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成長し続ける会社 「事業の強み」で飛躍する5つの法則

原 書 名:DOUBLE-DIGIT GROWTH
著  者:マイケル・トレーシー
訳  者:村上 彩
出 版 社:日本経済新聞社
価  格:1,890円(税込)
ISBNコード:4−532−31151−9

マイケル・トレーシーは世界的に有名なコンサルタントであり、スピーカー、経営思想家、起業家でもある。マサチューセッツ工科大学教授(経営学)、経営コンサルタントを経て、現在はボストンに本拠をおくGen3 Partnersのチーフ・ストラテジストである。

本書の構成は、第1章:なぜ成長するのは難しいか、第2章:成長し続けている会社は何をしているか、第3章:ファースト・データ―「成長の法則」の習得者、第4章:第1の法則・成長のスピードを落とすな、第5章:第2の法則・ライバルから奪い取れ、第6章:第3の法則・成長セグメントを見極めよ、第7章:第4の法則・周辺市場への参入、第8章:第5の法則・異業種市場に投資する、第9章:ポートフォリオのマネジメント、となっている。激動の90年代を通じて、インテル、レブロン、ゲートウェイなど、これらの大企業はほとんど成長できなかった。一体何が起きているのだろうか。巨大な「アメリカ株式会社」、アジアやヨーロッパのライバルたちとともに「成長できない病」の患者と成り果ててしまった。この「成長できない病」はアメリカ企業ばかりでなく、世界中の企業の健全な経営にとって大きな脅威である。

ビジネスにとって成長は酸素であり、生死を分けるカギである。成長する企業は栄え、縮小する企業は消滅する。それなのになぜ、成長していないことを、できれば隠しておきたい秘密程度に軽く考えるのだろうか。なぜ、これほど多くの企業が行き詰まり、失速して、重態に陥っているのか。本書を読めば、その答えがわかる。成長に対する考え方や、成長を目指すやり方そのものが時代遅れで根本的に間違っているために、企業は斬新なアプローチを取れずにいるのだ。本書では、成長を実現するための5つの法則を示している。

成功した大企業に共通することは、顧客価値(製品やサービスが提供する機能ではなく、顧客から見てどのような利点、あるいはどのくらいの価値があるか)を重視する姿勢である。しかし、顧客重視の姿勢は大切だが、成功企業の成長力の源泉は、顧客重視以上の何かである。その秘密は、たった一つの特効薬に例えられるようなものではない。さまざまなスキルと強みを組み合わせる努力を、たゆまず続けることができたからこそである。成功した企業は、常に結果を予想しながら、効果的に成長をマネジメントしてきたのである。

成長が止まったとき、企業は衰退する。なぜなら成長は、過去の業績に基づいた自己増幅的なプロセスだからである。成長のきっかけとなり、成長を促すのは「3つの好循環」である。そして、成長すればするほど、楽に成長できるようになる。逆に、成長が鈍化するほど成長は難しくなる。つまり、これが悪循環である。

第1の好循環は経済に関するものである。短期的に成長すると株価収益率が上昇し、株主が将来の収益の伸びを期待するため株価も上がる。第2の好循環は企業の活力に関するものである。短期的の成長は、既存の顧客ばかりでなく潜在顧客の関心を引き、顧客の信頼を高め、自社に対する評価を高める。第3の好循環は機会に関するものである。成長は、組織内に新たな仕事をつくる機会をもたらし、ひいては従業員の士気を高める。

実際、大企業は、新しいビジネスモデルに追い抜かれたからではなく、自滅自壊によって衰退する。腐敗した企業を滅ぼすのは、その経営陣である。彼らは、希望的観測と愚かな方針にしがみつき、成長に失敗する。この破滅に至る道筋としては、5つのケースが考えられる。

  • 顧客価値を無視して特権に甘えた
  • 成長が急停止した市場に挑んだ
  • 独占という優位性が失われた
  • 顧客に生じた重大な価値観の変化を見逃した
  • 新たなライバル企業が出現した

これとは対照的に、着実に成長を続ける企業は多岐に渡る戦略を取り、一部の事業が立ち行かなくなったときでも、会社全体としては前進を続けた。成長企業のこうしたアプローチは、次の6つの原理に基づいており、それによってリスクを最小限に抑えながらチャンスをつかむことができた。

6つの原理とは次のとおりである。

  • リスクの分散
  • 実現可能な目標設定
  • 戦略のバランス
  • 最高の価値を目指す
  • 成長へのフォーカス
  • 成長のマネジメント

2桁成長を実現するためにポートフォリオを作成するという手法は、これら6つの成長の原理を土台としている。成長戦略を描くことは本来、危険性が高く予測不可能なものだが、ポートフォリオを活用することで精度を高めることができる。成長のポートフォリオを支えるのが、次の5つの法則である。
法則1 顧客の維持
法則2 市場シェアの拡大
法則3 市場ポジショニング
法則4 周辺市場への参入
法則5 異業種市場へ出進

成長とは選択である――成長とは、自らが自らの力の範囲内で選択するものなのだ。成長することは、成功するための選択であり、成長しないということは、失敗を選択することなのである。

顧客を維持するためには、虎視眈々と狙うライバル企業に追いつかれないように、常に価値提案を向上させなければならない。市場シェアの拡大には、充実したサービスを提供し、すべての顧客から受ける評価を重視しなければならない。市場ポジショニングにおいては、企業買収も一つの大切な手段である。周辺市場への参入のためには、多様なスキルと資源を新たなやり方で結びつけようとするインテグレーシヨン姿勢を重視する。

特定市場のさまざまな局面に備えて、十分な経営資源を蓄積または買収すれば、周辺市場への参入が成功する可能性は極めて高い。異業種市場への進出では、自社組織の拡大と外部組織の買収によって成長バランスをとる。市場における自社の地位を向上させ、必要な能力を得るために、どのような局面で買収が役立つかを理解しておかなければならない。そして、買収した企業をほころびなく統合することだ。

市場の衰退要因と、市場の成長要因は対極的である。衰退する市場で提供される価値よりも、他の市場で提供される価値の方が優れているため、消費者は買い控えるか、または衰退する市場を完全に見放す。そうした状況では、ソフトウエア産業のように高い収益性を安定的に確保していなければ、粗利や純利が、売上高よりも先に干上がってしまう。

顧客がロイヤリティーを示すのはただ1つ、最高の価値に対してだけである。自動車業界も顧客の定着率が低い産業である。大手メーカーでさえ、再購入してくれる顧客はわずか30%である。

顧客維持の第一原則は、顧客の価値基準を明確にすることに従って、情報という強みを発揮し、オラクルはうらやましいほどの顧客維持率を達成している。そして、顧客維持の第二原則は、スイッチング・コストを上昇させることである。スイッチング・コストが威力を発揮するのは、顧客が他社に鞍替えする誘惑に駆られたときである。顧客維持の第三の原則は、顧客の選択の幅を狭めることである。解決策は、顧客が企業からの提案を測る価値基準に応じて商品数を絞り込むことである。

客離れに対処するという点では、企業は信じがたいほど非効率的である。客離れを予測し、先手を打って対処するためには、企業は次の3つの要件を満たさなければならない。

  • 第1に、ある程度の正確さをもって客離れを予測できなければならない。
  • 第2に、客離れの原因を解消するような効果的な対応策を立案できなければならない。
  • 第3に、その対応策を効果的に遂行できなければならない。

市場ポジショニングは、市場参入が早ければ早いほどうまくいくが、それには2つの理由がある。第1の理由は、自社が支配する市場シェアのまま、成長セグメントに参入することで、利益を得ることができるからである。第2の、そしてより重要な理由は、市場セグメントの成長の可能性が広く知れわたる前に、ひそかに市場シェアを確立し、オペレーティング・モデルに磨きをかけることができるからだ。

新規参入者は、先行企業を守勢に追い込むだけの優位性を備えていても、さらに、競争に耐えられるだけの技術と資源が備わっているかどうかを判断しなければならない。あらゆる局面で敵を打ち負かす必要はないが、市場では一般的なレベルにまで達していることが求められる。具体的には3つの分野で、競争できるだけの基準に達していなければならない。第1はテクノロジー。つまり、その業界で販売されている製品やサービスを支えている技術である。第2は関係性。具体的には顧客、販売業者、仕入先などパートナーとなるべき業界の利害関係者とのつながりである。第3はビジネスモデルである。顧客や投資家などといった利害関係者のために価値を創造すべく、ビジネスモデルをデザインしなければならない。これら3つの分野のどれか1つでも基準に達していなければ災厄を招くだろう。

企業を買収し、自社の組織を拡充することによって周辺市場で大成功を収めた例として、ジョンソン・エンド・ジョンソンについて考えてみよう。J&Jは、69年連続売り上げ増の記録を持っている。特に1997年から2002年にかけては、226億ドルから363億ドルへと売り上げを伸ばした。年間成長率は10%、収益は18年連続2桁成長を続けている。J&Jの起源は1876年、創業者のロバート・ウッド・ジョンソンが、ジョセフ・リスターの講演を聴いたときである。リスターは、細菌――彼はそれを「目に見えない暗殺者」と呼んだ――が手術後の患者の死亡率を高くしている原因であると証明した。当時、術後死亡率が90%を超える病院さえあった。1886年、ジョンソンと2人の弟は手術用無菌包帯の製造を開始し、ついには、最も懐疑的だった医師たちの信頼も勝ち取った。無菌包帯から無菌縫合糸、さらに絆創膏へと事業展開したが、相変わらず病院が主な市場だった。J&Jが初めて周辺市場に参入したのは、1921年、ベビークリームと、今日でも広く使用されている「バンドエイド」を家庭向けヘルスケアとして売り込んだときだった。その後の数十年間は、主に組織を拡大することによって周辺市場に参入した。J&Jは、現在も組織を拡大することで周辺市場に参入しているが、最近では提携や買収による周辺市場参入も頻繁になり、その一方で長期戦略に合わなくなった事業は容赦なく切り捨てている。1989年から1999年の間、同社は45の企業または生産ラインを買収し、18の事業を売却した。同社の関心は、主に3つの市場に集中している。医薬品、医療機器および診断装置、一般向けヘルスケア用品である。

異業種市場で成長する企業には、一般に3つの特徴がある。第1は、異業種市場とそこで買収すべき企業を見つけ、評価し、選別する方法を知っていること。第2は、買収を適切な価格で成立させる方法を知っていること。第3は、買収した企業を財政的、経営的、戦略的にコントロールする方法を知っていることである。

「どんな企業も着実に2桁成長を遂げることができる」。これが本書の中心テーマだ。成長する会社と成長しない会社の違いは、成長という課題に巧みにチャレンジしているかどうかだ、ということがわかってきた。成長する会社は、成長に伴うリスクに対処するために、堅実なポートフォリオを作成して、結果をより正確に予測していた。優れた経営システムを採用して、成長計画を立て、その計画を管理して、結果を査定していた。一方、低成長の会社、あるいは成長してもそれが続かない会社のマネジメントは計画性に乏しいものだった。

「企業は自滅自壊によって衰退する。腐敗した企業を滅ぼすのは、その経営陣である。彼らは希望的観測と愚かな方針にしがみつき、成長に失敗する」、という警句は十分に理解する必要がある。

以上が本書の概要である。「成長できない病」を予防し、成長企業へ脱皮するための処方箋として、著者は5つの法則を述べている。(1)客離れをなくす仕掛けづくり、(2)強みを生かしてシェアを奪う、(3)急成長するセグメントに自社を位置づける、(4)競争力を高める周辺市場へ参入する、(5)優位性を補う異業種市場への投資する、を提唱している。これら5つの法則はいずれも目新しいものではないし、停滞から一気に成長へと転じるための方策でもない。しかし、成長企業は常に結果を予測し、効果的に成長をマネジメントしてきたのである。いろいろな企業の事例がふんだんに取り上げられ、分かりやすく説明されているので、理解しやすくなっている。また、本書の中に多くの質問項目が出てくる。それらの質問に正確に答えられるかどうかも、成長企業の仲間入りができるかどうかの条件にもなる。本書の最後に述べられている言葉、「あとは、あなた次第である」。


北原 秀猛

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•  成長できない病


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