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考える技術

著  者:大前 研一
出 版 社:講談社
価  格:1,680円(税込)
ISBNコード:4−06−212492−0

世界経済は急激に変化している。この変化の本質とは、これまでの経済原則のまったく通じない、新しい経済が生まれてきたことである。日本の指導者たちはその変化に気づかず、100年前のケインズの一般理論を基に国債を乱発したり、金利を下げたりして国民の財産を無駄に使い、「失われた10年」という経済の低迷を招いた。最近になって景気回復傾向が出てきたと浮かれているが、その原因も彼らは理解していない。政府が考えているようなマクロ経済的な考え方は、新しい世界ではまったく通じないのである。新しい経済が始まったのは1980年頃のことだ。以来20年近くに渡って、変革は劇的な速度で進み、しかもそれは間断なく今も継続している。この変革は人類が「新大陸」を発見した時に起こる大変革に相似するものだと言えよう。

見えない大陸には4つの空間がある。旧世界から継続している「実体経済」の空間、金や情報が国境を超えて自由に流通する「ボーダレス経済」の空間、インターネットに限らず、さまざまな通信技術から生じた「サイバー経済」の空間、そして自己資金の100倍、1000倍というマルチプル(倍率)の資金が動く「マルチプル経済」の空間。この世の中の現象のすべては、この4つの空間が複雑に関係し合って起こっているのである。この新しい世界では、旧世界におけるマクロ経済学はまったく役に立たないし、これまでのビジネス手法はもはや通用しないのだ。これからの時代、論理的思考がなければビジネスマンとして生き残ることができない。

本書の構成は、第1章:思考回路を入れ替えよう、第2章:論理が人を動かす、第3章:本質を見抜くプロセス、第4章:非線形思考のすすめ、第5章:アイデア量産の方程式、第6章:5年先のビジネスを読み解く、第7章:開拓者の思考、となっている。

いかなる問題にも解決策は必ずある。仮説を証拠で裏付け、結論を導き出す上で最も大切なのは、「その問題の原因は何か」を明確にすることである。ところがほとんどの経営者やビジネスマンは、問題として見えてくる現象にばかり目がいってしまい、原因の解決に至らない思考パターンに陥っている。現象はあくまでも現象にすぎず、原因ではない。この当たり前のことがなかなか理解できないのだ。

例えば、オフィス機器の販売をしているA社が「マーケットシェアが低い」という問題を抱えていたとする。問題の原因を探るために、まずA社のデータと業界のデータを収集して分析してみたところ、仮に「A社のマーケットのカバー率は7割ある」、「A社の入札時の競合勝率は2割である」ことがわかったとしよう。ここで、私ならこう考える。「営業マンは元気を出せ」とハッパをかけて、たとえカバー率を7割から8割に上げたとしても、競合勝率が20%のままでは、80%×20%=16%にしかならない。14%のシェアは2%しか増えないわけだ。ところが競合勝率を仮に5割にできたとしたら、カバー率は現状維持のままでもシェアは35%にまで上がる。それがわかれば、次の段階では競合勝率についてより詳しいデータを収集し、分析する。A社の競合勝率を上げるにはどうすればいいのか。間違った経営者は、「勝率を上げるためには製品を良くして値段を下げろ」と言う。しかし、そんなことをしたら利益が出なくなって、ますます経営は悪化してしまう。

私は経営コンサルティングの仕事をまったく知らずに入社したから、入社後は人一倍努力をした。その1つが、次のようなトレーニングである。私は当時横浜から通勤していたのだが、毎朝横浜駅から東京駅までの28分の通勤時間を利用して、テーマを決めて問題解決のプロセスを組み立てていくのである。例えば、最初に見た吊り広告を題材に、「この会社の社長に売上を伸ばして欲しいと頼まれたら、自分ならどうするか」を考える。慣れてくるとだんだん頭の回転が速くなって、1日1テーマだけでなく、一駅ごとに別のテーマについて考えられるようになった。別の広告に目をやり、次の駅に着くまでの間に「こうすれば売れる」といった仮説を立て、そのためにどんなデータを収集し、分析しなければならないかなどをすぐに頭の中で組み立てる訓練をするのである。こうしたトレーングを毎日繰り返すことで、たいていの問題については、だいたい3分あれば問題解決のプロセスを組立てられるようになった。今ではクライエントが何か一言いえば、その解決へのアプローチが瞬間的に頭の中で組み立てられるようになっている。

経営コンサルティングにおいては、業界や自社のデータを元に、マーケットに働いている力や自社および競合他社の動きを分析し、極めてわかりやすい1つの結論にまとめる。そしてその結論を裏付けるための証拠を集めて、最終にプレゼンテーションを作成し、それを提言として手短に発表する。質問や反論が出た場合には、必ず補足の資料や証拠をその場に出す。プレゼンテーションは全体として過不足なく起承転結ができていると同時に、必要条件と十分条件を満たしていなければならない。必要条件すなわち「こうしなければいけない」と、十分条件すなわち「こうすればよくなる」は違うものだが、提言を相手に納得させるためにはこの両者が揃っていなければならないのである。

私は、以前から道路公団そのものの解体論者であった。そもそも道路公団は、日本にカネのなかった時代、高速道路を造るために時限立法で作った組織であり、時期が来れば存在そのものを問い直さなくてはならないものである。ところが道路建設には、公団の予算6兆円の他に、ガソリン税や重量税などの税金で今や13兆円という世界一の国道や一般道路の建設を行っている。全部で20兆円近いハードを毎年作っているのだ。日本が富める時代になってもなお、公団が存在していること自体が法律違反なのである。とうに時限立法の期限は切れているのだ。

郵政3事業に関しても、“小泉破れ太鼓”は30年前と同じことを言っているにすぎない。本来、郵政3事業改革の目的が民営化ということはあり得ない話で、3事業の問題は何か、その解決にはどのような方法があるのかを諮問するのが本筋である。また、経済財政諮問会議の方も、「正しい質問をしろ」と首相に注文をつけるべきだった。小泉さんが郵政3事業改革を言い始めた30年前とは、時代が大きく変わってしまった。小泉さんが最初(銀行族と言われた頃)に認識した郵便貯金は、まさに銀行という民業を圧迫する存在であった。しかし今では、国の無駄使いを助長する媚薬に成り下がった、郵便事業も最早ゴミ箱行のDMと年賀状の配達くらいの価値しかなくなっている。通信手段としては、電話、ファックス、メールに完全に主役の座を明け渡してしまっているのだ。こうした作業をする場合には、まず結論ありきではなく、実態の把握、大きな問題点の整理とその解決の方向の模索、という順序で思考回路を組み立てていかなければならない。また、議論が政治問題化しそうな場合に私が奨める手法は、全員が初めに議論の枠組に関して同意する「原則」を打ち立てることである。

本質を見抜くとは、その問題の本当の原因は何かを見極め、正しい解決法を導き出すこととほとんど同意語である。逆に言えば、問題の本質を見抜くためのプロセスを辿って行けば、正しい結論を導き出すのはそう難しいことではない。

ボーダレス・ワールドでは、経済分野だけ取っても世界中がつながっている。トレーダーが自己資本の100倍、あるいは1000倍ものマルチプル(倍率)の金を動かして、世界経済に影響を及ぼしてしまう。つまり、国の政策決定者だけでなく、個々のトレーダーが経済の意思決定に入ってきてしまうのだ。従って、お金の流れは国の中だけで決めることができない。世界中をものすごいスピードで莫大な量のお金が流れているからだ。ケインズ経済学のように、閉鎖経済で国内の需要と供給の関係から金利とマネーサプライ(通貨供給量)までが決まってくる時代とはまったく違うのだ。

私は2002年3月に「チャイナ・インパクト」という本を出した。それまで誰も思いもよらなかった「中国地域国家論」の発想から中国の真の姿を描き、その後の中国でのビジネスに大きな影響を与えた本である。「チャイナ・インパクト」の出版当時は、中国脅威論が圧倒的多数だった。中国が経済成長して競争力を増すと、コスト競争力でかなわない日本は経済的打撃を受けるのではないか。安価な労働力を求めて日本企業が中国へ移転していくことで日本の産業が空洞化し、競争力が低下してしまうのではないか。こういった論がほとんどで、中には、「やがて中国は崩壊する」などと謳う本も登場していた。そんな時に中国が地域国家に変質してきたことを指摘し、「中国は脅威ではない」「日本企業の敵は、実は中国をうまく内包化した日本企業である」と言ったのが「チャイナ・インパクト」だったのである。

思考トレーニングのより効率的な方法としておすすめしたいのは、「よい会話の相手を見つける」ということだ。よい会話の相手というのは、お互いに自分の仮説について考えを戦わせることのできる相手のことである。幸い、私にはけっこういい友人が何人かいる。例えば、ある友人が私に「この会社の株価が思ったほど下がらない。ボロ会社なのにどうしてなのか。オレはこの会社がこの後減資するからじゃないかと思うんだけど」と訊いてくる。それに対して私は「いや、そうじゃない。こういう事情があるからじゃないか」というようなことを言う。すると、相手もまた「いや、それは違う」というふうに、お互いの仮説をぶつけあうのである。

携帯電話の将来についてはいくつかの姿が考えられる。すぐに思いつくのが、実用化が一部で始まっている電子財布としての機能、パソコンとしての機能、パソコンの入力/出力機器としての機能などだ。企業が成功を収めるためには、それなりの要件を揃える必要がある。その「成功のパターン」、言い換えれば、先見性の必要十分条件だとも言える4つの要件を満たす必要がある。

  1. 事業領域の定義が明確にされている――向かっていく1つの方向に特化するということだ。
  2. 現状の分析から将来の方向を推察し、因果関係について簡潔な論旨の仮説が立てられている――携帯電話の例では、現在あらゆる情報機器について現状を分析し、それらが将来どうなるかを予測し、「すべてが携帯電話に統合されるのではないか」という簡潔な仮説を立てた。
  3. 自分のとるべき方向についていくつか可能な選択肢があってもどれか1つに集中する。
  4. 基本の仮定を忘れずに、状況がすべて変化した場合を除いて原則から外れない。

いずれにしても、これらの要件は論理的な思考回路があれば整えられるものである。特に、3,4は具体的に事業を展開していく上での話だから、まずはこの1,2の要件を満たす思考パターンを鍛えることが先見性の強化につながると言える。

世界は大きく変わった。それを端的に示した例が2004年2月のアメリカの音楽CD販売大手タワーレコードの倒産である。その引き金は、アップル・コンピュータのipodと同社のオンライン音楽販売サイト「itunes Music Store」の登場だった。見えない大陸はボーダレス空間でありサイバー空間だから、わざわざCDショップに足を運ばなくても、インターネットを通じて好きな映像や音楽が世界中どこからでも購入できる。しかも、聴きたい曲以外も収録されていて、高い値段を払わされる音楽CDとは違って、聴きたい曲だけを安くダウンロードできる。CD販売業界が衰退するのは当然のことだ。タワーレコードがオンライン音楽販売サイトに取って代わられたのと同様、写真用フィルムがデジタルカメラに取って代わられ、世界最大手のイーストマン・コダック社は急激な業績低下に喘いでいる。そのデジタルカメラさえも、早晩パソコンのI/O機器になり、やがて携帯電話に取って代わられるだろう。

以上が本書の概要である。「見えない大陸には4つの空間がある。「実体経済」、「ボーダレス経済」、「サイバー経済」、「マルチプル経済」それぞれの空間。この4つの空間が複雑に関係し合っている。だからかつてのマクロ経済学は役に立たないし、これまでのビジネス手法も役に立たない。これからの時代論理的思考がなければビジネスマンとして生き残ることができない」と著者は言う。最近起きた新興の会社、インターネット関連会社ライブドアがニッポン放送株の35%を取得、さらに買い増す意向を示す一方で、フジサンケイグループに事業提携を申し入れた。このように日本においても突如何が起きるかわからない。企業も一夜にしてひっくり返る時代だ。頭脳を磨く以外に道はないと言える。


北原 秀猛

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