ヨーロッパで活躍する、新世代のビジネス指導者のトップを走る2人組の著書である。二人ともスウェーデンのストックホルム経済大学で国際ビジネス学の博士号を取得し、同大学に所属する研究者である。現代のビジネスライフの狂騒を独自の視点から分析する講演は大人気で、世界中から講演依頼が殺到している。
我々は市場経済の狂気に晒されているのだ。そして、我々は拝金主義の社会、自由と幸福が同意義ではない社会、新技術開発が必ずしも利益と直結しない社会に住んでいるのだ。この現実から目をそらさないでいただきたい。本書を書いた最初の目的は、読者諸氏に何を考えるべきかを提示するのではなく、考えること自体を勧めることだ。素晴らしい疑問は扉を開くが、その解答は扉を閉じるものだ。2つ目の目的は、読者諸氏にこの時代で最も有効な武器、つまり知識で武装させることだ。
本書は15章の構成になっている。第1章:終わりのないソロ、第2章:技術革新による開放、第3章:ルールが覆る、第4章:グローバルな消費者、第5章:アブノーマルのための時代、第6章:才能による支配、第7章:支配権を握る顧客、第8章:資本家は泣いている、第9章:知恵の網、第10章:イノベーションを起こす企業、第11章:ビジネスの秘宝、第12章:知的なモデル、13章:ムードの重要性、第14章:ムーディなモデルを管理する、第15章:カラオケ・ボックスからの開放、以上である。
目標を設定し、最大の努力をするだけでは、平凡な人生しか送ることはできない。他人の真似をしてはならない。自己改革をする時が来た。軽々しく忠誠を誓う社歌を耳にすることもなくなった。個人と市場経済がこの世界を支配している。今や、我々の一人ひとりが“ソリスト”なのだ。集団で奏でる音楽の時代は終わった。今の時代のリフ(詩や音曲の各節の終わりに繰り返される同じ部分)は、個人主義が奏でるバラェティーに富むサウンドが絶妙に組合わされている。
ビル・ゲイツの例を出すまでもなく、個人が世界を作り、そして世界を作り直していることは周知の事実だ。共産主義の崩壊の後、ドット・コミュニズム(インターネット上の共産主義)の盛衰の後、そして折に触れて資本主義が厳しい疑問の目にさらされた後、この世界に残った唯一の“主義”は個人主義となった。
情報は、それを理解する者に対してのみ意味を持つ。権力は、情報をコントロールする者の手から、知識をコントロール者の手へと渡ったのだ。変化は技術、社会制度、そして価値観の3つの力が加わって生成されるものだ。あるいは、新しいツール、新しいルール、そして新しい価値基準と言った方がわかりやすいだろうか。いずれにせよ、我々が変化を促す力の力量配分をコントロールしない限り、この3つの力は我々を思い通りに変えてしまう。
・2001年のある一日における国際電話の通話数は、1981年の1年間における世界全体の通話数に匹敵する。
・2003年、オンライン経験を持つ人は6億人を超えた。
・2003年には携帯電話ユーザー数は約12億であった。ノキアは、2008年までには、ユーザー数は20億を超えると予測している。
ITの影響は個人を直撃する。情報技術は個人技術なのである。ITは結局、家庭に入り込んだ。変化をもたらすきっかけは、過去を支配した社会制度を壊すことから生じる。伝統的な社会制度は過去のものになりつつある。1900年にはイギリス人の3分の2が毎週教会に通った。しかし、今では毎週教会に足を運ぶのは、たった5%である。信仰心が厚いといわれるスペインのカトリック教徒にも、同じ傾向が見られる。
・ストックホルムの世帯の半分以上は単身者から成り立っている。結婚したカップルの60%が離婚に終わる。
・アメリカでは、結婚した男女と子供からなる世帯の数は全体の4分の1以下である。
・子供の3分の1はシングルマザーから生まれる。60年前は3.8%であった。
価値観も変わってきた。1968年には大学1年生が人生目標を尋ねられたとき、41%は経済的に豊かになることと答え、全体の4分の3は人生に対して意味のある哲学を築くことと答えた。それから30年後、経済的に豊かになることと答えた学生は78%になり、41%が人生に対して意味のある哲学を築くことに関心があると答えた。
技術は、集団が国家の枠を超えてつながるための道具を提供する。ITの出現によって、地域では目立たない人がグローバル規模で重要人物になる可能性が出てきた。しかし、これにはダークサイトがある。新しい集団が脅威になる可能性もあるのだ。
持つ者と持たざる者の間の格差がどんどん広がっている。一人の人間にとって、人生を謳歌することと生計を立てることを両立させるのはますます難しくなってきた。アブノーマルは新しいノーマルだ。我々は、中流階層の育成の原理に基づいて社会を構築するという考えを捨てたように思われる。その代わりに、自然淘汰の原理が再び世界を支配するようになった。1980年代の前半に、アメリカでの中流階層の破産者の数が増えた。こうした破産のうち、40%は医療問題、そして20%は離婚に起因した。破産を経験した人の3分の2は、巻き返しを計ることは不可能だと感じている。2003年には160万人以上が破産の申し立てをしている。
地球に住む人間の半分は、一度も電話をかけたことがない。土地均分論、工業主義、ポスト工業主義は地球レベルだけでなく、一つの国の中にも共存している。世界の労働人口の3分の2は、未だに農業に従事している。世界で最も多くの人々を死に至らしめている空気汚染の原因は何であろうか。車であろうか。工場であろうか。いずれも違う。料理に用いる火だ。10億人もの人々が、未だに換気設備のない小屋で煮炊きしているのだ。
工業化の夜明け以来、世界経済の中心地とその他の地域の生産性の格差は拡がった。こうした結果、貧困に打ちのめされた約35億人がカラオケ・ボックスの外で列をなしている。
最近まで、世界で最も“豊か”だった国は、天然資源の観点からという条件付きだが、ソ連であった。この他にも“豊かな”国がある。ナイジェリアには石油があり、インドネシアには貴重な材木がある。南アフリカは、ダイヤモンドや金を保有しているという意味で豊かであり、ブラジルはジャングルや鉱物がある。メキシコにはたくさんの銀と石油がある。ベネズエラに至っては、石油に浸されているようなものだ。それでも、知識に基づいた経済学では、こうした国が“豊か”であるという人はほとんどいないだろう。才能のある人はどんどんそのスキルを伸ばす一方、二重経済での敗者は簡単に、そして冷酷に社会から見捨てられる。
今日、最も不足している資源は、カネではなく想像力だ。個人にとって、成功する見込みのある唯一の戦略は、「希少な資源」になることだ。世界には、才能のある人が集まる国もあれば、誰も行きたがらないツンドラ地帯のような国もある。勝ち組は知識を生み出す人材を輸入し、生み出された知識を輸出する。
グローバル化、規制緩和、そしてデジタル化は、我々を異常に活気のある市場へと連れて行ってくれた。今や、過去に例をみないほど多くの地域に、多くのものを扱う、多くの市場が登場したのである。この発展は、我々自身さえも驚かせている。2001年の1日の国際貿易額は、1979年の1年間に取引きされた額と同じである。2001年の1日の外国為替取引額は、1979年の1年間に取引きされた額に相当する。モノとカネは世界中を駆け巡っているのだ。マッキンゼーの研究によると、世界で生産されたものの20%が、世界市場で取引きされるという。30年後には、この数字は80%まで伸びると予想されている。
企業は2つの集団と戦うことになる。企業は有能な個人に人質に捕られつつ、次から次へと要求を出し続ける顧客に、包囲されるようになるだろう。円滑に機能している市場経済の第1の特徴は、「低い平均収益率」である。組織がこれから生き残るためには、有能な個人を活用し、顧客創造を実現する術を身につけなければならない。
富は知恵によって作り出されるが、時代に乗り遅れないためには、企業は組織に新しい、そしてこれまでとは根本的に異なる「知識のネットワーク」を形成することが要求されている。また、国際化は有能な人材が世界に散らばることを促進する。カメラ付き携帯電話など、これまでには考えられなかった組み合わせの商品やサービスが開発されている。
知識には賞味期限がある。従って、革命的で進歩的な絶え間のない革新は、歓迎されないかもしれないが、未だに企業が生き残る上での現実的な課題だ。革新―模倣―商品化のサイクルはどんどん速くなっている。競走が激しくなるに応じて、最新の知識も腐るのが早くなる。革新を断行しようとする企業には、「人材」、「未来への展望」、「目的」、「仕事をするための舞台作り」、そして「持続性」の5本の注射が必要である。
これからの企業間の競争を決定づけるのは暗黙知である。言葉で説明したり、紙に書いたりできるものは、全て流通し、世界中に広がってしまう。多くの場合、こうした情報は、日単位どころか分単位で拡散してしまう。何かが明瞭に表現できるのであれば、それはすぐに模倣される。一方、暗黙知は粘着性が強く、成文化できる情報ほどには速く拡散しない。暗黙知の存在は、社員がスキルを完全な状態に保って退社することが難しくなると言う点で、企業に思わぬ利点をもたらす。
競走力のあるビジネスモデルには3つの基本的なタイプがある。企業は以下のものを所有すべきである。
未来に一番乗りをするためには、企業にはスピードが必要だ。物理学によって、我は速度が質量とエネルギーの関数であることを知っている。つまり、エネルギーが大きく、質量が小さいほど、速度は大きくなるのである。これをビジネス界に当てはめてみよう。
1980年代と1990年代はスリム化のプロセスに専念した時代だった。つまり、ダウンサイジング、アウトソーシング、そして管理費削減の時代だった。企業は自らをきわめて効率的な武器へとリエンジネアリングした。管理職はコア・コンピタンスに集中し、IQがものを言う知識ベースの組織を構築するように命令された。今日の企業は、協力して能力を創造し、個性を与えていかなければならない。
アメリカが成功している理由の1つに、新しい企業を創造し、育成する能力があることが挙げられる。入れ替わりが激しいのは企業だけでなく、資産家も同様である。2002年では、アメリカ人のトップ10のうちの7人は、会社を設立した起業家であった。
幸運な人は、人生に対してポジテブな展望、「なせばなる」という態度を持っている。幸運な人は、幸運に出会える場所に身を置いている。幸運な人は、異なるやり方で現実を認識している。幸運な人はまた、前もって行動する。成功している企業と同様、彼らは変化しなければならない前に変化する。そして、幸運な人は、練習し、連習し、練習する。
以上が本書の概要である。過去のデーターを駆使しながら、現在がいかに大きく変化しているかの事例を示して解説している。そして、今までの常識を否定して、新しい目標に挑戦していかなければ幸運は来ない。第1章のはじめに「目標を設定し、最大の努力をするだけでは、平凡な人生しか送ることはできない。他人の真似をしてはならない」と述べている。過去において日本の常識は、他人をカラオケ的にコピーすることが美徳とされていた。しかし、今日はこの思考を否定しなければならない。今日、成功している企業は、ベルクロ(着脱が容易な面ファスナー、一種のマジックテープ)を使っているのだ。本書で述べている通り、自己改革が全てである。
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