HOME
会社概要
セミナー
教育関連
海外情報
書籍
お問い合わせ
ワールドネット
HOMEUBブックレビュー詳細





経済の世界勢力図表紙写真

経済の世界勢力図

著  者:榊原 英資
出 版 社:文藝春秋
価  格:1,365円(税込)
ISBNコード:4−16−366930−2

本書はニュース、情報を大きな文脈の中に整理して、理解をするためのバックグランド(背景)を提供する目的で書かれました。今、世界は4,5百年に1回という大きな構造転換の時代にさしかかっています。その全体図が頭に入っているかいないかで、世の中はずいぶん変わって見えるのです。そして、そうした全体図を把握しているかいないかは、個人の生活や幸福に大きく影響をしていきます。その世界経済を解明するために私が用いているフレームワーク(枠組み)は、2つあります。1つは歴史的なものの見方です。これはフランスの歴史家フェルナン・プローデル流に、構造・循環・事件史、あるいは長期・中期・短期という三層構造から捉える時間軸です。もう1つは、やはりプローデルが地域の三層構造として示した「中心」とその「周辺」、そして中心から離れた「縁辺」という3つの空間軸から見ていくアプローチです。

本書は、第1章:全体図−ドル安・原油高を読む、第2章:中国−成長と反日と、第3章:インド−今後50年で一番成長する国、第4章:アメリカ−覇権国家のパラダイムシフト、第5章:日本−国債資本主義の破綻、第6章:アジア全域−新しい共通通貨「アシアナ」、第7章:個人−世界勢力図の中の選択、の構成となっています。

マクロ経済指標がいずれも良好であっても、ドル安に歯止めがかからない。私はマクロの経済指標がよいにもかかわらず、ドルが下がり続けていることこそが、500年に一度の世界の構造的変換を移しているものだと考えているのです。それは世界経済の中でのアメリカの地位の相対的低下であり、長期的低下なのです。ドルの地位低下を招くアメリカの国内的要因として、マーケットの誰もが危惧しているのは、ブッシュ政権になってから再び財政収支と経常収支のいわゆる「双子の赤字」が拡大したことです。

2003年はイラク戦争の戦費750億ドルが加わったため、3748億ドル(対GDP比で約3.5%)の赤字。2004年は、過去最大の4100億ドルの赤字となりました。ブッシュ政権で危惧されているのは、政治・経済・軍事のあらゆる面で米国中心主義を主張するユニラテラリズム(単独行動主義)が目立つことです。その典型がCO2削減のための京都議定書への不参加であり、アフガニスタン攻撃やイラク戦争とその後の占領統治でしょう。

ドルの地位低下を招いた要因のうち海外要因についてですが、これには大きく2つのポイントがあります。第一は、中国、インドをはじめ、アジアの国々が高成長を続けた結果、域内に消費意欲の強い中産階級が形成され、巨大市場としてのアジアが浮上してきたことです。第二は、中国を中心としてアジア域内で生産・分業ネットワークが発達し、域内貿易の取引量が格段と増えたことです。この2つの要因によって、アジアが北米やEUに肩を並べる存在として意識され始め、相対的にアメリカの地位低下が起きているのです。

BRICsレポートによると、中国は2018年にGDPで日本を超え、45年にはアメリカを超えると予想されています。事実、1990年代から現在に至るまで、継続して年率10%に迫る経済成長率を維持しているのですから、この予想が相当の現実味を帯びていることは間違いありません。中国がこれだけの急成長を90年代に成し遂げたのは、中国が「世界の工場」となったからです。今後も、中国経済は順調にその規模を拡大していくと予想されています。その根拠の第一は、労働力が安定して投入され続けることです。中国の人口は2020年代をピークとして減少に転じ、以後は現在の先進国と同様に、高齢化が進行すると予想されているものの、それまでは一貫して右肩上がりの増加を続けると予想されています。第二は資本の蓄積がさらに進むことです。90年代を通じ、「世界工場」としての経済規模を拡大する中で、いくつもの巨大企業が誕生しました。

世界貿易に占める中国のシェアは2002年に5%を超え、その後も存在感は高まる一方です。中国商務省によると、04年の貿易総額は1兆1547億ドルで、日本を抜いて世界第3位の貿易大国になったと発表しています。中国の貿易相手国は、2003年までは11年連続で日本が最大の取引先でした。しかし、04年は米国、EUが日本よりも上になりました。WTOの加盟以後、中国が欧米との結びつきを急速に深めていることの表れと言えましょう。その反面、米国、EUでは対中貿易の赤字が増大しています。

現在、中国には国民の15%に当たる約2億人の中産階級が育っていると言われます。ここでいう中産階級とは年収が100万元(円換算で1000〜1300万円)、この中産階級の若者が反日デモに参加しているのです。東南アジア・韓国などでも経済が急成長を遂げる時期に、ナショナリズムが中産階級の中で沸き上がるというのは共通の現象なのです。中国の場合、デモ参加者の中心である若者は、江沢民政権下で92年に始まった反日教育を受けてきている世代です。

インドは2050年、中国、アメリカに次いで世界第3位の経済大国になり、その時点での経済成長率は世界最高の8%に迫ると予測されています。インドは現在、10億6400万人の人口を擁する大国であり、13億の中国と合わせると現在世界人口約63億人のうち、37%を占める規模です。また、現在のインドの人口ピラミッドは、途上国によく見られる若年層が極端に多い裾広がり型ですが、医療水準の向上などによって死亡率が低下しているため、あと5年もすれば15〜59歳の労働人口が膨らんだビヤ樽型に移行すると考えられます。因みに一方中国は、これから急速に少子高齢化社会に突入し、しだいに若年労働者の数が減っていくため、成長率も鈍化していくと予想されています。インドは頭脳労働者の質が高いこと。英語を準公用語に採用しており、国内に3億人以上の英語人口を抱えていることも成長に有利な点でしょう。

日本は97年に山一證券と三洋証券、北海道拓殖銀行が、98年には日本長期信用銀行、日本債券信用銀行が破綻しました。同時期にロシアで株式、債券、ルーブルのトリプル安が発生し、金融不安が拡大します。外国銀行が資金を引き揚げ始め、ロシアの銀行は流動性不足が生じて金融不安が拡大します。そして8月、世界を驚かせたのは、ロシア政府がアメリカやIMFとの相談もなく、抜き打ち的に(1)ルーブル切り下げと変動幅の拡大、(2)非居住者の短期ルーブル資産への投資禁止、(3)対外債務の90日間支払い延期(モラトリアム)、(4)償還期限のくる国債の新証券への切り替えなどの緊急政策を発表したことでした。このような状況の中でアメリカは、日本の金融危機の対処法に対しても方針を転換します。クリントン大統領が訪米した小渕総理に、「破綻前の銀行に公的資金を注入してもOK」とメッセージを伝えたのが98年9月です。

ブッシュ政権も2001年9月11日に、ニューヨークのワールドトレードセンターがテロ攻撃を受けるまでは、クリントン政権の路線を継承するかに見えました。しかし、2001年9月11日以降、政権の性格はがらりと変わるのです。正確に言えば、テロを契機として、政権本来の性格が色濃く出すのです。その特徴を一言で言えば、戦時内閣であり、単独行動主義です。

グリーンスパンは、ブッシュ政権下に中央銀行総裁であるFRB議長に就任しました。以来、アメリカの経済の舵取りで、卓越した手腕を発揮しました。彼が優れていたのは、アメリカの構造的変化を早い時点で読んだことでした。IT技術を中心にして生産性が上がると。生産性が上がるということは、インフレにならないということです。要するコストが下がるということですから、相当経済が過熱してもインフレにならない、とグリーンスパンは90年代後半に読んだ。特にサービス業の生産性が上がると読んで、90年代後半に、経済がかなり過熱しても金融を締めなかったのです。これが99年、2000年とアメリカが、インフレなき好景気にわいた理由です。

日本の財政は1990年代初めには、G7を構成する先進7ヵ国の中で最も良好とされていましたが、90年代に景気回復のために財政出動を繰り返した結果、99年からはGDP比の累積債務残高はイタリアを越え、G7諸国で最悪となってしまいました。政府は今も毎年30兆円以上の赤字を積み重ねており、累積債務は年々積み上がっています。経済開発協力機構(OECD)の調査によれば、05年末時点で日本政府と地方時自治体を合わせた債務残高はおよそ774兆円、対GDP比で170%に達する見通しとされます。アメリカでもブッシュ政権の財政赤字が問題とされていますが、増加しているといっても、累積債務残高はGDP比60%強、額にしても日本の半分以下です。日本政府は1年間で、合計175.7兆円の新しい借金と、借金の借り換を行なっているのです。

経済学の常識からすると、普通これだけ財政が悪化し、国債の発行額が大きくなれば、国債市場の需給バランスが崩れて国債の市場価値が下がり、国債金利は上がっていくはずです。しかし実際には2005年現在、10年債の国債の発行金利は1.5%前後にとどまっています。国債の価格が下がらないのは、国債の発行額に対して、それを上回るほどの国債需要が市場にあることを示しています。現在、日本では家計の金融資産、つまり貯金や株、保険の積み立てなどの貯蓄がおよそ1400兆円あります。その貯蓄のかなりの部分、60%から70%ぐらいが銀行、あるいは生命保険会社を通じて国債の購入に振り向けられています。今はその金融資産が国債市場を支えているのです。つまり、日本では財政そのものは普通の国であればとっくに破綻しておかしくない状態にあるのに、民間の貯蓄が非常に大きく、それが金融機関を通じて国債購入に向かい、財政赤字を吸収しているという構造があるのです。だから、財政危機が金利などの統計数値に来ない。

あと15年、何も手を打たなければ、年金制度を含めた日本の財政は破綻してしまうのです。高齢化による財政悪化は、今後数年で一気に進み、政治問題化してくるでしょう。国債価格の暴落は日本の経済、とりわけ金融システムにショックを与えます。まず大量に国債を保有している生命保険会社や、地方銀行などの金融機関の経営が悪化します。暴落の程度によっては、それがきっかけとなって経営破綻に至る可能性もあります。第二に、日本国債の信用が失われるということは、それを発行している日本政府と大量に保有している日本金融機関、ひいては日本経済そのものの信用が失われということでもあります。

問題は、「日本経済は政府の財政赤字を今後も支えていけるか」ではなく、「支えきれなくなる時がいつくるか」、ということです。国債が暴落し、円が暴落すると、輸入物価の円建て価格が高騰することになります。円の価値が半分になれば、原油価格は2倍になります。原油価格が上がれば、石油ショックの時に経験したように、その影響は石油を利用しているあらゆる産業に波及していきます。

現在の日本の制度を見ると、年金、医療、福祉といった社会保障分野はまるで社会主義国のようです。選挙を気にする政治家達がポピュリズムに陥って考えずに、給付の水準を決めて約束してしまっているものですから、国債を発行して国庫から補助金を出して賄わなければなりません。言い換えれば、大幅な増税か、国家財政破綻か、どちらかを選ばなければなりません。このままでは年金制度が破綻するのは時間の問題です。どう考えても、今のような年金給付額は維持できないのです。健康保険制度についても事情は同じです。介護制度も現在、給付に対して掛金が足りず、赤字が恒常化してきています。

以上が本書の概要です。本書に書かれているように、日本の財政問題は待ったなしに破綻に向かってまっしぐらの状況にあります。アルゼンチンの二の舞になる可能性を秘めています。消費税を含めて、増税の方向に進むことは間違いないでしょう。

著者は言います。「大きな500年単位の流れの中では、これまでの常識にとらわれない思考が大切である。アメリカとの関係も双子赤字を抱える今日、日米関係を基軸に考えていけば良いという時代ではなくなっている。もっと複眼的に考える必要がある」。

本書に示されているように、大きな流れを読んで、日本人として世界を見直し、日本を見直す時が来たということです。


北原 秀猛

関連情報
この記事はお役にたちましたか?Yes | No
この記事に対する問い合わせ

この記事に対する
キーワード
•  世界勢力図
•  構造転換
•  財政問題


HOMEUBブックレビュー詳細 Page Top



掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。
著作権はセジデム・ストラテジックデータ株式会社またはその情報提供機関に帰属します。
Copyright © CEGEDIM All Rights Reserved.