデン)などが一気に世界企業に成長したのである。2つ目は、英語教育を徹底的に強化したこと。3つ目は、クリエイティビティを伸ばし、起業家精神を育てる教育に重点を置いたこと。成果は早々に現れた。現在、北欧には非常に小さなマーケットで世界一になっている企業が多い。例えば、バイオマス(生物が創り出す有機物を利用するエネルギー)、風力発電、老人医療の補助器具などである。

日本人の大半は知らないようだが、銀行の企業に対する債権放棄は法律違反である。債権放棄できる根拠は、日本の法律のどこを探してもないのである。普通の国では、銀行が債権放棄することはできない。そんなことをしたら、間違いなく銀行ライセンスを取り上げられる。あるいは、預金者や株主に訴えられて法廷闘争になる。銀行が勝手にA社だけに債権放棄して、B社にはしないというのは道理が通らない。

ことほどさように政府がやっていることは、金融問題の処理にしても、陸上自衛隊のイラク派兵にしても、嘘の連続なのである。日本という国は官僚や政治家が嘘をつく国だ、ということを(情けない話だが)私たちは常に念頭に置いていなければならないのだ。

今の日本では「国が変われ」という議論をしている人が多い。だが、それは逆である。「国は変わらない」という前提の下に、個人や企業がいかに生き延びるかを考えるべきなのだ。私も国を変えようと20年余にわたって努力してきたが、残念ながらこの国は、明治維新のようなクーデターが起きるか、第2次世界大戦後のように他国に占領されない限り、変わることはない。従って私たちは国を頼らず、個人、家庭、企業の単位で世界に通用する解決策を考え出していくしかないのである。

大半の官僚は自分たちが公僕である、ということを忘れているとしか思えない。公僕の給料は国民が払っている。つまり官僚は国民に雇われている身だ。にもかかわらず彼らは国民に嘘をつき、さらに国民のポケットに手を突っ込んで自分たちの監督不行き届きを隠しまくっている。これは国民に対する背任行為に他ならない。

1人当りGDPで見ると、日本はいつのまにか3万7000ドルになった。これはノルウェーに次いで世界第2位の高さである。しかし、私たちにそんな生活実感は全くない。ノルウェーに行ってみれば、豊かさの差は一目瞭然だ。なにしろ各家庭がヨットを持ってマリンレジャーを楽しんでいるのだ。一方、日本でヨットを持っているのは、よほどの金持ちかヨット愛好者だけである。なぜ、1人当りGDPが変わらないのに、豊かさにこれほど大きな差があるのか?実はプラザ合意以降、日本人の生活の質はほとんど変わっていないのだ。為替が3倍になっただけである。つまり、日本人の1人当りGDPはまだ実質1万2000ドル、高めに見積もっても1万8000ドルぐらいなのである。そう考えれば、ノルウェーとの豊かさの差も納得できるというものだ。豊かさの定義が人それぞれであることも確かだ。ただし、日本人の最大公約数というものはあるだろう。その代表は住宅である。日本の住宅の価格は世界標準から見ると、べらぼうに高い。それに、中古になると上物の価値がなくなってしまうことだ。もう一つは、他人が建てた家、他人が住んだ家には住みたくない(マンションの場合はその限りではないが)、という日本人独特の感覚がある。私の知る限り、そういう感覚は世界のどこにも類がない。

この21世紀型の「地域国家」には最適単位がある。それは人口500万人、最低300万人、最高2000万人という単位である。2000万人を超えると、意見が3つにも4つにも分かれて一致しなくなってしまうので、繁栄の単位にはならない。なぜなら、カネや企業や人材などは、混乱しているところには来ないからだ。このことに気がついていないことが、今の日本が繁栄していない理由でもある。つまり日本は中央集権で、国全体で1つの答えを追い求めている。しかし、今の日本の中には複数の答えがあり、かつ地域によって事情が違う。従って富を生み出すためには規制緩和が不可欠だ。日本のようにすべての産業が規制でがんじがらめになっていると、外国の企業や人材が来ても窮屈でしょうがないし、安心してビジネスができないし、利益も出ない。特に、通信と運輸と金融の規制緩和は待ったなしだ。なぜなら、この3つが21世紀の繁栄のカギを握る3大産業だからである。

では外資にとって日本の魅力とは何なのか。それは巨大なマーケットである。100%関税なしでの輸入は認めないにしても、例えば日本国内で加工するなどして付加価値を3割以上つける場合は自由に持ってきて自由に売っていいですよ、ということにすれば、おそらく食料品や住宅・生活関連物資の産業が世界中から一斉に日本へ集まってくる。特に規制の厳しい農産物や畜産・酪農などは一気に進出してくるだろう。

*** 私の11の提案 ***


第一は「大都市の整備」
第二は「住宅建て替えの促進」
第三は「リバースモゲージ型生命保険の新設」
第四は「相続税の減税」
第五は「サラリーマンへの減損会計の導入」
第六は「商店街の活性化」
第七は「企業の跡地利用」
第八は「公共財産の現金化」
第九は「学校法人のベンチャー企業併設認可」
第十は「老人ホームの自営促進」
第十一は「義理の里親制度による託児所」

以上11項目が生活者の視点による私の「総合デフレ対策・日本再生プラン」である。どの対策も制度を変えるだけで可能になる。税金や公的資金をほとんど使わずに消費を拡大し、経済を膨らませることができる。すべて合わせれば、経済効果は10兆円以上に達するはずだ。

以上が本書の概要である。われわれ日本人の特徴に、「長い物には巻かれよ」といった発想が強くある。それが「お上意識」となっているし、「お上」という言葉をよく使う。本書では著者の大前研一氏が「オクタゴン」の表現であるように、官を中心とした構図がどんどん拡大している。そして著者は、「今の日本では“国が変われ”という議論をしている人が多い。だが、それは逆である。“国は変わらない”という前提の下に、個人や企業がいかに生き延びるかを考えるべきなのだ。自分も国を変えようと20年余に渡って努力してきたが、この国は変わらない」、と述べている。現実に国家公務員の試験を受けて合格しようとするならば、国の考え方にすべて賛同しなければならない。誹謗中傷などとんでもない話であり、個人的な考えなど挟む余地はないのである。著者が言うように国を変えようなどと考えるな、である。年金の問題1つ取り上げても、官僚は都合のよいデータのみを使って国民を欺いているとしか言いようがない。本書は本題の「日本の真実」とあるように、著者の目でみた真実を語っているのが特徴である。


北原 秀猛

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