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「儲け」の法則表紙写真

「儲け」の法則 「売れる仕組み」を作れば売れていく!

著  者:唐津 一
出 版 社:PHP研究所
価  格:1,365円(税込)
ISBNコード:4−569−64024−9

私は企業の「儲け」とは、よそが真似のできない高い付加価値を持った場合に最大となることを体験してきている。付加価値のないところに、「儲け」はないのだ。オンリーワンの高い付加価値を持つこと。自分の頭で考え、自分で問題の本質に気づくこと。あたり前と言われていることに疑問をもち、可能な限り検証すること。やってみて、修正して、またやってみること。

本書は、序章では中小企業で独特の発想で高収益を上げている企業を紹介している。携帯電話やデジカメなど、携帯電子機器に必須と言われる小型リチウム電池ケースの成型に、なくてはならないものとして世界中から注目されている岡野工業、総合メカトロニクス・メーカーの島精機製作所などを取り上げている。

第1章:儲けとは付加価値のことである、第2章:付加価値は「販売力」がなければ生まれない、第3章:オンリーワンの付加価値とは、第4章:オンリーワンには仕掛けが必要、第5章:ライバルとは競合他社のことではない、第6章:「儲け」には長期的視野が欠かせない、第7章:次世代の「儲け」を生み出すもの、の構成になっている。

世界中に売られている日本製品の代表は、製造設備や部品である。日本の製造業は中国や韓国に追いつかれそうになっていると思われているが、実態はそうではない。付加価値の低いものの製造を国外に譲り、自らは高付加価値の製品や製造装置、オンリーワンの部品を作る。これが「付加価値=儲け」の法則を知った日本人が今やっていることなのである。

日本に輸入されている鉄鉱石の価格はトン当たり3000円以下である。これを鋼材にするためには、コークスや石灰石も必要になるが、それらを加えてもトン当たり1万円にはならない。しかし、これから作られた鋼材の価格はトン当たり約10万円である。すなわち、トン当たりの価値が10倍に跳ね上がり、9万円の付加価値が付いたわけだ。これを使って小型乗用車を作ると、約100万円の価格となる。小型乗用車はだいたい1トンくらいの重さなので、鋼材から見れば10倍、元の原料から見れば100倍に価値が膨らんだことになる。したがって、鋼材メーカーが自動車メーカーと同じ付加価値を得るためには、車1台に対して10トンの鋼材を販売しなければならないわけだ。それではしんどいので、鉄鋼メーカーも高付加価値の製品を開発し、販売しようとする。表面処理鋼板やステンレス鋼板、カラー鉄板などである。

平成13年の日本国内付加価値額は、合計で518兆7000億円であった。この年の実質GDPが530兆円だから、ほぼ一致する。GDPとは日本中の全産業が稼ぎ出した付加価値額の総和と考えてよいから、一致するのは逆に言えば当然である。売上に対する付加価値額を付加価値率というが、これを業種別に見ると、消費財と資本財を合わせた「財」の付加価値率が39.5%であったのに対して、サービス業は67.0%。サービス業の付加価値の高さがよくわかる。しかし、スイスにある国際的に著名なビジネススクール、IMDの発表したデータによると、日本のサービス業はアメリカのそれに対して0.6倍の競争力しかないという。世界に冠たるサービス業先進国のアメリカだから見劣りするのは仕方がないが、それだけ成長の余地があるということだ。ちなみにこのデータでは、日本のハイテク産業はアメリカの1.2倍の競争力を持ち、世界一である。

いくら優秀な技術があっても、それだけでは企業は繁栄できない。商品企画力を含めた販売力がなければ、企業は永続できないのである。販売がへたくそで、技術だけがすぐれている会社は、必ず独りよがりの技術にはまってしまい、材料を無駄に使い、コストを余計にかけたものを作ってしまう。そして販売が上手な会社に市場のほとんどを制圧されて、生き残るための場所を失ってしまうのである。販売の仕事は、何かを発明することではない。使える手をいくつも着想し、その中から最善の一手を選び出して実行することなのである。

ヤマハが作った「サイレントピアノ」という商品がある。いわゆる電子ピアノとは違い、本物のピアノだが音がでないようにすることもできる。生の音源を持った楽器の音が出ないようにするとはずいぶん変わった特徴だが、これが飛ぶように売れた。しかも日本国内だけでなく、ピアノの本場ヨーロッパでも大人気だという。この商品はどこのピアノメーカーにも作れるというものではない。ピアノはハンマーが弦を叩くことで音を出すものだが、音を消すためにはハンマーが弦を叩く寸前で動きを止めなくてはならない。空手でいう「寸止め」である。そのままではまったく音がしないので、ピアノの練習にはならないが、光センサーがそのハンマーの動きを察知し、電子ピアノの音源をコントロールしてヘッドホンに流すのである。強く叩いた時と、弱く叩いた時ではもちろん出る音の強弱も変えてある。家族に受験生がいる家庭や、近隣への迷惑を気にして夜間練習ができない人、練習中の未熟な腕前を人に聞かれたくない人にとって、本物のピアノでありながら必要に応じて音が消せるという機能は、革命的なものだったわけである。

私は戦後、電電公社にお世話になっていたが、ちょっとした縁で松下幸之助さんに引き抜かれ、設立したばかりの松下通信工業で働くことになった。そんな時、不幸な事故である全日空の墜落事故が1966年2月4日に起きた。この日、札幌を発って東京に向かっていた全日空のボーイング727型機が東京湾に墜落、乗員乗客合わせて133名が全員死亡するという惨事となった。当時のニュースは、現場で取材した映像を編集し、アナウンサーが原稿を読むというもので、何よりも現場の映像が大事である。ところがNHKは取材に出遅れてしまい、他局は東京湾フェリーを借りて放送機材を積み込み、東京湾の現場を撮影しているというのに、まだ陸地でうろうろしていた。これは困ったという時に、たまたま私がその話を聞きつけ、スタジオに誰か専門家を招いて詳しく解説してもらってはどうかと提案した。木村秀政さんに私が電話をかけ、出演を承諾してもらった。事故の重大性を認識してNHKに来てくれたのだが、解説は非常にわかりやすく、番組は好評だった。翌日私はNHKに出向き、これからのニュースは解説が命になるから、あらゆる資料と映像をすぐに取り出すことのできるニュースセンターを作るべきだと力説した。そして当時の金額にして6億円で建設したのがニュースセンターの誕生であり、日本のテレビニュースは一気に変わったと言える。

日本市場は成熟し、生活必需品のほとんどが売り尽くされた感がある。その証拠をデータで見てみると、日本人の支出の伸びは、その多くが雑貨であり、余暇関連であることに気づく。つまり、必要なものである「ニーズ」はほぼ満たされ、欲しいものである「ウォンツ」に消費の軸足が変わってきているのだ。そうなると、ものを売るためには「いかにして消費者の夢をかき立てるか」が大事になってくる。

日本的経営の利点は「人に金を払う」ところにある。しかしそれは慈善事業的に従業員に金をばらまくという意味ではない。アメリカの製造業は人的コストが日本より安い。その理由は、従業員の半数が臨時雇い、つまりアルバイトやパートだからである。そうすれば確かに人件費を圧縮できることは間違いないが、現場に技術やノウハウが蓄積されず、現場から品質向上の働きも期待できなくなる。

長期的視野で「儲け」を考えていき時には、目先の得に惑わされず、長期的な利益を優先して考えるべきである。かつてマツダがロータリーエンジンを開発した時の状態を振り返ってみると、発明したドイツのNSU社がさじを投げたほどの難問を次々と克服し、日本の技術水準の高さを世界に知らしめたエポックであるが、当時の山本健一社長が内外に渦巻く反対を押し切り、技術者魂でついに完成させるまでには、筆舌に尽くしがたい苦労があったことだろう。こうして完成されたロータリーエンジンは、その後も熟成が進み、現在では水素燃料で動く次世代エンジンとして注目されている。エンジンのセラミック化の可能性も高いという。もしあの時、目先の利益を優先させて開発を断念していたら、今のマツダはフォードブランドになっていたかもしれない。

内閣府統計局が毎年行っている調査に「家計調査」というものがある。これは世界でも類のない詳細な個人消費のデータで、これを見れば日本の勤労者世帯が毎月どのくらいの玉ねぎを買っているかまでわかる。この調査は5つの大項目に分類されている。「衣・食・住・エネルギー・雑費」である。最近の日本人の消費データで特徴的なのは、この5大項目のうち、最後の雑費が飛躍的に伸びていることだ。今や全体の6割近くに達しており、他の支出を圧倒している。さらにその内訳を見ると、「使途不明」が最も多くて2割、次いで「教育・娯楽」の1割である。僅差でその後に続く「交際費」は同じく1割、日本の主要産業である自動車にかける費用は、なんとたったの6%だ。従って、企業がこれから狙うべき新規事業は、この雑費を直撃するものに限る。

以上が本書の概要である。著者が本書で訴えたかったのは、「儲けとは何か」「儲けを得るためにはどうしたらよいか」をいろいろな事例を紹介して導き出している。そして、最後に述べているが、「人体を機械より劣っていると考えている人は、生物学を何もご存じないのに違いない。同様に、日本的経営を欧米型経営より劣っているとする人は、根っからの日本嫌いか、さもなくばマゾヒストである。企業経営で儲けたい人は、まず日本的経営の良さを充分に吟味し、それから自分たちの組織の強みを分析するとよい。そうすれば、これからどの方角に進むべきか、何を強化しなければならないのかが見えてくる」。ごもっともの説である。キャノンの御手洗社長と同じ主旨のことを述べている。要はアメリカ式とか、日本式とかでなく、自分の哲学をどれだけしっかり持って、明確なるビジョンに基づいて経営を行っているかが、うまくいくか、またはそうでないかの分岐点になると思われる。


北原 秀猛

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