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「道徳」という土なくして「経済」の花は咲かず表紙写真

「道徳」という土なくして「経済」の花は咲かず 日本の復活とアメリカの没落

著  者:日下 公人
出 版 社:祥伝社
価  格:1,680円(税込)
ISBNコード:4−396−61207−9

歴史を紐解くと、帝政ローマ、大英帝国などあらゆる覇権国家の衰退・滅亡の原因には「道徳の低下」があった。為政者や国民の道徳水準が低下すると、国内は混乱し経済は低迷する。逆に道徳が普及・徹底すると、国民相互が信頼し合う社会になるため、効率よく経済が発展を遂げて国力が高まる。これまでは「数字」による経済指標ばかりが注目されてきたが、今世紀は「道徳」から経済を見ていくことが重要になる。

翻って日本には「聖徳太子以来1400年、一本筋の通った道徳力」がある。第二次世界大戦後の廃墟から経済大国への復興を成し遂げたことも、道徳力によって世界に類を見ない「相互信頼社会」を作り上げていたからに他ならない。日本の底力は、この相互信頼社会の土台・土壌にある。

本書は第1章:「道徳」と「経済」は不可分の関係にある、第2章:「世界に冠たる道徳力」が日本の最大の強み、第3章:「カルバン派」が作った資本主義の強さと弱点、第4章:ユダヤ人の金銭道徳、第5章:アジアでも突出した日本の道徳経済力、第6章:世界中が日本の真似をはじめる、以上の6章構成になっている。

お互いに遠慮しあうことを「社会」という。これは国と国との関係でも変わらない。野放図に自分の都合だけで振舞って、周りへの遠慮がなくなったなら、その国は国際社会で生きていることを失念しているのである。

「攻勢終末点」という軍事用語がある。勝ち続けているうちは、攻めて攻めて攻め続ける。が、あるところで国力の限界が来たら、ぱったり止まる。後は退却に次ぐ退却である。しかし、攻勢終末点にさしかかった頃は、まだまだ勝てると思うものである。多少形勢が悪くなっても、「来年の春になれば」「少し態勢を整えてもう一度」などと自分に都合よく考えて、冷静に判断できる人は少ない。今、アメリカにこんな兆候を探すと、いくつかある。イラクではまだ自分達の駐留が必要だと主張し、ゲリラや自爆テロに対し重装備のアメリカ兵が対峙している。自分たちの弱みを突かれると謙虚に反省しないで怒る。「これは正義の戦いだ」と主張する。「これに文句を付けるのは邪悪な敵に味方することだ」と断定的になる。アメリカは、建国以来200年間で200回の戦争をしている軍事国家である。

日本は江戸時代、なぜ豊かな国になり得たのだろうか。その理由は3つある。

  • 第1は、金、銀、銅の鉱山があったこと。
  • 第2に、日本の戦争はすぐに終わるので、国内が荒れる時期が少なかった。
  • 第3は、宗教的な決め付けやイデオロギーが、なぜか日本にはなかった。

日本の底力は大変なものだ。まずお金で言うと、日本のGDPはイギリスとフランスとイタリアの3ヵ国を合計したものと同じである。ヨーロッパ経済の雄、ドイツで日本の半分である。日本より大きな経済力を持つのはアメリカだけだ。

これから「経済見通し」よりも「戦争見通し」の方が先である。そこでいろいろと戦争見通しを努力してみてわかったのは、それ以前に「道徳の見通し」が必要だということである。つまり、弱い者が金を持っていたら奪ってやれと思う略奪主義が、どのくらいあるかないか。また、その略奪主義を見破る力が、攻撃を受ける側にどのくらいあるのか。こういうことを考えないと、戦争見通しはできない。ということは、経済見通しもできないのである。

世界中でベストセラーになった経済学の教科書が4冊ある。最初はアダム・スミスの『国富論』、2番目はマルクスの『資本論』、3番目はアルフレッド・マーシャルの『経済学原理』、4番目がサミュエルソンの『経済学』である。アダム・スミスは、「神の見えざる手」という言葉で知られる経済学の創始者だ。経済学史上の古典『国富論』で、家計や企業は私欲に基づいて行動するが、市場においては「見えざる手」が働いて、公益上望ましい結果になると述べた。実はアダム・スミス以前、経済学は「道徳哲学」の一分野だった。

ともあれ、この4冊の教科書は世界中で最も多く読まれ、大きな影響を与えた。私見だが、経済学はこの4冊で終わったとさえ思える。そのいずれからも抜け落ちているのが、「道徳」である。“神の見えざる手”か、それとも“人間の見える手”かの答えを日本はやがて見つけると思うが、それは「人間」が欧米と日本では違うという角度から見えてくると思う。日本には、聖徳太子の時代以前から優れた思想哲学が伝えられており、それをマスターした人々がたくさんいたことが、世界にも稀な道徳国家を作り出す力になった。

日本が第2次世界大戦後、すぐ立ち直れたのは、倫理道徳がきちんと残っていたからだ。誰が言わなくても「みんな苦しいのだから、少しずつ我慢して頑張ろう」と思ったわけだ。出し抜いて儲けようと思う人はどんな時代にもいるが、共同体を壊すほどの無茶はしなかった。戦後長い間、道徳を教えなかった結果、銀行の頭取でも、高級官僚でも、卑しい人間ばかりになった。支配階級の道徳倫理観が崩れたのである。道徳が下がると経済も衰退する。銀行の経営者は「これは預かったお金なんだから、きちんとしたところにしか貸しません」と言うのが当然のはずだが、その当たり前の職業倫理が崩壊した。

どんな宗教でも、人間の知恵や経験は同じようなところへ落ち着くものだ。人間が集団を作って、諍いなく幸せに暮らしていこうとするなら、根底のところは大きく変わらない。人が集まって倫理が生まれ、さらに広がって汎倫理とも言うべき道徳ができる。その中で時々、切れ味鋭くすっぱりと割り切ることが好きな者が出現する。割り切ってまとめたものを「ドグマ(教義、教条)」とか、「ドクトリン(同じく教義)」と呼ぶが、割り切りたがる体質の人が「一神教」の神を作ってしまう。多分その時は、周りの条件が厳しくて、そういう思想やリーダーが求められていたのだろうと思う。その点日本人は幸せだった。そして世界が平和になれば、世界の人はやがて、日本人に似てくるはずである。

ユダヤ人がたくさん集まっている街は栄える。彼らは「遠距離貿易」をする。「国際金融」や「国内金融」をする。ユダヤ人の商売は高利貸しに限る、とする都市が多かったので当然である。キリスト教同士は無利息で貸せという教えになっていたから、ユダヤ人から借りたのである。そのユダヤ人も同じ教えになっていたから、借りるときはキリスト教徒から借金した。――いや、正確に言えば、「貸すときは異教徒に貸した」のである。つまりお互いに便利だった。そこで、その街全体が活況を呈して、みんなが得をする、仲良く分業して暮らせるとなれば良いが、時にはそういかないこともある。新入りの成功は、時に嫌われて迫害される。それで次から次へと町を移っていく。歴史を見ればドイツ、イタリア、スペインからトルコへ、それから都市で言えばイスタンブール、ウィーン、アムステルダム、ロンドンとユダヤ人が集まった都市は繁栄した。ニューヨークは“ジューヨーク”と陰口を叩かれるくらいにユダヤ人がやって来て大発展した。既存の基幹産業に就けなかった彼らは、娯楽や金融やマスコミなど、既得権益のなかった分野を開拓して大成功した。

韓国は1980年代末に大きく経済発展して、日本は追い越されるのではないかと危惧する声があったが、90年代に入ると労働運動が激しくなり、経済にブレーキがかかった。ようやく経済が立ち直ったかと思ったら、独裁から民主主義への移行に伴って政治問題が起こった。大統領が代わるたびに、前大統領を逮捕したり、裁判にかけたりと叩く。コネや親戚ばかりを大切にするネポティズムから逃れられないから、経済も政治もなかなかうまくいかない。その点をみると、日本は明治維新の段階で、既に現代のイギリス並みだった。最後の将軍となった徳川慶喜を捕らえたり、訴追などすることなく、きちんと遇している。ここで国を二分するようなことになると、イギリスとフランスにつけ込まれるから、天皇を置いてまとまろうという知恵があった。

中国でのビジネスは、国家の約束は信用できない。パートナーが大事である。国家や法律より、個人的関係でいかに便宜を図ってもらうかということが、ずっと重要である。トラブルが起きて裁判所に訴えても、何の解決にもならない。中国人にとって、国家は存在しないも同然である。中国には「幇(ぱん)」と呼ばれるグループがある。血縁や地縁、さらには義兄弟の盃をかわしたような固い絆で結ばれた共同体である。仲間内での結束が非常に強いので、外部の倫理道徳とは相反することがあるが、それでも国の法律より「幇」の規範が頼りになる。長い歴史のなかで、中国人にとって国はあてにできなかったから、仲間同士で助け合ってきたのである。海外に出て商売をする「華僑」も、同じように助けあってきた。だが、中国の相互信頼社会は、それ以上にはなかなか拡大しない。こうした道徳の背景を考慮に入れると、中国はこれから七転八倒するはずだ。こらから乗り越えていかなければならない壁がいくつもある。韓国もタイも、インドネシアでも同じことだが、壁にぶつかるとしばらく成長は止まってしまう。そのままストップする場合もあるし、再び動き出すこともある。いずれにしても、一本調子で右肩上がりの成長は続かない。中国もこれから、経済発展による貧富の差をどうするかという問題がある。そして政治の民主化も大きな壁である。アメリカはどこの国に対しても、普通選挙を実施して国民全員に投票させるべきだと言う。粛々と投票し、厳正に集計されるためには、国民全体に倫理道徳が育っていないといけない。

「円の通貨圏」も自然に広がっていくはずである。というのも、世界のGDPの18%を日本が占めている。その上、金融は「最大の債権国」だ。日本は世界中にお金を貸しているのだから、世界中の通貨が円になっても不思議はない。ところが日本は、「通貨圏なんか広がりません。考えてもいません。円は売ります。どんどん値下げします」、と言って円安政策をとるから、呆れてみんな寄り付かない。こんな世迷言を言ってはばからない財務省ならない方がいい。日本人は賢く働くから、放っておけば絶対に円高になる。

日本のエネルギーの中で、石油の占める割合は10年前はおよそ7割だったが、今は49%に下がっている。その間に増えたのは、原子力と天然ガスと石炭だ。この49%のうち、石炭や原子力による電気で置き換えられないのが「移動体用のエネルギー」、つまり飛行機と自動車用の石油だ。ジェット燃料とガソリンはどうしても必要になる。石油は確かに日本経済の生命線だった。それは今も変わらないが、比重は確実に下がっている。あと10年ほどすると、その足枷から逃げられる可能性が高い。ドルの裏付けは、アメリカの軍事力と石油である。がむしゃらにイラクを押えにかかったのは、石油を支配しようとしたからだ。日本が石油の束縛から逃れようとしている時に、時代遅れにも見えるが、ブッシュの狙いは、中国の首根っこを押えることだろう。石油は対中国用の戦略物資になる。これは現代のアヘン戦争である。

これからの日本の問題は、この欧米化した戦後の日本と伝統が復活しつつある日本の両者が絡み合って、どんな進行を見せるかである。今年は、日本が男っぽくなる年である。それから日本精神に戻る年である。それから海外諸国と対等に交際するようになる年である――と思う。

以上が本書のあらましである。著者の日下公人氏はこの数年『5年後こうなる』、『世界の未来は日本しだい』など何冊かの著書を出しているが、共通するところは、日本に対する明るい見通しである。本書も、日本は聖徳太子以来1400年、筋の通った道徳力がある。この道徳力によって世界に類を見ない「相互信頼社会」を築いてきた。そして、日本の底力は、この相互信頼社会の土台・土壌にある。この土壌があれば再度の経済発展は容易いと言う。ここにきて日本経済に光明が差してきた。これをきっかけに道徳を基本に、大きくよい方向に変化してもらいたいと願うものである。


北原 秀猛

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