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円がドルに呑み込まれる日表紙写真

円がドルに呑み込まれる日

著  者:吉川 元忠
出 版 社:徳間書店
価  格:1,680円(税込)
ISBNコード:4−19−861984−0

ようやく景気は緩やかな回復局面にあるとは言え、こうした中で日本の財政の悪さについては国民は等しく懸念し、少なくも漠然とは不安を持っているところだ。財務省は国債を海外に売り込む計画を立てている。これは奇妙なこととも言えるが、ともかくその場合、金利が低すぎることがネックである。ゼロに近い金利では将来よほどの円高を見込まない限り、海外投資家には魅力が薄い。問題の根は、国内の異常な低金利にある。

日本は世界最大の対外債権国、つまり海外にお金を貸している。普通であれば、それで国民はもっと豊かな安定した生活を送れるはずである。それがそうなっていないどころか、このように財政も金融も、いわば滅茶苦茶であるのはなぜなのだろうか。

アメリカは95年から相対的ドル高によるマネー取り込みで、株高の大ブームを作る政策に転換するが、日本はこのためにどこまでも金融援助を続けるよう協力させられることになった。アメリカの双子の赤字、特に経常赤字が制御不能にまで巨額化するにつれ、対米資金流入には不安定感が拡大している。これは、いつドルに不測のことが起こるかもしれないことを意味する。これを防ぐためとして採られる手段も未曾有の規模の為替介入等、もはや異常領域に入っている。その先にはもう破れかぶれの政府・財務省による何か「ウルトラC」的なことがあり得るのではないか、という懸念を捨てきれないのである。

本書は、第一章:アメリカの限界、第二章:小泉・竹中内閣の軌跡、第三章:マネーの対米献上は果てしなく、第四章:日本「ドル化」シナリオ、の構成になっている。

アメリカ経済はますます軌道を外れつつある。なかでも、対外赤字の塊はもはや制御不可能に見える。この動きを決定付けたのは、最近でいわゆる「ニュー・エコノミー」であった。この5年間は未曾有の繁栄をアメリカにもたらした。その主因とされたのが「IT革命」である。ところが、2001年からアメリカ経済が不況に転ずるとともに、「ニュー・エコノミー」論はたちまち消えてしまった。結局、ニュー・エコノミーとはさまざまな好条件が巧みに組み合わされただけのものだった。

経常収支は、一国が諸外国と行った経常取引の結果によるものである。入りが払いよりも大きければ黒字、逆の場合は赤字である。経常収支が赤字となった場合(経常赤字)、その国は少なくともその赤字を埋め合わせるような資金が外国から入ってくる、(資本収支の黒字)ということがない限り、恐らくは金利の急上昇や通貨の暴落を招き、まともに経済を運営することもできなくなる。

2004年1月に発表された2005年度大統領予算教書によると、2004年会計年度の財政収支は5210億ドルの赤字見込みである。また、大幅な貿易赤字を反映して、経常収支も5000億ドルを上回る赤字になるだろう。共にGDPに対して約5%の水準である。

日本が前代未聞の大規模介入を行っていた2003年後半から2004年に入っての数か月間、中国も実は米国債を大量に購入していた。発行額の2割という比重である。その狙いと言えば、ずばり人民元切り上げへのアメリカの圧力をかわしたいということである。

世界的に、経済的さらには政治的なさまざまな動機から、ドル資産の買い手が消えて売り手となっていく。こうした中にあっても、日本だけはあくまでドルの維持に執着することになりそうだ。80年代前半、日本勢は米国債入札で3割以上を占めたこともあったが、生保はその後、プラザ合意に始まるドル安・円高による為替差損で大きく傷ついた。そして90年代末、日産生命から始まり、千代田生命、東邦生命へと経営破綻が広がっていった。他の大手生保にしても、米国債で身動きのとれない状態は2000年代に入っても続いている。

2000年9月20日、原油価格は湾岸戦争以来の最高値である1バーレル37ドル80セントまで高騰した(2005年6月27日、8月物は60.25ドル)。この10年間で原油の生産高はどれだけ増えているかと言えば、1080万バーレル/日である。実は原油の生産量を見るときに、域内生産というものを考慮しなければならない。コストから言えば一番安いのはOPECの原油である。サウジアラビアは1バーレル1ドル以下で生産できる。しかし、例えばアメリカは域内の石油から優先的に消費する。これはどの国も同じで、消費国の域内でつくられた原油を優先して、不足分を域外から買い入れる。消費国の方からすると、本当はOPECからは買いたくない。そこでOPECの生産量は増産と減産の差が非常に大きくなる。

現在の石油生産はほぼ上限に達しており、需給はタイトな状態である。原油が高値に張りついている事情の一つには、資源自体の問題がある。可採年数が、1980年代の末に世界全体でピークを過ぎているのである。OPECの場合は可採年数は80年ぐらいあるが、石油消費国の域内供給の方はどうも先細りが見えてきている。もう一つは、石油の基本的な性格として、代替資源が簡単に出てこないとうことがある。

OECD(経済協力開発機構)が算出した、購買力平価による日本円の適正な水準は、1ドル140円で、実際のレートを110円とすると、1.27倍である。人民元は、購買力平価では1ドル1.6元であるところ、実際のレートは8.277元(2004年10月)で5.2倍。円レートの対ドル割高を合わせて勘案すると、人民元は日本円に対して、7倍近く割安になっている。

現在、日本と中国の賃金差は20倍から30倍と言われている。しかし、もし人民元が適正な水準まで切り上げられ、さらに円の割高が解消されたとすると、賃金差は3倍から4倍の範囲で収まることになる。

グローバル基準とは何か。具体的には次の3つが主なものだ。

  1. 株式持合い解消(M&Aの容易化を目的にするという)
  2. 会計のグローバル基準(時価会計など)導入
  3. 銀行に対するBIS規制

そして銀行の不良資産処理が、事態を悪化させる重しの役割を果たしている。この3つの要因が互いに因となり果となって、日本経済の複雑骨折をさらに悪化させてしまった。持ち合い解消と時価会計を大きな動因として日本の株式市場は下落してきたわけである。

竹中氏は、「国際業務を展開するメガバンクが日本に4つあるというのは多すぎる。アメリカの例を見ても、せいぜい2つでよい」、という考え方を持っているとされる。2004年9月期、竹中金融相は銀行の不良債権比率は以前の7%強から3.5%程度に低下する見込みで、この比率を2005年3月期に半減させるという金融再生プログラムの目標は半年前倒しで達成されると誇らしげであった。

2002年に入って日本の実質GDPはプラスの成長に転じ、この勢いは2003年にも持続し、2004年に入っている。今回の景気回復の原動力は、なんといっても企業部門である。個人部門、つまり消費の回復はいまだ十分とは言えない。これは在来型の景気回復といっていいだろう。企業が人減らしや債務の削減、いわゆるリストラをすることで利益を出しやすい体質になってきたことが大きい。そこに実際の需要が発生してきた。

いま現在は、2%の成長率で安定軌道に乗っているが、今後小泉政権が打ち出している定率減税の廃止や、その先にある消費税率アップなどが実施されれば、またしても景気は一気に冷え込み、日本経済が落ち込んでしまいかねない。一方で、財務省はドルを買いまくり、国家債務はますます増加の一途を辿っている。

現在小泉政権が「構造改革」を打ち出しているが、「聖域」がないので次々と対象を拡大していく。これは首相が必要性を感じたからだと言えばそれまでであるが、しかし実際は、首相の党内基盤が弱いので、一つひとつ成果を確認しながらというよりは、国民の眼を絶えず眩ませ、求心力を維持するという目的のためだろう。そして首相が「改革」のとりまとめの要所をすべて竹中氏に「丸投げ」したことは、長期的にその影響を現在感じられているよりはるかに重大なものにすることにもなるだろう。

平成17年(2005年)度予算(一般会計)でも、歳入82.2兆円に対して税収44.0兆円に過ぎず、34.4兆円を占める国債への依存度は42%にも達する。そして、2005年度末の国債残高は538兆円とGDPの105%程度になるだろう。そして国・地方の債務残高合計は774兆円と、GDP比151%に相当する見込みなのである。これだけ大量の国債が発行されているため、さすが利払いなどの国債費の占める比率が上昇しているのが無気味だ。この20年間ほとんど上昇しておらず、1985年度予算で19.5%だったものが、2004年度予算でも21.4%、それが2005年度予算では22.4%と1%上昇することになっている。異常低金利下でもこの有様。今後、金利のわずかの上昇ですべてが吹っ飛んでしまう可能性もある。そうならば予算編成ができなくなり、「国家破産」がはっきりしてしまうということだろう。

国民資産の4分の1を占める郵貯・簡保の巨大マネーはどうなっていくのか。郵貯230兆円、簡保の120兆円、合わせて350兆円にもなる旧勘定については、いずれ償還していくことになるが、この巨額のお金はいったいどこへいくのか。大きな問題として4つがあげられよう。

  1. 郵貯の民営化は、国鉄や電電公社のそれとは基本的に異なる。
  2. 郵貯会社は集めた資金をどう運用するのか。
  3. 郵貯資産の実態も問題である。
  4. 郵貯会社はどういう機関が監督することになるのか。

2004年6月から5回目となる金利引き上げを行い、FF金利は現在2.25%になっている(2005年6月末現在:2.75%、公定歩合:3.75%になっている)。アメリカの景気が堅調だからというのが金利引き上げの理由だったが、エコノミストの間ではアメリカの景気の現状は強くないという意見が大勢を占めている。

財務省、日銀はなぜ円売り・ドル買いの為替介入を続けているのか。その規模は巨額というより常識的範囲を超えてきている。介入を続ける理由として、「円高は景気に有害」というが、それよりも介入のためのコストとの相談である。仮に世界的にドル資産離れが起これば、日本のほぼ一手買いではどうにもならない。もちろん中国やアジアの中央銀行は結局ドル支援に動かざるを得ないこともあろうが、それにも限界はある。多くの疑問が投げ掛けられる中で財務省の態度は確信犯的であり、この介入が来るべき「あるもの」までの繋ぎにしか過ぎないのではないかと疑わせる。その「あるもの」とは、ドル兌換紙幣の発行→日本経済の実質的「ドル化」なのである。

「シニョレッジ」、ないし「通貨発行特権に伴う恩恵」と言われているものがある。具体的には、通貨が自国以外で実際に流通することによる利益ないし収入である。アメリカは基軸通貨国として3000億ドル以上の通貨を発行しているが、実はそのうち約6割が国外で流通しているのである。約6割ということは、アメリカ国内を上回る約2000億ドルを国外に流通させることで、それとはっきり見えない形で対外赤字を穴埋めし、あるいはそれに見合う財を海外から吸い上げていることになる。

ロシアの外貨準備も、今はドルが65%に対してユーロが25%の割合だが、これからユーロを増やそうとしている。ロシアで重要なのは、石油と天然ガスの問題である。現在はドル建てだが、近くユーロ建てにするともされており、これがユーロ建てになったらどうなるかということである。原油の2003年の日量産出量で見ると、サウジアラビアの980万バーレルに対して、ロシアは850万バーレルとなっており、世界第2位の石油生産大国である。ロシアは国内需要に日量250万バーレルを使い、600万バーレルを輸出している。OPEC全体の輸出向け生産が2700万バーレルだから、ロシアの輸出はOPECの約4分の1に当たるのである。ドル建てのままだと、ドル安で損失を蒙る可能性も高い。

日本経済の実質ドル化が仮に行われるとして、それはどのようなことを前提にするのだろうか。固定レートとして、1ドル=100円とする。現実のレートは1ドル=102円〜103円(2005年1月現在)であるから、100ドルを得るには1万300円が必要なはずである。しかし1万円札には「100ドルと交換可能」と刷り込んであれば、一般に日本国民は何か得をするような気がしてドル化を受け入れるだろう。そのためには、1ドル100円を上回る、3円なり5円なりの「ノリ代」が必要で、2003年の異常と見える大規模介入、さらに2004年末になって政府当局が100円台を維持するために介入を辞さない姿勢を見せていることには、「景気への悪影響」云々しながら、いざという場合、「ドル化」の選択肢を保持しておくためではないかとも想像されるのである。

以上が本書の概要である。日本は現在アメリカの言いなりの状態です。この政策が日本にとって最高の策とばかりにアメリカの51番目の州であると揶揄されるぐらい、アメリカべったりです。日本マネーのドル化は著者が述べているように、(1)アメリカが政治的に、日本を徹底的に抑え込むということである。「世界第2位の経済大国」が中南米の「バナナ・カントリー」と同列の国ということになる。ドルに縛られることで、日本は自立した発展の芽を摘まれることになる。(2)日本のドル化で日米間の巨大な債権債務関係はあたかも国内取引のようになり、実質棚上げされるだろう。この日本マネーの取り込みでアメリカが享受するメリットは大変なものである。一方、日本にとっては実質的に国際的大徳政令に追い込まれていくということになる。

このような状況にならないことを日本人として願うが、現在日本は抱えている借金・負債はあまりにも大きし、官僚の既得権を守る意識も強い中で、2010年ぐらいを境に不安定要素が吹き出てくる可能性も強く残っている。国民の一人として、今後の情勢を見守りながら、自分としての対応を考え、決断していかざるを得ない環境に入ってきたと言える。


北原 秀猛

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