あらゆる国のあらゆる企業が、多かれ少なかれマーケティング上の罪を犯している。すなわち、どの企業も何事かをなすことによって、あるいはなすべきことをなさないことによって、マーケティングの効果性を損ねているのである。
本来マーケティングは、戦略の推進役のはずである。マーケターはリサーチを通じて新たなビジネス・チャンスを見出し、精度の高いセグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング――すなわちSTPを実施することによって、新たなビジネスの進むべき道筋を明らかにする。そして、4P――製品(product)、価格(price)、流通(place)、プロモーション(promotion)の細部を詰め、4つのPの各要素が互いに矛盾することなく、しかも4P全体として先のSTP戦略と整合するような戦術を練り上げていく。戦術が決まれば、いよいよマーケティング計画を実行に移す時だ。マーケターは、その後の経過をモニターし、プラン通りの実績が上がらない場合には、実施の仕方に問題があったのか、マーケティング・ミックスに矛盾があったのか、STP戦略そのものに誤りがあったのか、そもそも市場調査が役立たずだったのかなど、原因を特定していかなければならない。
私は、市場での成功を阻んでいる、最も重大なマーケティング上の欠陥を特定することにした。その結果、10の要因が明らかとなり、私はそれを「マーケティングの10の大罪」と呼ぶことにした。この10の大罪に関して企業が考慮すべき点は2つある。1つは、自分たちが罪を犯していることを示す兆候(signs)は何かということ。もう1つは、問題を解決するうえで最善の解決策(solutions)は何かということである。
<マーケティングの10の大罪>
- 市場の定義が不明確で顧客主導になっていない
- ターゲット顧客を十分理解していない
- 競合に対する認識が不足している
- 利害関係者との関係を適切に管理できていない
- 新たな機会を見出せない
- マーケティング計画およびその策定プロセスに問題がある
- 製品やサービスを十分に絞り込めない
- ブランド構築力やコミュニケーション能力が低い
- マーケティングを効果的・効率的に推進できる組織になっていない
- テクノロジーを活用しきれていない
- 市場の定義が不明確で顧客主導になっていない
<兆候>
・市場セグメントを絞り込めていない
・市場セグメントの優先順位づけが不十分
・セグメント・マネジャーを任命していない
- ターゲット顧客を十分理解していない
<兆候>
・顧客に関する調査は3年前に実施したきり
・顧客が予想よりも製品を購入してくれない。競合他社の製品の方が売れ行きが良い
・返品率や苦情率が高い
- 競合に対する認識が不足している
<兆候>
・直接の競合相手のみに目を奪われ、間接的な競合相手やディスラプティブ・テクノロジー(破壊的技術)に注意を払っていない
・競合他社情報を収集、伝達するためのシステムを持っていない
- 利害関係者との関係を適切に管理できていない
<兆候>
・従業員が満足していない
・最も優れたサプライヤーと取引きできていない
・最も優れた流通業者と取引きできておらず、ディラーも不満を抱いている
・投資家が不満を抱いている
- 新たな機会を見出せない
<兆候>
・ここ数年、大きな成功をもたらすような新たな機会を見出せない
・新たなアイデアを製品化しても、大半が失敗してしまう
- マーケティング計画策定プロセスに問題がある
<兆候>
・マーケティング計画の構成要素に不備がある。あるいは計画に論理性がない
・複数の戦略案を比較し、それぞれの財務的インパクトをシミュレーションする手段を持っていない
・コンティンジェンシー・プラン(不測事態対応計画)を立てていない
- 製品やサービスを十分に絞り込めていない
<兆候>
・製品が多すぎ、しかも大半が赤字である
・無料提供のサービスが多すぎる
・製品やサービスのクロスセリングが不得意
- ブランド構築力やコミュニケーション能力が低い
<兆候>
・ターゲット市場において、自社のことがほとんど認識されていない
・自社ブランドが特徴的なもの、あるいは他社ブランドよりも優れたものとして見られていない
・各マーケティング・ツールに割り当てる予算が毎年ほぼ同額である
・プロモーション・プログラムごとのRPI(投資収益率)への影響度をほとんど把握していない
- マーケティングを効果的・効率的に推進できる組織になっていない
<兆候>
・マーケティングの責任者があまり優秀でない
・マーケティング担当者が、21世紀のマーケティングに求められるスキルを身につけていない
・マーケティング・営業部門と他部門との関係がよくない
- テクノロジーを活用しきれていない
<兆候>
・インターネットを十分活用していない
・セールス・オートメーション・システムが時代遅れ
・マーケット・オートメーションを導入していない
・意思決定支援モデルがない
・マーケティング・ダッシュボードの開発がこれから
ここ数年、提案営業という言葉が産業界でよく用いられている。売り手が顧客にあれこれと提示し、顧客が気づかなかったニーズを探り出し、ビジネスを創造していこうとする新しい営業スタイルだ。話に出てきた表面的な取引をうまく成約に結びつけるだけでも、従来は高い成果を得ることができた。だが、競争の激しい今日では、一歩進んで表面化していないニーズへの対応が求められるようになっている。
本書は、「経営幹部が気づいていないだけで、実は、多くの企業にはマーケティング上の問題点が隠れているはずだ」という前提に立って書かれている。ここに、10の大罪の一つひとつに「兆候」を示した。これは自己診断してみてほしい。その兆候を確認したら本書では、解決策が示されているので、本書を購入して読んでいただきたい。大変に参考になる本書である。
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