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今こそ見直したいIT戦略

原 著 名:Out of the Box
著  者:ジョン・ヘーゲル3世
訳  者:遠藤 真美
出 版 社:ランダムハウス講談社
価  格:1,995円(税込)
ISBNコード:4−270−00057−0

著者のジョン・ヘーゲルV世は独立系のビジネス・コンサルタント。事業戦略の立案や業績改善に関するコンサルテイングを行っている。

本書は4部9章の構成になっている。本書では新世代の技術「ウェブ・サービス」を取り上げ、この技術がビジネスに与える大きな影響を徹底的に探求している。ウェブ・サービスは、人と資源をインターネット上で結びつける目的で設計されたウェブ・サイトとは違い、ビジネス資源、特にアプリケーションとデータを相互に接続するのを助ける技術である。

1990年代後半、アメリカのIT投資の伸び率は90年代前半のほぼ2倍に達した。しかし、ITバブル崩壊後の景気後退に直面して、新技術が持つ潜在能力が描く遠大な長期ビジョンに注がれる視線は一段と厳しさを増した。目に見えるコスト削減効果を少ない投資で短期間に実現しなければ、経営幹部はすぐにそっぽを向いてしまう。この「目に見えるコスト削減効果を少ない投資で短期間に実現する」、という価値提案こそが、企業ウェブ・サービス・テクノロジーを導入する原動力になる。

本書の原題「Out of the Box」が物語るように、本書は、わたし達を箱の中に閉じ込めてしまう既成概念という障害を打ち破る一助になる。根本的な改革に着手するには、まず、本書に克明に描かれている洞察力や思考を身に付ける必要がある。

世界中の企業経営者がストレスにさらされている。ストレスを生んでいる大きな原因は競争の激化にあると言える。1980年代に技術革新が起こり、1990年代に市場の自由化が進んだ結果、企業経営を取り巻く環境はかつてなく厳しくなっている。不確実性が高まり、顧客の力が増して利益は情け容赦なく搾り取られ、その上、成長は贅沢品ではなく、むしろ生活必需品化している。その結果、大企業であっても同じ場所に留まっていることが難しくなった。

わたし達は、箱の中に閉じ込められているような閉塞感にとらわれている。一番大きな箱は、財務業績の向上を求めて強まる圧力だ。二番目の箱は、業務と組織のインフラである。この二番目の箱に閉じ込められていると、企業が成長できなくなる恐れがある。

三番目の箱は、企業の境界である。パフォーマンスを向上させるには、より広範囲のビジネス・パートナーと連携すれば、複数の企業にまたがるビジネスプロセスの効率性を高めることができる。また、一企業では保有し得ない豊富な資源を共有できるようになり、成長が加速するという効果も期待される。四番目はもっともやっかいな箱である。わたし達は皆、心の中に既成概念という箱を作ってしまっている。

結論を言えば、コストと資産を削減し、成長を加速し続けるには、企業経営の柔軟性とコラボレーション能力を高める必要がある。コスト削減と成長を阻む厚い壁となっている高コストで硬直的なインフラを脱ぎ捨てなければならない。

大きな経済機会をもたらし、それを実現する重要な触媒になり得るテクノロジーがわたし達の目の前にある。しかし、それはあくまで触媒にすぎない。経営者がどのような選択をするかによって、企業にとっての機会の範囲と性質が決まる。正しい選択をすれば、わたし達を苛立たせている四つの箱から抜け出す道が開ける。

1990年代、大企業が大規模な企業資源計画(ERP)アプリケーションの導入に走る中、こうした大企業の外側で新しい技術が産声を上げた。インターネットが生み出した、アプリケーション間をこれまでよりもはるかに柔軟に、低コストでつなぐ新しい手段となる「ウェブ・サービス」がそれだ。ウェブ・サービスはまだ発展途上にあるが、企業の規模を問わず、目に見える事業価値を短期間に実現する重要な役割を担う技術であることは間違いない。

ある販売会社が顧客に商品をオンラインで販売したいと考えているとしよう。顧客は商品の在庫があるかを確かめてから注文を出したいと思うだろう。そのためには、在庫管理アプリケーションに接続して、在庫があるかどうかを確認する必要がある。販売会社は新規顧客の信用履歴や既存顧客の認証レベルをチェックしたいと思うだろう。そのためには財務管理アプリケーションや顧客の取引履歴に接続しなければならない。顧客が注文を出すには、受注処理システムに接続する必要が出てくるだろう。顧客から見て継ぎ目のないインターフェースを作るために、ウェブ・サイトの電子商取引アプリケーションに接続しなければならない社内アプリケーションはどんどん増えていった。

技術ではどんな問題があったのだろう。大きな問題は2つあった。一つはいわゆる「n乗問題」である。n乗問題は実に厄介だった。しかし、問題はそれだけではない。複雑な人生をさらに複雑にする問題がもう一つあった。ウェブ・サイトが急速に進化していき、予期せぬパートナーが加わったり、これまでのパートナーが抜けたりするようになっていったことだ。

電子商取引実験の第一波が去った後に残った瓦礫の中から、新しいITアーキテクチャーが誕生しようとしている。それが「ウェブ・サービス・アーキテクチャー」である。このアーキテクチャーは、旧世代のテクノロジーが対処できないでいる大きな課題に対応するものだ。名前に「ウェブ」と付いているが、ウェブ・サービス・アーキテクチャーの力点は、人とウェブ・サイトとをつなぐことには置かれていない。アプリケーシヨンとデータが直接通信し合い、既存のアーキテクチャーでは人の手を介さなければできなかったかもしれない接続を自動化することに照準を定めており、どこにいても、どんなプラットフォームを使っていても、認証さえ受ければアプリケーションとデータにアクセスできるように設計されている。

*アーキテクチャーの原則
  • 単純性
    接続の各エンドポイントの複雑さを減らし、新しい参加者が低コストで容易に接続できるようにする。
  • 疎結合性
    モジュール・アーキテクチャーを構築し、各モジュールのインターフェースには、接続を支援するために必要な少数の規格やプロトコルを定義・公開する。
  • 異機種混在
    企業内、企業間で進むコンピューティング・プラットフォームやアプリケーションの多様化に対応する。
  • オープン性
    標準やプロトコルを広く普及させて強固な基盤を作り、特定のべンダーが独自に策定した規格に拘束される不安をなくすと同時に、参加者の標準やプロトコルへの投資が生み出すリターンを最大化する。
  •  

ウェブ・サービス・テクノロジーは、柔軟性とコラボレーション能力を高めるという、満たされていない事業ニーズに対応する大きな可能性を秘めている。ウェブ・サービス・テクノロジーは揺籃期にあるため、「可能性」という言葉を強調しておくべきだろう。この可能性が実現される保証はどこにもないからだ。その行く手にはたくさんの障害が立ちはだかっている。どんな障害があるかを理解し、障害への対応策がどう進歩していくかを見守っていけば、ウェブ・サービス・テクノロジーを導入するにあたって適切な決定を下せる。

ウェブ・サービス・テクノロジーの発展をさまたげる大きな障害は3つある。

  • 各種の標準やプロトコルが混在している
  • サービス・グリッドが提供できるイネーブリング・サービスが限られている
    サービス・グリッドは現在、ウェブ・サービス・アーキテクチャーの“失われた環”になっている。大企業や新興企業の動きが鈍く、必要なイネーブリング・サービスがなかなか提供されないようなら、ウェブ・サービス・テクノロジーの採用を検討している企業も、本格導入にはかなり慎重にならざるを得ない。
  • 用語の統一が難しい

ウエェブ・サービス・テクノロジーが直面している障害を何とか克服しなければいけない。IT企業がそのカギを握っているが、事業の将来を左右する重大な決定をIT企業に委ねるわけにはいかない。ユーザー企業はウェブ・サービス・テクノロジーの進化に積極的にかかわる必要がある。

アプリケーション・サービス・プロバイダーの分類
アプリケーション・サービス・プロバイダーの分類

競争が激化する中、スピードと柔軟性を高めると同時に、他社の資源をより有効に活用するレバレッジ(てこ)を見つける必要がある。一般に、アプリケーションを導入するのには5年から10年はかかる。

デルは、製品を組み立てるのに使われる部品のコストである直接材料費は、売上高の70%に達していた。直接材料費を少し切り詰めるだけで、利益は大幅に押し上げられる。もう一つの重要な問題は部品の在庫管理だった。コンピュータ業界では、商品価格が毎週平均0.6%下落しており、部品の価格は週を追うごとに下がっていく傾向がある。デルの課題は、言うまでもなく、サプライチェーンを効率化して多数のビジネス・パートナーとの連携を深めることだった。デルは受注から納品までの期間を5日とすることを目標としていたが、サプライヤーから注文した部品が届くまでに45日かかっていた。

現在、デルの組立工場のバッファー在庫は3時間から5時間分と、8割以上削減されている。「受注状況に応じて必要な分だけ材料が入ってくるようになったため、組立工場の在庫保管室が不要になった。そのおかげで製造ラインを増やせたし、工場の稼働率が3分の1も向上した」。しかし、デルの取り組みはそこで終わらなかった。大企業ともなれば余剰在庫をサプライヤーに送り返すことだってできる。だが、これではサプライチェーンの在庫は減らない。在庫の保管場所がメーカーからサプライヤーに移っただけだ。サプライチェーンを効率化し、システムのコスト効率を高めるには、サプライチェーン全体の在庫を減らす必要があることにデルは気付いた。そこで今度は、ベンダー管理ハブ内のバッファー在庫の削減に着手した。デルは現在、エクストラネット経由で部品供給上の問題を早期に通知するウェブ・サービス・ベースのイベント管理システムを導入中である。

デルを始めとするウェブ・サービスの早期導入例から、ウェブ・サービス・アーキテクチャーを基盤とする現実的な導入方法の特徴が浮かび上がってくる。大きな特徴は4つある。

  • 既存のIT投資を活用する
  • 段階的に導入する
  • 目に見える短期的な成果に焦点をあわせる
  • 新しい要素を徐々に追加する
  •  

ウェブ・サービス・アーキテクチャーを導入すれば、多種多様な企業にまたがるビジネスプロセスを極めて柔軟に連携できる。その結果、業務コストが大幅に節減され、資産を有効に活用できるようになる。

以上が本書の概要である。著者のジョン・ヘーゲルV世はかつて、マッキンゼー・アンド・カンパニーに在籍し、その頃から、本書のテーマに取り組み始めていたのである。技術の進歩は著しい。どんどん新しい技術が誕生してくる。ビル・ゲイツはマイクロソフトの草創期に長期的な方向性を明確に掲げている。「コンピューティング・パワーは集中管理型の大型メインフレームから分散型のデスクトップへと確実にシフトしていく。この市場で大きな経済価値を創造するには、デスクトップ・テクノロジーで主導的な地位を確立しなければならない」。最初の文はコンピュータ産業の将来像を描き、二番目の文は、この市場で成功するためにはどのような事業を構築すべきかを明示している。ゲイツが1970年代後半に示した戦略の方向性は、5年という限られた期間ではなく、20年以上先の企業像を見据えていた。長期的な方向性が明確になると、重要な業務戦略を見直せるようになる。今日のように不確実性的要素が増大する中で、長期的な方向性を示すのは難しいが、ある程度の技術革新の方向性は読み取ることができる。あまり目先の技術のみに囚われず、段階的に進めていくべきであろう。


北原 秀猛

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キーワード
•  IT戦略
•  ウェブ・サービス
•  アーキテクチャー


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