著者は早稲田大学法学部卒業後、外資系銀行で為替業務担当を経て、現在常葉学園大学教授。日米の政財界、シンクタンクなどに独自の情報源を持ち、民間人国家戦略家として執筆・講演活動を続けている。
日本の官僚は4大グループに分かれて、激しく「省益争い」をしながら、国民の財産を狙っている。4つの官僚グループとは、(1)財務省=国税庁=税務署のグループ、(2)総務省に統合された旧自治省(地方税、固定資産税を握っている)と郵政省(郵便貯金と簡保および通信全般)のグループ。これに厚生労働省=社会保険庁(年金制度と健康保険を握っている)も含まれる。それと、(3)法務省=検察庁=警察庁=裁判所のグループ、(4)経済産業省(旧通産省)のグループの4つである。現在、国会や新聞・テレビで議論されている難しそうな年金や税制改革の話は、実はすべて上記の4つの官僚グループの勢力間争いの賜物である。
本書は第1章:新たなる「徴税」の思想−累積財政赤字1000兆円に呻く政府の密計を暴く、第2章:国の「獲物」は老人である−年金にさえも触手を伸ばす政府税調の企て、第3章:あぶり出される国民資産−ついに日本にも納税者背番号制度が導入される、第4章:この国の「金融」はどこに行くのか−メガバンク統合と世界規模の脱税を結ぶ糸、第5章:2005年春、世界経済の変動が始まる−日米の国債暴落、そしてドルの大暴落、という構成になっている。
今の日本国の累積の財政赤字は、もうすぐ1000兆円に達する。その内訳は、普通国債が約500兆円、政府の長期借入金が300兆円、地方政府(各県と大きな市の合計)が180兆円である。これらの財政赤字の半分ぐらいを「金持ち老人への資産課税」で解決しようとしている。これが日本の財務省(国税庁・税務署はその子分)がいま狙っている獲物である。そしてその中心は、消費税の引き上げ問題のふりをして、そうではなくて、それに肩すかしを食らわせる「売上税の導入」ということである。日本政府が狙っている新しい税金体系の手口である。国は老人資産家達から、相続税をごっそりと取り立てようとしている。最終的に相続税の課税強化が財務省の本当の狙いである。
だがしかし、その前に売上税という大きな仕掛けを作って所得税・固定資産税・消費税の3つの柱を根本から叩き直し、作り直し、一体化させ相互に合体させようとしている。
国の本音は、相続税の実効税率を上げて、なんとか財政赤字を穴埋めしたいのである。その前に「売上税」を租税体系の中に組み込んで、というよりも、売上税で従来の所得税・固定資産税・消費税の体系を根本から作り替えたいと考えている。
法人に対する課税強化バージョンが「外形標準課税」である。資本金1億円以上の企業に対する外形標準課税はすでに導入されている。売上税のことを分かりやすく言えば、「すべての取引の各段階ごとにすべて税金を薄く広くかけていく」という考え方である。最終商品になる途中で納品する企業が行うすべての営利活動は、取引先との「売上」そのものであるから、やはり売上税の対象となる。売上税議論が日本で初めて起こったのは、今を遡ること20年前の1985年である。自民党と財務省・国税庁は、20年間連綿と、この売上税について研究会を続けている。
1988年12月に消費税が導入された。そして翌年の89年から施行されて、今年で15年になる。消費税の本当の狙いは、日本国民に対する税金教育のための新税だったのである。どんな人も、進んで喜んで税金を払いたがるわけはないが、日本人にモノを買うたびに自腹を切る痛みを覚えさせ、国家という幻想の共同体(国家は目に見えない)に自分も参加しているという自覚を持たせようとする性質がある。しかし、これだけでもない。本当は消費税を理解させ、小商人(小さな商店主)達に、消費税を払わせるクセをつけさせるための制度なのである。
あらゆる取引があるところに、お金の受け渡しが存在する。そうである限り、それを売買と見なして、すべての段階で税金をかけようとする思想、それが売上税である。こうなれば、もはや所得税も消費税もキャピタル・ゲイン課税(金融利得税)も大した違いはない。
「国民負担率」という考え方がある。これは分かりやすく言えば、国民が公共インフラを支えるために、どれだけ自腹を切っているかという金額のことである。総収入に占めるその負担の割合のことだ。財政学で定義するところの国民負担率とは、「社会保険料と租税負担の合計額が国民所得に占める割合(狭義の定義)」とか、「それにさらに国や地方の財政赤字分を加えたものが国民所得に占める割合(広義の定義)」である。それぞれが最近の数字では各々37%と45.1%である(出典:財務省)。ところが、真実は既に50%を超していて、さらに60%になろうとしている。政府や財政学者たちは真実の国民負担率の数字を明らかにしようとしない。政府としては、今では誰でも使う言葉だが、「福祉(社会サービス)を受ける者は、それ相応の自己負担を覚悟すべきだ」ということになる。ところが本当に社会福祉の対象になっているような社会的弱者達は、自己負担などする気もないし、また実際上できない。だから、その次に「税金は取れるところから取るの法則」に従って、裕福な個人資産家達、すなわち金持ち老人達から巻き上げるしかないということになる。政府税制調査会は04年3月30日に、これまで繰り返されてきた減税で負担を軽減された富裕層の増税を本格的に検討していく方針を決めた。
国家公務員94万人と地方公務員360万人、合計450万人余りを本当に半分に減らすという大英断が実行できるほどの、気概のある政治家が出現しない限りは、片付かない話である。特に縁故採用でものすごい数の職員を抱えている県庁や市役所の現状は目に余る。実は450万人の公務員以外に、あと550万人ほどの「半分公務員のような人達」がいる。特殊法人とか呼ばれた、半ば公共独占企業の社員達のことである。だから公務員は1000万人である。この平均的な家族数を3人とすると、3000万人だから国民1億2600万人の4人に1人が公務員でご飯を食べている。これがこの国の、大きな数字から見た場合の真実の姿である。
政府税調による税制改革の、その中間答申なるものが2003年12月に発表されている。そして04年6月に、個別の大きな税目ごとの改革案のもとめが発表された。これが重要である。ここには、はっきりと老人資産家に対する課税の強化が打ち出されている。「年金制度における給付・負担の改革も踏まえ、低所得者に対する適切な配慮を行いつつ、公的年金等控除、老年者控除の縮減を図るべきである」とある。定年退職した65歳以上の老人達で、年間所得が1000万円以上(ということは、年間の総収入では実質的に2000万円以上あるということだ)ある裕福な人々からは、その公的年金(厚生年金その他加算の企業年金)に対して、従来よりも倍ぐらいの税金を取ろうということである。
年金制度については、掛け金の払い方と、積み立て方と、貰い方についての根本的な議論として「トンティーン債」という考え方を知らなければいけない。だからまず、「トンティーン(Tontine)債」の話をする。いまの国民年金制度が崩壊しつつある秘密も、このトンティーンという仕組みの中にある。皆で出し合ったお金を積み立てたのが年金基金である。掛け金を払った者が、年金受給者資格年齢に達したらもらえる。より長生きした人が死ぬまでもらえるのが年金で、早く死んでしまった人は少ししかもらえない仕組みである。トンティーンという考え方は、人の名前から来ている。何十人かの人々が資金を出し合って壺の中にお金をプールしておいた。「30年後に会おう」と約束する。30年経ったそのとき、2人だけ残っていて、後の人たちは死んでいたら、その2人でプールしたお金を山分けし合う。このトンティーンという考え方から年金という制度はできたのである。
年金というのは、その基金の利子収益だけで運用しなければいけない。それなのに、今の日本の年金制度では、過去の掛け金を積み上げた元本そのもを取り崩して、食いつぶし始めている。
消費税が「消費税額を含めた総額表示」という表示法に変えた。これは旧来あった「内税」、「外税」という言葉とは違う考え方である。強いて言えば、「外税」表示にいったんしておいて、さらにそれを外側からまとめて「内税」表記に直させたというような、新しいやり方である。例えば、1冊の単行本であれば、「定価1680円、本体1600円」というような表示方法に変わった。従来は、「定価:本体1600円+税」(消費税額は80円で外税)となっていた。なぜこんな方式に変えたのかを考えると、次のようになる。例えば、ある商店の年間の売上総額が3億円であれば、その5%の1500万円はおおざっぱに言えば、消費税額であるという考え方が裏に潜んでいる。だから、国税庁・税務署は「お宅の売上の中には1500万円の消費税分が含まれていますよ」と言いやすいのである。消費税を格段に取りやすくした。ここに売上税の考え方が潜んでいる。国としては、「その売上総額のうち1500万円は消費税分ですよ」とあくまで言いたいのである。ここに消費税額の表示方法を利用した「売上税」の導入が見られるのである。そしてさらに法人(企業)に対する「外形標準課税」の思想の導入が見られる。売上税という「新しい税金思想」の恐るべき姿がチラチラと現れている。国は企業に対して、その外見の姿に合わせて一律で定額の税金を、まるで個人に「人頭税」を課すように課そうとしているのである。売上税は消費税の形を借りて、私達の生活の中にインベーダーのように入り込みつつある。売上税という考え方は、1個の商品をエンド・ユーザーが買うまでの、製造段階や卸の段階のすべての取引(納入・納品)段階で、「外形標準的に」何度でも課税しようとする悪質な考え方である。
国家という怪物は、形振り構わず、自分のために、および官僚達や公務員1000万人が生き延びていくために、まず自らを防衛しようという発想で動く。それに対抗して資産家達も、自分の財産を守るために、知恵を絞らなければならない。
政府税制調査会は02年10月22日に、「相続税の最高税率(現行70%)を50%程度に引き下げる方針一致した。一方で課税遺産額から差し引ける基礎控除(非課税枠)は縮小、相続税を広く薄く負担する仕組みに改める」。この意味は、日本では毎年の死者が110万人いるが、そのうちの5%である5万人の死亡者の遺産にしか相続税が課税されていない。それを、倍の10%である10万人まで課税対象を広げたい、という国の意志である。この5%の5万人が明らかに老人資産家層である。生存している資産家老人は、約300万人である。この人達の資産が相続税強化で狙われているのである。金持ち老人に対して、生きているだけでも社会のお世話になっているのだから、死んだ後でいいから、その分を負担しなさいという考え方である。まさしく老人税である。
以上が本書の概要である。本書は裏話を含めて著者の知る限りの本音で書いている。われわれ国民は政府の考え方や、特に本音の部分などはまるで理解できない。著者は日米の政財官界、シンクタンクなどに独自の情報源を持っているからこそ、本書が書けたのだと強く思わせる。日本国はご存知のように借金大国である。金利が上がるようなことがあれば、窮地に落とし入れられる。だからこそ預金封鎖が行われるのではないかといった話題も出てくるのである。日本の社会保障費の未来は見えないというより、お先真っ暗である。本書を読んで自己防衛策を考える一つのチャンスになるだろう。
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