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2005年日本経済表紙写真

2005年日本経済 世界同時失速の年になる!

著  者:高橋 乗宣
出 版 社:東洋経済新報社
価  格:1,575円(税込)
ISBNコード:4−492−39430−3

従来の経済学は、一国内の経済の均衡をテーマにする学問であり、人、モノ、金、情報の移動は、その国の情勢の中で考慮すべき問題であった。経済の国際化といっても、せいぜい貿易摩擦が問題になる程度だったのである。経済がグローバル化する時に、最も問題となるのは国際標準となるルールをどうするかということである。文化も慣習も違う国々の経済が相互に関わりを持つのだから、国際スタンダードがなければ市場は混乱する。しかし、現在のところ、国際スタンダードはこれだ、と決定する機関は存在しない。

いま世界は「原料高・製品安」の経済になっている。原料高は原油価格の高騰が最も顕著で注目を集めているが、原油だけではなく鉄鉱石、ニッケル、銅といった鉱物資源に代表される一次産品の市況はすべて高値を追っている状況である。これは、もちろん中国が大きな影響を及ぼしている。中国によって需要過剰状態になっているのだ。

ご存じのように、アメリカの財政赤字と貿易赤字という双子の赤字は、ブッシュ政権になってから膨大に膨れあがった。いわば、借金漬けの大国である。これほどの借金を背負いながら、アメリカ経済が回っているのは、海外の資金を引き入れて赤字をファイナンスしているからである。米ドルの基軸通貨としての地位が崩壊の危機にさらされていることは、紛れもない事実なのである。現実問題として、日本に次いで外貨準備が多い国となった中国は、外貨準備のかなりの部分をドルからユーロに置き換えている。さらに、アラブの富豪たちは、アメリカに投資していた資金を引き上げて、世界各国に分散させている。世界のドル離れは既に着々と進行しており、ドル暴落へのカウントダウンはもう始まっているのかもしれない。

ドル離れが進むとドル安が進行し、アメリカ国内では輸入物価が上昇してインフレをもたらす。インフレになれば、国内消費が抑え込まれ、同時に国内貯蓄も抑え込まれるので、長期金利が上昇する。長期金利が上昇するということは、債券価格が下がるということであるから、株式市場の資金はより有利な金融商品に流れ、株価の暴落を引き起こす。すなわち、ドル安、株安、債券安(金利高)というトリプル安の大ダメージに見舞われることになるのだ。

18世紀のドイツの大哲学者ヘーゲルの言葉に「ミネルヴァのフクロウは夕闇を待って飛び立つ」がある。ミネルヴァとは、古代ローマ時代の学問や知恵を司る神様である。夕暮れとは、ある時代の終わりを指す。つまり、ある時代が終わりの時を迎えようとしているとき、次の時代を指し示す知恵の神の使徒が飛び立つということである。次の時代を指し示すフクロウはアジアである。アジアが世界を、経済をリードするようになることは間違いない。中でも、世界最大の市場と言われる中国が、これからの世界経済の牽引役となっていく可能性が非常に高いと言えるだろう。

日本の外需は中国向けの輸出が非常な勢いで伸び、日本にとってまさに「カミカゼ」となった。2008年の北京オリンピックや2010年の上海万博の成功に向けて、中国はますます日本の技術力を必要とするだろう。そして、さらに幸いなことは、この「カミカゼ」は決して一過性のものでなく、20年、30年と吹きつづける可能性がある、ということである。

日本の景気の谷は2002年1−3月期で、続4−6月期で上昇に転じ、それが今日まで29か月にわたって続いているという(2004年8月時点)。2004年4−6月期の名目GDP(国内総生産)成長率が、5四半期ぶりのマイナス成長を記録した。実質でも前期比0.4%増で、年率換算は1.7%増だ(速報値)。前期の実質が年率6.6%増だったから、急激なブレーキがかかった格好である。2003年度にわずかなプラスを記録した名目GDPは、2004年度に再びマイナスとの公算は大きくなってきた。

アメリカの景気が勢いを失った中で日本が持ち堪えるには、個人消費と設備投資がポイントになる。しかし、貯蓄ゼロの世帯が40年ぶりに2割を超える中で、消費に期待するのは論外だ。政府は「日本経済が蘇ってきた」と宣伝しているが、注意しなければいけないのは、この景気回復にはうわべの数字からはわかりづらい重大な問題が潜んでいたということだ。デフレ下の回復は、いわば「数量景気」(物価があがらなくても、取引量の増加によって景気が良くなる状態)に似た状況にある。

  • 第1の問題は、デフレが深化しているということである。
  • 第2の問題点は、家計部門が赤字に転落してしまったことである。
  • 第3の問題は、設備投資が伸びている時期があったにもかかわらず、銀行に対する資金需要がまったく伸びていないということである。

最近、「2008年バブル再来説」なるものが話題になっているらしい。なぜ、2008年にバブルが再来するかというと、団塊ジュニアの世代が所得の多い30代後半にさしかかるのが2008年頃で、住宅取得や子供の教育・養育費にお金をかけ、住宅需要や消費が盛り上がるのではないかと考えられているようだ。面白い説だとは思うが、インフレ論者がいうような状況になることはまずないだろう。

「景気が回復すれば、いずれみんな良くなる」、という古い発想は捨てなければならない。もうそんな時代は遠い過去のことなのだ。今ほど経営トップの役割が問われる時代はない。経営者の舵取り一つで、企業は浮かび上がりもするし、沈没もする。自ら学び、経営基盤を点検し、経営戦略を明確にして進んでいかなければならない。

2004年3月期決算を見れば、銀行業界は久しぶりの好決算を発表した。7大銀行グループはUFJ、りそなを除き、3期ぶりの黒字決算となった。問題の不良債権残高は7グループ全体で14兆円と1年前から6兆8000億円も減少し、不良債権比率は7.2%から5.2%に改善した。中でも群を抜くのが、三菱東京ファィナンシャルグールプの強さだ。不良債権処理では1000億円を超える繰戻金もあった。貸倒引当金として積んでいたカネが必要なくなったのである。体力の回復も十分で、自己資本比率は12.95%まで上昇した。しかし、金融界全体の再生には、まだまだ時間が必要だろう。「銀行業」としての将来を考えると、危機的な事態から抜け出したとは言えない。健全化が大きく進んだように見えるが、所詮「ジリ貧型」を脱していないのである。

長期金利の急上昇(国債価格は急落)で、金融政策は非常にデリケートな局面を迎えている。このままでは長期金利の2%台乗せは時間の問題だが、昨年のような超金融緩和政策(日銀による大量国債買い支え)に舵を切るわけにはいかない。原油価格の高騰をはじめとして、各種鉱産品や素材価格が高値を続けており、世界的にインフレ警戒の局面に入りはじめているからだ。竹中大臣は「長期金利の上昇はネガティブ・サインでなく、景気上昇期待によるポジティブ・サインの要素が強い」、との見解を明らかにした。この評価は、それなりに理解できる。この金利上昇の主因が、(1)景気回復が本調子になっている、(2)デフレ脱却が視野に入り始めている――の2つだとすれば、経済財政担当大臣としては「よかったよかった」ということになるだろう。しかし、2003年度、日銀の決算が32年ぶりに赤字になった。主因は保有国債の評価損が拡大したことだ。国債を買い持ちしているのは日銀だけではない。大手銀行をはじめとする金融機関も、もっぱら国債ばかり買っていた。だから、長期金利の上昇は、経営健全化が至上命題となっている銀行にとって、体力を奪う強い逆風となるのは間違いないのだ。

2003年から景気は回復したかに見えたが、2004年4−6月の経済成長率は、前期比0.4%と減速した。この景気の減速の中で長期金利が跳ね上がるという格好になると、せっかくの景気回復傾向にも冷や水を浴びせるということになる。

現在、国土と地方を合わせた借金は、平成15年度末で695兆円、16年度末には719兆円になると試算されている。公的債務というものは、煎じ詰めれば国民の借金である。国民1人当り504万円。税制の回復が財政再建の課題となっているが、残念ながら税収の伸びは期待できない。出生率が下がり、日本の人口は今後減少の一途を辿っていくからだ。

年金制度は、出端の段階で想定値が大狂いとなって、早くも不安いっぱいとなっている。問題は年金だけではない。国民1人当りの付加価値生産性の向上スピードが人口減少のスピードを上回らない限り、国内総生産は次第に減っていく。日本経済は、デフレ脱却の出口がほのかに見えてきたばかりだというのに、もっと厄介な “人口デフレ”に襲われようとしているのだ。

膨大な赤字を改善するには、増税しか方法はないのである。その時、1400兆円の個人金融資産が格好のターゲットになることだけは間違いない。2005年4月からペイオフが完全解禁となる。これによって、銀行が破綻すると、1000万円以上の預金は戻ってこない。1000万円以上の預金を持つ人にとっては、現金を銀行に置いておくのも安全ではない時代になってしまった。既に述べてきたように、これからの時代は景気がよくなっても、皆が上昇するということはあり得ない。いい企業は活況を呈するが、悪い企業はとことん業績を落とすという「勝ち組」と「負け組」が鮮明に分かれる時代になっていくだろう。

個人が企業内で生き残っていくには、自分に付加価値をつけていくしかない。以前なら、自分の仕事の範囲内のことだけを考えていればよかったが、今は自分の仕事に通じているのは当たり前、それに加えて何ができるかということが求められているのである。

アメリカ経済の見通しについて述べれば、景気という点では2004年半ばがピークで、後半から徐々に減速に入っている。2004年前半まではブッシュの打ち出した大型減税の効果でまがりなりにも消費を支えてきたが、その効果も剥げ落ち、景気は減速局面に入ってきた。企業業績が悪くなれば、当然雇用にも影響が出てくる。「株主重視経営」で日本とは比べものにならないほど労働分配率が低い(全体的に見て労働者の賃金を下げている)アメリカでは、企業も打つ手なしの状況だ。さらに多くのアメリカ企業では、固定費を下げるためにオファショアリングの手法をとっている。そのため4−6月の雇用の伸びも40数万人増のマーケット予想に対して、実際には3万数千人にとどまってしまった。雇用が伸びなければ、消費も伸びない。もちろん、住宅投資も伸びない。企業の設備投資も伸びない。財政出動の余裕もない。ということで、2005年のアメリカ経済は完全に手詰まりの状態にあると言える。

アメリカ経済が手詰まりの状態になったときに金利が上昇すれば、ブレーキの効き方が倍加してしまう。その結果、消費と住宅というアメリカの景気を牽引してきた2つの柱が折れてしまうと、2005年のアメリカはリセッションに突入する可能性が出てくる。現在、連邦財政赤字が約5000億ドル、経常収支赤字も約5400〜5500億ドルにも及ぶ。財政赤字と経常赤字がそれほど膨らむとどうなるか。その赤字分は外国から資金が入ってこないと、経済が回らなくなる。言い換えれば、常に借金を繰り返していかないといけないのである。その結果、アメリカの債務超過は2002年末には2兆7000億ドル超という、とてつもない数字になっているのだ。金利が高くなると、通常ドルが買われてドルの下落にやや歯止めがかかるというのが「経済の教科書」にあるセオリーだが、実際にはドル高になるというシナリオなないだろう。

アメリカ経済が失速すれば、世界経済の牽引役が世代交代を迎えることになるだろう。アメリカの次の主役は、言うまでもなく中国だ。21世紀は中国を中心とした東アジアの経済パワーが世界経済を牽引していくことになる。

EUは21世紀の新しいパラダイムにまだ乗ることができていない。古いナショナル・エコノミーの中の発想なのである。もともとEUの発端はクーベルタン、ジャン・モネ、ロベール・シューマンら20世紀前半を生きた人々の「戦争のないヨーロッパ」という安全保証上の念願を形にしたものである。そのため、みな同じルールに従って、とにかく一つになることを最優先している。しかし、グローバル経済の時代においては、同じルールで一つになることにメリットは少ない。むしろ、他と違うことこそがメリットとなる。そのことは、中国や東南アジア諸国と日本との関係に象徴されている。

アメリカをはじめとする先進工業国では、主要産業がほぼ成熟期を迎え、かつてのように活力に富んだ成長を期待しにくい状態に入ってきた。そのような時期に13億超という人口を抱えた中国が、経済のテイクオフに成功し、成長期に突入したのである。2015年には先進国の仲間入りをすることを目標に、中国は破竹の勢いで経済開発にばく進している。

国際経済学の一つのジャンルに開発経済論という分野がある。簡単に言えば、発展上国の経済開発を主要テーマにした学問領域だが、この開発経済論の中にいまでは常識となっている一つの仮説がある。それは「雁行形態的発展」というものだ。雁行というのは、雁という鳥が空を飛ぶ時の隊列を表している。雁の群れが空を飛行するときには、先行して飛んで行く部隊とやや遅れて飛んでいく部隊の2つに分かれ、ちょうど「人」と言う文字を横にしたような形になる。先行した部隊が先進国であり、遅れている部隊が発展途上国である。先行した国は、遅れて開発される国に対して労働集約的な産業や部門を明け渡していく。そして先進国は高付加価値の分野に特化していく。そうしなければ、先進国は急迫してくる国に追いつかれ、国力を低下させることになる。これが雁行形態的発展である。

さて、急速に力をつけている中国経済だが、もちろんリスク要因も存在する。まず第1のリスク要因は、金融システムが整っていないことだ。中国では、自動車を購入する時に現金で支払う。第2のリスクは税制が未整備であることだ。これまで共産主義体制の計画経済のもとでは、納税という意識はほとんどなかった。そのため、莫大な利益を上げている私企業や個人も、まともに税金を支払っているケースは少ない。中国に進出した外国企業の脱税もあるようだ。多国籍企業の脱税が年間300億元に上ると推定されると中国税当局は発表している。

日本は内需主導型経済への転換が言われて、もうかなりの時間が経つ。しかし、それから20年近く経過した今も、日本経済は外需主導経済のままである。依然として輸出に依存している構造は、まったく変わっていない。そもそも日本の経済システムは、輸出を前提として構築されてきた。対米輸出を中心とした輸出によって、日本は驚異的な高度経済成長を遂げてきたのである。言ってみれば、日本のシステムそのものが外需型に作られているのであり、それを簡単に内需に転換することは困難なのだ。

アメリカの一極支配が崩れ去ろうとしているときに、ドル安に対してムダな抵抗を続けているのは日本だけだ。どれほど介入したとしても、もはやドル安への流れは止めることはできない。日本がアメリカのように、企業の業績だけは回復したが、失業者が大量に出現する「ジョブロス・リカバリー(雇用減少型の回復)」にならないためには、高付加価値製品へのシフトが必要不可欠なのである。

以上が本書の概要である。本書の冒頭にあるように、「今、世界経済は大きな構造変化に直面している。グローバル経済の中心軸がシフトし始めているのである。アメリカが中心となっていたグローバル経済の動向が、新たに立ち上がった巨大な産業国――中国を中心に回り始めたということである。中国特需の“カミカゼ”は、日本経済に時間と余裕を与えてくれた。この今こそ、日本は根本的な構造改革と、さらなる技術革新を行わなければならない」、と結んでいる。内閣府と財務省が12月27日発表した、10−12月期の法人企業景気予測調査によると、大企業全産業の景況判断指数は前期比7.5ポイント低下の2.1となった。中堅企業も全産業の判断指数が前期比3.4ポイント低下のマイナス0.6となった。景気が踊り場にあると見る企業が増えていることを反映した形である。日本の産業は輸出頼りであることには変わらない。そうであれば、このグローバル社会の中で、日本国内のみを見ていてもダメであることは間違いのないところである。すなわち、今後、国際競争が激しくなる中で、どの分野でも国際比較トスピードが重要になることは言うまでもない。「世界を見ろ」である。


北原 秀猛

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