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日本経済 完全復活の真実表紙写真

日本経済 完全復活の真実

著  者:斎藤 精一郎
出 版 社:ダイヤモンド社
価  格:1,575円(税込)
ISBNコード:4−478−23135−4

2004年になって、景気回復がおおかた軌道に乗ってきたと言ってもいい。企業の業績はかなり改善しているし、設備投資も力強い。景気感としては、バブル崩壊以降の十数年間で最も良い状態であろう。では、このまま景気は完全に回復へ向かって一直線に進み、「陽はまた昇る」とばかりに日本経済は再び光輝くようになるのか。まず本章では、そこを検証する。

本書は、1章:景気回復は本物か、2章:しらざる平成デフレ、3章:吉野家とグローバル経済、4章:IT革命はもう一度起きる、5章:「名古屋モデル」に見る日本再編、6章:フリーターと雇用革命、の構成になっている。

景気が回復の軌道に乗るというのにも、実は2種類ある。もうこれで基本的に大丈夫だという状態が1つ。そして、軌道には乗ったけれど、広がりや速度、勢いが足りないという状態もある。今の日本経済も、本物の回復ではあるが、「完全復活」はまだだと私は見ている。三段跳びに例えれば、助走は明らかにしているものの、まだホップ、ステップ、ジャンプには至っていない。動き出してはいるから、そろそろジャンプをするかもしれないが、いつになるかはまだはっきりしない。そういう段階ではないだろうか。その証左の1つは、景気回復がはっきりとしている割には株価が天井の重い展開をしていることだ。日経平均が1万2000円前後で足踏みしており、なかなかその壁を超えて上がっていかないのである。3年前の2001年4月末に、小泉政権がスタートしたとき、株価は1万3900円だった。それから3年経過したいま、景気は回復軌道にあるわけであるが、1万2000円前後というのでは、上値が重いと言うべきではないのか。実際に企業の収益は好調だし、設備投資も伸び始めている。本当にこれからの日本経済復活の先取りをしているのなら、株価が1万5000円ぐらいになってもおかしくない。それなのに、いまひとつ勢いが弱い。

景気が回復している要因として、大きく分けて3つの説が成り立つ。1つは政府の力、2つ目は外部要因、3つ目は内部要因である。外部要因としては、中国向けを中心とした輸出の伸長である。内部要因は、液晶・プラズマの薄型TVやDVD、そしてデジタルカメラに象徴されるデジタル家電のブームが寄与している。中国とデジタルの頭文字をとって、「CD景気」は少なくともこの1、2年で反転するようなことはないと見ている。政府力については、郵政公社民営化の問題、道路公団民営化、年金改革や三位一体の財政改革…、すべてがこれからで、その決着の姿がどうなるかはわからない。だから、構造改革によって景気が回復したのだという説は、その成否を言える状況ではない。

日本の経済はやっと動き出してきた。それではこれで万々歳かと言えば、そうはいかない。日本の企業を大きくざっくり見ると「刺身」、つまり3割・4割・3割の層に分かれているのである。上の3割はノープロブレムで、もう完全に復活してしまっている。次の4割は、象徴的な例で言えば日産である。トヨタに学んで徹底的にコストを削減し、一時的には値段の引き下げに応じなかった日本鋼管と取引停止までしている。そこまでやると、ようやく蘇るのである。しかし、失敗したらカネボウのようになってしまう。そして、下の3割は、生きているのか死んでいるのかわからない、ゾンビといわれる地方の中小企業や自営の零細企業だ。

現在、景気は少しずつ良くなってきているが、まだ物価は下がり続けているのである。しかし、デフレの中でも逞しく新しいものが出ている分野と、そうでない分野との2極化が起こっている。デフレとは、実は2極化を引き起こす現象なのである。日本列島全体を見回しても、その傾向は明らかになっていて、東京から名古屋までの太平洋側は好調、しかしその他はまだ明るい展望が開けない。言うならば、「光と影の経済」になっているのである。モザイクではなく、二重構造である。例えば温泉地でもそうで、1泊5万もするところが活況を呈している一方で、鬼怒川や熱海は閑古鳥と言ってもいい状況ではないだろうか。

日本銀行の統計で見ると、個人の金融資産〔現金・預金・貯金・株式・投資信託・生命保険・国債・社債など〕は、91年に1100兆円の残高であった。それが現在は、1400兆円。なんとこの13年間で300兆円も膨らんでいる。しかも、物価低下の効果を入れると、おそらく実質的には500兆円が増加したと見ていい。つまり、この13年間でマクロ経済全体では、物価の低下を考慮に入れると約500兆円も金融資産が増えている。だから、暴動も反体制運動も起こらないし、若い人も就職事情が悪いけれど学生運動を起こすわけでもない。選挙をすれば、基本的に連立の保守与党が勢力を維持する。民主党の主張もいいけれど、急に改革されるのはイヤだ――という空気があるのではないか。現状にある程度満足を感じているからである。

しかし、問題はもう1つの側面にある。個人金融資産のうち85%は55歳以上の人が所有している。この人たちの多くは、もう住宅ローンも返してしまっているが、一方で将来を考えると不安になる世代でもある。年金問題、あるいは財政の累積した赤字を考えると、やがてインフレが起こって自分の持っているお金が目減りするんじゃないか、と警戒してしまう。長い将来が不安になるから、あまりお金を使わない。だから消費が伸びない。

グローバリゼーションが起こって、世界から価格の安いモノが入ってくる。日本の場合は、ここで不良債権問題があったために、さらに物価が下がってデフレ経済に入ってしまった。そして、通信技術の発展によって、世界中の価格が標準化する傾向が強まる。さらに、世界的次元での最適な生産を求めて、経営資源の配置が大きく変わってくる。これは中長期的な目で見れば、供給サイドの構造変化だから、デフレを引き起こす要因となる。

グローバリゼーションという100年に一度しか起きないような新しい状況に対応できるように、企業の経営の仕組みや戦略を根本的に変えていく。それからインターネットをベースに、IT化という技術革新が起こっているわけだから、これに対応するように経営構造を柔軟に転換させれば、世界で最も強くなる分野を構築もできる。こうした方向を目指せば、2〜3年後には日本経済はこの「緩慢なデフレ」という、妙な罠から脱却できるのではないか。

いま、日本の中国への輸出は、ここ数年3割を超えて伸びている。輸入は12〜13%増だから、輸出がその3倍増えているわけである。日本国内が需要不足でデフレ化している状況で、この対中輸出の増勢は日本経済の牽引車になっている。

グローバリゼーションの最大のメリットで、物価が下がるということの本質とは、生産拠点が動き、移転していくことを意味する。現在、アメリカではインド人も中国人もどんどん入っているし、中南米からもヒスパニック系がどんどん入ってきて、賃金を下げる要因となっている。さらにオフショアリングによって、インターネットなどを通じて高度な仕事まで海外に移転し、そこから調達がなされるから、アメリカ人の賃金水準は上がらなくなるとともに、雇用も減少し始めているのだ。

日本の将来を考える上で、最大の問題は、いかに経済成長を維持していくのかということであろう。年率で2.5〜3.5%の成長軌道が、今後の少子高齢化社会を展望すれば、必要になってくると見られるからだ。それでは、経済成長率はどのように決まってくるかと言えば、2つの要素、すなわち労働力の増加率と労働生産性の伸びによって規定される。

第1次IT革命の崩壊から2〜3年の冷却期間をおいて、アメリカでも日本でもまた新しい動きが出てきた。最近の状況を見ていると、ダーウィンのいう「進化」のような、新しいトレンドが出現する段階が到来しつつあるような感じがする。一種のパラダイム転換、技術と経済という2つの側面で、明らかにパラダイムが変わったと言うべき変化が生まれつつある。

IT技術には「2つの法則」がある。
(1)メットカーフの法則
これは、ネットワークは自己増殖的に価値を増大する性質を持つということである。端末の数の2乗に比例して、ネットワークの価値は増殖することで、「ネットワークの外部性」と言われる。このことは、携帯電話やFAXを考えれば理解できるだろう。
(2)「ギルダーの法則」
通信速度は半年で2倍になると言っている。これを前提にすれば、通信速度は5年で千倍以上に達するわけである。一般回線からADSLに変わったら、みんなその速さに驚いたけれど、次に光ファイバーを体験すると、もうADSLには戻れない。このように、通信速度は進化しているのだ。

次に経済的な側面についてである。「収穫逓増の法則」がITのキーワードになる。これは、ある新技術の採用で生産量が拡大すればするほど、それに伴って収穫(利益)も一層増加するというものである。2つ目は、「パーフェクト・マーケット」。あらゆる情報が生産者にも消費者にも行きわたり、そのなかで価格が決定するというものだ。インターネット取引になると、同じ商品なら価格が同一化する方向へいく。3つ目は、「パーフェクト・ネットワーク」。空間的な距離が情報ネットワークで超えられるから、そうなれば経営なら経営を世界的な次元で展開することが可能になる。トヨタを始めはじめ、多くの企業が目指す「グローバル戦略」は、こうした「パーフェクト・ネットワーク」をベースにしている。一番売れる車を、一番安く造れるところで造り、一番売れる地域で売るといった柔軟なグローバル・マネジメントが可能になる。4つ目は、経営の知識化という動きだ。データベースによる戦略構築や情報の共有化に基づく知識マネジメント。マーケット、顧客、そして調達先などのあらゆる情報を集積し、分析することで、新しい経営戦略を構築していこうとの動きである。5つ目は、生産者と消費者の力関係が変わる点も看過できない。従来、消費者はどこにどんなものがあるかという知識に乏しく、広告や媒体を通じて得た情報に頼ってモノを買うしかなかった。インターネットが普及してくると、当然ながらだんだん消費者が主権を持つようになる。

日本ではすでに「13年デフレ」が続いていて、克服にはあと2〜3年ぐらいが必要だと思う。景気がよくなったとは言っても、まだ物価が上がる気配はない。結局は「15年デフレ」か。この罠を抜け出した後、おそらく日本経済はこういうITが主導していく新しいパラダイムに向かって動き出すのではないか。これは日本経済の新しい進化ではないのか。

第1次IT革命は、いわば錬金術ゲームとして終わったが、いま次の、第2次IT革命がまた起きつつある。技術があっても、マーケットがなければ売れない。大量生産できても、流通コストが高ければ行き詰まる。そこをブレークスルーする最終のネットワークとして、第2、第3のIT革命が起きてくるのは必然の流れだ。そういう形でITを捉え直すと、当面、3つの注目すべき動きがある。1つはデジタル化、次にブロードバンド化(=高画質・高音質)、そしてモバイル化だ。大型テレビの普及など、デジタル化は新しい普及段階に入りつつある。デジタルカメラも、ここ数年で普及率が50%を超えた。これで終わりかと思ったら、そうではなくてさらに進化し始めている。

インターネットの時代は、我々消費者にとっても便利であるし、供給者にとってもマーケットが世界のどこにでもあるのだから、一生懸命作ったモノはどこかで売れる。楽天の場合、出店費用は5万円程度にすぎない。だからマーケットチャンス、ビジネスチャンス、あるいは購買チャスが以前とは桁違いに拡大しているし、取引のコストも安くなる。いわゆるBtoCは、これから一段と多彩に伸びるのではないだろうか。

フリーターと呼ばれる人たち(学生と主婦を除く15歳から34歳まで)が増加しており、2001年で417万人いるとされている。現在は500万人近くなっているだろう。普通の正社員の1人当り年収が387万円程度なのに対し、フリーターは106万円、およそ4分の1である。生涯収入で言えば、正社員が2億1500万円で、フリーターは5200万円となっている。このことが社会的あるいはマクロ経済的にどういう問題を起こすか。まず考えられるのは、所得税の税収が足りなくなってしまうことである。政府の資料によると、いま、非正社員が被雇用者5300万人の約23%で、およそ1200万〜1300万人に達している。この割合は増加傾向にあるから、おそらく2010年には30〜40%になるだろうと予想できる。問題は若年層のフリーターだけでなく、こうした非常用雇用が全体的に増えてきていること自体にある。

この常用雇用と非常用雇用の存在は、収入の格差という意味で別の問題を生じさせつつある。日本の就業者の階層化がじわじわと進んでいるのである。例えば東京・渋谷の並木橋を挟んで、片側は700円以下で昼食がとれる店が密集、反対側には高級レストランが並ぶといった光景が見られる。日本の階層化の進展は、こうしたところにも確実に見受けられる。最近変化が起きているのは、いま80%近くいる正社員層なのである。あと4、5年経ってフリーター・派遣・契約が全体の3割程度になると、7割が正社員となるわけだが、この70%がまた2極分化していく。10%が新たに非正社員化、すなわち流動化していく。これが、アメリカ型のいわゆるジョブホッパーと言おうか、次々に仕事を変えることによってスキルアップしていく新しいビジネス・エリート層の台頭である。このマーケットにヘッドハンティングが入ってくる。こういう世界が既に日本でも相当に動いているのだ。

派遣などを手がける人材ビジネスが、いま花盛りなところを見てもわかるように、人が動き出し、仕組みが変わり、勤め方が変わり、企業と働き手双方のニーズが大きく変わってきている。2006年から、労働人口がはっきりと減り始める。急速に働き手が減る一方で、人口構成は高齢化してくる。だから、日本経済にとって、労働力をどう確保し、うまく活用して生産性を上げていくかが最大の課題になるのは明らかである。

生産性向上のためには、いままでのような労働慣行や賃金体系では無理がある。生産性を上げる先頭にエリート層がいて、特殊な技術を一定期間だけ供給する契約社員がいて、さらに一般的な事務・庶務をする派遣社員がいるように、労働力は重層化してくるはずだし、この国の生産性を上げるために必要なことである。

以上が本書の概要である。本書の概要でおわかりのように、グローバル世界の中で、日本経済のパターンが大きく変わってきている。日本経済はやっと動きだしたが、良い企業、普通の企業、悪い企業の3層に分かれ、その比率は3:4:3である。上の3割だけが完全復活を果たしている。この差は環境変化に対する対応差である。グローバリゼーションという100年に一度しか起きないような新しい状況に対応できるように、企業経営の仕組みや戦略を根本的に変えていく以外に生き残る道はないと言える。

著者が本書の中で指摘しているように、デフレとは2極化を引き起こす現象である。これは個人的にも、企業間においても明白である。一方で、日本は2006年を境に人口が減少に向かう。その中で、非雇用者が全体的に増えてきている。これらが増えれば、所得税の税収が入ってこなくなる。また、ジョブホッパーという層が次々に仕事を変えて自分のキャリアを積み、ビジネス・エリート層として躍り出てきている。企業のテーマは生産性向上である。変化する環境の中で、従来の労働慣行や賃金体系では、企業にとっての明日は来ない。今後労働力は重層化してくるだろう。このような問題提起がなされている。これからの経営を考える上においても、示唆に富んだ本書であると言える。


北原 秀猛

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キーワード
•  景気回復
•  グローバリゼーション
•  デフレ
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