HOME
会社概要
セミナー
教育関連
海外情報
書籍
お問い合わせ
ワールドネット
HOMEUBブックレビュー詳細





伸びない市場で稼ぐ!表紙写真

伸びない市場で稼ぐ!〜成熟市場の2ケタ成長戦略〜

原 書 名:How to grow when markets don't
著  者:エイドリアン・スライウォツキー、リチャード・ワイズ
訳  者:中川 治子
監  訳:佐藤 徳之
出 版 社:日本経済新聞社
価  格:1,785円(税込)
ISBNコード:4−532−31135−7

A・スライウォツキーはハーバード大学卒、現在、マーサー・マネジメント・コンサルテイングのマネージング・ディレクターを務める。R・ワイズもマーサー・マネジメント・コンサルテイングのマネージング・ディレクターと北米戦略部門のヘッドを務める。

20年前、利益成長へのカギは製品やプロセスのイノベーションが握っていた。ところが、ここ10年来、この究極の成長方程式も機能不全に追い込まれた。これまでの方程式が通用しないゼロ成長時代に、すぐにでも取り組むべき課題とは次の4つである。

  1. 市場飽和状態とゼロ成長時代への洞察
  2. 新しく、強力な成長方法論の確立
  3. 活用されていない隠れた資産を活かす潜在能力
  4. 高成長と利益を創り出すディマンド・イノベーション

顧客のトータルな経済的課題」というレンズを通して見直すことが必要だ。顧客の「より高次元のニーズ」(純粋な製品の機能を超えたニーズ)は何か、顧客の経済性を改善するために何ができるか、と問い直してみよう。

本書は、第1部:2ケタ成長への新しい道、第2部:ディマンドの革新者たち、第3部:成長を実現する方法、第4部:成長のフロンティア、第5部:成長へのスタート、に区分され、さらにそれぞれの部が章に分かれており、5部17章の構成になっている。

本書のテーマは2ケタ成長である。具体的に言えば、多くの企業が今日直面し、これから先も待ち受けている困難な状況の中で、企業はどうやって成長していけばいいかを考える本である。1990年代の華々しい成長物語の立役者となったM&Aは、1994年から2000年にかけて数は7倍、年間1兆4000億ドルに達した。当時、株価の高騰に支えられ多くの企業が安い買収に走ったが、株価が落ち着くにつれ、その数は急激に減った。さらに、多くの業界で整理統合が進み、独占禁止法への懸念がM&Aによる将来的な成長戦略の障害となり、実現可能な買収ターゲットの数が激減したことも一因である。いずれにせよ、買収によって新しい価値が創出される可能性は極めて低く、どちらかと言えば失敗に終わるケースの方が多いことは調査でも判明しており、投資家の意欲を殺ぐ結果となった。1990年代の成長率も、国際市場への進出と買収活動によって底上げされた成果を差し引いて考えると、それほど目覚ましいものではない。

この成長危機時代への新たな対応策に先鞭をつけたのは、先見の明のある一握りの企業だった。彼らは製品そのものの改善ではなく、製品を取り巻く難題や課題に取り組むことで、新しい成長と価値の創造に力を入れている。製品イノベーションからディマンド・イノベーション(需要革新)ヘとアプローチを転換したのである。現在の中核となるビジネスの市場境界線を拡げることによって新たな成長を創り出す。製品を出発点として、顧客に新しい提案をし、難局を乗り越え、業績全体を向上させる手法である。

米国のヘルス業界の2000年の消費は、GDPの13%に相当する1兆3000億ドルに達した。これだけ有望な業界でも苦戦を強いられる分野もある。窮地に追い込まれているのは医薬品流通業者だ。問題は需要ではない。1990年代を通じて処方薬の売上は年間10%から15%の割合で増加している。だが、利益となると話は違ってくる。現在の総利益は4%である。平均純利益となると1%前後になる。その中でトップを走るカーディナル・ヘルスは、成長の機会を見つけては投資を繰り返し、厳しい市況を成長のための見事な踏み台へと作り変えた。過去5年に渡って、売上および営業利益は2ケタ成長を遂げ、250億ドルを超える新たな市場価値を創出した。カーディナルは薬剤の流れを追跡した結果、少なからず病院に貢献できる要素を見つけた。つまり、病院の悩みの種である経費削減、人材不足、情報管理という3つの問題の解決に一役買うこともできると考えたのである。

カーディナルがとった最初の行動は、ひとことで言えば、「フォロー・ザ・ピル(薬剤を追跡せよ)」だった。病院内部には従来の業者が手をつけない、もう一つの流通網がある。内部流通網は処方箋を書く医師やその他の専門職、処方箋に従って薬剤を調合する病院や薬局の薬剤師、医局ごとの倉庫や調剤システムを管理する看護師や技師、患者に投薬する医師や看護師、製薬学の専門家やカルテの管理担当者、病院の経営部門などで構成されている。この流通網が正常に機能したとしても、スタッフや管理者の負担は大きい。また、どの段階でもミスが起きたり、無駄な経費がかかるおそれがある。薬が行方不明になったり盗まれる、投薬量や投薬時間を間違えたり忘れたりする、薬物間相互作用の危険性を見過ごす、カルテが適宜更新されない、患者や保険会社への請求額に誤りが生じる、といった可能性はいくらでもある。

カーディナルは薬剤の流れを追跡した結果、少なからず病院に貢献できる要素を見つけた。一例を挙げると、病院側が最も厄介だと考える作業にカーディナルの優れたシステムを適用し、院内薬局に対する物流管理サービスを提供し始めた。ほどなくして、薬局運営に必要なシステム、スタッフ、管理などを含む総合的な薬局管理サービスを提供するようになった。こうしてカーディナルも顧客も勝ち組となった。カーディナルには新たな収益源が生まれ、病院側は院内薬局の人材確保や管理という問題から解放されたのである。現在、カーディナルは独自のブランド、オーウェン・ヘルスケアの名の下で400件を超える院内薬局を管理している。これらはライバル各社が束になってもかなわない数字である。

1996年にカーディナルは、ピクシス・コーポレイションを買収した。ピクシスは投薬プロセスの大半を自動化した自動調剤装置を製造する小さなメーカーだった。看護師が「ピクシス・メドステーション・ボックス」に患者データを投入すると、機械からバーコード付きの指示通りの量の薬剤が正確に排出される仕組みになっている。ピクシスの最新式メドステーションには、無断でアクセスできないように指紋照合装置が組み込まれている。このシステムには投薬過誤率の低下や時間の節約、過労気味の看護師の負担を減らすといった利点もある。患者ごとに仕分けしたバーコード付き薬剤パケットを提供できるため、日に何度も行う投薬業務の負担は軽くなり、速やかに正確に行えるようになるからだ。そして、次のような経済効果を生み出した。

  • 自動的に投薬データをカルテに転送し、処方箋の内容を監視することで、危険な薬物間相互作用のリスクを減らす。
  • 患者への投薬データを直接病院の請求システムに転送することで、適宜正確な請求書を発行する。
  • カーディナルの流通システムに直接リンクし、注文や在庫管理を自動化することで、薬局運営に伴う資金や業務経費を削減する。

現在、カーディナルは自動調剤装置市場の覇者であり、同種の装置を導入した病院の約90%にサービスを提供している。さまざまな機種が登場し、患者用ガウン、縫合キットなどの備品類を提供する機種もある。

カーディナルのアプローチを辿ってみよう。手術の内容や医師の嗜好もあるが、通常、外科処置には200点ほどの製品が使われる。従来のシステムでは、手術にあたって病院の貯蔵室に備蓄された幾千点もの備品から必要なものを選び出し、トレーに載せて手術室に運び込む。このプロセスは人件費も時間もかかり、ミスも起きやすく、莫大な備蓄コストがかかる。貯蔵室の備品の整理、持ち出し分の追跡、補充注文、損傷品の処分等々、スタッフを煩わせる仕事はいくらでもある。カーディナルのカスタマイズされたサプライ・キットはこの手間を改善し、顧客のコスト削減に貢献した。同社のオンライン注文方式によって、外科医は処置に必要な自分に合った機器や備品を前もって注文することができる。また、自社製品は、販売している製品の3分の1にすぎないが、2200社の製品を入手することができる。例えば、関節鏡を使った膝の手術を行う場合、200点ほどの備品が必要だが、これらを使用する順に正確に並べ、消毒済みキットが手術当日の朝、病院に配達される仕組みになっている。キットに入った備品はすべて外科医が事前に指示したものである。

これ以外にも、顧客に合わせた薬剤パッケージの再包装、専門薬や血漿の流通、放射線治療医学のアプリケーション、ブランド化した薬局プログラム、人材派遣プログラム、サプライチェーン最適化サービス、在庫およびサプライチェーン管理のための情報テクノロジー、コンサルテイングといったさまざまな付加価値を、病院や薬局向けサービスとして考案し、提供してきた。

カーディナルは、製薬会社をサプライヤーとしてだけではなく、潜在的な顧客と捉えることで成長機会を広げてきた。ブロックバスター・ビジネスモデルを追求する製薬企業、一方で、ブロックバスター商品の特許期間切れ、廉価なジェネリック医薬品の登場。こうした状況の中で、製薬各社は新薬発見、臨床研究、許可手続き、医療現場と消費者レベル双方へのマーケティングといった死活分野へ、捨て身の覚悟で可能な限りの資金と時間と労力を注ぎこんでいる。製薬会社の中には、研究開発のための資金やその他の資源を他の分野に回す機会を模索するところも出てきた。こうした方針転換を打ち出す企業は、近い将来増えていくだろう。カーディナルは製薬会社に有意義な、新しい価値を提供できることに気づいた。調剤、試験、製造、包装の工程における高品質サービスを提供すれば、製薬メーカー側はブロックバスター商品の発見と開発に集中して取り組むことができる、というわけだ。1998年、RPシーラーを買収した。シーラーは薬剤配送と委託製造業を営む堅実な企業であったが、将来的な急成長に必要な資産、投資資本や大手製薬会社経営幹部との強力な関係といった資産を持っていなかった。売上の大半はビタミン類、栄養サプリメント類、その他の差別化しづらい製品で構成され、主力製品と言えるものがなかった。カーディナルは買収後、同社の位置づけを薬剤分野に限定した。サプリメントやビタミン部門を売却し、非薬剤分野の製造工場をすべて処分した。現在、製薬上位20社のうち、新しい形態による製品開発をシーラーに委託している企業は15社を数え、シェリング・プラウの抗アレルギー剤クラリチンや、イーライ・リリーの抗精神病薬ザイプレクサなど、ブロックバスター商品上位100点のうち、同社のテクノロジーを使ったものは1ダースにも及ぶ。

同社は8000万ドルを投資し、ニュージャージーに製品開発および試験センターを作った。現在は発見されたばかりの薬剤成分の調剤、製造、包装、配送までを一貫して行い、能力の限られた小規模なバイオ企業や製薬会社に、販売およびマーケティング・サービスを提供する能力も備えている。

これまで見てきたように、カーディナルは本来のビジネスを出発点に、アップストリーム、ダウンストリーム双方向で新しい価値の創造に成功してきた。現在、同社はこれまで積み上げた創造的なつながりと統合によって、成長がさらに成長する機会を創出する増幅サイクルを生み出そうとしている。

カーディナルのダウンストリーム顧客であるドラッグ・チェーンは、処方薬の大半を第三者支払制度に依存している。従来、薬価償還レートは月ごとに更新されるが、最新レートを知らずに手続きを行い、本来請求するはずの金額が宙に浮くケースが頻発している。カーディナルはいくつかの大手ドラッグ・チェーンと共同で、正確な支払額を請求できるように「スクリプトライン」と呼ばれるシステムを開発した。薬局の償還プロセスを自動化し、日ごとにレートをアップデートするシステムである。さらに、カーディナルは、スクリプトラインで処理したデータを新しく導入した「アークライト」を使って、アップストリーム顧客である製薬会社に送っている。アークライトは、カーディナル、ウォルマート、CVS(ドラッグストア・チェーン)などの小売大手とのジョイント・ベンチャーで開発され、スクリプトラインの売上情報を吸い上げ、どこでどの製品が売れたかというタイムリーな市況データを作成し、製薬会社に提供するシステムである。現在、アークライトの顧客には製薬企業13社が含まれて、年間10億件の処方箋と予想販売数がデータ化されている。

1991年から2001年までのカーディナルの収益成長複利年率は40%だった。現在年間収益は500億ドルに近づきつつあり、フォーチュン500社の23位にランクされている。

カーディナル・ヘルスの物語は、ディマンド・イノベーション〔需要革新〕を成功させた典型的な例である。同社の目覚ましい成長は、新しい顧客の一連のニーズ、つまり、同社の製品を取り巻く動きに着目してニーズを特定し、それに応えることで、有望とは思われなかった分野に新たな成長機会を見出したことによって達成された。

ディマンド・イノベーションとは、顧客が抱える緊急課題と最優先順位を理解し、これに応えることである。そのために顧客が日々奮闘している問題は何か、夜も眠れないほど悩んでいる問題は何か、公私に渡ってどんな生活をしているのか、時間とエネルギーと経営資源をどのように使っているのか、を考えてほしい。それに答えられるなら、顧客が企業であろうと最終消費者だろうと、顧客ニーズに応えるために自分に何ができるかがわかるはずだ。

  1. コア製品ビジネスの成長をもたらす新しい強力な機会の創造
  2. さまざまな製品・サービスを組み合わせた、より価値の高い統合サービスの提供
  3. 顧客の価値連鎖を改善し新たな収益源へ

ディマンド・イノベーシヨンは現在、多くの企業が直面する成長危機を打開する答えである。だが、次世代ニーズにどこから取り組むかを決めるのはその第一歩にすぎない。これと同時に考えなければならないのが、顧客ニーズの利益性をどのように実現できるかという問題だ。顧客の経済性を向上させる新しい製品・サービスを供給することと、自分の会社に有益な新しい価値をもたらす方法でこれを行うということは、まったく別問題である。従来型成長からディマンド・イノベーションへの転換は次のようなさまざまな次元で行われる。

  • 顧客を観察する視点を製品から経済性へ転換する。
  • 成長基盤を従来手段〔製品、工場、人材〕から隠れた資産〔顧客関係、市場での地位、情報〕へ転換する。
  • 会社の規模を成長抑制要因と捉える考え方から成長機会の増幅要因と捉える考え方へ転換する。
  • 低成長率が基幹ビジネスを食い尽くす、というマイナス思考から基幹ビジネスを強化する新しい成長構想を導く、というプラス思考へ転換する。市場変革手段と方向性をブロックバスター製品への依存から、計画的な創造性と経営手腕を基盤とする漸進的な顧客中心戦略の開発へ転換する。
  • 成長機会の縮小傾向が続く時代に、利益をかき集めようと四苦八苦するのではなく、視野を広げ既存市場の5倍、10倍の可能性を持った領域を探す。
  • 製品サプライヤーから顧客の経済的パートナーへ移行する。
  • 需要を受容する側から需要創造者へと移行する。

このように、考え方や捉え方を転換することができれば、有益な長期成長が可能になる。だが、それができなければ成長危機は悪化の一途を辿るだろう。

以上が本書の1章と2章の概要である。特にわれわれに馴染み深いアメリカの医薬品卸“カーディナル・ヘルス”を中心にまとめた。10年前の「フォーチュン500社」の多くは、国際市場での売上が全体の15%から20%がせいぜいというところだったが、今日では40%から50%を担っている。さらには、どの業界でも最大の海外市場である西ヨーロッパ、および日本が米国並みに成熟し、競争が激化し、飽和状態に達している。本書に登場する格企業は、いずれも顧客に従来品の機能を超える経済的利点を提供することによって、自社製品を顧客のより大きな事業機会へと結びつけてきた。その結果、市場スペースは広がり、数ヵ月、数四半期単位で成長を占う次元から、数年あるいは数十年単位での成長を見据える領域へと移行した。その具体的事例が沢山ある中で、前述の“カーディナル”を取り上げたのである。恐らく日本の医薬品卸の競争も、カーディナルのように顧客に付加価値をつけられる企業が勝ち名乗りを上げることができる時代に入ってきたと言える。是非参考にしていただきたいということと、本書が訴えている考え方を学んで、自社の成長に役立てて戴きたいと願うものです。


北原 秀猛

関連情報
この記事はお役にたちましたか?Yes | No
この記事に対する問い合わせ

この記事に対する
キーワード
•  2ケタ成長
•  ディマインド・イノベーション
•  カーディナル・ヘルス


HOMEUBブックレビュー詳細 Page Top



掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。
著作権はセジデム・ストラテジックデータ株式会社またはその情報提供機関に帰属します。
Copyright © CEGEDIM All Rights Reserved.