言葉というのは「タダ」のように思われがちだが、ある時から、言葉ほど高いものはないと感じるようになった。というのは、私の言った一言が、強烈にある人の恨みを買ったからだ。私の経験上、きついことを言うからには、それだけの信頼関係を作っておかなければいけない。そのためにも、一緒に飲みに行くことも、結構大切なことである。仕事でちょっとしたトラブルがあっても、一緒に飲んだ回数がクッションになって吸収・分散されていくものなのだ。部下・上司の関係で飲みに行くことができないのなら、せめて昼飯を一緒に食べに行こう。その際、部下から上司を誘ってみるのは非常に良いことだと思う。
- 「ガキの使いじゃないんだからさ〜あ」
は年齢セクハラでしょう。「ガキの使い」という言い方で、その人の人格未熟さという領域にまで批判を及ぼしている。日本の場合、組織の中で年齢差なるものがすごく大きな要素になっている。
- 「生意気言うな!」
ただ年齢が上であるだけで、下の人間より優れていなければいけないという切迫感があって、特に男性は女性より優れていなくては、と追い立てられているように見える。そこで、女性をばかにすることで自分の精神を安定させているわけだ。
- 「頭悪いね」
それって、どういう意味だ?「頭悪い」と言われた側は、自分なりに悪い方向へ拡大解釈をして、その後も自分を傷つけ続けるという最悪の言葉になる。
- 「誰とは言わないが、そう言っている奴がいる」
これって、卑怯じゃないか。会社の上司に言われたら、「おまえがそう思っているんだろう!」と怒りがこみ上げてくる。
- 「アホ、ボケ、カス」
関西人限定ご用達。「アホ、ボケ、カス」は使いどころというのがあって、関西人に使うのはOK。関西以外、特に関東以北の人間に言ってはいけない地域限定の言葉なのである。
- 一生懸命やっている人に「早くやれ!」
は、能がない。上司側からすれば、せかしたくなる状況というのも当然あるだろう。その時、「早くしろ!」と言う前に、今どこまで進んでいるのかを確認する必要がある。それには、「いつまでにどのくらいできそうか、その予定だけ聞かせてくれ」という聞き方がある。
- 「いま会社がどんなに大変か、わかっているのか!」
脅してどうする。この類のセリフを多用する人は一種の病気だ。「ビッグワード病」、すなわち「大口たたき病」とでも言おうか。半分妄想に入って、話がどんどん大きくなっていく。
- 「オレが若いころはそういうやり方をしなかった」
自慢話ですか?「オレ」と「若いころ」という2つが重なって、より嫌われる状況を作ってしまうのだ。せめて「(現在の)オレならそういうやり方はしない」と言えば、少しましである。「オレが若いころは」なんて言われても、本当にあったかどうかよくわからないような自慢話を聞かされている気持ちになってしまう。
- 「オレがダメって言ったら、駄目なんだ」
感情で争うなかれ。威圧的に振る舞っていても、その実、ダメな理由すら部下に伝えられないほどコミュニケーション能力が欠如していて、しかも悲しいかな、それを自ら宣言してしまっている。
- 「オレはそれ好きじゃない」
で済む仕事は仕事ですか?会社は元来、主観で動くところではないのに、その上司は主観で物事を判断してしまっている。さらに、主観が通るほどに権力を持っているんだぞという、権力誇示の雰囲気がまた嫌な感じ。
- 「現実的には難しい」
人望を失う言葉です。「現実的には難しい」とは、腹を決めてリスクに身をさらし、その危機感のもとでアイディアを出し続けた経験があまりない人の発言ではないだろうか。そういう人は、ネガティブパワーを噴出させる傾向がある。
- 「はあ〜(ため息)」
は、心のトイレで済ませよう。ため息は、「はあ〜、期待はずれで力が抜けたよ」ということを露骨に示すボディ・ランゲージなのである。これが癖になっている人は、気を付けた方がいい。ため息は、決して人のモチベーションを高めないものなのだ。
- 「そのうちわかるよ」
は、“質問するな”に聞こえます。「そのうちわかるよ」、からは説明責任を放棄しているようにしか感じられない。それは、質問を拒否している態度に他ならない。まるで「質問をするなよ」と言われているようで、次から質問がしにくくなる。
- 「おまえに任せるんじゃなかった」
は、眼力のなさを露呈する。「任せる」という言葉は、相手をやる気にさせる究極の起爆剤なのだ。「おまえに任せる」と言われれば、最高にやる気になる。しかし、一方で、範囲をきっちりしないと、上司には命取りになる言葉だということを肝に銘じよう。「任せる」は任せた人間の腹が試される。
- 「オレは聞いていない」
責任押しつけるな。「オレは聞いていない」ということ自体ネガティブである。それを聞いた、聞いていないという問題にしてしまうと、責任を部下に押しつけようとしていると見られ、上司は部下からの信頼を失う。
- 「場の空気を読んでくれよ」
というのは、空気を吸っているだけじゃなくて、今、どういう流れで話がきているか、その文脈をつかんで発言しろよという意味である。空気というのは、結局一人ひとりの心なのだ。一人ひとりが今どういう気分に陥っているか、どういう考えを持っているのかということの集積に他ならない。だから、決して全体の雰囲気で計るものではなく、一人ひとり個別に見ていくと、自ずと掴めるものだ。
- 「本質を突き詰めろ」
というと、逆に的外れになる。本質を突き詰められるような実力は、非常に高いレベルであって、経験知の低い人に本質は突き詰められないのだ。経験知の低い人が本質を求めると抽象的になるか、もしくは自分の価値観にものすごく密着してしまう。
- 「のぼせるな!」
は、愛のお叱りと受け止めよ。
<嫌われる上司のセリフ>
- 「だから言ったろう」
- 「他の人はちゃんとやっているよ」
- 「学生じゃないんだから」
- 「他の人に頼む」
- 「いつになったら仕事ができるようになるんだ」
- 「給料分働け!」
- 「説明しなくてもわかってるね」
- 「きみにはもっと上にいってもらいたいと思っている」
- 「ずいぶん暇そうだね」
- 「こんなんじゃ給料泥棒だよ」
- 「あぁもういい。きみの言いたいことはわかったから」
- 「何回言ったらわかるの」
- 「そんなことも知らないのか」
- 「きみはバカか?」
- 「気が利かないねぇ」
- 「じゃまだ!」
- 「おまえってつまらないんだよ」
- 「担当替えるぞ!」
- 「言われた通りやれ」
- 「もうきみには頼まない」
- 「忙しいは理由にならないんだよ」
- 「ごちゃごちゃ言わずにやれ」
- 「(夕方になって)これ急ぎだから今日中にやっといて」
- 「えっ?それは人間として常識の範囲内のことだけど」
以上が本書の概要である。「人を殺すに刃物はいらない、言葉一つで死んでいく」と言われるぐらい、言葉には気を付けなければならない。自分が吐いた一言が、相手の心をグサッと刺すことがあることを知らなければならない。本書のあとがきでも述べられているが、「部下の言葉に傷つく上司の数が多いのに驚いた」とある。逆である。それだけ最近は言葉使いが乱れているとも言える。また、日本語の使い方が分からない人もいるということである。著者は言う。「今の20代は一体感を持ちにくい世代と言われている。例えば、昔の日本人は、何だかんだ言っても一晩飲めば仲良くなるような、何か信頼関係を持ち合わせていた。今はそういうことが苦手というか、育つ環境において、そういうことが習慣にない世代になってきている。ならば、距離を縮める感覚を自発的に磨く必要があるのではないだろうか」。もっと自分の感性を磨き、言葉に対し関心を持たなければならないだろう。
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