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50代からの選択表紙写真

50代からの選択 ビジネスマンは人生の後半にどう備えるべきか

著  者:大前 研一
出 版 社:集英社
価  格:1,470円(税込)
ISBNコード:4−08−781314−2

ポスト工業化社会に入った今日、いろいろな環境が様変わりになっている。当然産業の中枢に躍り出てくるのは、“ソフトウエア産業”であり、製造業であっても情報技術(IT)を取り入れ、生産、経営プロセスを抜本的に改編できる企業のみが蘇る。そして、次のような現象が起きる。

  1. 個人間・国家間の所得格差が拡大する
  2. リスクと不確実性が増大する
  3. 自由競争の結果が1人勝ちに終わる公算が大きくなる

以上のような環境下にある認識のもとに読んで欲しい。

本書は、第1章:拡がる世代間格差、第2章:日本の平均年齢50歳の時代、第3章:第2の人生に備える、の3章の構成になっている。

リクルートという会社は、この「入社10年で完成する」というサラリーマンの生物的な特徴を日本唯一、いやおそらく世界でも唯一、理解している会社で、「32歳定年制」とでも呼べそうなユニークな人事制度を持っている。これは、学卒で入社して10年後、一般的には32歳になったら、「退職金として1000万円出すから、とっとと出て行ってくれ。転職するなり、独立するなり、好きにしてくれ」というシステムだ。残りたいヤツはもちろん残ってもかまわない。だが、リクルートは完全能力主義を採用しているから、能力のないヤツがこのまま残ったところで、定期昇給もしないし、昇進もないよ、というわけだ。

入って10年で一花咲かせられるだけのアイデアと能力を持たない社員が、その後、花開く可能性は極めて低い、ということがハッキリとわかっているからこそ、できあがったシステムである。そして、結果的には、これらの制度によって実力のある若い人が一番活躍しやすい環境が整い、それがリクルートという会社の強さになっているのだ。

僕はマッキンゼー日本支社長として、総計540人ほどのスタッフを採用した。それらの人が優秀なコンサルタントとして通用するように徹底した社内教育システムを作った。その経験から言えるのは、採用後、マッキンゼー化し、世界のどこでも通用する経営コンサルタントに育てるためには、採用時に30歳プラスマイナス2歳、つまり28歳から32歳でなければならないという経験則である。

マッキンゼーは日本の企業と比べるとかなり給料が高い。給料が高ければ高いなりの生活慣習というものが身に付いてくるのは当然だが、それを無神経に表に出してしまったら負けなのだ。中途半端に早く採用してみたが、使えなかったヤツというのは、だいたいこのタイプで、相手にシンパシーを感じてもらえないために仕事がうまく流れなくなってしまう。経営コンサルタントという仕事は、相手に提言をして説得していく商売だから、そういう人間には勤まらないのである。

それでは、転職もせず、新しい勉強を始めるでもなく20代後半から30代前半を過ごし、社内で学べることはすべて学び、サラリーマンとしての能力を完成させてしまった35歳は、その後どう生きればいいのか。実はここからが問題である。35歳以降は、自分で目標を掲げ、目線を上げて、さらに高い次元に向かって努力するということを、意識的かつ強制的にやらない限り知的進歩がないのだ。最初の10年は誰でも進歩する。だが、そこから先進歩するのは、努力し続けた人だけというわけである。サラリーマン染色体に染まりながら、それに抗って、自分を生かす方向で努力をするというのは実に難しい。というのは、年功序列型組織ではピーク打った後の35歳から50歳までは、ひたすら出世の順番を待つ我慢の時代が続くからだ。かつて僕はそれを「魔の15年」と呼んだ。50歳過ぎてから権限のあるポストが回ってきて、そこでようやく「魔の15年」を抜け出す。これが一般的なパターンだった。ところがここへ来て、「魔の時」が延び、「魔の25年」「魔の30年」になろうとしている。かつてなら、50歳で回ってきたはずのチャンスがポスト不足で後ろ送りされる、あるいは、「魔の時」を抜け出せないまま定年を迎える、ということが普通になってきてしまったのだ。これまで会社で可もなく不可もなく、事なかれ主義でやってきた人はここで1つ、しっかりと現実を見極めなければなるまい。

フィンランドの会社、ノキアは創業100年を超える歴史を持つ企業だが、つい10年前までは家電製品、通信機器から長靴やレインコート、トイレットペーパーホルダーまで、ありとあらゆることを手がける総合会社だった。だが、フィンランド経済の落ち込みとともに倒産の危機に瀕した時に、39歳のヨルマ・オリラ氏がCEOとなり、将来性のある携帯電話事業だけを残して、それ以外を全部売却してしまった。彼はその時に、「今に世界中の人が携帯電話を持つ時代が必ず来る。ノキアはそこで世界のトップに立つ」、と言ったわけだが、本当にその5年後に、世界最大の携帯電話メーカーになったのである。

そもそも経営者には、「寿命」というものがあると僕は考えている。それは「時代」「年代」「世代」によって形成された世の中の価値観と密接に関わっているのである。マクドナルドの藤田さんは、1971年にマクドナルド1号店を東京・銀座に出し、その後ものすごい勢いで全国へと展開していった。創業時は45歳であった。しかし、70代で手掛けた改革の戦略ミスで、表舞台を寂しく去らざるを得なくなってしまった。

今の60代の平均的な貯蓄額は、2500万円である。彼らはそれを使わずに貯めたまま年金をもらい、さらに年金の30%くらいを貯蓄に回している。この計算でいくと、70代で墓場に入るときの平均貯蓄額は3500万円にも上ってしまう。若い世代が不利益をおとなしく被ってくれているおかげで、高齢者の今後は安泰だ。世代的に見れば、今50歳前後で、2020年頃までに定年退職する人達はセイフティーゾーンに逃げ込める計算だ。企業年金などによる加算分を無視したとしても、平均して25万円は受給できる。今50代の人が、将来食い詰めるということは構造的にあり得ない。50代は、滑り込みセーフできた超ラッキーな勝ち逃げ世代と言っていいだろう。

2005年には日本の平均年齢が50歳に達する。こんな老人ばっかりの国に、「さあ、今から元気を出そうぜ」と言ったって、そりゃ無理というものだ。だが、もしも10年前の段階でつぶれる銀行、つぶれる会社を全部つぶしてあったとしたら、どうだろう?今頃日本なんてピカピカだ。僕は今ほど一人ひとりにとってリセットが必要な時はないと思っている。小泉純一郎さんは何となく「聖域なき構造改革」が進んでいるようなことを言っているが、「核の時代」と同じく日本財政の「破綻までの時計」を作ってみれば、針は決して後に戻っていない。刻一刻と終末に近づいているのだ。

50歳を過ぎ、勝ち組が不祥事を起こすといった敵失以外に会社でのステップアップの見込みがなく、他社から「社長になってください」と頼まれることもなく、取引先から「ぜひ定年後はうちに来てください」と誘われることもないなら、あなたは「会社人間」としての人生で自分は空振りをしたのだ、ということをまず自覚すべきだ。

オールクリアできない人の多くは思い上がっていたり、自分を買いかぶっている場合が多い。サラリーマンとしての自分の置かれた現実を直視するのはつらいかもしれない。あんなに一生懸命会社に尽くしてきたのになぜ?と思うかもしれない。だが、そういう時代になったのだということ、そんな中でも一歩抜きん出る力が自分に不足していたことをしっかり認め、これからの人生をどう生きるかにつないでほしい。家族から英雄視されるというのは美しい話だけど、実は素顔を見せた方が家族の尊敬は高まるし、あなた自身も楽になる。だから、50歳になったら、等身大の自分を家族に見せていくことをお勧めしたい。50歳代のサラリーマンに自殺が多いというが、自殺をする人というのは頑張っている人である。そういう人にはまず、肩の力を抜けよと言いたい。

老後の幸せ関数というものがあるとしたら、それは、老後の蓄えの金額に比例して大きくなるものではないということである。貯蓄が1億円ある人と、10億円ある人の老後の生活の豊かさに差はないと言っていいだろう。余分な金をいくら持っていても、その分だけ幸せになれるわけじゃない。それでは、幸せ関数はどこで最大値をとるのか。2500万円の蓄えと、月々夫婦で30万円の年金でちょっと贅沢をしながらも悠々と暮らす。僕はこのあたりがピークであるような気がしてならないのだ。

50歳前後になったら、定年後を見据えて第二の人生を充実させるための準備に入るべきだ。まだ早いと思うかもしれないが、そんなことはまったくない。あなたが40代後半なら、今すぐ準備に取りかかることをお勧めする。会社にいるのはあとせいぜい10年〜15年。80歳まで生きたとして、定年後は15〜20年続く。これからの人生、会社から離れた時間の方が長いのだ。

以上が本書の概要だ。人生80年時代を迎え、真剣に定年後の人生を考えなければならない。それを考える年が50歳と言える。本書の著者の大前研一さんも62歳であるが、バリバリと新しいことに挑戦している。2005年4月から「ビジネス・ブレークスルー大学院大学」を開校する。我々も目標を持って新しいことに挑戦する気概を持とう。


北原 秀猛

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•  50代
•  第二の人生
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