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円と元―中国の挑戦にどう立ち向かうか―表紙写真

円と元―中国の挑戦にどう立ち向かうか―

編  著:日本経済新聞社
出 版 社:ビジネス社
価  格:1,575円(税込)
ISBNコード:4−5323−5108−1

日本と中国とは、歴史問題を抱え政治的にはなお難しさを残しながらも、ビジネスでは相互依存をどんどん深めていく。21世紀に入ってからの日本と中国は「政冷経熱」と言われるほど、経済面では関係が深まっている。中国経済が急速に台頭し、日本と中国の経済関係が深まるなかで、日本は中国とどう向き合っていけばいいのか。こうした問題意識から、日本経済新聞社の内外の記者が特別チームを組んで取材に走り、新たに見つけだした日本と中国の接点にあるものを描きだした。

第2次大戦での敗戦から奇跡の復興を遂げ、世界第2位の経済大国に成長。そして1990年代に入ってバブルが崩壊し、「失われた10年」と言われる長期不況にあえいだ日本。中国は第2次大戦後も文化大革命などの混乱で経済発展で大きく遅れをとったが、1980年代以降は、「改革・開放」政策で経済成長を始めた。1990年代からは、経済面でも日本を急激に追い上げ、2020年頃には経済規模で日本を抜くと言われるまで存在感を増してきた。

中国は1948年12月、国共内戦を制しつつあった共産党は中国人民銀行(中央銀行)を設立した。中国の通貨、人民元は翌年10月の新中国成立に先立って中国の一部地域で流通が始まった。日本は1949年4月、GHQ(連合軍総司令部)の指示で1ドル=360円の単一為替レートに固定されることになった。繊維、軽工業品など、輸出製品にとっては大幅な切り上げとなり、輸出産業は厳しい局面に立たされた。1960年6月には、需要不足に苦しんでいた日本経済に「特需」がやってきた。朝鮮戦争の勃発で、米軍が大量の物資を日本に発注。「もはや戦後ではない」――。1956年発行の政府の経済白書は、日本経済が復興期を終えたことを宣言した。

1960年代の日本は平均で年率2ケタの高度成長を遂げた。60年代半ばには、1人当りGNPが1000ドルを突破した。そして、1964年は日本の発展を象徴する年になった。4月に経常取引(貿易)を自由化、国際通貨基金(IMF)8条国に移行した。10月には東京−大阪間の新幹線が開通、アジア初となる東京オリンピックを開催した。だが、高度成長をまい進する日本にも試練は訪れた。1971年に、2つのニクソン・ショックが日本を襲った。新しいスミソニアン体制のもとで、円は1ドル=308円に切り上がった。さらに2年後の1973年には、円も含め先進国通貨は変動性相場制に移行、円は「海図なき航海」に滑り出した。

1976年9月に、中国では毛沢東主席が死去。翌月、江青女史ら4人組が逮捕され、文化大革命が終結した。そして、ケ小平が復活。1978年末には中国経済の近代化を狙った「改革・開放」政策の開始を宣言した。人民元は1985年には実勢で1ドル=2.9元程度だったが、中国の輸出競争力は弱く、貿易赤字もあってじりじりと下げ、90年には5元近くまで元安が進んだ。

円切り上げ論が国際的に広がった1960年代後半。日本の外貨準備は1970年までのわずか5年で2.7倍の54億ドルに積み上がった。あれから30年あまり。1998年に1450億ドルだった中国の外貨準備は、2003年には3000億ドルを突破した。世界工場の座に就いた中国の世界貿易に占めるシェアは、2002年は5%、10年で3倍に高まった。中国は2001年末の世界貿易機関(WTO)加盟で、重貿易体制に組込まれた。次の課題は通貨制度、資本取引など金融面の自由化だ。

2002年の日本の対中貿易赤字は2兆7000億円超。二国間だけで見ると、「中国一人勝ち」の構図に見えるが、実際は韓国、台湾、香港も巻き込み、東アジアで新たな相互依存が広がっている。グー・チョキ・パーの関係――経済産業研究所の津上俊哉は東アジアの貿易構造を、中国は日本に対して黒字だが、日本は韓国、台湾には黒字、さらに韓国、台湾は対中国では黒字という構図だ、と述べている。

中国社会学院によると、香港で流通する人民元は700億元(約9800億円)。富士通総研主任研究員の柯隆は、「香港と中国国外で流通する元は、合わせて1500億元(約2.1兆円)に達する」と推計する。中国国内で毎年発行する人民元紙幣に匹敵する規模だ。

「逐鹿“中元”、走向金融全球化」(元が天下を争う――金融グローバル化に向かって)。北京大客員教授の徐慶は最近の論文で、国際通貨としての元の台頭を予測した。2002年3月に日本と中国が結んだ「通貨スワップ協定」。通貨危機が起きたときに日中が資金を融通し合うこの協定でも、自国通貨に対する中国政府の思い入れを垣間見たと交渉関係者は明かす。

もっとも、中国の存在感の高まりは、人民元を否応なく国際舞台に押し上げつつある。国際協力銀行は最近、「人民元建て債券」を発行することを検討し始めた。2004年中には、発行に踏み切る見通しという。米ドル、ユーロなどの外貨建て債は出しているが、アジア通貨での起債は初めて。調達した人民元は、中国市場に進出した日本企業などに、大型投資のための原資として貸し出す計画だ。背景には中国への日本企業の進出に伴う元への需要拡大がある。世界銀行なども人民元建ての債券を発行することを検討している。

中国企業が始めて日本の上場企業を買収する計画が動き出した。打診してきたのは重厚長大産業に属する中国最大のグループ企業。中国側は日本企業を割安だと考えている。現実に中国の製薬大手、三九企業集団は日本の東亜製薬に55%出資、東亜の風邪薬「葛根湯」など、5種類の薬品が三九ブランドで薬局チェーンなどに並ぶことになった。投資額は数億円。

元の借金を圧縮せよ」――。人民元切り上げ論が浮上した2003年夏、日清オイリオグループ専務の大辻一男は、サラダ油を製造・販売する大連の子会社など、中国各地の営業拠点に緊急指令を発した。元切り上げで元建て債務負担が膨らむのを懸念したためだ。同社は大豆などの原料仕入代金を元建てからドル建てに転換し、元建て債務の比率引き下げに動き始めた。根強い元切り上げ観測の背後で、中国進出企業は、「元建て負債圧縮・資産積み増し」を軸にバランスシートの調整に動き始めた。

経済産業省が2003年夏に実施しながら対外公表をせず、そのまま“お蔵入り”させた調査報告書がある。この幻の報告書は、製造産業局が行った「人民元切り上げ」に関するアンケート調査。約200社の企業を対象に、人民元切り上げをどう思うかを聞いたところ、回答企業の4割強が「元切り上げを必要としていない」ことが判明した。すでに生産拠点を移すなど、中国経済との相互依存を強めている大企業の多くから、「元の切り上げよりも中国経済の安定の方が重要」、という本音がにじみ出る結果となった。

中国政府の目標通りなら、2020年に中国の国内総生産(GDP)は2000年の4倍の4.3兆ドルに達し、今の日本と肩を並べる。この間に元が切り上げれば、中国経済はさらに大きくなり、日本のアジアでの存在感は今より小さくなる。20年後を睨んで、アジア経済や通貨秩序にどういう絵を描くのか。そのとき日本は、米国と中国の狭間でどういう役割を果たすべきなのか。「円と元」を睨んだ構想力が日本に問われている。

人民銀行は行き過ぎた不動産投資や国有企業への過剰融資に神経を尖らせている。「このままでは日本の二の舞になる」と危ぶむ。重症急性呼吸器症候群(SARS)などで失速が心配された中国経済はなお好調だが、日中のセントラルバンカーが心配するように、バブル期の日本に似た危うさもある。

上海好世置業公司が開発したマンシヨン「鳳凰城」の1戸当り最高価格は約80万元(約1000万円)。上海市の平均世帯年収の約15倍で、バブル期の東京都心の水準に匹敵する。中国の金融機関の2003年9月末時点の不良債権比率は、公式発表で21%。前年末(26%)を下回るものの、「新規融資を増やして比率を下げているだけ」(邦銀)との指摘もある。不良債権の判断基準が甘いこともあり、UBSなど欧米金融関係者の試算によると、不良債権比率は40%に達するという。

日本の通貨当局者は2003年秋、中国の財政危機に警鐘を鳴らす内部レポートをまとめた。「1998年以降の三大改革(国有企業、金融、行政)に伴うデフレ圧力を緩和するための積極財政で、2003年末の国債発行残高は国内総生産(GDP)比30%に達する」と推計。個人の年金積立不足や国有商業銀行の不良債権処理費用、国有企業改革による社会保障費を含めると、「政府債務はGDP比100%を超える」という。レポートは財政負担が限界に達し、成長を維持できなくなる可能性を浮き彫りにした。

中国経済の将来は日本にとって他人事ではない。日本の中国向け輸出に台湾、香港分を加えた「中国圏」向け輸出額は、2003年度ベースで初めて米国向け輸出額を上回った。既に日本の国別輸入額の中で中国は最大となったが、輸出市場でも「米中逆転」が起こりつつある。中国における自動車販売台数は2003年に400万台に達し、2010年には1000万台を突破する可能性もあると言われている。

現地で委託した物流会社の運転手が、高速道路料金を“懐に入れる”ために一般道路を走り、遅配になるケースが続発。一方で高額な荷物を運ぶトラックが丸ごと盗まれ、犯人から引き換えにお金を要求される事件も頻発している。さらに頭が痛い問題もある。中国の都市部で年々深刻になっている渋滞だ。自動車販売の急増に加え、赤信号でも突き進む交通マナーの悪さから事故も頻発。渋滞に拍車をかけている。

また、離職率も高いことも悩みの種。「退職させていただきます」――ダイキン工業の中国拠点で2002年夏、年間300回もの商品説明会をこなす営業部隊を率いる中国人の部長が、部下の中核社員数人を引き連れて「集団退社」した。しかも移籍先はライバルの韓国系メーカー。中国進出した外資系医薬品メーカーで構成する業界団体RDPACによると、MRの賃金上昇率はざっと年率10%、離職率は年三割と言われ、3年でほぼ全員が入れ替わる計算だ。販売代金の回収も依然として大きなリスクだ。「代金回収を代理店任せにしてはいけない」と言う。

急成長する中国経済に吸い寄せられるように、日本の個人マネーが中国に流れ始めた。香港市場などに上場する中国企業の株式に投資する日本国内の投資信託の純資産残高は、2004年1月時点で4500億円と、1年間で2.6倍の水準に膨れ上がった。東京都内の証券会社に勤める豊島信彦は2003年春、商用で北京を訪れた際、中国の大手商業銀行の1つ、中国工商銀行の窓口に恐る恐る赴くと意外にも手続きは簡単。「ものの10分で通帳とカードがもらえた」。預金残高はいま300元だが、日本の預金を取り崩すことで20万元程度増やす計画だ。

中国の国内総生産の世界の占める割合は4%に過ぎない。だが、鉄鉱石の世界消費では中国の比率は3割、セメント4割に達する。世界から原材料を飲み込む中国の「食欲」は新たな日中摩擦の火種となりつつある。経産省は二国間通商協議の相手国を米国中心から中国に大きく舵を切り始めた。「中国の自動車政策の動向は我々にとって死活問題だ」、「WTO(世界貿易機関)のルール遵守や市場開放を促す場を作るべきだ」。2004年4月に官民が参加した中国との初の自動車協議は、こうした業界の強い要請を背景に経産省がこぎ着けたものだ。

長崎県の上海事務所。県が中国から観光客を呼び寄せるため、上海に置いた出張所だ。中国語で印刷された県内観光のダイレクトメールを、現地の旅行代理店を通じてめぼしい旅行客に送付する。日本が米国を抜いて、ついに世界最大の中国人留学生の受け入れ国になった。日本の大学(短大・専修学校を含む)に在籍する中国人留学生は、2003年5月時点で前年比1万2281人増の7万840人に達した。経済発展に伴い、海外へ留学する中国人は年々増えている。これまでは米国を目指す中国人が最も多かった。しかし米同時テロをきっかけに風向きが変わった。もはや語学ができる一部の専門家が受け持つ国ではなくなった。ニチメンと日商岩井が合併して誕生した双日の会長で、中国出張歴140回という中国通の半林亨はこう断言する。同社の中国駐在役員は、英語は堪能だが中国語が話せない。語学力よりも、同期でトップクラスの人材登用に拘ったためだ。「中国は急成長する戦略市場。大事なのは語学ではなく、仕事ができること」。

永田町にも新しい動きが芽生えている。自民党参議院議員の林芳正ら若手の米国留学組は、「日本語ができる中国人と、中国語を話せる日本人だけが交流する時代はすでに終わった」と主張。英語に堪能な中国の若手政財界人とのパイプを作るため、2004年秋の訪中を計画している。小泉に近い自民党国会対策委員長の中川秀直は、「今後の対中外交を担う政治家は米国とのパイプも持ち、米中を仲介するぐらいでないと」と語る。

経済関係がこれだけ密接な日中両国も、日米のように様々な問題を「政治決着」できるような枠組みが改めて必要な時期に来たと言える。

以上が本書の概要である。2004年の上半期の日本の輸出額は30兆6752億円である。そのうち中国に対しては4兆798億円であり、貿易全体の13.2%を占めている。前年同期比の伸長率は21.8%と高い伸びを示している。輸入の方は、全体が、24兆5788億円であり、中国からは5兆879億円の貿易額があり、全体に占める割合は20.7%を占める。伸び率は16.3%である。両国にとって経済の関係では重要な位置付けとなっている。日本の「重厚長大」産業が復活している。それは、粗鋼の生産量世界1位の中国が、日本から鉄鋼を輸入しているからである。中国には高級鋼は自国の技術ではできないからである。その技術は日本に依存しているのである。例えば、自動車のボディーに使う鋼板やエレベータの箱に使う鋼板などである。

本書の中にも書かれているが、金融市場が未整備なため、多くの中国企業は不良債権化していると言われている。いま中国の財政収支は、どんどん赤字を積み上げている格好になっている。2002年の財政収支はおよそ3000億元の赤字へと膨らんでいるようだ。中国は問題も多く抱えているが、地政学的に言っても両国は、手を携えていかざるを得ない関係にあると言える。現在の日中の関係や状況を知るためにも一読をお勧めしたい。


北原 秀猛

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