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非連続の時代

著  者:出井 伸之(ソニー株式会社会長兼CEO)
出 版 社:新潮社
定  価:1,500円(税別)
ISBN:4−10−453902−3

本書は、私が社長に就任した1995年から現在に至るまで、ソニーの内外に向けて発信してきたスピーチをまとめなおしたものです。今の時代を新しい混迷の時代としてとらえ、それ故の変革の必要性、方向性を主に述べているスピーチを選びました。

ITバブルの崩壊、一連の粉飾決算、そして9.11のテロ事件に代表される多くの要因が複合的に絡み合って起こる現象。これらの激震は、より大きな問題を本質から見直す必要がある時期にきているという警鐘なのではないでしょうか。

ソニーという一企業が変化に乗り遅れることなく、常に変化の先をいくために、私は1995年の社長就任以来、ビジョンの形成、伝達、そして結果を出すという変革のサイクルを繰り返し求め続けてきました。正確な時代認識とそれに基づくビジョンを打ち立てることは容易なことではありません。解があるわけでもなく、私も試行錯誤の繰り返しです。しかし、1つだけ言えることは、内向きの思考を捨てることではないでしょうか。

ハーバード・ビジネス・スクールのジョン・コッター教授が唱える「変革のための8つのステップ」は、変革を必要とする企業経営の手ほどきとして大変参考になりました。私なりにアレンジを加えていますが、ポイントは、(1)危機意識の確立と共有、(2)経営ビジョンの創造と伝達、(3)アクションを起こすための強力なマネジメント体制の確立、(4)そして具体的な目標設定、というサイクルです。

私が親しくしている作家の塩野七生さんは、ローマ帝国の礎を築いたカエサルの言葉をよく引きます。「人は見たい現実しか見ない」。危機の時代は迫ってきているのではなく、もうここに来ているかもしれないのです。

いま我々のビジネスは、実はほとんどがアナログ時代、つまりトランジスター時代に培われた技術に基づいているわけですが、デジタル時代に向けて、巨額の研究開発投資をいまから行っていかないと生き残れません。本社に求められるのはやはり戦略機能、そして求心力です。現代のデジタル技術は、単にコンピュータに関連する企業の方々のみならず、すべての人々の暮らしに根本的に影響をおよぼす大きな現象だと考えています。

不況とか金融問題とか、新聞には連日のように暗い話がたくさん出ていますが、日本はいま、歴史上、第3の変革期にあるのではないでしょうか。近代日本のまず第1の変革は、明治維新。第2の変革期は、第2次大戦の終戦を迎えた1945年。そしていま、第3の変革が起こっています。経済学で言う収穫逓減の法則があります。例えば、工場で生産量を大きくしていくと、あるピークを境に能率がさがってきます。もともとは農業から来た考え方で、同じ田畑に植える苗を増やすと初めは米がたくさん取れるが、その後収穫は落ちて頭打ちになるということです。これがデジタルの時代になると、逆に収穫逓増の法則が働きます。コンピュータのプログラムは1度書けば、その後はコピーを売れば売れるほど著作権使用料が入ってきます。このおかげでマイクロソフトは、税引き後で売上のなんと25%もの利益がだせるのです。

1998年度の世界企業の時価総額ランキングでは、トップ15位までは、全てアメリカ企業が独占しています。振り返って80年代、アメリカは日本の繁栄に嫉妬すらしていました。88年には、ベスト100位のなかに日本企業は51社、上位10社中をなんと8社が占めていたのです。しかしいまは、強いアメリカに対し日本は不況に喘いでいます。劇的とも言える日米逆転。その理由の1つは、アメリカが日本より10年早くIT社会にシフトしたことにあるでしょう。日本ではいまだに戦後の工業化社会の仕組がまかり通っています。

デジタル時代には、工業化社会の時代とは全く違ったルールが存在します。経済のルールについても、ある一定の規模を超えると効率が低下するという収穫逓減の法則に加え、規模が拡大すればするほど収益も大きくなる収穫逓増の法則が現れます。企業活動を支配する経済ルールに変化が生じると、アナログ時代の勝者がデジタル時代の新しい勝者である「ルールブレイカー」にとって代わられる事態が頻繁に起こるようになるのです。

ネットワーク時代には、「鉄は国家なり」に代表されるような近代国家に典型的な中央集権型、ピラミッド型のビジネスはもはや通用しなくなってきています。これまでの自分の成功体験、慣れ親しんだやり方を否定しなければならないのです。

インターネットの技術については、日本はアメリカよりも進んでいるのです。一番ないのが政府の方針とかビジョンです。アメリカはパソコンを中心としたナローバンドインターネットでは進んでいるが、モバイルおよびブロードバンドインターネットの発達、パソコン以外のネットワークAV機器の開発ではむしろ日本や欧州に遅れを取っています。

アメリカのGDPに占める製造業、つまり第2次産業の割合は、80年に31%、これが95年では27%まで下がっています。それに対して日本は、80年のGDPにおける第2次産業の割合は42%、95年は38%、98年になっても36%あります。この数字をみてもわかるように、日本経済の軸足はモノづくりにあります。

日本のこの10年間は[失われた10年]と言われ、日本経済はだらしがないと散々批判されてきました。さらに情報化社会への取り組みでも出遅れ、ややもすると私たちは元気も自信もなくなっています。「一刻も早い対応が必要だ。スピードがまだまだ足りない」という声が聞かれます。しかし誤解を恐れずに言えば「速く、速く、速く」に対して「遅く、遅く、遅く」を意識して、ゆとりをもって考えることも必要なのではないでしょうか。日本人はもっと自信を持って独自の発想のもと、仕事をしていくことが重要ではないかと思います。

日本の景気低迷は単なる不況ではなく、工業化社会から知識社会への転換に乗り遅れたことによる構造問題であると私は思います。私は、3つの側面があると考えます。

  1. 政治家と官僚が支配する日本
  2. 政府に規制され、同時に政府の保護を受けている、主に国内市場を相手にする日本。
    つまり銀行、保険、建設、電力、ガス、通信などの産業です。
  3. トヨタやソニーをはじめとする、輸出製造業の日本
第1と第2の日本は、大きな問題を抱えています。政府の財政赤字は拡大する一方ですし、金融機関は不良債権問題に苦しんでいます。この2つの日本は戦後復興の成功体験に安住して、変革を嫌ったのです。

多くの問題を抱えた日本ですが、変革の兆しも僅かながら出てきました。その例として、私がIT戦略会議の議長として得た経験です。日本ではこうした会合は通常、官僚が準備したシナリオを承認するだけのセレモニー的な場になりがちですが、私たちは日本のIT戦略について徹底的に議論したのです。わずか4ヶ月で「5年以内に、日本をIT大国にする」という基本戦略をまとめ、この民間の動きを受けてIT基本法とe―Japan戦略が作成されました。議長として、エキサイティングな充足感を得る機会に恵まれました。

塩野七生さんが、ローマの歴史の中で「国の衰退はどうして起こったのかを分析すると、国家や組織は成功したのと同じ要因でもって衰退するとわかる」と強調されています。つまり、日本の苦しみは、日本が戦後成功したこと全てが足枷になっているからじゃないかとつくづく思います。これまでのやり方を変えるというのは、自分の成功体験を否定してかかるということですから本当に大変です。

日本人がもっているモノづくりへの情熱、あるいはこだわりが、その出口を見失ってしまっているのではないでしょうか。そして安さ、量産という方向に向かっているのではないかと危惧するとき、ソニーは人々が感動するものを作り続けることを目標としたいのです。

以上が本書の概要です。前作のエッセイ集「ONとOFF」もすばらしく、ここでも取り上げさせていただきましたが、アクセス数も大変に多く、出井さんに対する関心の深さを実感しました。本書でも随所に示唆深い文章が多く、大変に啓発されるものと確信致します。特に冒頭で、ジョン・コッター教授が唱える「変革のための8つのステップ」に出井さんがアレンジを加え、(1)危機意識の確立と共有、(2)経営ビジョンの創造と伝達、(3)アクションを起こすための強力なマネジメント体制の確立、(4)具体的な目標設定、というサイクルを確立しています。そして、今日の日本を第3の変革期と位置づけ、日本国の対応にも触れています。出井さん自身が議長を務めている“IT戦略会議”のあり方から、日本も僅かながら変革の兆しが出てきたとも言っています。要は日本の国家も企業も過去の成功体験を否定してかからないと、大変なことになるということです。

「生き残ることができる種は、最も強いものでもなく、最も賢いものでもない。それは最も環境の変化によく対応したものである」 …ダーウィン

北原 秀猛

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•  出井伸之
•  ネットワーク時代
•  e―Japan戦略
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