株式交換によるM&Aは、日本企業には2000年から認められていたが、激変を避けるために外資には認められていなかった。それが2006年には外資系企業にも認められるようになるのだ(2007年に1年延期された)。買収側の企業としては現金を調達する必要がなく、自社の株式を発行するだけでM&Aが可能となるため、機動力のある買収が可能となる。
資産規模は大きいが、時価総額が米銀などと比較して小さい日本の銀行は、米銀がターゲットにすれば一溜まりもないかもしれない。三菱東京ファイナンシャルグループ(FG)が、UFJホールディングスとの合併を行おうとしているのも、1つにはこの2007年の外資への株式交換のM&A解禁を睨んでいることがある。
この他にも2006年という年は、日本経済に短期的長期的に大きな影響を及ぼすであろうイベントが数多く起こる。いわゆる「国際会計基準」導入の1つである「減損会計」もこの年から強制適用となる。中国経済も、これまでのところは異常と言えるほど高速に発展しているが、2006年頃が正念場となるかもしれない。2008年の北京オリンピック、2010年の上海万博が刻一刻と迫る中、その「ひずみ」が大きくなっている。電力不足もその1つである。また、日本におけるビルの供給過剰が2006年頃には、土地価格に影響を及ぼすかもしれない。人口減少やビルの供給過剰で需給バランスが崩れる中、一等地だけ地価が上昇しているのは、「REIT(リート、不動産投資信託)」と呼ばれるファンドが狙い撃ちで買っている土地だけ上昇しているのではないか、と私は見ている。
また、デフレがインフレに転換するのも2006年前後だろう。しかし、それが景気拡大に伴う「良いインフレ」なら良いが、GDPの150%にも達する財政赤字を考えると、「悪いインフレ」を誘発する可能性もある。財政赤字は国債で賄っているが、その大口の購入先は銀行である。銀行の資金の源泉は預金だ。財政赤字問題のハンドリングを誤れば金融破綻を生じ、国民経済に大きな影響を与えることは避けられない。この点のおいても、今後数年間の景気や金利動向から目がはなせない。
本書は、第1章:2006年金融ショックがやってくる、第2章:すべては“供給過剰”が引き金となる、第3章:少子・高齢化市場の本格到来、第4章:資産戦略への警鐘、第5章:そして2極分化が劇的に進む、第6章:“5年後の大市場“を創り出せ!、の構成になっている。
いよいよ株式交換によるM&Aが2007年から外資系企業にも認められる。結論は、M&Aがこれまで以上に活発化するということだ。上場企業なら、ある日突然外資系企業からTOB(Take Over Bid:株式公開買い付け、)を仕掛けられたり、非上場企業でもオーナーに外資から魅力的な提案が行われ、オーナーがその話に乗ってしまうかもしれない。
ここで考えておかなければならないことは、外資系企業と日本企業との時価総額の開きである。銀行を例にとって考えてみよう。シティーグループの時価総額が約25兆円、一方の三菱東京は約6兆円(2004年11月現在)。2003年度決算で見ると、総資産はシティーが約1.26兆ドル、三菱東京が約1兆ドルである。それに対して、株主資本がシティーは980億ドル、三菱東京は370億ドルと半分以下である。従って、単純な株主資本比率(株主資本÷総資産)はそれぞれ、約7.8%、3.7%である。株主資本比率は長期の財務安定性を表す指標であるから、安定性という観点から言えばシティーの方が格段に高い。次に収益性を比べると、シティーの純利益は約179億ドル(約1.9兆円)に対し、三菱東京は79億ドルである。これをROA(総資産利益率:利益÷総資産)で比べると、それぞれ、1.41%、0.79%。三菱東京の純利益が実額で半分以下であるとともに、問題なのは使っている総資産に対しての利益率も6割以下という点である。つまり、シティーに比べて三菱東京は資産の活用効率が悪いと言える。
冷戦構造崩壊が日本経済に与えた影響は大きい。それは、アメリカと旧ソ連が敵対関係にあったことで日本、韓国、台湾は地政学的な理由から、資本主義の広告塔として経済的に繁栄することが求められた。さもなければ共産主義が蔓延する危険性があったからだ。そしてその3国の中で日本が経済発展という観点からは有利だった。また、冷戦構造の崩壊は世界の供給過剰を助長する原因ともなった。1つは中国が世界経済に組み込まれたこと、もう1つはEUの拡大である。
しかし、中国経済は順風満帆であるように見えるが、中国経済や中国が抱えるリスクを見過ごすわけにはいかない。まず1つは、このままの高度経済成長を続けることは難しいが、続けなければ国全体の脆弱さを露呈するリスクを持つということだ。現在はこの沿岸部の高度成長が、内陸部の貧しい地域の雇用を吸収し、経済を支えている。出稼ぎや、農作物や沿岸部では作らなくなったような商品の製造を通じて内陸部の雇用を確保する場合もある。この沿岸部での成長が維持できなくなった場合、その影響は沿岸部だけではなく内陸部にも出る。むしろ、経済の基盤が弱い内陸部にその影響が大きく出る可能性が強い。 もう1つの理由は、「不良債権問題」だ。国営企業などへの銀行融資の焦げつきは、現在約6兆元(約80兆円)以上あると言われている。経営効率の悪い、というよりは経営センスなどない国営企業に大量に貸し込んだ資金が、まさに焦げついているのだ。また一方で、経済成長のスピードが鈍化すれば供給過剰が一気に露呈し、世界中がデフレに見舞われることにもなりかねない。供給過剰の時代の経営戦略は、「他社との違いを明確にする」ことだ。これが大原則である。他社との違いとは具体的には、「Quality, Price, Service」だ。
日本の人口がいよいよ減少する時代になってきた。ピーター・ドラッカーは「人口動態の変化は将来の企業経営に100%の確率で影響を及ぼすが、それに十分に対応している企業はほとんどない」という旨をコメントしている。人口減少の中にあって、高齢者の数はこの先も増加していく。このことは、年金や医療・介護といった社会保障を含めた大きな問題を引き起こしつつある。今後、実はこの問題がさらに大きくなるということを認識しておかなければならない。高齢化の問題は、このままいけば約10年数年後には人口の4分の1が65歳以上となるが、これは3人で1人の高齢者を支えるということを意味するのではなく、3人のうち1人弱は20歳以下の子供だから、約2人で1人の高齢者と若年層を支える社会が到来することを意味する。しかも、その2人が必ずしも働いているとは限らない。これに対して適切な対応を怠れば、日本経済に深刻な問題を引き起こす可能性がある。
介護ビジネスをはじめ、公的ビジネスは「安定」しているようだが、政府の財政事情により大きく業績が変わるリスクを持つ。調剤薬局市場も今後、相当に厳しくなることが予想される。医療費の4分の1が薬に関わる費用だが、薬価の引き締めもある。また、医師会の力というのは現在でも強大で、それに比べて薬剤師会の力は相対的には弱い。
日本の財政が破綻し国債の償還が不可能になる、いわゆる「デフォルト(債務不履行)の状況に陥れば、何が起こるだろうか。円相場は当然大幅に下落する。輸入に多くを頼る日本では、当然輸入インフレが起こる。そうなれば、これまでせっせと貯めてきた外貨準備高もすぐに底をつくだろうから、さらにインフレが加速し、「ハイパーインフレ」が起こる可能性がある。
また。身近なところで「郵貯・簡保」のリスクもある。郵貯は資金量200兆円以上をもつ世界最大の金融機関である。郵貯にお金を預けている人は多いと思うが、そこから借りている人はいない。郵貯は資金の預かり業務だけを行っている。その預かった資金は、財政投融資として、道路、橋、空港などの「国家インフラ」の整備に使われてきた。現在ではその一部は国債などで自主運用をしているが、財投資金の残高は大きい。郵貯が民営化するとなると、徐々に財投から預託資金を返済してもらわなければならないが、それは可能だろうか?各財投機関が国債に倣った政府保証の財投債を発行し、返済することになるだろうが、第二の国債としての財投債の大量発行は、政府の財政赤字が急増して減る気配も見えない現状においては大きなリスクである。
円がドルやユーロのように、アジア圏で広く使える「域内基軸通貨」となる可能性があるかどうかにはさまざまな視点や議論があるだろう。なぜこの問題を提起しているのかと言うと、世界は政治的にはアメリカにそのパワーが集中しているが、経済的には米ドル圏とユーロ圏との2極分化が顕著になりつつあるからだ。円を自国通貨として使用せざるを得ない日本人にとって、資産リスクの分散を行う際にも、この傾向を知っておくことは大事だ。円が国際通貨になる可能性があるかどうかについては、答えは恐らくノーだろう。
日本ではかつて「1億総中流」と言われたものだが、それは過去の話となろうとしている。日本流の年功序列が音を立てて崩れてしまった現在、他人と違いをアピールするような能力がない人達の給与は、初任給からまったくといっていいほど上がらない状態となっている。ましてフリーターと呼ばれる人達は年齢にまったく関係なく、時給1000円前後、1日働いても7〜8000円、1ヵ月で15万円程度しか稼げない。それが一生続くかもしれない。一方、外資系の金融機関などに勤める「サラリーマン」の中には、年収が1億円を超える人も少なくない。こちらも年齢に関係はないから、20代でもそれくらいの年収を得る人達もいる。社会全体が「資本優位から知恵優位」へと移行し、また複雑化していく中で、学校や学習の重要性はますます向上する。
広い意味で国が守ってきた医薬品マーケットは今後、激変するマーケットの1つと言われている。2002年8月に厚生労働省が発表した「医薬品産業ビジョン」を見るとそれがよく分かる。そこには、「国際競争力の強化」が繰り返し使われている。国、医師会、薬剤師会、製薬メーカーなどによる「護送船団時代」が終息を迎えつつあるのだ。政府は医薬関連企業や大学研究機関開発ベンチャー企業などの育成を急いでいるが、その根底には国際競争力の育成がある。今後、日本市場に対する外資系製薬企業の攻勢はますます強まっていく一方で、日本の製薬企業は事業活動を強化し、外資の攻勢に打ち勝っていかねばならない。もはや日本の医薬品市場は、外資系も国内企業も関係ない熾烈な戦場と化している。生き残れるのは、高い精度と得意分野を持つ一部の企業である。
医薬品市場と同軸のキーワード、すなわち「健康・安心」というバックボーンを持つのが、現在食品メーカーや薬品メーカーの間で最も期待されているマーケットの1つに成長した「保健・機能食品市場」だろう。中でも特定保健用食品(いわゆるトクホ)に認定された幅広い食品群は、今後このマーケットのスケールアップを大いに促進していきそうな勢いである。トクホ市場は、97年度の13145億円から2003年度は56688億円と、その市場規模を急拡大中であり、現在承認品目を含めて460品目(2004年11月時点)がその認可を受けている。食品には1次機能(栄養)、2次機能(味覚)、3次機能(体調調整)がある。トクホはこの三次機能に注目し、さまざまな生活習慣病から生まれる疾病リスクの低減・除去を、医学データによる裏付けによってその予防効果が期待できると認可された食品のことである。
ホワイトカラー、ブルーカラーを問わず、単純な仕事を行う労働者の賃金は年齢に関係なく、今後低く抑えられていくが、工夫や知恵、能力の差がはっきりと分かれるような職種では、こちらも年齢に関わりなく従来の日本の大企業経営者が得ていたような年収5千万円程度を稼ぐサラリーマンの登場も増えるだろう。
以上が本書の概要である。本書の中でいろいろ示されているように、環境は激変してきている。過去の常識が今日の非常識となっている。ものさし、尺度が違うのである。フジテレビとライブドアの争いのようなことが頻繁に起きる環境にある。著者が「おわりに」で書いているが、環境が大きく変化しようとしているのに、変わろうとしないことはリスクだ。変わるというのは目的ではなく手段である。「ノルマリティーバイアス」という言葉がある。「自分にだけは不幸など、ネガティブなことが起こらない」と考える偏見(バイアス)のことである。現在大きく変わろうとしている環境を理解し、未来に向かって再挑戦していかなければならない。
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