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新「成長経済(ニューグロウス)」の構想表紙写真

新「成長経済(ニューグロウス)」の構想―デフレ後の日本経済―

著  者:斎藤 精一郎
出 版 社:日本経済新聞社
価  格:1,680円
ISBNコード:4−532−35121−9

本書は、10数年以上に及ぶ平成デフレが早ければ3年後、遅くとも5年後に終息すると分析。「デフレ後の日本経済」に何が起こり、我々はいかに対処していくべきかを幅広く論じたものである。3つの重要かつ重大な理由から、「デフレ後」の日本丸の大航海について真摯に考えておかねばならない。

  • 第一は、この長い平成デフレ脱却の時期は特定できないものの、近い将来に終息を迎える可能性が高まっていることだ。
  • 第二は、平成デフレのもとで、前代未聞の財政金融政策が展開されてきたのは当然としても、デフレ脱却の出口が近づくにつれて、それらのツケが重圧となって日本経済や国民の両肩にのしかかってくることである。
  • 第三は、高齢化の嵐が到来しつつあるが、これが「デフレ後の日本経済」に過重な財政負担を課してくることだ。

景気に「動意」が生まれてきた。かなりの数の上場企業が好決算を示し、企業心理も強気に転じる向きが目立って増えている。やっと、日本経済に展望を拓くエンジン音が聞こえ始めてきたのか。問題はこの「景気の動意」が持続力を持ち、本格的な景気回復につながるかだ。しかも、この回復については政府の政策的関与がはっきりしていない。そのこともあって、回復の持続力に疑問を持つ向きが結構多い。いずれにせよ、小泉内閣の経済政策は文字通り「構造改革一本槍」で、財政金融のマクロ政策は積極的な出番はもとより、脇役としてもまったく期待されていない。実際に今次景気回復を見れば、中国経済や米国経済の力強い成長、ならびに降って湧いたようなデジタル家電ブームが日本経済を牽引している事実に突き当たる。だから、この中国とデジタルという外因が暗転すれば、景気は再び減速、さらに失速せざるを得ない。

95年から2003年までに金融機関の破綻は172件に達する。銀行としても不良債権処理に真剣にならねば、金融庁からの破綻宣告を受けかねないとの危機感が高まってきたわけだ。13年以上という戦後最長の経済停滞にもかかわらず、今回のデフレは政治的、社会的暴動は皆無に近い。選挙をしても野党の伸長は目立つが、与野党逆転とはいかず、国民は基本的には現状維持を望んでいる。失業率も5.4%を天井に、それを超える状況には至らない。

平成デフレは、「資産デフレ」効果と「価格収斂」効果の2つの要因によって生起しているとのことだった。GDPの「デフレギャップ」は、2002年1月〜3月期のマイナス5.1%から、2004年4月〜6月期にはマイナス0.15%と大きく縮小している。それでもデフレ圧力がなお残存しているのは否定できない現実である。日本経済にはデフレ圧力が今なお居座っている。空模様に例えれば、雲が晴天を塞いでいる。それはいわば帯状になっている。大企業対中小企業、製造業対非製造業、そして大都市経済圏対地域経済の格差として表れている。換言すれば、平成デフレ下で日本経済は「光の経済」と「影の経済」に分化し、新たな2重経済が形成されている。「影の経済」に巣食う下方圧力を抑制し、さらには解消させる要因は大別して、(1)中国とデジタル効果など特需的な外部圧力、(2)潜在的地域力、(3)マクロ的牽引力、(4)金融統治力、の4つに集約できる。

2004年に入って、上場企業を中心に高収益を上げる企業群が目立って増えている。この日本経済の蠢動には大別して3つ要因が強く作用した。第1はCSR(構造改革)効果に象徴される企業のリストラ戦略の本格化、第2はデジタルブームや中国への輸出拡大に見られる効果、第3は21世紀型の経済モデルの構築だ。

しかし、今後の日本経済にとって最大の難問は思わぬところからやってくる。それは平成デフレ終焉を目前にしての日本経済のバランスシートの重圧だ。政府・日銀は、財政大出動と金融超緩和策という2つのマクロ政策、すなわち景気対策と小泉内閣による構造改革だ。この構造改革は日本経済の閉塞に風穴を空け、新しい成長軌道に展望を開くデフレ脱却策として企画され、実行されているが、所期の成果を上げられるかどうかは今後の問題だ。少なくとも2、3年経たねば評価は下せない。

経済活動が下降してくれば、政府は景気浮揚のために財政出動を積極化するが、税収の減少で財源不足だ。だが、政府は国債発行で容易に財源を調達できる。気が付けば、2004年3月末に政府(国および地方)の長期債務残高は719兆(うち国債556兆)に達した。さらに、2004年度には借り換えのための約84兆円に新規財源のための36兆円を加えて、合計で120兆円前後の国債を発行しなければならない。しかも、今後とも毎年120兆〜150兆円の大量の国債発行を続けなければ、日本の財政は身動きできない。

平成デフレは今後、「資産デフレ」効果の消滅、およびグローバルエコノミーでのボルトネック現象や日本企業のグローバリゼーション対応力の増大などで「価格収斂」効果が後退し、終息過程に入る。だから、長期金利はスピードはともかく、今後は確実に上昇に向かう。

これまで小泉改革は多数派である抵抗勢力との攻防や妥協を重ねながら進められてきた。だから、小泉首相の任期満了(2006年9月)が近づいてくれば、抵抗や修正にとどまらず、撤回や逆襲の動きが強まるのは必然ではないか。小泉改革は大略、次の4つに集約される。第1は道路公団の民営化、第2は郵政民営化、第3は年金改革、第4は三位一体改革である。これら小泉改革が既に実行段階に入り、軌道に乗っていれば、多少の揺り戻しや抵抗があっても基本的に改革は推進されていくだろう。だが、これら4つの主要改革が今後どのように展開され、改革の実を挙げていけるのかは、現時点では不透明なのである。

本章で論じねばならない2つの潮流だ。1つはグローバリゼーション、もう1つは高齢化である。財政金融大出動のツケが過去の後遺症であるのに対して、これら2つの潮流は未来から押し寄せてくる。この点でこの2つの潮流は未知な衝撃力を持つから、十二分な心構えを持って真摯に立ち向かわねばならない。グローバリゼーションは経済的次元だけでなく、文化的、社会的、政治的な次元でも多様な問題を提起するが、ここでは「経済的グローバリゼーション」に焦点を絞る。この経済的グローバリゼーションにかかわるネガティブ効果について、マーチン・ウルフは、(1)不平等と貧困の拡大化、(2)自由貿易への逆作用、(3)多国籍企業の収奪的利益、(4)金融自由化に伴う不安定化作用、(5)民主主義の弱体化、(6)国家主権の侵害、(7)環境汚染、などの7点を挙げる。

グローバリゼーションの大波にいかに適応行動を取っていくか。グローバリゼーションを経済学的なフレームで捉えれば大略2つの経済効果をもたらす。具体的には世界規模の「価格収斂」効果、および「生産要素価格均等化」効果だ。グローバリゼーションの大波に日本企業は大企業、中小企業、大都市型企業、地域企業を問わず、真っ正面から対応していかない限り、成長はもとより、もはや生き残れなくなっていることを指摘しておきたい。グローバル次元で競争力を持たない企業は、もはや21世紀には生き残っていけない。

政府は毎年、借換債を含め100兆円を優に超す国債発行(03年度で約120兆円)を続けなければならない。ざっくり言っても、2%の金利上昇で約2兆円強の利払い増加になる。これは財政緊縮効果を持つから、景気に抑制的に作用する。財政の三大歳出項目は社会保障関係費、国債費、地方交付税である。

政府が毎年実施する調査の一つに「国民生活意識調査」がある。この調査の中で、「世間一般から見てあなたの生活程度は上、中の上、中の中、中の下、下のどれですか?」という有名な設問がある。この調査は1958年から始まっている。この58年時点で「上流(上と中の上)」は3.6%、「中流(中の中)」37%、そして「下流(中の下と下)49%だった。だが、70年には「上流」「中流」「下流」各々7.9%、50%、37.6%となり、91年には8.2%、54.4%、34.1%。そして、2004年には10.3%、52.8%、33.6%と、「中流以上」は63.1%になっている。

日本経済の労働生産性上昇率(年率)の推移を見ると、1960年代が8.8%、70年代3.5%、80年代2.7%、90年代0.9%と大きく低下している。「高齢化の嵐」のもとで「格差階層社会」の罠に日本社会が落ち込まないための必須条件は、2.5〜3.0%の経済成長を実現することなのである。換言すれば、3.0〜3.5%の労働生産性上昇率を達成することだ。

シュンペーターは、技術革新や技術進歩を「新結合や新機軸」(イノベーション)という新概念で捉え、次の5つに分類している。

  1. 新製品の開発・販売
  2. 新しい生産技術の導入
  3. 新しい市場開拓
  4. 原料や半製品の新しい供給源の出現
  5. 新しい組織の創出

日本経済にとって最重要テーマは、新たに富を産出するボナンザ(金鉱脈)を見つけ出すことだ。なぜなら、過去のデフレに起因する膨大なツケ、「高齢化の嵐」に伴う未来からの国民負担増、戦後経済構造の転換に伴う移行コストなど、確実にのしかかってくる膨大なコストを賄うには「3%成長」がノルマになるためだ。ネオマルサス主義に浸って田園生活を享受し得るのは、ほんのわずかのエリート層だけに限られる。

厳しい生き残り戦争によって清算、淘汰される中小企業が増えることは避けがたい。否、大企業の中にも退場に追い込まれるところも出てこよう。だが、時代の潮流に弾力的、柔軟に対応していけば、内需産業は新しい形で蘇生できる。それは基本的に2つの面での「転換能力」さえあれば、内需産業は新たな市場変化に適応可能だからだ。一つは、日本には膨大な内需市場が存在し、かつそれは熟成化、高質化しているから、潜在的なニーズに的確に照準を合わせたマーケティングが成功すれば、新製品や新サービスの開発・生産・販売で収益を確保でき、場合によっては世界商品を生み出す機会もあることだ。もう一つは、円高化、さらにグローバリゼーションによって、海外から安価な原料や半製品、部品、サービスなどを調達できるようになるから、それらに付加価値を付けられれば、収益を上げ得るということだ。日本企業は高質市場に焦点を当て、新しい製品・サービスを開発し、調達コストを大きく削減することが不可欠である。

以上が本書の概要である。著者があとがきで書いているように、デフレが終焉したとしても、その後が大変である。一つは長期金利の上昇の問題である。2005年の日本国の利払い費は8兆9000億円である。一般歳出に占める割合は10.8%である。しかし、金利が1%上昇すると2兆円の金利負担増となる。借換債を含めて毎年100兆円を超す国債を発行し続けなければならない。この金利たるや払いきれなくなる。もう一つが高齢化の嵐である。これは過重な財政負担を課してくることは避けて通れないことを意味する。これらを跳ね飛ばしていくには、高い経済成長によって税収を増やしていくことであるが、現実には難しい。そうなると「破断界シナリオ」が真実味を帯びてくることである。また、一方でグローバリゼーションの波は否応なしに降りかかってくる。著者が本書の中で示しているが、日本企業は高質市場に焦点を当て、新しい製品・サービスを開発し、調達コストを大きく削減することが不可欠である。

現在の日本が置かれている立場を明確に示し、その対応策が述べられている。


北原 秀猛

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•  成長経済
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